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探し物はそこですか?

 坑道内、グール4匹の群れと対峙するリオン、手には勇者の剣エリュシルの柄、鍔からは、リオンから吸い取った精気と魔力で形成された光の刃が伸びている。


 グールは素早く散開すると、四方から同時にリオンに襲い掛かった。同時攻撃をすれば、簡単には対処できない、グールたちにとっての常とう手段。それが並みの相手ならばこれで決着がつく。


 同時に襲い掛かったとしても、その速度には個体差がでる。リオンは一番近くまで迫ってきたグールを避けつつ、剣を振り上げて両手を、返す刀で振り下ろして両足を斬り落とした。


 すると手足を失ったグールはリオンのいた位置と入れ替わる、着地できずに地面に激突すると、そこをめがけてとびかかっていた仲間たちの鋭い爪と牙が突き刺さった。1匹はそれでぐちゃぐちゃの肉塊と化した。


 同士討ちしたことに一瞬怯むグール、リオンはすかさず、怯んだ1匹のグールの胴を貫いた。すぐには剣を引き抜かず、他2匹に見せつけるようにゆらゆらと揺さぶって見せた。リオンは突き刺したまま何度も剣を捻り、グールに苦痛を与え絶叫させた。それを聞き、残ったグールは更に萎縮する。


 体から剣を引き抜くと、傷口から多量の血が流れた。リオンはそれを蹴とばし、わざと仲間の近くにごろりと転がした。仲間が多量の出血と共に命が失われる様を見たグールは、半狂乱になってリオンに襲い掛かってきた。


 冷静さを欠く愚直な突撃、あまりにも与しやすい攻撃だ。リオンは小さなステップを踏んで身を躱すと、すれ違いざまに流れるような剣捌きで2匹の足を斬り落とした。着地するための足を失ったグールは、顔面を強打しながら地面にドシャリと落ちる。そのまま身動きを取らせず、リオンはグールの体を突き刺し止めを刺した。




「ふぅ」


 戦いを終えて一息つく、物陰から「おー」という声とパチパチと控えめな拍手が聞こえてきた。


「お見事ですじゃリオン殿」

「ありがとうございます。なんか久しぶりにまともに剣を振るった気がするなあ」

「私はすごく意外に思いましたよ。リオンさん、本当に強かったんですね」

「おい、疑ってたんかい」


 即頷くルネを見て自分でもびっくりするぐらい肩を落とした。そりゃ今までろくな戦いを見せてこなかったけれど、これでも一応勇者に選ばれたんだけどなあ。


「でも、何というか、意外とねちっこい戦い方ですね」

「ねちっこい?」

「マルスおじいちゃんみたいに一刀両断サバッ!!って感じじゃなかったから」

「いやいやルネさん。俺まだまだ絶賛弱体化中だからね?一回死にかけたの見たでしょ君?」


 そう、俺は一回死にかけた。それはあの最初の爆発事件に関係している。結局あの時俺が引き起こした爆発は、ダンナーさん曰く。


「何分使い慣れてない力だったからなあ。リオンは今まで力を剣に明け渡し慣れてただろ?だから軽く振ったつもりでも、精気も魔力も、ぜーんぶ一気に使っちまったんだな。ガッハッハ!そりゃ死にかけるわな!ガッハッハ!」


 全然笑いごとではなかったので、ダンナーさんはルネにこってり絞られていたが、あの爆発は、俺の搾りかす程度にしか残されていなかった精気と魔力が暴走した結果らしい。


 すべての力を使い切ってしまった俺は、体力気力共にすっからかんになくなり、意識を失ってぶっ倒れたそうだ。ということは、あの時の経験は臨死体験ということだったのだろうか、そう思うと貴重な経験といえば貴重な経験だったかもしれない。


 それにエリュシルの名前を聞くことができたのは僥倖だった。名前を知ることができただけだというのに、以前よりもこの剣のことをぐっと近くに感じることができた。それに相変わらず力を失い続けているのは間違いないけれど、ダンナーさんのおかげで光の刃を手に入れた。


 それはそれとして俺はルネに反論する。


「安全に倒すためにも、念入りに無力化させなきゃならないの。相手の戦意をくじくのも戦略なの、戦略」

「そうかな、ただ意地が悪いだけじゃないですか?血を見せて脅すとか、ぶっちゃけ悪役の戦い方ですよ」

「4対1なのに無傷で勝ったことを素直に褒められないものかね、先生悲しいな、素直な気持ちを持ってほしい」

「先生、グールの死臭が酷いので近づかないでください。くっさ」


 どんなに剣の腕を高めても、恐らくルネの言葉には敵わない。どんな鋭い剣でも、言葉の一刺しの方が深く傷を抉ってくるからだ。恐ろしやルネ、伊達に口の悪さでクビにされていないな、逆に感心する。


「してリオン殿、光の刃の使い心地はいかがですかな?」

「うーん…、なんとも言い難いですね。まだ体に馴染んでいないからってのも理由の一つですが、正直使い勝手はいまいちです」


 エリュシルの光の刃は、俺から吸い取った力で形成されている。光の刃を維持するために力を与えすぎると、また死にかけてしまいかねない。かといって俺が吸い取られる力の量を調節できる訳でもないので、常に減り続ける体力と魔力に気を払わねばならなかった。


 切れ味は申し分ない。むしろ制御ができない恐ろしいまでの切れ味だ。ただ光の刃には重さがない、それが長所でもあるが、欠点でもある。打ち合った時、重さがないと押し切られる。こちらは軽いのに、相手は重いのだ。今の非力な俺では受け止めきれず潰される。


 残されているのが鍔と柄だけなので、軽さという意味ではどこまでも素早く剣を振るうことはできる。できるが、それだけだ。速さなどものともしない技量、力量の持ち主を相手にした時、勝てる見込みは万に一つもない。


「精気と魔力の消耗による身体能力の低下は、これまでの経験でそれなりに慣れてきました。最低限の戦闘力は取り戻せたと思います」

「これまでの経験?」


 ルネが首を傾げてそう問う。


「あー、まあ、主にガメルでの経験が生きたんだ。あの時、依頼がなかったからずーっと日雇いで肉体労働してただろ?あの時仕事仲間に色々と教えてもらったんだ」

「でもあの時していたのは荷物運びが主でしょう?それが戦闘経験につながるんですか?」

「ルネちゃんや、ただやみくもに刀を振るい続けることが上達の秘訣じゃないんじゃよ。路傍の石からも学びはある。すべての事柄に無駄なことなどないんじゃ」

「えー、でも剣が折れたことは無駄だと思いますよ?しかも他の武器まで使えなくなるし」

「…」


 流石のマルスさんもその言葉には黙った。黙らないでほしかったけれど、正直俺も言葉がなかった。無理やりにでも空気を変えるためにゴホゴホと大きく咳ばらいをした。


「じゃあ本題に入るから」


 比較的開けて安全な場所に移動すると、俺は地図を広げて明かりで照らした。




「これは古地図だけど、閉鎖された坑道だから通路に変化はない。不幸中の幸いというか、魔物はほぼグールのみだから、これ以上拡張されることもない。グールに穴を掘る習性はないし、その意味もないからな」

「じゃあこの地図の信頼性は高いですね」


 ルネの言葉に俺は頷く。そして印をつけた場所を指さした。


「これまでの探索で、教えてもらった主な採掘場所はすべて回った。で、どこにもセイコさんの槌は見つからなかった」

「通路はどうじゃ?帰り道で落とした可能性もあるじゃろう」

「見て回りましたが、見つかりませんでした。それに例え酔っていたとはいえ、ダンナーさんは置き忘れたと話していましたから、ある可能性が高いのは採掘場所だと思います」


 俺の説明を聞いてマルスさんは納得してくれて頷いた。俺はそれを見て話を続ける。


「問題はここからです。実はすべて回ったと言ったけれど、一つだけ見てない採掘場所があるんです」

「怠慢ですか?」

「待てって、理由があるんだよ。そこをちらっとだけ覗いてみたけど、この坑道が閉鎖された理由のバジリスクがいた。どうも餌になる人が入ってこないから休眠状態に入ったらしい、ぴくりとも動かなかった」

「じゃあ怠慢じゃないですか。動かないうちにこっそり行ってみてくればいいのに」

「俺もそう思ったけど、そのまま観察していたら、ふらふらっと近づいたグールの群れがいたんだ。で、バジリスクはあっという間に休眠状態から目覚めてバクッ!飲み込んでまた休眠、必要最低限の動きで体力を維持してるんだろうな」


 バジリスクが陣取る採掘場所に近づけば、戦闘になるのはもう確実だった。そして、そこ以外のすべての採掘場所を見回っていて、どこにも槌を見つけることができなかったのなら、答えは一つだ。


「セイコさんの槌はこの、バジリスクが待ち構えている場所にある。絶対に戦闘が避けられない、一番危険な場所に」


 これから俺たちはそこに乗り込まなければならないということだ。覚悟を決めて、強力な魔物、バジリスクとの戦いに臨む必要があった。

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