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魔王城発見

 魔王城を発見したのは、ルミナークの勇者ヴェーネ。その発言をオトットさんから聞かされて、俺は意識を失った。


 しかし、そのまま意識を手放して楽になれる訳もなく、ルネが強制的に、霊薬で活を入れる。俺は悲鳴を上げて飛び起きた。


 その後、オトットさんは調べた情報を、すべて教えてくれた。ギルドの仕事もあるのに、わざわざ多くの時間と人員を割いて調べてくれたらしい。


 ダンナーさんに関することのお礼に力を尽くしてくれたそうだが、中々素直に喜べなかった。俺の憔悴ぶりに、オトットさんは終始気の毒そうにしていた。


 情報によると、魔王城を発見したのはヴェーネで間違いない。しかし、その方法が特殊だった。ヴェーネは、他の勇者たちを使い情報収集して、それを元に魔王城の場所を特定したというのだ。


 そんなことはありえない。はずなのだが、ありえてしまったので、受け入れるしかない。そもそも何故ありえないかというと、魔王城の第一発見者の勇者パーティーには、優先的に魔王城攻略、そして魔王討伐の権利が与えられるからだ。


 いくら志が皆同じといえど、そこはそれぞれの国を代表している勇者たち。やはり大手柄を上げて、故郷に錦を飾るのは自分だ、という意識は強い。


 何より、そのために辛く苦しい訓練の日々を乗り越えてきたのだから、それが報われる日を待ち望むのは当然の感情だ。


 だから多少の情報共有はしても、勇者間で徒党を組んで、人海戦術を行うことはない、手柄の分配など、曖昧過ぎてできないからだ。魔王を討伐する勇者は、唯一無二でなければならない。


 魔王に勝って得られるものは、ひとまず魔物に脅かされることのない平和な日々と、次の魔王が復活するまでの猶予だけ。つまり、目に見える土地や財宝などの資源は手に入らないのだ。偉業と名声の分配ほど、困難で複雑なものもない。


 ただし、方法がない訳ではない。そしてその方法を実行できるのは、恐らくヴェーネくらいだろうという予想が、俺の中にはあった。




 俺たちは今、魔王城があると報告された。ヘンラ山麓へと向かっていた。その道中で、ルネとマルスさんに、多くの勇者たちがヴェーネに対して行ったと思われる、一つの可能性について話した。


「手柄を譲らせる!?」

「そうだ。発見者の権利を放棄してヴェーネに譲ったんだと思う」

「しかしじゃ、そんなことをすれば、他の協力した勇者たちには何の利もないのでは?」


 マルスさんの質問に俺は頷いて同意する。しかし、これしか方法はない。


「ヴェーネがどれほどの人数の勇者を動員したのかは分かりませんが、その中の誰かが、魔王城発見に貢献する重要な役割を果たしたとしましょう。でも、他の勇者たちも、発見に至らなかったとはいえ、力を尽くしていた。そうなった時、手柄の分配で揉めないと思いますか?」

「むぅ…、確かに一番の功労者は、魔王城の発見者じゃが…」

「競争で負けるよりも、確実に禍根を残しますよね。だって協力したっていう事実はあるんだから」


 ルネの言う通りで、これが勇者間の競争、つまりどちらが早く多くの手柄を上げるかの比べ合いならば、切磋琢磨した結果だと受け入れる余地がある。


 しかし協力して行ったとなれば、全然貢献できていなかったとしても、自分だってこれだけのことをしたと、自らの功績を強調し、分け前が欲しくなるのが当たり前のことだ。


 そんなもの絶対に穏便に解決するはずがない。それを完璧に丸く収めるには、自分たちの権利を放棄して、仲間内の誰もが納得する人物に、満場一致で差し出すほかない。


「そんなことが可能な人物は、ヴェーネしか思いつかない。貢がせるということに関して、彼女の右に出るものはいない。今回は、勇者の手柄を貢がせた、そういうことだと思う」

「そんなことができるって、ひょっとすると、あの女が一番怪物なんじゃないですか?」


 否定できない、なので俺は、沈黙という肯定を貫いた。本当に想像通りのことをしていたとしたら、とんでもない奴だ。


 だが、ヴェーネはどうして、急に目立った活動を始めたのだろうか。しかもばっちり結果まで出している。勇者の活動に、本来毛ほども興味を示していなかったはずだ。やれることをやればいい、彼女にそうは言ったけれど、まさかこれを実行に移した結果ではないだろう、流石にそれは信じられなかった。




 ヘンラ山麓に到着した。ヘンラ山のふもと、そこまで大きくないが開けた場所に、話を聞きつけた勇者たちが集っていた。世界中の勇者パーティーが集まって、ひしめき合っている。


 俺たちは集まった勇者の中でも、到着は最後の方だった。出遅れたと焦る気持ちもあるが、マルスさんの足と体力を気遣わない訳にはいかない。


 すぐさまヴェーネの姿を探したのだが、やはり早々見つかるものでもなく、集まった大人数の中から、彼女一人を探し出すのは困難を極めた。


「ヴェーネは見つからない、か…」

「リオンさん、リオンさん」

「うん?」


 ルネがくいくいと俺の服の袖を引っ張った。何か質問があるようだ。


「どうしてこんなに勇者たちが集まっているんですか?魔王城に挑めるのは、発見者が最優先のはずでは?」

「ああ、そのことか。確かに第一発見者に優先権が与えられるけど、他の勇者たちが挑めなくなる訳じゃあない。あくまでも優先されるだけで、魔王城攻略も、魔王討伐も、すべての勇者に可能性がある。そもそも、第一発見者の勇者パーティーが、一番戦力に優れているとは限らないからな」


 それに加えて、未知の領域に足を踏み込むこと、絶大な力をもつ魔王に挑むことは、最も命の危険が伴う。優先権は確かに他の勇者と比べて有利に働くが、特別な支援を受けられるという訳ではない。


 培ってきた実力で、魔王城を踏破し、魔王を倒さなければならない。その過程で、一番命を落としやすいのが、第一発見者の勇者パーティーだ。先んじて手柄を上げるか、大怪我を負って再起不能になるか、無残に命を散らすか、終わり方は様々だ。


「いや、格好つけて理屈こねくり回してますけど。…つまりここにいるでくの坊の集まりは、順番待ちの列ってことですか?」

「でくの坊とか言うな!仕方ねーだろ!そういう決まりなんだから!」

「そっすね。まあ、お行儀よく待てができていることは、大したものだと思いますよ」

「マナーを守れなくて世界を守れるかよ!しつけじゃねえんだよ、心構え!」


 まったく、ルネは油断するとすぐに、身も蓋もないことを言う。心が抉られるからやめてほしい。確かにはたから見ると、間抜けな順番待ちだけども。


「おっ、どうやらそろそろ動くみたいですよ?」

「本当じゃのう、列の先頭が騒がしくなりはじめとるぞ」

「ヴェーネのパーティーが魔王城へ乗り込むんだ。しかしあいつ、ろくに戦えもしないのに、どうやって魔王を倒すつもりだ?」


 色々と疑問は尽きないが、とにかくこれで自分たちにも順番が回ってくる可能性がでてきた。例えヴェーネが腕利きをそろえていたとしても、彼女を守りながら戦うのは難しいだろう、きっと早々に戻ってくるはず。そう思っていた。


 しかしどうしたことか、勇者の列がどんどんと進んでいく、その場に集まっていた半数以上の勇者が、移動し始めていた。入れる勇者パーティーは一組のはずなのにだ。


 俺は慌てて、移動し始めた一人の勇者を呼び止めた。そして、振り返った彼を見て驚きの声を上げた。


「アルフレッド!?」

「えっ?あっ、き、君は、リオンじゃないか、ひ、久しぶりだね」


 マルセエスで出会い、サクラク村で世話になったトナリュ王国の勇者、アルフレッドがそこにいた。そしてなぜかすごくうろたえた様子で、額に汗をかいていた。


「ああ、久しぶり。あのさ…」

「な、なんだい!?できれば質問は手短に頼むよ!?僕はこれから忙しいんだからね!」

「…もしかして、ヴェーネの仲間として、魔王城に乗り込むつもりか?他の勇者たちも全員」


 俺の質問に、アルフレッドはあからさまに動揺した様子を見せた。先ほどから、引きつった顔に冷や汗がとめどなく流れている。どうやら図星だったようだ。


「マジかよ…。ここにいる半数以上の勇者が、全員ヴェーネの仲間だっていうのか?それで魔王を倒せたとしても、手柄は全部ヴェーネのものになるんだぞ?」

「ぐ…むむむ…」


 アルフレッドは高い志を持った優秀な勇者だった。それなのにまさかと、今度は俺が動揺した。


「リオンさん、リオンさん」

「あ、何?」

「一人で勝手に分かってないで、こっちにちゃんと説明してください。この状況は、何がどうおかしいんですか?」


 ルネにそう言われて、俺も冷静さを取り戻した。そして、下を向いて唇を噛み締めているアルフレッドにもう一度確認した。


「今動いている勇者たちは、皆ヴェーネの仲間扱いってことでいいな?」

「…ああ、そうだ。僕も勇者ではなく、彼女の仲間として、魔王を倒しにいく」

「そうか…。引き留めて悪かった。気をつけてな」


 俺は聞きたいことを聞いてから、アルフレッドを見送った。そして隣にいるルネに、説明を始める。


「旅を始めたころ、どうして勇者が必要なのかって話をしたよな?」

「そういえばそんなこと聞きましたね」

「そこで俺は、手柄が勇者に集まることが重要だって話をした」

「政治的な意味合いが強いって言ってましたね」

「そうだ。だから勇者は、他の勇者と組まない。手柄の分散と混乱を避けるためにな。それがまだ、情報共有だけならば、理解できなくもなかった。だけど―」

「ヴェーネは明らかに、軍隊並みに勇者を引き連れていますね」

「魔王城を発見した勇者パーティーは、魔王討伐の優先権を得る。他の勇者が、その恩恵にあずかろうとするなら、第一発見者の勇者の仲間になればいい。そうすれば、仲間として魔王城に入れる」

「それはそうで…。待ってください、あくまでも優先権が与えられるのは、ヴェーネだけですよね?」


 ルネもこの異常さに気が付いた。俺は頷いて肯定する。


「ここにいる他の勇者たちは、ヴェーネの仲間として扱われる。つまり、魔王を討伐できたとしても、一番の手柄はあの女になる、そういうことですか?」

「多分ヴェーネは、勇者たちに勇者であることを辞めさせて、その戦力を自分に貢がせたんだ。掟破りの人海戦術に、本来実現しえない勇者連合。どちらもやり遂げた。自分にやれることをやってな」


 勇者ヴェーネの本気、俺はそれに火をつけてしまった。あの何気ないアドバイスが、こんな結果につながることなんて、予想できるはずがない。俺はただただ、ヴェーネの後に続く大勢の勇者の背中を、見送るしかなかった。

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