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【8話(1/4)】遅咲きの桜

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


サボりの学生・(みなと)陽輝(はるき)は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)のお守りを任務として請け負っている。


美咲は意思疎通の力を調べるために研究室へ預けられ、日中は狭い部屋に閉じ込められていた。

湊は迎えとお守りを担当することで、普通の子と同じように幼稚園に行きたいという美咲の願いを叶えるのだった。


美咲は日々の幼稚園で、色々な思い出を作っていく。

一方、湊には中間試験が迫っていた。


任務の給金は、中間試験の結果に応じて決まる。

勉強をサボってばかりではいられない。

美咲の面倒を見ている間も、湊は試験勉強に励むのであった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

湊と美咲は、いつものように研究室へ続く道を歩いていた。


すると美咲が突然立ち止まり、彼方を指差した。

「あっ、さくら!」


走り出す美咲の手を繋いだまま、湊も着いて行く。

「ちょっと、急に走らないで」


土手の日陰に、小さな桜の木が植っていた。

ほとんど葉桜だが、まだ少しだけ花を咲かせている。


美咲は地面に落ちた花びらを拾った。

湊も隣にしゃがんだ。


「まだ咲いてるんだ。日当たり悪いから遅れてるのかな」


美咲はご機嫌で、桜の花びらを空に透かした。


「かわいいねぇ〜!かわいい〜!」

「桜、好きなんだ」

「うん!かわいい〜」

こんなにキラキラとした笑顔は珍しい。


(美咲ってすぐ泣くけど、やっぱり笑ってる方がいいな)


「……ふふ」

「ん?なぁに?」


湊は緩んだ口元を抑えて立ち上がった。

「何でもない。行こう」


***


美咲は花びらをつまんだまま、鼻歌混じりにスキップする。


「ふ〜ん、ふふ〜ん……みなとさん、ちびちゃんにもさくらつく?」

「花は付くじゃなくて咲くって言うんだよ。んー、咲くか分かんない。大人の姿、知らないから」

「じゃあ、おっきくなったらさく?」

「分かんない。ま、咲いて欲しいならお願いしてみればいいんじゃない。せっかく喋れるんだし」

「うん!おねがいする!」


***


研究室に到着するなり、美咲は一目散にオフィスへ走る。


「あかしさぁん!あけてー!」


中にいた明石(あかし)がガラス張りの扉を開けると、美咲は幼木の元へと走る。

幼木がしまわれたケースに、美咲は桜の花びらを押し付けた。


「ちびちゃん!みて!さくら!」


果たして幼木に視覚機能は備わっているのだろうか。


美咲はケースに花びらをぐりぐり押し付け、幼木に捲し立てる。


「これねぇ、さくら!さくらのおはな!さくらねぇ、みさきの、すきなおはな!」


明石は美咲の言葉をノートに記録しながら、微笑ましく美咲を見守る。


「美咲嬢、今日は上機嫌だな」

「桜を見つけてからずっとこうです。なんか、幼木に桜が咲いてほしいらしいですよ」

「なるほど、それはどうだろうか……美咲嬢、幼木に直接伝えてみるか?」


明石が幼木をケースから取り出すと、美咲は幼木の鉢を受け取り、桜の花びらを幹に押し付けた。


「ちびちゃん、さくらになる!そしたらねぇ、さくらちゃんになる!」


(いや、お願いしてみればとは言ったけどさ、結構強引なやり方だな。手を組んで祈るとかじゃないんだ)


美咲は花びらを幹に押し当てたまま、動かない。

力を入れすぎて、小さな指先が白くなっている。


「……ね、もういいんじゃないの」

「いろ、うつす!」

「えぇ?明石さん、こうやってたら移るんですか?」

「いや、そのような文献も報告も目にしたことはないが……まあ、美咲嬢が満足するまでやるといい」


湊は鉢を抱えたままの美咲を連れ、いつもの部屋へと向かった。


***


湊は美咲のリュックサックとポシェットをソファに置いた。


「じゃ、今日は俺、試験が近いから……美咲?」


美咲は幼木の鉢を抱えてカーペットに座り込んだ。

さっきまで元気だったのに、半目でうつらうつらとしている。


「どしたの?眠い?」

「ん〜……」


前髪をよけ、額をくっつけてみる。

温かいが、熱は無さそうだ。

顔色も悪くない。本当に眠いだけのようだ。

研究室までの道をずっとスキップしていたから疲れたのだろうか。


「寝るならソファにしなよ。ほら、それ貸して」

「うぅ〜ん」


美咲の腕から苗木の鉢をもぎ取ろうとしたが、身体全体で鉢植えを抱きこみ、頑なに離さない。

枝葉に当たると痛みを感じるので、あまり無理に触ることもできない。


仕方がないので、持たせたままソファに横にならせた。


「それ、落っことさないでよ」


美咲にブランケットをかけた後、枝葉に当たらないように注意しながら鉢植えの周りにリュックサックとポシェットを置いた。

これで美咲の腕の力が抜けても、ソファから鉢が転がり落ちることはないだろう。


「俺、隣の部屋にいるからね」

「ん……」


寝てくれてちょうど良かった。

これで今日は試験前の勉強に集中できる。


(美咲が寝ているうちに、明石さんに分からないところを教えてもらおう)


湊は問題集とペンを手に、部屋を立ち去った。


扉を閉める時、幼木が仄かに光を放ち始めたことには気づかなかった。

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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