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【7話(4/5)】美咲嬢の危機

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


サボりの学生・(みなと)陽輝(はるき)は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)のお守りを任務として請け負うことになった。


湊は授業に出席する頻度が増え、授業と任務を両立できるようになってきた。

今日も授業を終えた後、幼稚園の美咲を迎えに行き、研究室へと連れて行くのだった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

ついに、発表会は明日に迫った。

今日で練習も終わりだ。


明石はオフィスの時計を見る。

(今日は土曜だから、美咲嬢はお付きの人が送ってくれるはずだ。いつも昼過ぎに来るはずだから、もうそろそろか。キリの良いところで終わらせておこう)


明石がパソコンをスリープモードにしたのを見て、課長が声をかけてくる。


「何、美咲ちゃんのために終わらせたの?」

「はい。進捗には問題ありませんので、ご安心下さい」

「ふーん……そういえば、今月は測定結果を早めにまとめておきたいのよね。他のプロジェクトとの兼ね合いもあるし。美咲ちゃんが来たら、測定だけ先に済ませてちょうだい」

「承知しました」


***


美咲は小さなトートバッグを手に、一人でオフィスにやって来た。

「美咲嬢、今日は測定からやっていいか?課長が急ぐみたいなんだ」

「んっ」


美咲はトートバッグを置いて、オフィスの奥へと歩いていく。


(美咲嬢、自分から進んで測定の場所に入ってくれるとは……あんなに嫌がっていたのに、成長したものだ)


美咲の心情を記録するノートを開くと、美咲は初めて笑顔の位置にシールを貼った。


「おや、いつもは泣き顔の位置なのに。劇の練習が楽しみだからか?」

「うんっ、はやくれんしゅう!」

「よし、じゃあ早く測定してしまおう」


***


美咲の測定を済ませると、課長は記録ノートや色んな冊子を持って、自分の部屋に引き上げていった。


「さあ美咲嬢、最後の練習をしようか」

「んっ?……ん〜……」


美咲はトートバッグを探ったまま、顔を上げない。

「どうしたんだ、美咲嬢?」

「んぅ……ほん、ないの」

「台本か?まあ、なくとも練習できるが」

「あと、げきのおかざり……」

「お飾り?」


話を聞いたところ、美咲が劇中で剣士役に渡す首飾りのようだ。

「本当に入れたのか?自分も見てみよう」


トートバッグには、何も入っていなかった。


2人で研究室の廊下と玄関を見て回ったが、どこにも落ちていない。


「うぅ、みさき、げきできないっ……」

美咲の目に涙が溜まっていく。


「美咲嬢、本当にいつものリュックサックから移し替えたのか?今一度、冷静に――」

「いれたっ!いれたのに、ないっ!きえちゃったぁ!」


美咲は地団駄を踏み、本格的に泣き始めてしまった。

「うあぁん!みさき、げきだめなのっ!ようちえんだめだから、げきもだめなのっ!」

「美咲嬢、不毛な解釈をするんじゃない。確実に入れたのなら、どこかで落としたんだろう?」

「おとしてないっ!いれたらきえたぁーっ!」


美咲には冷静に記憶を辿ってほしいのだが、泣くのに一生懸命で落ち着いてくれない。


(こういう時、何と声をかければいいんだ?課長に言っても碌なことにならない。湊くんはいない。あとは……)


***


藁にもすがる思いで、明石は室長の執務室を訪ねた。


「――なるほどね。まずは家のリュックサックに残っていないか確認するのがいいんじゃない?侍従の狩野さんに連絡するから、あんたはもう一回探してみて」

「ありがとうございます、承知しました」


美咲が通った廊下やオフィスを隈なく見て回ったが、やはり何も落ちていなかった。


泣きじゃくる美咲を前に途方に暮れていると、室長がやって来た。

「家を出る前に、台本と首飾りをトートに入れたのは確認してるって。家と車を探してもらったけど、残っていないそうよ」


(ならば、車から降りてここに到着するまでの間に、何かあったのか?)


「狩野さんの話では、園に予備の首飾りはあるそうよ。最悪それを使わせてくれるんじゃないかって」

「そうですか、良かった」


安堵する明石に対し、美咲は首をぶんぶん振る。

「よび、いやっ!みさき、つくったもん!」

「美咲嬢、そうは言っても」

「みんなつくってる!みさきもつくったの!」


美咲に対し、室長が声をかけた。

「あんた、本当にそこまでこだわるの?予備は嫌?」

「いやっ!」


室長は、バンッと机を叩いた。

「よーし!じゃあ、今から作るわよ!」

「つくる……?」

「え、室長?」


呆気に取られる2人に、室長は発破をかける。


「あんたたち、何ボサッとしてんの!やるわよ!」

「……みさき、つくったもん」

「だーかーら!今から作るしかないでしょうが!失くしたものは仕方ないでしょうよ!割り切って、今からできることをやりなさいよっ!」

「んっ……うん……」


室長に気圧されて、美咲の涙はいつの間にか引っ込んでいた。


(室長、なかなか良いことを言うな。この場にいてくれて良かった)


「美咲嬢、自分たちも手伝うから、一緒に作ろう。何を使って作ったんだ?」

「うーん……いろがみ」

「折り紙のことかしら?あたしが買ってくるから、あんたたちはハサミやのりを用意してなさい」


こうして3人は首飾り作りを始めたのだった。


***


「ほら、買って来たわよ!」


美咲は室長の買った折り紙を見て、困った顔をする。

「ん〜……うら、しろい」

「えぇ!?折り紙じゃないの?」


明石は折り紙を半分に折る。

「大丈夫だ。こうして折れば、裏は見えないだろう?」

「んー……うん」


納得した美咲は折り紙を帯状に折り、それから両端を液体のりで貼り付けて輪を作った。


「これ、ぐるーってするの。いっぱい」

「ああ、なるほど、鎖のように繋げていくのか?こんな風に」


美咲の作った紙の輪に、明石は指を通して手で輪を作ってみせる。

「うん。そいで、おっきいわっかにする」

「なら沢山必要だな。美咲嬢、何色がいい?」

「うーん、いろいろ」

「では自分が紙を折るから、美咲嬢の気に入った色を繋げてみようか」


室長も、折り紙を手に取った。

「あたしも折るわ。その方が早いでしょ」


明石と室長は、黙々と折り紙を帯状に折る。

折り紙の鎖はどんどん長くなっていった。


「どうだ、美咲嬢?これで完成か?」

「んー……まんなか、つくってない」

「真ん中?」


美咲は鎖の中央を指し、くるくると円を描く。

「もしや、中央に大きな装飾があったのか?」

「そ?」

「装飾……ええと、丸い飾り?メダルのような?」

「うん、めだるのかざり!」


室長が驚愕の声を上げる。

「えっ!?これはチェーンで、まだメインを作んなきゃいけないの!?もう〜!そういうことは先に言いなさいよっ!」


明石は美咲から装飾の特徴を聞き出す。

「それで美咲嬢、メダルの飾りとやらは、どうやって作ったんだ?」

「まるいのに、いろいろはる」

「丸いの?それも紙なのだろう?」

「んー、でも、こんなぺらぺらじゃない」


美咲の言葉に、室長がオフィスを見渡す。

「段ボールかしら?……あっ、あれを使いましょう!」


室長の指す先には、本の入った段ボール箱があった。


「お待ち下さい、室長!あれには課長が注文した書籍が入っています」

「あっ……うぅ、箱とはいえ、姉さんの物には手を付けられないわ……」


2人は課長に頼んでみるという選択肢を決して口にしなかった。

なるべく課長には接触したくない。

それが2人の共通する思いだった。


「……あっ!そうだわ!」


何かを閃いたのか、室長は食器棚を漁る。


「ミーティングのお茶請けに、紙皿を買ったんじゃないかしら?」

「なるほど、紙皿!2つ貼り合わせれば、見た目の薄さも気にならないでしょう」

「そういうこと……ほら、ここにあった!」


紙皿の底面に、美咲は折り紙をちぎって貼り付ける。

その間に、明石はもう一方の紙皿をくり抜き、紙の鎖を通して繋ぎ合わせる。


「で、表面にあんたが作った方を貼り付ければ……ほら、今度こそ完成よね!?」


美咲は出来上がった紙の首飾りを持ち上げた。

「……うんっ、かんせい!」

「はぁ〜っ!終わった〜!!」

室長は大きく伸びをした。


「室長、ありがとうございました」

「さ、せっかく作ったんだから、それを使って練習なさい」


美咲は不安げに明石を見る。

「ほん、ない……」

「大丈夫。直前の台詞くらい覚えているよ。やろうか」


明石は美咲に台詞を投げかける。

「では行くぞ――村娘は、安心して剣士に言いました」


美咲は台詞を続ける。

「けんしさま、どうか、むらを、おたすけください」

「うん、できているじゃないか」


それを見た室長が割って入ってくる。

「ダメダメ、そんなんじゃ!」


「室長、美咲嬢の台詞は覚えています。今のは『剣士さま、どうか村をお助け下さい』で合っていますよ」

「あのねぇ明石。演劇ってのは台詞を正しく言えばいいわけじゃないの。剣士ってことは、どうせ『三人の剣士』が題材なんでしょ?」


室長は、美咲の前にしゃがみ込んだ。


「いい?あんたの役は村娘よ?役になりきって考えてみなさい。村娘はこの時どんな気持ちなの?」

「きもち?」

「そう。あんたが住んでる村には悪い盗賊がやって来て、みんなの大事な物を奪っているのよ?」

「うーん……いや。こないでほしい」

「でしょう?だから、村娘は剣士に対して真剣にお願いしているの。あと、本番どこでやるのか知らないけど、そこそこ広い場所でやるんでしょ?大きな声で、気持ちを込めてやってみなさい。さあ、もう一度!」


室長に視線を送られて、明石は慌てて台詞を発する。

「村娘は、安心して剣士に言いました」


美咲は胸の前で、祈るように手を組んだ。

「けんしさまぁ!どうか!むらを、おたすけください!!」


室長は美咲に拍手を送った。

「そう!動作も付いて、さっきよりずっと良いじゃないの!今度は何のシーン?」

「美咲嬢の出番は次で最後です。盗賊を倒した剣士に、美咲嬢が首飾りを贈るのです」

「あぁ、だから首飾りね。じゃあ、同じように考えてみなさい。盗賊をやっつけた剣士に、お礼をするんでしょう。村娘はどんな気持ちだと思う?」

「うれしい。ありがとうってきもち」

「じゃあその気持ちを込めてやってみなさい。大きな声でね」


美咲は首飾りを持ってスタンバイした。

「村娘は、剣士にお礼の首飾りを贈りました」


そう言って、明石は美咲の前に跪く。

「ありがとう!けんしさま!」


美咲は大きな声で言いながら、明石に首飾りをかけた。


(おや、少し鎖が長いかもしれない……まあ、舞台でやるのだから、長い方が見栄えも良いだろう)


室長は再び美咲に拍手を送った。

「いいじゃないの!これで明日はバッチリね!」


***


気づけば、日はとっぷりと暮れていた。

迎えの連絡をする際に、首飾りを作った件を伝えておいた。

家で幼稚園のリュックサックに移し替えてくれることだろう。


2人はオフィスから美咲を送り出す。

「美咲嬢、明日は練習通りにやれば大丈夫だ」

「飾りはトートに入れた?忘れずに持って帰るのよ!」

「うんっ」


美咲はトートバッグを確認した後、笑顔で走っていった。

明石と室長は胸を撫で下ろし、折り紙の散らばった跡を片付けるのだった。


読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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