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【5話(2/3)】解なき難題

神木さまの「ちびちゃん」とお話ができる女の子・美咲(みさき)


痛い検査をしたり、暇で仕方ない時間もあったり。

けれど、お兄ちゃんのお友達・(みなと)さんのおかげで、今日から幼稚園に行けることになった。


久しぶりの幼稚園、みんなと仲良くできるかな?


※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中

※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。


美咲が幼稚園に行くのを見届けた後、湊は寮に戻って二度寝していた。

しかし、弥生(やよい)からの着信で目が覚めた。

美咲が原因で他の子どもが喧嘩して、混乱に陥ったらしい。


「ーーそれで、幼稚園が終わった後、関係する保護者に説明があるそうなのですが、今日はどうしても私も夫も本家から離れられず……後で私も謝罪に参りますので、ひとまず説明会に参加して頂けませんでしょうか」

「そんなことが……分かりました」


通信機の時刻を見ると、まだ昼を過ぎたばかりだ。

(もうトラブルになったのか。美咲、大丈夫かな……)


***


幼稚園が終わる時間に、湊は教員室へ向かった。

ふてぶてしい顔の子どもたちと、泣き腫らした顔の美咲が座って待っている。


「みなとさんっ……」

湊を見るなり美咲はぐすぐす泣きだす。

「なかないのっ!」

隣の女児に叱咤されても美咲は泣き止まない。


近くにいた男児がこちらを見上げる。

(あれ?この子、昨日ブランコで遊んでた子だ)

「おにいちゃん、みさきちゃんのおにいちゃん?」


横から女児が口を挟む。

「ちがう!ゆりみたことあるもん!みさきちゃんのおにいちゃんはねぇ、もっとちっちゃいの!」


(成海さん……子どもって残酷だなぁ)


***


仕事終わりであろう保護者が続々と集まり、先生が事情説明を始める。


「ーーということで、まずは美咲ちゃんの付き添いさん。美咲ちゃんに怪我はないですが、発端に関わっていたようです」


周りの保護者が苦い顔でこちらを見る。

「加護の話で喧嘩になることはよくありますけど、神木と話せるというのはちょっと……」

「このままでは学校に上がっても同じことが起こるわよ。お家でお嬢さんの加護がどういうものか、もう一度よくお話ししたらいかが?親御さんにお伝えしてね」


美咲の加護は、まだ公に確定したわけではないと課長が言っていた。

ここで美咲の言うことが本当だとゴネない方がいいだろう。


「はい、伝えておきます。どうも、ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」


頭を下げると、女児が声を上げる。

「おにいちゃん、あやまらないの!こいつらがわるい!」

「侑理ちゃん!」

先生が嗜める。

この侑理という女児の保護者は、まだ来ていないようだった。


「それで先生、このお嬢さんの保護者さんは?」

「そうですよ!うちの子はこんなに叩かれて!言いたいことは言わせて頂きますからね!」


先生は時計と玄関を交互に見る。

「えぇと、それがですね、お仕事で遅れるとのことで」

「私だって仕事抜けて来てるんですよ!そんなの理由になりません!」

「えぇ、それはもちろん――」


先生が困っていると、廊下を歩く足音が近づいてきた。

「あっ、いらしたかも!」


背の高い、スーツ姿の女性が姿を現した。


(でっか!ヒールなしで俺くらいないか?)


女性は、小太りの中年男性を引き連れている。


獅戸(ししど)さん!ご両親ともいらしたのですか!?」

「娘が悪事を働いたなら当然です。公務が推しまして、申し訳ございません」


小太りの中年男性が、侑理に駆け寄る。

「侑理ちゃん、パパ来たからねぇ!もう大丈夫だよぉ」


しかし侑理の母親は、父親の襟首をガシッと掴んだ。

「貴方。静観なさいませ。そう申したはずです」


父親は顔をひきつらせ、素早く下がった。

「はいっ、ママ……」


(年の差婚ってやつか?あのおっさん、家でも尻に敷かれてんだろうな)


「失礼致しました」

母親は保護者たちに一礼し、我が子に歩み寄る。


「おかあさまっ――」

「馬鹿者がっ!」


母親は、勢いよく侑理の頬を張り飛ばした。

バチーンという音と共に、侑理は声を上げる間もなく吹っ飛んだ。

居合わせた保護者と子どもたちが悲鳴を上げる。


「あぁっ、お母さん!やめて下さい!」

「なりません。愚かな娘に、自分が傷つけた分だけの痛みを理解させるのです」


美咲は一旦涙が止まっていたのに、また泣きだした。

「ゆりちゃぁん……!」

周りの男児たちもつられて泣き始める。


気の強そうな侑理も、さすがに頬を押さえて涙をこぼす。

「うぅっ、おかあさま、いたいよぉ」

「愚か者!お前が手を上げた御子息たちはもっと痛い思いをしたでしょう!」


母親はもう一度手を振り上げる。

「あぁっ、やめて下さい!子どもたちの前ですよ!」

「もういいです!ウチの子はたぶんそこまでされてないので!」

周りの保護者に止められ、母親はようやく手を下ろした。


「うちの愚女が皆様の大切な御子息たちに手を上げ、誠に申し訳ございません。二度と斯様な真似をせぬよう、家でも然と罰して言い聞かせます。今は何卒御容赦願います」


母親の陰に隠れ、父親もペコペコと頭を下げる。


「いいえ、もうお子さんにはいいですよ……」

「うちの子にも、よく言っておきますね……」


文句を言おうと息巻いていた保護者もみんな青ざめて、静かに帰って行った。

母親の気迫か、それとも侑理の頬が恐ろしく真っ赤に腫れ上がっていたからか。


***


侑理の母親は、娘の首根っこを掴んで立ち去ろうとする。

侑理があまりにもかわいそうで、湊は思わず呼び止めた。


「あの、すいません。その子は美咲を守ろうとしてくれたんです。そんなに怒らないで下さい」


母親はこちらへ振り返る。

「貴方は?」

「美咲の、この子の付き添いです。美咲が嘘つきだって周りが言っても、その子だけは美咲を信じてくれたんです」

「左様ですか。今後とも侑理と親交を暖めて頂けるのであれば、何よりです。しかし、行き過ぎた正義感を暴力に繋げると、他人を害することに正当性を見出してしまいます。成功体験になる前に、然と戒めねばなりません」


母親は侑理を引きずって行く。

「貴方。行きますよ」

「はいっ、ママ……」

小太りの父親は、震えながら母親について出て行った。


(スパルタだ……あの子、家でも怒られるんだろうな)


湊は、まだ泣いている美咲を抱き上げた。

「みんな帰っちゃった。美咲、俺らも行こう」


園の先生に挨拶してから、湊は研究室に向かった。


***


湊は美咲を部屋に連れて行った。


「美咲、ここで待っててね。みんなに話してくるから」

「ん……」


オフィスには、課長、室長、研究員の明石(あかし)がちょうど揃っていた。


「湊くん、今日は遅かったが何かあったのか?」

「実は幼稚園で――」


湊は3人に美咲の顛末を話した。


「美咲嬢にそのようなことが……嘘つき呼ばわりされて、悲しかったろう」


課長が口を開く。

「いいえ、美咲ちゃんが間違ってるわ」


湊は耳を疑った。

「はぁ?正気ですか?周りが勝手に喧嘩したんですよ?美咲は悪くない!」

「美咲ちゃんは幼木と意思疎通できる可能性があるというだけ。真に承認される前段階だと言うのが正しいわ」

「あぁ、間違ってるってそういうこと……」

「それに、そもそも他所でその話をしないように言っておかなかったのが悪いんじゃないの?」

「それは、そうですね……課長さんの言う通りです」


美咲が幼稚園の子どもと遊べたらそれで上手くいくと思っていた。

しかし、その考えは甘かった。


「だから言ったでしょう?美咲ちゃんに普通の生活はできない。周囲への対応をずっと考えながら、トラブルに遭遇しながらやっていくのよ。そんなの無駄だわ」

「人生に無駄なんてない。トラブルなんて加護以外にもあることじゃないですか。ここを乗り越えて、美咲は前に進めるはずなんです」


2人は暫し睨み合ったが、課長が先に立ち上がった。

「あっそう。まあ、あなたが諦めるまで好きにすれば」


湊にそう言い残し、今度は室長に詰め寄る。

雷夏(らいか)

「はい……」


ヒールの差で室長の方が大きいはずなのに、すっかり課長に萎縮して小さくなっている。


「そもそもあの子の面倒はあなたが見るのが道理でしょう。どう対処するか、3人でよく話し合いなさい」

「はい……」

「報告はしなくていいから、何とかしておいて」


(何とかって何だよ。人に色々言っといて、自分は一緒に考えてくれないわけ?)


課長は3人を置いて、オフィスを出て行った。


***


室長が目頭を押さえてため息をつく。

「はぁ、どうすれば良かったのかしらね……あたしも、あの子が幼稚園でどう説明すればいいのか、思いつかないわ。説明と言っても、研究室のことは言えないし……明石、あんたはどう思う?」

「自分は……美咲嬢がもう話してしまったからには、ある程度こちらも正直であるべきかと。下手な隠し方では、本当に美咲嬢が嘘をついたことになってしまう」

「でも、正直に言ったところで信じてもらえなくて嘘つき扱いでしょう?難しいわねぇ……」


2人の話を聞いていると、神木と話せることをハッキリさせない言い方が穏便に済みそうだ。


「あの、調べてる途中って言うのはどうですか?それなら嘘じゃないですよね?」

「うーん、そんな中途半端な言い方で、からかってくる子どもが納得するのかしら」

「しかしその言い方なら、万が一美咲嬢がここに通っていると知られても大丈夫だな。自分は悪くないように思う」


明石が測定記録用のノートを傍らに置く。

「湊くん、美咲嬢が落ち着いてからでいいので、また測定に連れて来てくれ。周囲への対応も、美咲嬢と練習してみるのがいいだろう」

「分かりました」

読んで頂きありがとうございます!

初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。

完結まで頑張ります!

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