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両親からの無茶ぶり

 応接室でしばらくルネと一緒に待っていると、ステラさんが風格のある男性を連れてやってきた。俺は立ち上がると、その人と握手を交わして挨拶をした。


「初めまして、リオン・ミネルヴァです」

「お話は伺っています勇者リオン様。私はアグリッパ家当主のノクトと申します。娘のルネがお世話になっております」


 ノクトさんは実に紳士然とした人だった。見た目は若々しいながらも威厳があり、髪型も髭も服装もしっかりと整えられている。少し前に相手にしていた酒飲みドワーフとは全然違う、ギャップがありすぎて風邪をひいてしまいそうだった。


「それで、私たちに力を借りたいとのことですが、具体的にはどんなことをお望みですかな?」

「はい。まずは…」


 俺たちは机を囲むように座ると、二人に今までのことと、これからの目的についての説明を始めた。




「なんと…、これがかの有名な伝説の剣であるとは…」


 俺はもはや鍔と柄だけになってしまったエリュシルを渡して見せていた。しかし流石にこれだけでは何も分からないだろうからと、ダンナーさんから渡されていたものを取り出した。


 少量ながらもなんとか採取することができた剣の破片だ。砂粒程度の大きさしかないので、これを見せても何が分かるのかと俺は心配だったが、ダンナーさんはパランジーの錬金術師なら何の問題もないと言い切っていた。


「これが一応剣の破片なんですけど…」

「拝見いたします」


 ノクトさんにそれを渡すと、ステラさんも一緒にのぞき込んで見ていた。そして言葉もなくいきなり指をパチンと鳴らすと、どこから現れたのか、応接室にぞろぞろとメイド服を着た使用人らしき人たちが入ってきた。


 代わる代わる部屋に入ってきては、使い方も想像できない、見てもよく分からない器具をノクトさんとステラさんの前に次々と並べていく、二人は言葉も交わさず、黙々と真剣な表情で破片を調べ始めてしまった。


 俺が呆然としながらその姿を見ていると、いつの間にか隣に来ていた使用人がお茶とお菓子を置いて立ち去った。お礼を言う暇もなかったなと思っていると、隣に座るルネが耳打ちをしてきた。


「あれが始まると長いので、こっちはゆっくり待ちましょう。それと別に、あの子たちにお礼を言う必要はありません。というか無駄です」

「それは意地悪で言ってる訳じゃないよな?」

「当たり前でしょ、あの子たちはホムンクルスです。形こそ人に似せていますが、感情は持ち合わせていません。ただ命令通りに動くだけなんです」


 ホムンクルス、錬金術師が作る人造人間、話に聞いたことはあったけれど、実際に目にするのは初めてだった。


「俺が習ったホムンクルスは、もっと小さくて人っぽくないやつだったのに、ここにいるのは人間にしかみえないんだけど?」

「普通はそっちが一般的です。ただそこは錬金術の名家アグリッパ家ですからね、こういう他にはない特色も持ち合わせているんですよ」

「あのメイド服は?」

「お母様の趣味です。折角なら可愛い服を着せましょうって。言い出したら聞かない人ですから」


 なるほど、それについては妙に納得した。いかにもステラさんが言いそうなことだ。短い付き合いだが何となくそれが分かる。


 よくよく観察すると、ホムンクルスたちの顔は皆同じで、可愛らしいが無機質だった。表情が変化することもなく、ただただ淡々と仕事をこなしている。


 ルネの言う通り二人の作業は長くなりそうだった。待っているだけで他にできることはなさそうだ。お茶もお菓子もとても美味しかったので、ありがたくそれをいただきながら、のんびりと待つことにした。




「リオン様、お目覚めください」


 何者かの声で目を覚ます。どうやら待っている間に寝てしまったようだ、ここに来るまでにずいぶん歩いたから疲れがたまっていたのだろう。体を起こすと誰が起こしてくれたのかが見えた。


「君は…」


 ホムンクルスだ、しゃべれたのか。


「話せるの?」

「単純な受け答えは可能です。言葉は端的かつ円滑なコミュニケーションのツールとして最適です。では私はこれで」


 深々と頭を下げてからホムンクルスは下がっていった。何というか、本当にどこまでも職務にだけ忠実という感じだ。言葉も話せるし、見た目は人の姿なのに、人ではないと分かる。何とも不思議な感覚だ。


「よくお眠りでしたね」

「ルネ」

「お疲れでしたか?」

「まあ流石にね」

「ですよね。ま、ゆっくりとお休みになられたようでなによりです。あっちも終わったみたいですから」


 ノクトさんとステラさんが器具を片づけ始めていた。ホムンクルスたちが最後に綺麗に掃除をすると、ノクトさんがお茶を少し口をつけてから話し始めた。


「確かにこの剣、エリュシルの主な素材はオリハルコンです。しかもこのオリハルコンは、当時の我が家の錬金術師が精製したものです」

「えっ、そこまで分かるんですか?」

「ええ。もう少し文献で調べる必要はありますが、まず間違いないでしょう。そしてこのオリハルコンを精製できる錬金術が残っているのも当家だけです」

「お願いします!!どうしても俺にはオリハルコンが必要なんです!!ぜひともオリハルコンの精製をお願いできないでしょうか!?」


 俺は机に思い切り頭をぶつけてお願いした。どれだけ金がかかっても構わない、こんなにとんとん拍子にチャンスがつかめたことは初めてだ、逃してたまるものか。


「頭を上げてくださいリオン様、勿論オリハルコンは当家が責任もって精製してお渡しします。お代なども必要ありません。むしろ勇者様のお力になれるのなら、喜んで協力させてください」

「本当ですか!?」


 ノクトさんの言葉に、俺は喜びを抑えきれず頭を上げた。夫妻は同時に頷いて、確かだと答える。


「ただし条件をつけさせてください」


 ステラさんにそう切り出され、俺は一も二もなく勿論と答えた。断る理由など何もない、何でもやるつもりでいるからだ。


「オリハルコンの精製はルネが行うこと、それが私たちの出す条件です」

「はあ!?」


 驚きの声を上げたのはルネだった。自分にはまったく関係がないかのように、頬杖をついて話を聞いていたので、不意打ちを食らって余計に驚いたのだろう。


「お母様一体何をっ!?」

「黙りなさいルネ。私とお父さんはリオン様に聞いています。どうですかリオン様、この条件を飲んでいただけますか?」

「勿論、精製に必要な素材から器具、文献などは当家で用意します。そしてリオン様とお仲間のマルス様には、ルネがオリハルコンを精製するまでの間、屋敷にとどまっていただきたい。当然お二人のお世話は当家で見させていただきます。どれだけ時間がかかろうとも構いません。いかがか?」


 夫妻の提案に驚いているのは、何もルネだけじゃあない、俺だって相応に驚いている。しかし、この二人にどのような意図があれど、俺の答えは決まっていた。


「分かりました。ルネを信じます」

「ちょっ!?正気ですかリオンさん!?私錬金術なんて全然…」

「できないんだろう?その反応や態度を見ていれば、分かるよ。でもこの条件なら何の迷いもなくこう言える。俺は、ルネのことを信じる」


 俺の宣言に、へなへなと力を失うように崩れ落ちるルネだったが、結論を変えるつもりはない。俺はルネを信じて、任せる。


「決まりですね。ではルネ、あなたに仕事を与えます。折れた勇者の剣、その芯となる金属オリハルコンを精製なさい。私とお父さんは力を貸しません、あなたの力でそれを成すのです」

「…」

「どうした我が娘よ?やるのか?やらないのか?父さんと母さんにちゃんと返事をしなさい」

「…」

「ルネ、頼む」

「…分かりましたよ。でも、期待しないでくださいよ。どうせ無理だし時間の無駄…」

「ありがとうルネ!よろしく頼む!」


 俺はルネの手を取って、感謝の意を込めて頭を下げた。心底嫌気がさしたような表情も気にしない。俺は彼女に託すと決めた。それだけだ。

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