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8.グッドエンディング?

マリナがこの世界に来てもうすぐ1年になろうかという頃、イルマは亡くなった。前日までは普通に生活していたのだが、今朝は目覚めることがなかった。静かで穏やかな旅立ちに、マリナは悲しみもありつつ安堵した。


「イルマさんの最期に、私が一緒にいてあげられて良かった…」


1人で生活していたイルマの最後の1年にマリナという同居人を得ることとなった。イルマの物語は異世界から来た少女を保護することで穏やかに終えたのだった。


アランの元へ行くと、マリナの表情からすぐに察したようで、この日は店を開けることを止めた。


「…旅立ったのかい?」


「はい、とても穏やかに。それで、イルマさんの弔いを手伝ってもらいたくて…」


「もちろんだよ」





エミリが眠る横にイルマも眠った。




「それで、きみはどうするんだい?きみを保護してくれたイルマさんはもういない。きみは一人で生活する力も身に付けた。【ここに残る?】それとも【ここから出る?】」


(!)


しばらくは選択肢が出ることはなかった。生活が落ち着いていたこともあるし、何か変化があるような出来事も起こらなかったからだ。今、『イルマが亡くなる』という出来事が起こり、マリナに変化が生じている。だからアランのこの台詞は台本通りに発せられているのだ。





『主人公はイルマを弔うとアランに問われた。【ここに残る?】それとも【ここから出る?】。【ここに残る】を選んだ。「ここにいるから生活出来ているのですから、他へ行く気はありませんよ」』


【ここから出る】を選ぶと新しい地での薬草作りは難航し、作り置いた薬も底をつき生活が苦しくなる。他の町では薬師の主人公を警戒され、元の町では出ていった主人公はよそ者だと排除された。【孤独に物語が終わる】というバッドエンド5になるのだ。






「もちろん、ここに残ります。私は農家として成功してますから。この場所がないと生活できません」


「それもそうだね。まだまだマリナちゃんは子供だしね。小魔女さんとしても町の人に愛されてるし、今はここにいるのが安全だよ」


「それに私がもし死んだらエミリさんとイルマさんの横にお願いします。きっとお二人とは同じ場所から来たと思うので最後も同じ場所に…」


「何言ってるんだよ。グッドエンディングを目指してるんだろ?そしたら騎士団と共に都へ行くんじゃないか?それに、年齢的に僕の方が先に旅立つよ。今は時期じゃないだけでいつかはここから外に出るんだ。それがこの物語のグッドエンディングなんだろ?」


「でも、怖いんです。この1年で充実した生活が出来てます。イルマさんとアランさんのおかげで町の人とも仲良く出来てますし、変化が怖いんです。ノーマルエンドでも良いです。普通に穏やかに暮らせれば…」


「マリナちゃん…」


「主人公が私に変わったことでストーリーが変わる可能性だってあります。まず職業が違いますもん。薬師じゃなくて農家ですよ?それに魔女の力もあります。イルマさんの過去だけでなくイルマさんを保護したエミリさんの存在も知りました。だから、イルマさんをエミリさんの横に眠らせることが出来たんですもん。私が知る物語では森に墓を用意したってだけでしたし…。それに…、たぶん、今のが最後の選択だったと思います」


「え?」


「【ここに残る?】か【ここから出る?】かです。最後の選択は【ここに残る】です。合ってると思うんです」


「じゃあ、グッドエンディングになる?」


「それはわかりませんけど…。さっきも言ったように少しストーリーが違う所がありますから。そもそも主人公が違います」


「…そうか。じゃあ、もし迎えが来なければ、僕が君をもらってあげるよ」


「え!?」


「え!?って…酷いなぁ。僕はずっと好きなのに…」


「私のどこが?」


「もう、あの強い姿がね、戦いの女神のようで、本当に目に焼き付いちゃって…。僕はこの通り花が好きな軟弱な男だから…」


どうやら、シモンを撃退した少女の姿に一目惚れしてしまったようだ。


「ねぇ、まだ戦えるの?」


「戦えるの?って…。あれは実践でたまたま上手くいっただけで。一応、体力維持も兼ねて基本とか形は忘れないように練習してるけど…」


それを聞いたアランの瞳は輝いていた。


「見たい…。またあの姿を…」


「き、機会があればね…」


マリナは恥ずかしさもあり誤魔化した。


「あの、アランさんこそ、この後はどうするんですか?」


「僕?」


「だって、イルマさんを見届けるのがアランさんの役割だったのでは?」


「よくわかったね。おじいちゃんからお願いされてたんだけど、途中からはそんなこと忘れてたよ。彼女は優しくいつも幸せそうで、僕も普通に慕っていたから。それに花屋は結構気に入ってるんだ」


「あの、アランさんって少し身分が高い方なのではないですか?」


「どうしてそう思うの?」


「文字が読めましたし、言葉遣いも柔らかいので…」


「そうか…。母はたまたまこの町に来た父と恋に落ちてね、そのまま一緒にこの町を出たんだ。ここから離れた町で結婚して幸せに暮らしてるよ。ちなみに父は子爵令息だった」


「やっぱり、貴族の令息なんですね。でも、おじいさんはそれで良かったんですか?」


「愛に生きることが出来なかったおじいちゃんからしたら、反対は出来なかったんだ。父の身分については僕がおじいちゃんの元に来た時に知ったようだよ」


「なぜおじいさんの元に?」


「僕は体が弱かったんだ。静養するために母がおじいちゃんにお願いして…。ここは自然が多いからね」


「ご両親の所に戻らなくて良いんですか?」


「健康な弟が生まれたから、彼が子爵を継ぐ予定だよ。僕はここで花屋を営むのがちょうど良いのさ」


アランの事情も理解したマリナは、やっぱりこの町に残ることが一番良いと思ったのだった。






◇◇◇


あれから6年が経ち、マリナは野菜を育てながら町を緑豊かに維持するお手伝いをして生活していた。花屋とマリナの力は相性も良く、アランのお手伝いももちろんしている。


『ナイプリ』ではイルマが亡くなり3ヶ月ほどすると最後のイベント【騎士団が迎えに来る】が発生したのだが、マリナの元へ騎士団が来ることはなかった。




「小魔女さん、これ持っていって」


「良いんですか?美味しそう!!」


「この間鉢植直してもらったお礼が出来てなかったでしょ?今日花がちゃんと咲いたのよ。ありがとうね」


マリナの手にはクッキーが入った袋が渡された。


「あれくらいなんてことないのに。おいしくいただきます」


「ところでマリナちゃんはいい人はいるんかい?」


「え?」


「ちょっと、その質問は野暮よー。いつも花屋に出入りしてるじゃないの」


お菓子をくれた婦人と話をしていると他の婦人も話に入ってきた。


「そうなんだけど、アランはもうおじさんじゃないの。だから、うちの息子なんてちょうど良いかな?って思ったのよ」


「それを言うなら、うちの息子なんて同い年よ?どお?小魔女さんはどんな人がタイプとかあるの?」


「あはは。私より強い人が好きなので、私を倒せる人ならばってことで」


「「ええー!?そんな人いないわよー」」



町に盗賊がやってきた時、たまたま町に顔を出していた一見普通のお嬢さんであるマリナを人質にとろうと男が近づいてきたが撃退した。町で暮らす年頃の男たちの中には美しく成長したマリナに想いを寄せる者もいたのだが、この一件で身を引く者が多かった。逆に婦人のファンが増えた。



(あれはやっちゃった感があるよね。死にたくなかったから無我夢中だったけど、この町で後編のイケメンハーレムが始まったのかと思ったくらいモテ始めたのに…、このままだと本当にアランさんの嫁になるしか道がないな…)


とはいえ、この戦う姿を再び目撃したアランは、刺激が強かったのか数日間発熱し寝込んだ。


(頼りなさ過ぎる!裏を返せばそれだけ好いてくれてるんだろうけど…)



そんなことを考えていると、町の入り口が騒がしい。馬に乗った6人の男たちが現れたのだ。


「何事?」


「騎士?」


先程までマリナと話をしていた婦人らはマリナの後ろに隠れた。すると騎士らはマリナたちの目の前に止まり、馬から降りた。


(イケメン、キター!!!)


いろんな系統のイケメンが揃いも揃っている。



「マリナ!」


騎士の中の一人がマリナを呼び近づいてきた。


「へ?」


その男は17~18歳くらいだろうか。長身で金髪に碧の瞳が美しい。


(こんな知り合いなんていないけど?)


「マリナ。まだここに居てくれて良かった」


「あの、どちら様?」


「え!?忘れちゃったの!?俺だよ!シモンだよ!」


「ええええええっ!!!シモン!?何で?どういうこと?」


「この町を出た後たどり着いた町で心機一転暮らしてたんだ。そしたら、父親である侯爵が俺たちを探しにきた。正確にいえば俺のことをね。夫人との間に子を授かることがなかった侯爵は、愛人であった母との間に授かった俺がいたことを思い出したらしくてさ。血筋を重んじる家系で養子を迎えるにしても血統を優先したらしい。俺は母ちゃんに楽させたかったし、父の元へと行ったよ。平民だった俺は教育を色々受けて、今は騎士団に入隊させてもらってる」


「次期侯爵になるんじゃないの?」


「俺は血筋であることしか後ろ楯がないし、育ちが良くないからね。それに強くなりたいっていう思いが消えなくて、騎士養成学校に入れてくれって頼んだんだ」


「騎士になった経緯はわかったけど、ここに騎士団がいるのはなぜ?」


するとここまで見守っていた団長らしき人物が話に入ってきた。


「すまないね、レディ。シモン、縁のある地での知人との会話とはいえ、都に帰るまでに言葉遣いを元に戻しておけよ。ブルレック侯爵令息」


どうやら、シモンの父親はブルレック侯爵のようだ。


「はい、失礼いたしました。つい…、今後気を付けます。団長、こちらが目的のマリナ嬢です」


シモンは変わっていた。教育を受けたというのは本当だったのであろう。姿勢も良ければ所作も綺麗だった。


「マリナ嬢。突然の訪問で驚かせてしまって申し訳ない。私は王国騎士団第三小隊の団長エドガール・ラングレーと申します。王命により貴女を探しておりました。貴女には私どもと共に都にお越しいただきたいと存じます」


「王命ですか…」


「はい。緑を操る魔女がいると都でも噂がございます。王妃殿下が大切にされている植物園の育ちが悪いのです。王宮内にございますので規模もそこそこ大きいものでございます。中でも王妃殿下がお好きな花が枯れかけておりまして、早急に対処願いたいのです。それと、武術に長けているとお聞きしております。我々にお力添え願えないかとも思っているのです」


「え!?武術も王命なのですか?」


「はい。女性に指導を願うこと、こちらも国王の承認を得ております」


「…」



王命とあっては仕方がない。後ろにいた夫人らも心配そうにしていたのは一瞬で、今は見馴れぬ騎士団の制服姿に惚けているようであった。



(なんか違うけど、違わないのか?6年越しだけど、これって【騎士団が迎えに来る】というグッドエンディングなんじゃない!?)



よく見れば、第三小隊の面々のイケメンぷりったらない。金髪碧眼のシモン、黒髪知的イケメン団長エドガールをはじめ、鼻血もののイケメンが揃っている。そしてこれまた声が良い!



(この間私18歳を迎えたところで、もうここで生活するんだって覚悟してたのに…、今更だよ)




(…………?)



そしてあることに思い当たる。



(もしかして!…私の成人待ち?)



「さあ、参りましょう。まずは旅支度のため貴女の家に向かいましょう」




こうして、唐突に迎えた【騎士団が迎えに来る】というイベントにより前編のエンディングを迎え、マリナの物語の続編となるイケメンハーレム恋愛シミュレーションゲームの物語が始まるのであった。



『年齢制限ありってどんな物語になるのよー!!!!?』

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


いかがだったでしょうか?作者のモチベーションに繋がりますので評価をいただけると嬉しいです。


この物語は、ジュニア向けのお話として考えたもの(そういうコンテストがあったのでそれ用に思い付いたもの)でしたが、眠らせていました。せっかくなので投稿してみました。

そして、ストーリーとしては後編へと続く感じですが、ここで物語を一旦終えたいと思います。機会があれば続編を制作したいと思います。

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