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【2話(1/4)】美咲の加護

神木の加護を受ける街・煌都(こうと)


サボりの学生・(みなと)陽輝(はるき)は、迷子の女児・猪狩(いかり)美咲(みさき)と出会う。


成り行きで、湊は美咲のお守りをすることになったのだった。


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同日投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。

湊は美咲を連れ、校舎の裏手を歩いていた。


美咲はすっかり元気を取り戻し、ポシェットを揺らしてずんずん進んでいく。

少し前まで泣きじゃくっていたのが嘘のようだ。


指導教官・近衛(このえ)からもらった施設案内図を確かめる。


(印がついてるところ、研究棟からは少し離れてるように見えるけど……ここに行けばいいんだよな?)


***


「校舎の裏に研究棟があるだろう?美咲はそこに通っているんだ」


美咲の兄・成海(なるみ)の話によると、美咲は何か特殊な加護を授かっていて、それを調べるために研究室に通っているらしい。

周りに影響を及ぼすものではないので、特に心配する必要はないと言われた。


神木は、煌都に住まう者へ加護を授ける。

その加護は、運動能力が向上したり、感覚器官が鋭敏になったりと、身体機能として表出することが多い。

しかし、稀に人智を越えた域に達する加護もあるらしい。

噂でしか聞いたことはないが、美咲がその珍しいタイプなのかもしれない。


***


時刻は昼を過ぎている。ぽかぽかと暖かく、実に散歩日和だ。


2人は研究施設が立ち並ぶ通りに入った。

研究施設はいくつかの棟に分かれているが、どれも綺麗で立派だ。

ところが、進むうちにだんだんと古びた建物が増えてくる。


「本当にこっちで合ってんの?あっちじゃなくて?」

美咲に聞いてみると、美咲はこくりと頷く。

「ふーん、そう」


しばらく歩いたところで、美咲が立ち止まり、ひとつの建物を指さした。


「ここ!」

「……本当に?ここ?」

「うん」


湊はひときわ古めかしいレンガの建物を見上げた。

壁のところどころに亀裂が入っており、蔦が這っている。とても景観のために植えたようには見えない。

研究室より廃墟と言った方が近い。

しかし案内図と照らし合わせてもここで間違いないようだ。


美咲は分厚いガラス扉の前で跳ね、こちらに呼びかける。

「あけて〜!み、み」

「みなと、ね」

「みなとさん、あけて!」

「はいはい」


扉には何の鍵も電子錠も付いていない。

重たい扉を引くと、美咲は隙間から入り、階段へ走る。

「美咲、ちょっと待って」

ガラス扉を閉め、急いで美咲を追いかけた。


***


美咲は3階の廊下をうろうろしていたが、ある部屋の前で立ち止まった。


「おばちゃん!おばちゃーん!」


美咲の目の前の部屋から、眼鏡をかけた女性が出てきた。


「あらあら、美咲ちゃん」


薄化粧の顔に、黒い長髪を髪留めで雑にまとめている。30代前半くらいだろうか。

おばちゃんと呼ぶには早い気もする。


「戻ってきたのね。いきなりいなくなっちゃうから、おばちゃんビックリしたのよ〜」


女性は美咲の背後に立つ湊に気付いた。

「あなたは?」


この女性には、近衛からの連絡は届いていないようだ。

「訓練生1年の湊です。指導教官に、今日一日この子の面倒を見るように言われて来ました」

「あら、そう。私は鹿鳴(ろくめい)春花(はるか)。ここの課長よ」


煌都の名家・三閥(さんばつ)のうちの一つ、鹿鳴家。

神木を祀る祭事に力を入れる一方、神木の謎を解き明かす研究にも取り組んでいると聞いたことがある。

この人も、そういった家の生まれだから研究職に就いているのだろう。


「じゃあ、美咲ちゃんがもう部屋を出て行かないように見ててくれる?着いてきて」


課長は2人を小部屋にいざない、扉を開けた。

ふわふわのカーペットが敷かれた床だ。

先に入った美咲に倣い、靴を脱いで上がる。


テーブルと座椅子、絵本の置かれた本棚。

ソファにはリュックサックとブランケットが置いてある。

美咲は普段この部屋で過ごしているのだろう。


美咲の肩からポシェットを外してやっていると、課長の見下ろす視線を感じた。


「ん、何ですか?」

「……湊くん、ご家族は?三閥の流れを汲んでる?」

「さあ、知りません。俺は養護施設の出身ですから」

「そう。鹿鳴家に関わったことは?」

「施設の経営が鹿鳴家でしたけど、実際に鹿鳴の人とは会ったことないです」

「そう。君に似た人を知ってるから、気になったの」

「別に出自には興味ないです。俺を捨てた親とかどうでもいいんで」

「……それもそうね。ごめんね、変なこと聞いて。お茶を用意してくるわね」

課長は扉を閉めて去って行った。


***


美咲はしばらく座椅子に座っていたが、突然立ち上がった。

「ん!いいことおもいついた!」

「美咲?どしたの?」

「おともだち、みしてあげる!」


美咲は靴下のまま部屋の外へ走り出た。


「ちょっと、美咲?」


美咲が出て行かないように見ていてくれと言われたばかりなのに、早速出て行ってしまった。

課長を呼びに行った方がいいだろうか。


逡巡のうちに、美咲がすぐに戻ってきた。

苗木の植わった鉢を抱えている。


「みなとさん、みて!ちびちゃん!」


湊は苗木を見つめた。何の植物だろうか。

樹皮は薄い緑色で、つるっとしている。宝石の翡翠みたいだ。

葉は一般的な植物と同じで鮮やかな深緑色だが、植物の葉より分厚く、硬そうに見える。


「みなとさん。おにいちゃんのおともだち」

美咲は苗木に向かって話しかける。

苗木の方にも湊を紹介しているようだ。


「ねえ美咲。それがちびちゃん?」

「うん、ちびちゃん!みさきのおともだち」


勝手に友達と思っているのか、加護に関係があるのか、どっちだろう。


「ちびちゃんねぇ、しんぼくさまなんだって!」

「えぇっ?神木さま?」


(さすがに嘘だよな?あの神木が、こんな無防備な場所にあるわけないだろ?それに小さい苗木だし……)


神木は輝きを放つ大樹と言われており、その姿は限られた者しか見ることが許されていない。


湊がじろじろ苗木を見ていると、美咲がまた何かを思いついた。


「あっ!みなとさんも、おともだちがいい?」

「いや、別に」


美咲は鉢植えを突き出してくる。

「いいよ!あくしゅね!おててぎゅっ!」

握手の代わりに枝に触れろと言いたいようだ。


「え、触って大丈夫?なんか珍しい木みたいだけど」

「おともだち、なるんでしょ!おててぎゅっして!」

「だから俺は別にいいってば」


湊が躊躇っていると、美咲は植物に向かって喋りかける。

「えっ?だめなの?いいよねっ」

何やら不穏な返しをしている。

「え、本当に大丈夫なの?」

「いいの!ぎゅっ!」


言われるがまま、湊は軽く枝をつまんだ。

指先が触れた瞬間、バチッという音とともに鋭い痛みが走った。


「いってぇ!!」


思わず指を押さえたが、傷は付いていない。

静電気、それも結構痛い時の感覚に似ていた。


「ビックリしたー……何これ!?」


美咲は湊の声に驚いたのか、固まってこちらを見つめている。


課長が麦茶と紙コップを手に戻って来た。

「湊くん、どうかした?」

「すいません、美咲が木を持って来て、触ってほしいって言うから……そしたらなんか静電気みたいに」


課長は美咲に話しかける。

「美咲ちゃん、ちびちゃんは何て言ってるの?」

「……みなとさん、いやって」

「え?俺嫌われてんの?」

「大丈夫よ、湊くん。私も触れないし。でも怪我した例はないのよ」


美咲が鉢植えを抱いていると、時々腕に枝葉が当たっている。しかし、美咲には痛みが発生していないようだ。


「美咲ちゃん、ちびちゃんが嫌がってるのに無理矢理しちゃダメでしょ?」

「だって、おともだちになるもん」

「でもちびちゃんは嫌なんでしょう?だったらやめないと」

「んぅ……ごめんなさい」

「分かったら、お部屋に返しに行ってくれる?」


美咲はこくりと頷き、苗木を戻しに部屋を出た。


「あぁそうそう、お茶ね。ピンクのコップが美咲ちゃん、青のコップが湊くんね」


課長は何事もなかったかのように、ペットボトルの麦茶を紙コップに注ぐ。


「すいません、あの緑の木、何ですか?なんか美咲が神木さまだとか言ってましたけど」


課長は手を止めた。

どこまで明かそうか迷っているようだ。


「うーん、聞いちゃったものはしょうがないわねぇ……あれは神木の苗木。幼木なのよ」

「えっ!?ほんとに神木なんですか!?」


神木に子孫がいるなんて聞いたことがない。

もし本当ならビッグニュースではないか。


「それってめっちゃ大事なやつじゃないですか?こんなとこでちびっ子に持たせていいんですか?」

「ええ。薄々分かったかもだけど、美咲ちゃんは幼木と話すことができるの。美咲ちゃんが授かった加護は、神木との意思疎通なのよ」

「神木との意思疎通?それって鹿鳴家が受け継ぐ、神の御使(みつかい)ってやつですか?」


教典の一節に書いてあったはずだ。

3人の男が、洞窟の深部に眠っていた神木を発見した。

そのうちの1人だった鹿鳴家の研究者は、神木と語らい、共に歩む道を望んだ。

神木はその願いに応じ、意思疎通の加護は代々鹿鳴家に受け継がれている。

神木からの言葉を受け取れる鹿鳴の人間は、神の御使として煌都の命運を司ることになる。

大方そんな内容だったと記憶している。


「美咲は猪狩家の子どもなのに、どうして御使になれたんですか?」

「あら、湊くん詳しいのね。それを調べるために、美咲ちゃんをここに呼んでいるのよ」


麦茶を飲むよう促され、湊は青い紙コップを手に取った。


「さんざん調べたけれど、美咲ちゃんに鹿鳴の血縁的なルーツはない。あの子がどうして御使に選ばれたのか。本当に意思疎通できているのか。それらを調査・報告して正式に認められないと、美咲ちゃんを神の御使だと世間に公表することはできないの」


課長が話していると、美咲が部屋に戻って来た。

ただのちびっ子に見えるが、複雑な事情を抱える子だったようだ。


「だから湊くん、今の話は他言無用で。じゃあ、美咲ちゃんはここにいてね」


課長は麦茶のペットボトルをテーブルに残し、部屋を出て行った。


読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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