【4話(3/3)】久しぶりの幼稚園
神木の加護を受ける街・煌都。
サボりの学生・湊陽輝は、神木と意思疎通ができる女児・猪狩美咲のお守りを任務として請け負うことになった。
美咲を幼稚園と研究室に通わせ、授業への出席と両立させる――不良男子の学生生活に、変化が起きようとしていたのだった。
※小説家になろう・note・Nolaノベルにて同時投稿中
※残酷な描写として、殴る蹴る・鼻血が出る程度です。
幼稚園の入り口で待っていると、弥生も到着した。
「まあ、お早かったのですね、お待たせ致しました。陽輝さま、今日はありがとうございます」
「いえ、もうこれが任務になったので。俺も挨拶に行っていいですか?」
「ええ、もちろん!お嬢様のお迎えで出入りして頂きますから、先生方にお顔を覚えてもらいましょう。さあお嬢様、園長先生のお部屋へ参りますよ」
***
園庭に入ると、遊びながら迎えを待つ子どもがちらほら見える。
先生が出迎えてくれて、園長室に通された。
「園長先生、猪狩美咲の付き添いの狩野と申します。お時間を作って頂きありがとうございます」
「いえいえ、私共も美咲ちゃんが帰って来てくれるのを心待ちにしておりました。美咲ちゃん、こんにちは!」
美咲は黙って湊の脚にくっついた。
「ほら、ちゃんと挨拶しな。こんにちはって」
「……こんにちは」
「こんにちは!お兄ちゃんの言うことが聞けてえらいわね!」
「いえ、あの、美咲のお兄さんは別にいて、訓練生の湊と言います。美咲の迎えをするのは自分なので、ご挨拶に来ました」
弥生も言葉を添えてくれる。
「私共がなかなか日中の業務から離れられないもので、帰りは彼に来て頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、こちらは構いませんよ。念のため、通信機の連絡番号を控えさせてもらっていいかしら?美咲ちゃん、幼稚園の様子、自由に見て行ってね」
弥生は園長先生と諸々の手続きの話を始めた。
湊は番号を用紙に記入してから、美咲を連れて部屋を出た。
***
園庭に沿って歩いていると、美咲が立ち止まった。
「あ、ぶらんこ!」
「ブランコ好きなの?」
「うん。おにいちゃんとね、ぶらんこしたの」
成海と遊んだ思い出があるらしい。
2つあるブランコのうち、1つは空いている。
「ふうん。じゃあちょっと遊んでく?」
「いいの?」
「弥生さんの話が終わるまでね」
「うんっ」
美咲が上履きから靴に履き替えていると、園庭にいた男児が空いていたブランコで遊び始めた。
「あっ、なおくん」
「知ってる子?」
「うん、きんじょのこ」
美咲はじっと男児を見ている。
「ん、ぶらんこ……」
「いいじゃん別に。途中で代わってもらえば?」
「んー……」
「じゃあ代わりばんこでやれば?」
美咲の態度は煮え切らないままだ。
しゃがんで、美咲の肩を押し出すように優しく叩く。
「美咲、それでいいの?この先やりたいこと、欲しいものができたらどうするの?黙って我慢するの?自分の気持ちはちゃんと言わないと、人には伝わらないよ」
「……うん」
美咲がブランコへ歩きだしたので、遠くから見守る。
美咲はちゃんと話しかけられるだろうか。
しばらく経っても、男児が美咲の声に気づいた素振りはない。
ところが、美咲はこちらに帰ってきた。
「どしたの、ちゃんと言った?」
「うん……だめだった」
「ほんと?じゃあ俺も着いててあげるから」
ブランコに近づき、今度は美咲のすぐ後ろで様子を見守る。
「……なおくん」
蚊の鳴くような声で男児に呼びかける。
(いや、完全に聞こえてないじゃん)
ブランコのキーキー言う音に負けてしまっている。
俯く美咲に、再び声をかける。
「美咲、相手に伝わるように言わないと分かんないよ。大きな声で言ってごらん」
「んっ……な、なおくんっ!」
男児はブランコを漕ぐ手を止め、こちらを向いた。
「あっ、みさきちゃんだ!なぁに?」
「あっ……ぅ…」
後ずさる美咲を前へと押し出す。
「ほら美咲、何て言うの?」
「みさきも、みさきもぶらんこやるっ」
男児はひょいとブランコを飛び降りた。
「いいよ。みさきちゃんのつぎ、ぼくね」
「良かったね、代わってくれたよ。行っておいで」
美咲はブランコにぴょんと飛び乗る。
しかし足が着いておらず、地面を蹴ることができない。
美咲は足をバタつかせて懸命に身体を捻っているが、ブランコは前後に揺れない。
押してやりたいが、最後まで美咲に頑張らせるべきだろうか。
湊が迷っていると、男児が後ろから美咲の背中を押した。
「ほら、こうやってゆらゆらしないと!」
「わっ、ぅ、うんっ」
湊は2人から離れた位置で見守った。
(子ども同士で遊べて良かった。これなら明日から幼稚園でやっていけそうじゃん)
2人は交代でブランコに乗り、ずっと遊んだのだった。
***
やがて、男児の迎えが先に来た。
「なおくーん、ママ来たよー!」
園の先生に呼ばれ、男児はブランコを降りた。
「はーい!」
男児を見送った後、美咲はこちらに戻ってきた。
「みなとさんっ」
心なしか、美咲の顔がほぐれたように見える。
「ブランコ、もういいの?」
美咲はこくりと頷いた。
「次からは今日みたいに、ちゃんと相手に言うんだよ」
「うんっ」
***
翌朝、湊はアラームの音で目覚めた。
美咲の登園に立ち会いたいので、さすがに今日は寝坊できない。
と言っても、ルームメイトたちはもういない。
授業に出るならもっと早起きしないといけないのだろう。
身支度をして幼稚園の近くで待っていると、見覚えのある黒い車がやってきた。
狩野の運転する車から、弥生と美咲が降りてくる。
「おはよう、美咲」
「みなとさん……」
何となく硬い面持ちに見える。
「美咲、いっこ約束してくれる?」
「なぁに?」
「もしも幼稚園が嫌だとか、行きたくないとか、そう思ったら正直に言うんだよ。嫌な思いをしてまで行くことはないんだから。分かった?」
「……うん」
園の先生に挨拶して、湊と弥生はその場を後にした。
美咲は不安げな顔で、2人を見送るのだった。
読んで頂きありがとうございます!
初投稿ゆえ、至らぬ点があればすみません。
完結まで頑張ります!




