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決闘を申し込む!

 俺はやっぱりまだまだ日雇いの仕事をしていた。しかし今日は、別の目的もあった。ちょうど他の従業員たちとも一番に仲がいい、ジョンさんの現場に来ることができた。ジョンさんには、事情を説明して、休憩時間に集められるだけの人を集めてもらった。目的は話を聞くことだ。


「じゃあやっぱりヴィルヘルム王にお子さんはいないんですね?」

「そもそも未婚だぞ」

「ああ、早いところ結婚しねえとって、みーんなそう思ってら」

「世継ぎの問題もあるのによお。ちんたらしてたらって、やっぱり心配になるよなあ」


 国民からしてみると、それはそうだろう。周りの人たちもうんうんと頷いていた。しかし今は、国民感情について考慮する時ではない。


 それよりも「やっぱりそうか」という確信を得られたのが大きい。続けざまにもう一つ確認を取った。


「勇者ヴェーネ、種族はハーフリング、そうですよね?ジョンさん」

「おっ、お前さん、よく気が付いたな。彼女、ハーフリングにしては背が高い方だ。パッと見では気づきにくいだろう」


 ジョンさんが関心したようにそう言った。そして他の従業員が続く。


「いいよなあヴェーネちゃん。可愛くて強い。我が国自慢の勇者様だぜ」

「以前お見掛けした時なんか、俺に向かってにっこり笑いかけてくれたぜ。いやあ、あの笑顔はたまらん。忘れられんよ」

「スタイルもよくて胸がでかい。どことなく妖しげな雰囲気も持つ。ありゃあ魔性の女ってやつだな。おっと、俺がこんなこと言ったってのは内緒にしてくれよ?バレたら妻にどやされちまう」

「あはは…」


 スタイル云々かんぬんはいいとして、これでハッキリした。やはりヴェーネはヴィルヘルム王の血縁者ではない。あの時、猫なで声でパパと聞こえてきた声がますます怪しさを増してきた。


「ちなみにジョンさん。彼女、混血ってことはありえますか?」

「ねえな。ハーフリングの背の高さは遺伝に現れない。何代か重ねるとたまに背の低い奴もいるって話だが、少なくとも俺は見たことがねえ」


 これで恐らく親族からの養子って線も消えた。ガメル王家の国王は代々ヒューマンが継いでいる。世襲制が続いているのなら、よほどの事情がない限り直系を混血にはしないだろう。権威とはそういうものだ。


 正妻もいないのにお妾の子ってこともありえないだろう。まあ、ヴィルヘルム王がやんちゃしてできちゃったって可能性はなくもないが、そんな子はなおさら表舞台に出せる訳もない。後々正妻とのトラブルになるし、外交にも差し支える。


 ヴェーネとヴィルヘルム王の間には、何か特別な関係性がある。実の親でもない王を親しげにパパと呼び、甘えた声を出すそんな関係が。何とまで断定できないが、後ろ暗さは十分に確信できると思った。




「―というのが俺の集めてきた話だ。二人はどう思った?」


 俺は宿の一室にルネとマルスさんを集めて、これまで調べてきて判明した事実を説明した。聞いていたルネが呆れたように言う。


「もしかしてここの王様もバカなんですか?王様ってバカばっかですか?」

「身内でもないのにその厚遇ぶり、特別な関係性をにおわせるような発言、どれをとってみても健全とは思えませんな」

「考えるまでもないですよ、その女、絶対何らかの方法で王様に貢がせてるでしょ。勇者ってポストも、スケベオヤジが女を近くに置いておきたいから、無理やりねじ込んだに決まってます」

「流石にそれはどうかなと思うけど、怪しいのは怪しいよな」


 俺はルネほど自信満々に断言はできないが、概ね同意見だった。マルスさんに視線を移すと、彼もゆっくりと頷いて同意した。


「して、怪しいのは分かりましたが、実際リオン殿はどうされるおつもりですかな?」

「もうそろそろ、ガメルを出て、本命のゴウカバへ向かうだけのゴールドは稼ぎきれますよ。リオンさんが稼いだ分と、私たちが内職した分があれば十分国を出られます。こんな国見捨てて、さっさと出ていくべきでは?」

「えっ?マジで?」


 思わず驚いて俺はルネの顔をまじまじと見てしまった。怪訝な表情で「次は何ですか?」と聞かれるのと同時に「気持ち悪いです」の右ストレートが顔にクリーンヒットする。


「…ただちょっと驚いただけだよ。結構真面目に金の管理してくれてるのな」

「失礼な。してないとでも思ったんですか?任されたことはやりますよ、いくら私でもね」

「うん、確かに失礼だった。ありがとうなルネ。君を信じて任せたのは正解だったよ」


 俺は精一杯の感謝を込めてそう言ったのだが、ルネからプイッと顔を背けられた。結構いいこと言ったよな俺、流石にその反応は傷つくが、前にも言われた通り慣れていくしかない。


「ふぉっふぉっふぉっ、リオン殿。ルネちゃんはただ照れてるだけですじゃ、気にすることはありますまいて」

「マルスおじいちゃん、今日のおやつ抜き」

「ふぉっ!?」


 おやつ抜き宣言をされて涙目になるマルスさんを見て、俺はつい笑ってぷっと噴き出してしまった。こうして和やかなコミュニケーションをとっていると、何だか少しだけ仲間に近づけてきたんじゃないかと思えてきた。


「ルネの言う通り、確かにこのままこの国の事情は捨て置いて、俺たちの本命であるゴウカバへ向かうこともできる。でも、情を捨てるには長くここに居過ぎたよ。ランカさんや、仕事でお世話になったジョンさん。それに俺によくしてくれた仕事仲間たち。もしこの人たちにとって何か不利益になることが起きているのなら、俺は放ってはおけない。だから、首を突っ込もうと思う」

「はあ…、何となくリオンさんならそう言うと思ってたんですよねえ…」

「流石はリオン殿じゃ、このマルス、お役に立ちましょうぞ!」

「で?そう言うからには作戦はあるんですよね?マルセエスの寒村とは違って、相手はがちがちの権力者ですよ?無謀なことはお断りですからね」


 ルネの言葉に俺は頷いた。そして自分の考えをすべて打ち明ける。聞き終えた後、ルネは「上手くいくかなあ」と言って心配していたが、マルスさんは「やりましょうぞ!」と気合満々であった。


 今回の作戦は割と自信があった。惜しむらくは、俺の力は全然必要ないというあまりにも悲しい事実だけだ。




 俺はもう一度城へ行って、ある人への面会を求めた。最初こそ難色を示されたものの、話が通ってからは思いのほかスムーズに事が進んだ。


「初めまして、あたしはヴェーネ・フロス。ガメルの勇者です」

「こちらこそ初めまして、リオン・ミネルヴァ。アームルートの勇者です」


 面会を求めた相手はヴェーネだった。握手を交わして自己紹介をする。柔らかい手だ、そう思った。


「そちらの方も初めまして、ヴェーネさんのお仲間ですか?」

「…そうす」

「ごめんなさいね、彼口下手なの。レダよ、強くて頼りになる自慢の仲間。何度も助けられたわ」

「そうでしたか。よろしくお願いしますレダさん」


 後ろで控えていた大男は、紹介されるとぺこっと頭を下げた。俺は彼とも握手を交わす。こちらの手はごつごつのカチカチであった。


「あたし、あなたにお会いしてお話したいと思っていたの。だからあなたの方からお誘いがあって嬉しかったわ」

「おや、俺のことを知ってるんですか?」

「勿論よ。伝説の勇者ラオルの子孫、そして彼の剣に選ばれしもの。あなたは特別な勇者よ、耳に入らないはずがないわ」

「それは光栄です。しかし俺はまだまだ未熟、勇者としての実績はヴェーネさんの足元にも及びません」

「ふふっ、謙遜しなくてもいいのに。さて、こうしておしゃべりを楽しむのも悪くないけれど、先に本題を聞いておきましょうか、今日は何故私をご指名で?」


 来た!俺はその言葉を待っていたと口を開いた。


「実はヴェーネさんにお願いがありまして、勇者間で技を競い合い、切磋琢磨するために、決闘の制度があるのはご存じですよね?」

「え?ええ、勿論知ってるわ」

「俺もヴェーネさんのような立派な勇者になりたいと志しております。俺の仲間も同じ気持ちです。そこでどうでしょう、決闘を受けてはいただけませんか?ぜひとも武勇名高いヴェーネさんの胸をお借りしたい、そう考えています」


 俺はヴェーネに決闘を申し込んだ。勇者に許された特権の一つで、俺が他の勇者から絶対に使われたくない権利の一つだった。

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