【7話(5/5)】美咲の発表会
神木の加護を受ける街・煌都。
サボりの学生・湊陽輝は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩美咲のお守りを任務として請け負うことになった。
湊は授業に出席する頻度が増え、授業と任務を両立できるようになってきた。
今日も授業を終えた後、幼稚園の美咲を迎えに行き、研究室へと連れて行くのだった。
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※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。
発表会当日。湊は寮を出て、幼稚園に向かった。
園庭には、成海が一人で待っていた。
「おはようございます。狩野さんたちは?」
「おはよう、湊。狩野と弥生は場所取りをしてるよ」
「場所取り?」
劇をする多目的ルームは、既に多くの保護者で埋まっていた。
壁際にはカメラの三脚がずらりと並び、保護者たちがセッティングに勤しんでいる。
その列の中に、狩野もいた。
狩野はこちらに気づいて、にこりと会釈をした。
そして前列の方からは、弥生が手招きをしている。
2人分のスペースを、荷物で確保してくれているようだ。
成海と湊は、弥生の隣に座った。
「弥生、なかなか良いポジションだね」
「ええ、早くから待っていた甲斐がございまして。さあ、お二人ともこちらへ。膝掛けをどうぞ」
我が子の勇姿を少しでも良いポジションで見るべく、保護者の場所取り合戦が起きていたらしい。
「それにしても、美咲が劇の練習をしているとは知らなかったよ」
成海がそう言うと、弥生は口に手を当てて笑う。
「うふふ、皆さまには秘密で練習したかったんですって。本当は私にも隠したかったようですが、お弁当を用意する時に、台本が入っておりましたからね。ですから、坊ちゃんと夫が留守の間に、こっそり練習しておりました」
成海は目を丸くした。
「へえ、そうだったのかい?気づかなかったよ」
「でも、私が見なくてもとってもお上手でした。私はてっきり陽輝さまと練習したのかと思っておりましたが」
弥生にそう言われて、湊は首を傾げる。
「いいえ。劇のこと、俺は全然知らなかったです」
話していると、照明が暗くなり、劇が始まった。
***
「昔々ある所に、豊かな村がありました――」
先生のナレーションと共に、衣装を着た村人役の子どもたちが出て来る。
(美咲、何の役なんだろう?まだここにはいないな)
場面が切り替わり、剣士と村娘の会話が始まる。
別室と繋がっているであろう舞台袖から、ぞろぞろと子どもたちが出てくる。
(剣士と村娘、それぞれ5人以上はいるか?三人の剣士じゃないじゃん)
長い台詞を手分けして、子どもたちは演技をする。
「だいじょうぶ!とうぞくにはまけません!」
男の子がそう言った後、村娘の一団から小さな子どもが前に出てくる。
(あっ、美咲!あの中にいたんだ。小さくて見えなかった)
隣の成海が興奮して拍手しようとする。
(成海さん!こっちが目立っちゃ美咲が集中できない!)
成海の腕を押さえながら、美咲を見守る。
周りの子どもたちは同学年のはずだが、美咲はひときわ小さい。
一人だけ年下の子どもが混ざったみたいに見える。
「村娘は、安心して剣士に言いました」
ナレーションの後、美咲は小さな胸を張って、大きな声を出す。
「けんしさまぁ!どうか!むらを、おたすけください!!」
(おぉ、結構サマになってんじゃん)
美咲の台詞はそれだけで、場面は剣士たちと盗賊たちとの戦いに切り替わる。
盗賊のお頭は、幼稚園の男の先生が演じる。
「剣士め!倒してくれよーう!」
子どもたちの合唱の中、戦いが始まる。
合唱の列は背の順になっており、美咲は一番前に並んで歌っていた。
剣士役の子どもたちは、寄ってたかってお頭に発泡スチロールの剣を当てる。
「ぐわぁーっ!」
先生は派手に転び、保護者たちは拍手を送った。
最後に、また美咲たち村娘が出てきた。
「ありがとう!けんしさま!」
村娘たちは、剣士たちに首飾りをかける。
(ん?美咲の首飾りだけ、なんか違うな……)
美咲のだけ、妙に長い。
輪のひとつひとつは小さいが、長さが子どもの太ももくらいまである。
それに装飾部分もやけに大きい。
気合いを入れて作ったのだろう。
最後は子どもたち全員が舞台に上がる。
みんなで合唱して、劇は終わったのだった。
***
先生の挨拶の後で解散が告げられ、子どもたちは一斉に親の元へ走っていく。
弥生は立ち上がった。
「家に帰る前に、お嬢様を研究室にお連れ致しましょう。ここから近いですからね」
荷物をまとめる弥生に、湊は声をかけた。
「あの、ついでに俺が連れて行きましょうか?」
「あら、左様でございますか?坊ちゃん、いかが致しましょう」
「そうだね。湊に美咲をお願いして、荷物を家に引き上げよう。片付いたら、また迎えに行くよ」
***
「美咲!」
きょろきょろしている美咲に声をかけると、美咲はこちらに気づいて走ってきた。
「みなとさんっ」
「美咲、お疲れ」
美咲は湊の腕に飛び込んだ。
「先に測定行こうか。お兄ちゃんたちは片付けしたら来てくれるって」
「うんっ」
***
幼稚園から離れると、美咲は膝にしがみついてきた。
「みなとさぁん、だっこだっこ〜!」
甘えたかったが、他の子には見られたくなかったようだ。
「どしたの?赤ちゃんじゃないんだから、自分で歩きな」
「みさき、あかちゃんだもん!だっこ〜!」
劇で疲れたのか、甘えたい気分なのか。
湊は諦めて、美咲を抱き上げた。
「じゃあ、今日は頑張ったから、特別ね」
「やった〜!」
(美咲、ちっこくても普通に重いんだよな……)
美咲を抱っこして研究室に向かっていると、美咲が尋ねてくる。
「みさき、ふつうだった?」
どうやら普通だと言ってもらいたいらしい。
「うん、普通。みんなと同じようにできてたよ」
「ほんとに?」
「ほんと。とっても頑張ってたね」
「うん!」
美咲はいつも普通であることにこだわっている。
そんなことを気にせずに、楽しく生活できる日が来ればいいのだが。
***
研究室に着くと、美咲はオフィスには向かわず、自分の部屋にリュックを置いた。
「あれっ?リュック、今日はいいんだ?」
「そくてい、いこ!」
「あ、うん……」
オフィスには、室長と明石がいた。
「2人とも、日曜なのに休みじゃないんですか?」
「あたしは休みだけど、様子を見に来ただけ」
「自分は測定担当だから、毎日来ているよ」
(へぇー……って、明石さん、今サラッと凄いこと言わなかったか!?)
「えっ!明石さん!?休みなし!?シフトって無いんですか?」
湊の言葉に、室長と明石は遠い目をする。
「前はちゃんと交代制だったのよ……もっと人がいたし……本当にごめんね、明石……」
「いえ、半休で調整していますので……」
何やら人員が減った事情があるらしい。
湊は明石のデスクに並ぶ缶コーヒーに目を留めた。
「明石さん、本当に大丈夫ですか……?」
「まあ、仕方ない。ヒラの研究員は自分一人なんだ」
「えっ?」
「湊くんが心配することじゃないさ。大丈夫」
(いや、大丈夫じゃないだろ……)
美咲は会話する3人の間をすり抜け、オフィスの奥へ走った。
「そくてい、やる!」
「ああ、美咲嬢。待ってくれ、用意するから」
「はやくー!げきやったって、ちびちゃんにいう!」
「分かった分かった。早くやろう」
美咲と共に、明石は急いで幼木を用意しに行った。
湊の隣に立ち、室長が小声で尋ねる。
「今日、劇だったんでしょ?どうだった?」
「ええ、美咲はよく頑張ってましたよ。……あれ?発表会の話ってしましたっけ?」
室長は、測定している美咲を見やった。
「あの子、毎日ここで明石と劇の練習してたのよ。家族にもあんたにも、練習してるところを見られたくなかったのね」
「えっ……だから俺を遠ざけてたんですか?」
「そういうこと。きっと今日からは元通りよ」
***
美咲は測定が終わった後、いつもならすぐにオフィスを出る。
しかし今日は、ずっとオフィスに残ったままだ。
「美咲?どしたの?」
美咲は、明石と室長を気にしているようだった。
ちらちらと2人を見て、躊躇いがちに言葉を発した。
「お、おじちゃん、おばちゃん……」
室長が目を剥く。
「はぁ〜!?おばちゃん!?」
湊は思わず吹き出した。
「ぶっ!おばちゃん!おばちゃ〜ん?」
「ちょっと!あんたねぇっ!」
明石がいきり立つ室長を宥める。
「室長、そういえば、我々はちゃんと自己紹介をしていなかったかもしれません……」
そう言う明石もショックを隠しきれていない。
「もしかして、美咲は2人を何て呼べばいいか分からなくって、懐いてなかったんじゃないですか?」
湊がそう言うと、明石は頷いて美咲の前にしゃがんだ。
「改めて、自分は明石だ。明石さん」
「あかしさん……あかしさん、ありがとう」
美咲はポケットから4つ折りにした折り紙を取り出した。
「おや、くれるのか?」
折り紙の白い面に、色鉛筆で「ありがとう」と書かれている。
お礼の手紙のようだ。
「どういたしまして。さあ、室長も」
明石と入れ替わりで、室長も美咲の前にしゃがむ。
「姉さんはおばちゃんで許してるけど、あたしは許さないんだから!お姉ちゃんと呼びなさい!」
「お姉ちゃん?若干キツくないですか?」
失言した湊の脛に、室長は素早く手刀を叩き込んだ。
「いってぇ!」
美咲は室長にも折り紙を差し出した。
「おねいちゃん、ありがとう」
「よろしい!」
***
湊と美咲が帰った後、室長は折り紙を手に自分の執務室へと戻っていた。
階段を上ると、廊下の先に姉の姿が見えた。
咄嗟に足を止め、息を殺して姉の様子を伺う。
(姉さん……こっちに来ないでくれるかしら……)
祈りが通じたのか、姉はもう片方の階段を降りて行った。
冊子のようなものを持っていたので、資料室にでも向かったのだろう。
室長は安堵して、自分の執務室に戻った。
デスクの一番下の引き出しを開け、奥深くから菓子箱を取り出す。
その中には、たくさんの手紙が入っていた。
一番上にあった手紙を箱から取り出し、広げる。
“雷夏へ。お元気ですか?
私はようやく体調が戻って、この間、初めて家族4人でお花見に出かけました!
その時の写真を一緒に送ります。
成海も美咲も本当にかわいくって、私は毎日幸せです。
早く雷夏にも良いご縁がありますように!
今度会う時までに候補者を見繕っておくから、また連絡ちょうだいね!杏奈より”
この手紙を封に入れる前に、杏奈は事故死してしまった。
同封の写真には、赤ん坊の美咲を抱いた、笑顔の彼女が写っている。
(杏奈はあたしと違って、いい子で、愛する家族がいて……杏奈の代わりにあたしが死ねば良かったのに、どうして……)
美咲の手紙を一緒に入れて、菓子箱を引き出しの奥深くにしまい直したのだった。
***
課長は、自室の窓辺に立ち、湊と美咲が帰っていくのを見ていた。
そしてデスクの引き出しから、あるものを取り出す。
美咲の台本と、首飾り。
昨日、美咲と明石が測定している間にリュックから盗ったものだった。
課長はそれらを手に、階段を降りた。
薄暗い中、パンプスの靴音が重く響く。
頬に手を当て、指をトントンと動かす。
(うーん、私が直接やるべきだったかしら……明石くんだから、上手くいかないかと思ったのに……まあ、十分引っ掻き回せたみたいね)
裏口から出て、隣の研究棟まで歩く。
(こういうのを乗り越えて、前に進むんでしょう?加護以外にも、人生にはトラブルが付きものなんだから)
ゴミ箱に台本と首飾りを投げ入れ、踵を返すのだった。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!
次回8話は4/9(水)更新予定です。




