【7話(1/5)】美咲の秘密
神木の加護を受ける街・煌都。
サボりの学生・湊陽輝は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩美咲のお守りを任務として請け負うことになった。
湊は授業に出席する頻度が増え、授業と任務を両立できるようになってきた。
今日も授業を終えた後、幼稚園の美咲を迎えに行き、研究室へと連れて行くのだった。
※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中
※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。
湊と美咲はいつものように、研究室の部屋に着いた。
美咲のリュックサックを受け取ろうとしたが、美咲はいつものようにリュックを下ろさない。
「美咲?荷物置きな」
美咲は首を振る。
「みなとさん、あっちいってて!」
「あっち?どこ?なんで?」
美咲はリュックの肩紐を掴んで地団駄を踏む。
「んぅー、ほっといて!」
「だーめ。測定に行かなきゃ」
「いいのー!」
「良くない。何か持ってきてんの?」
リュックに手を伸ばすと、美咲は激しく身体を振って抵抗した。
「やだやだーっ!おばちゃんがいい!」
「えぇ……?」
***
湊はリュックを背負ったままの美咲を連れ、オフィスへと向かった。
オフィスでは明石だけが作業をしており、課長はいなかった。
「――というわけで。明石さん知ってますか?課長の居場所」
美咲はぴょんぴょん跳ねてアピールする。
「おばちゃんがいい!みなとさんばいばい!」
「美咲……」
湊はムッとして美咲を睨む。
明石は読んでいた書類を片付け、立ち上がった。
「課長には自分から話してみよう。湊くんは部屋に戻っていてくれ」
「でも……」
明石は湊にこっそり耳打ちをする。
「顛末は後で伝えるから」
湊は渋々引き下がった。
「はい……」
オフィスを出て、何歩か進んで振り返ってみる。
美咲はオフィスのガラス扉にかじりついて、湊の行方を確認している。
「はいはい、早くいなくなれってか……」
***
湊はひとり、美咲の部屋に戻った。
カーペットに寝転がり、ため息をつく。
「はぁ……全く、何なんだ?」
昨日は普通に過ごしていたはずだ。
幼稚園からここに来るまで、何か嫌われるようなことをしただろうか。
湊が原因を考えていると、ガチャリと扉が開いた。
派手な身なりの女性が顔を覗かせた。
「あら?あんたしかいないの」
「室長さん」
湊は室長に、美咲の怪しい言動について話した。
「ふーん……ま、会話できるだけいいじゃない。あたしはあの子と挨拶すらできないんだから」
「室長さん、嫌われるきっかけがあったんですか?」
「そんなの知らない。あたしが聞きたいわよ!」
室長はピンヒールを脱ぎ、ソファに腰掛けた。
「……あの子ね、あたしの親友の子どもなの」
「えっ?美咲の母親ですか?」
「そう。母親の杏奈は、あたしと同級生だった。杏奈の遺品を整理してたら、杏奈があたしに宛てた手紙が見つかったんですって。で、侍従が渡しに来たのよ。その時にあの子も連れてて、加護が判明した。それがちょうどこの部屋よ」
室長の話によれば、この部屋はかつて簡易的な応接室に使われていた。
ここで美咲の母親の手紙を渡していたところ、遊ばせていた美咲が突然泣き始めた。
みんなで宥めていたが、急に泣き止み、誰かに呼ばれていると言い始めた。
扉を開けると、何かに導かれるかのように幼木の保管場所へと一直線に走ったのだという。
「それで姉さんがあの子を保護するとか言い出して、なるべくここに留め置くことに決まったの。でも姉さんは全然あの子に関わらないのよね。ここの家具やカーペットもあたしが用意したのよ」
室長の口ぶりからは、課長への不満が滲み出ている。
「直接言えばいいのに。課長が年上だから何も言えないんですか?」
「ああ、知らない?あたしたちは四つ子なの」
「四つ子!?」
「一卵性じゃないけどね。姉さん、あたし、それから男が2人。だから年齢は同じなんだけど……4人とも、仲良しこよしってわけじゃないのよ」
室長はソファから降りて、テーブルに突っ伏した。
「はぁーあ……ここの実権は姉さんに移っちゃったし、家でも姉さんが発言してばっかり。おまけにあの子まで姉さんに懐くし。あたしって何なのかしら……」
湊は起き上がり、ぐったりとした室長の背中を見つめた。
「あの、怒らないって約束してくれるなら、美咲への接し方、アドバイスしますけど」
「その言い方でだいたい分かるわよ。優しく喋れって言うんでしょ?姉さんみたいに」
「なんだ、分かってんじゃないですか」
室長はバッと顔を上げて湊を睨みつける。
「うっさいわね!」
「ほら、そういうとこ」
「きぃーっ、ムカつく〜っ!」
室長は湊に掴みかかり、ピアスをグイグイ引っ張る。
「ガキのくせに!生意気なのよっ!」
「痛い痛い!血が出る!大人げないですよ!」
「このくらいで出やしないわよ!……ん?あたし?」
室長は湊の耳を離して立ち上がった。
窓の向こうに明石がいる。
室長を呼んでいるようだった。
「ふん、命拾いしたわね。じゃあね」
「はぁ……さよなら」
***
静かになった部屋で、湊はカバンから結晶構造学の教科書を取り出した。
美咲がいない間、結晶構造を頭に入れておこう。
結晶構造にはパターンがあり、それに沿って祈念すればより多くの力を引き出せるらしい。
宝刀の塗装は結晶を粉砕して吹き付けてあるため、構造は壊れてしまっている。
そのため構造に沿って祈念する必要はないが、結晶よりも引き出せる力は少ない。
(結晶の祈念って、どんな感じなんだろう?)
湊は宝刀に祈念した時を思い返す。
安定感や安心感といったような、妙に落ち着く、それでいて集中力の途切れない、不思議な感覚。
(あれの上位互換ってこと?まあ、粉末じゃない結晶に触れるのにも、偉くなんなきゃダメなんだろうな)
湊はカーペットに寝転がり、結晶構造の分類表に目を通すのだった。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!
 




