【6話(2/4)】神木ファンクラブ
神木の加護を受ける街・煌都。
サボりの学生・湊陽輝は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩美咲のお守りを任務として請け負うことになった。
研究室に預けられっぱなしの美咲は、普通の子と同じように幼稚園に行きたいと願っていた。
湊は美咲が幼稚園と研究室の両方へ通えるようにして、その願いを叶えるのだった。
※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中
※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。
「さあ湊くん、そこに座って!」
湊は神木ファンクラブのメンバーに取り囲まれ、それぞれの活動を聞かされる流れに巻き込まれていた。
湊と同じクラスにいた眼鏡が話し始める。
「僕は煌都の歴史に興味があるんだ!その一環として、教典を暗記しているのさ」
この眼鏡のことは、歴史マニアと呼ぼう。
歴史マニアは、暗記用のノートを見せてくる。
「僕は書かないと覚えられないんだ。聞くだけで覚えられたなんて、湊くんは凄いよ!」
「でも、覚えても使う時ないでしょ。少なくとも俺は人生で役に立ったことはないね」
「使えるかどうかじゃなくて、好きだから覚えるんだよ。だから僕は順番に覚えてなくって、好きな節から覚えるようにしてる。例えば、三閥の開祖が神木さまを探す探検節とか!あの辺りは冒険活劇みたいで面白いよね!」
「ふーん、そう」
教典は説法くさい部分もあるが、歴史マニアの言う通り、一部分は鹿鳴家の開祖が主人公の冒険記だ。
彼は神木を探して仲間と旅をする。
神木を見つけてからは、神木から聞いた様々な話を記録する構成となっている。
「では、次は自分が行かせてもらおう」
続いて前に出てきた眼鏡は、スクラップ帳のようなものを広げて見せてくる。
神木の特集記事を切り抜いているようだ。
「自分は、神木の科学的な仕組みに興味がある。不明だからこそ神秘的だという意見もあるが、自分に言わせればそれは思考停止に過ぎない。研究と活用こそが、神木の真の信仰と言えるだろう」
この眼鏡のことは、研究マニアと呼ぼう。
それにしても、どこかで聞いた話し方だ。
「研究員でもないのに、何かできるわけ?」
「専門書や学術誌を読むんだ。それで、気になった記事はここにコピーして収集している。だが、研究の中心である鹿鳴家は秘密主義だから、神木に関しては滅多に情報が出回らない。自分の兄が研究職に就いているから、兄が面白い記事をくれることもあるんだ」
「兄……もしかして、あんたの苗字って明石だったりする?」
研究マニアは、目を丸くした。
「ああ、そうだが……もしや湊くん、兄が所属している研究室に行ったのか?」
「あっ……まあ、そんなところ」
うっかり墓穴を掘ってしまった。
「そうなのか!今度兄に湊くんのことを聞いてみよう」
「いや、そんなことしなくていいから」
湊がどうして研究室に来たのか、弟に聞かれて明石が困らないといいが。
「じゃあ、あとは僕だねぇ」
最後は、おっとりとした話し方の眼鏡だ。
「僕は神木の結晶に興味があるんだぁ。将来は製宝部隊に入って、宝具の製造に関わりたいんだよぉ」
製宝部隊といえば、警護隊や訓練校で使う宝具を製造する部隊だ。
この眼鏡のことは、結晶マニアと呼ぼう。
「僕の宝物、見せてあげるねぇ。これ、本物の結晶の原石なんだぁ」
結晶マニアは、巾着袋から拳大の石ころを取り出し、机に置いた。
確かに、結晶と同じような翡翠色だ。
「何度見てもすごいや!」
「湊くん、然と目に焼き付けた方がいいぞ。この大きさ、近年では稀なんだ!」
歴史マニアと研究マニアも興奮している。
「ふふ、すごいでしょ〜?僕のご先祖さまは三閥の獅戸家に仕えてて、褒美に授かったものらしいんだぁ」
「へー。これ、何かに使えるの?」
「いずれねぇ。僕が加工技術を習得して、この子を宝具に変えてあげるんだぁ。でも、この子を見てるだけで、僕は幸せだよぉ〜」
「ふーん、そう」
***
4人で原石を囲んでいると、扉がガラッと開いた。
「わっ!?誰ですかっ!」
「あわわ……」
結晶マニアが慌てて原石をしまう。
現れたのは、小昏だった。
「こ、小昏先輩!?どうして……」
「この部屋から珍しく大きな話し声が聞こえてきたから、君たちが湊くんを騙して連れ込んだと思ったんだ」
「そんな、騙しただなんて……」
マニアたちは、小昏に対して萎縮しているようだった。
「案の定だったね。湊くん、ここは神木ファンクラブという下等なおふざけ集団だ。さあ、一緒に行こう」
小昏の言葉に、3人は俯く。
「おふざけだって、そんなぁ……」
「僕らも神木研究会を名乗りたかったのに……」
小昏には届かないように、モニョモニョと反論している。
さっきまで元気に自分たちの活動をプレゼンしていたではないか。
湊はずいと前に出た。
「あのさ、こいつら、あんたに文句があるみたいだけど。何かあったわけ?」
マニアたちは湊の言葉に慌てる。
「ちょっと、湊くん!やめてよ!」
「大丈夫、こいつが手を出してきたら俺がボコしてやるよ。先に手を出された後にやり返せば、正当防衛なんだろ?そしたら合法的にボコせるじゃん」
小昏がこちらを否定するように首を振る。
「湊くん、丸聞こえだよ。今朝も言っただろう、暴力は無しだ」
「は?聞こえるように言ってんだよ。もちろんこっちからの暴力は無しな。でもあんたの出方次第じゃ、その後は知らないよ」
そう言って、小昏にガンを飛ばす。
小昏は膝蹴りを思い出したのか、ガーゼの上から鼻を押さえた。
「……とにかく、君は彼らと一緒にいるべきじゃない。その3人は神木研究会に入れなかったから、僕を逆恨みしているのさ。入会試験、彼らはてんでダメだった。低レベルな学生を入れると研究会の質が落ちるから、仕方ないんだ」
マニアたちは不服そうに俯く。
どうせ理不尽な試験内容だったのだろう。
「ほら、ここにあんまり留まっていると、湊くんも下等な信仰に染まってしまうよ」
つくづくムカつく奴だ。
どうして他人をそんなに下に見れるのだろうか。
それぞれの勝手なプレゼンを聞いただけだが、マニアたちが本気で神木を愛し、真剣に活動していることは伝わってきていた。
「あのさぁ、信仰に上とか下とかあるわけ?こいつらは好きだからやってんでしょ。しかも誰にも迷惑かけてない。あんたと違ってな!」
「僕は祈念室にも通う、敬虔なる信徒なんだ。信仰対象である神木さまに愛情や好意などという低俗な感情を示すなど、不敬にも程がある」
「あんたが自分を高尚な人間だって思うのは勝手だけど、誰かの好きなものを否定する筋合いなんてどこにもないだろ。ましてや自分より劣ってるって思うのは傲慢だ」
湊は小昏に迫り、ガーゼに覆われた鼻先に指を突きつけた。
「言っとくけど、俺はあんたのとこなんかに行かないし、あんたに何も教えない。そのツラ二度と見せんな!」
小昏はこちらを睨みつけたが、何も言わずに踵を返した。
***
小昏が去った後、マニアの3人は一斉に拍手を送ってきた。
「ありがとう、湊くん!」
「君はもう立派な会員だ!」
「会員じゃない。あんたら見下されてんだから、このくらい言い返せばいいのに」
「だって、先輩だよぉ?僕、湊くんのこと怖い人なのかなぁって思ってたけど、優しくって勇気があるんだねぇ」
「僕もだよ。湊くんって背が高くて男前なのに、誰も寄せ付けない雰囲気があるもん。ピアスも凄いし」
(ほんとに怖がってたか?それにしちゃ、最初っから強引に勧誘してきたじゃん……てか、もうこんな時間!)
すっかり長居してしまった。
美咲のもとへ帰らないと。
「じゃ、俺は用事あるから」
「湊くん、今日は本当にありがとう!」
「いつでも待っているぞ!」
今度こそ暇を告げて、研究室へ戻る湊だった。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!
 




