7.数々の選択と生計を立てる
この世界では魔女の扱いになるとわかったマリナのまじないは植物にのみ通じた。転移者の魔女としての能力はそれぞれ特性があるようだ。イルマとアランに転移者だと打ち明けたら心も軽くなり、この世界での生活を気負わなくなった。マリナは家庭菜園に打ち込む日々を送っていた。
ある日を境にイルマが疲れやすくなってきた。食も心なしか細くなり、少し痩せてきたように思う。マリナがどうしたものかと考えると、頭の中に【町へ行く】と【森を散策する】が浮かんだ。
「えっ!?」
そう、選択肢はまだ続いていたのだ。
「これは、【森を散策する】だ!」
『主人公は薬草や自生する食物を収穫するために森を散策した。「たしか、アランさんがあの食材があるって言ってたよね」こうして何種類かの薬草と共に、自然薯に似た芋を収穫した』
「これだ!」
マリナは森の中を散策すると、山芋のような自然薯のような芋を発見した。
(たしか、自然薯と同じような効果を期待して、主人公がイルマさんに食べさせるんだよね。胃腸の働きを助けたり体力回復が期待できるって)
マリナは収穫した芋の調理を始めた。
「山芋の料理っていったらとろろしか思い浮かばないけど…。お米がないんだよねこの世界って。ぶっかけて食べたいけどなぁ。食欲も落ちてるからツルッと食べれるしスープの代わりにしても良いかな」
すりおろすととろみもあり、まさに山芋のようだった。イルマに食べさせると喉ごしも良かったのか食べやすかったようだ。しばらく続けると、イルマはまた精力的に活動を始めるようになった。
アランとの親密度をあげないと森の自生植物についての話がなく【森を散策する】という選択肢が発生しないまま、イルマはわりと早い段階で亡くなってしまう。そして【イルマを失う】というバッドエンド3を迎えてしまうのだ。
(バッドエンドを回避できた。あとは町で活躍しないと。薬売りにはなれないから、どうやって町の人たちの役に立とう)
◇◇◇
マリナが育てた野菜は豊作も豊作過ぎるほどで、とても2人で食べきれる量ではなかった。
(えー!?これどうしよう…)
すると頭の中に【町へ売りに行く】と【アランに相談する】の2つが浮かんだ。
(!!!)
「また、きた。選択肢!」
記憶を呼び覚まし思い出す。
「たしか、町へ売りに行くんだよ。そして町の人にすごい喜ばれるの、…虫除け液が」
そう、この時イベントとして売れるのは手作りの虫除け液だった。野菜ではない。
(どうしよう…。たしか、えーっと…)
そしてマリナは行動した。
たくさん収穫したミニトマトを籠いっぱいに持ち、アランの元を訪ねた。そう、選択したのは【アランに相談する】だった。
『アランに相談するとお店に虫除け液を試供品として置いてもらえることになった。種を購入した人に試してもらうのだ。1週間もすると反響が大きかったようで、購入したいという問い合わせをもらっているという。手始めにアランの花屋の一角に商品を置いてもらうことにした』
どちらを選択しても町で売ることに変わりないのだが、アランを通すことで町民の支持を獲やすくなるのだ。【町へ売りに行く】を選ぶと町民は主人公に警戒し商品は売れず事業は失敗し、【生計をたてることは出来なかった】というバッドエンド4で終わるのだ。
マリナはアランに相談すると、アランは次のように提案した。
「市場で青果を扱っているパウラさんに卸すのはどうだろう?マリナちゃんが直接販売するより、青果店として機能しているパウラさんに売って貰ったほうが町民に買ってもらえるだろうし、パウラさんの商売の邪魔にもならなくて済む。僕が仲介するよ」
アランがパウラに提案するとすんなりと受け入れてくれた。
「綺麗なミニトマトだねぇ。試食させてもらったものもとても甘くておいしかった。あなたから仕入れても良いかい?」
パウラが客に勧めてくれたこともあり、この日のミニトマトは残らず売れた。
「ねぇ、他にも育ててるのかい?」
「はい。今はズッキーニとナスがありますよ。もしこんな野菜が欲しいというのがあれば教えてください。出来る範囲ですが、揃えたいと思います」
育てにくかったライラックを育てることができたし、種植えからでも倍の速さで育てることかできた。マリナは青果の生産と卸を生業にすることに決めた。
(今の私に向いている仕事だと思う!楽しいしこれなら続けられるなぁ)
◇◇◇
パウラの店に並ぶ青果の中でも、マリナの野菜は人気となった。季節外れの野菜が揃うこともそうだが、新鮮で美味しいということも人気の理由だ。パウラからの信頼も厚く、販売ルートを確保することができた。手に入りにくい品種の物は種や苗の値も張るが、卸金額の設定が少し高くても、客に確実に売れるからとパウラは仕入れてくれるようになった。
「小麦色の肌もなかなか似合うね。健康的で良いよ」
アランから日に焼けた肌が似合うと言われた。転移前の世界では透き通るような白い肌が人気で、小学生でも日焼け止めを塗り日傘をさして登校する子もいたくらいだった。マリナは習い事も空手で室内だったため、日焼けもそこまでしていなかったが、1日中畑仕事をしているとそれはそれはこんがりと焼けていた。
「似合うなら良かったです」
(アランさんに誉められて悪い気はしないな)
「ねぇ、少し僕も依頼しても良いかな?」
「?」
「近所のお宅で鉢植から直植えに変えた樹があるんだけど、上手く根付かなかったみたいで。土も日当たりも問題なさそうでちょっとお手上げだったんだ。少しマリナちゃんに施してもらっても良いかな?」
「魔女としてそんな活動方法があったなんて…。行きます!やってみます!」
マリナが願いを込めると、葉の色が青々としてきた。剥がれかけていた幹も心なしか潤いを帯びたようだ。なんとか良い方向に向かったようだ。
「まあ。なんてことでしょう。ありがとう」
この家の主であるお婆さんは感動していた。
「あなたが噂の小魔女さんね?」
「小魔女さん?」
「魔女さんのところにいる小さい魔女さんでしょ?町のみんなでそう呼んでいるのよ。いろんなお野菜を育ててるって。私も食べたわあなたのお野菜。とても美味しいわね」
「ありがとうございます!」
直接意見をもらったのは初めてだったマリナは嬉しかった。
「ずいぶんと日に焼けていらっしゃるのね…。あ、そうだわ」
そう言うとお婆さんは奥から、つばが広いキャペリンと大きなつばのついたボンネットの2つを持ってきた。
「これも対価と一緒に持っていって。お顔回りも陰ができて、少しは涼しくなると思うわ」
「か、かわいい~!!!」
キャペリンは日差しを首までがっつり遮ってくれそうだったが、何よりボンネットが可愛かった。
(フランス人形とかが被ってるやつだよね!テンション上がる~)
笑顔が輝いたマリナにお婆さんも満足そうであった。
「メラニーさんは帽子屋なんだよ。良かったね、マリナ」
アランの計らいなのかたまたま引き合わせたのかわからないが、互いに良い思いをしたことに違いはなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回最終話となります。
7月14日17時に投稿予約してありますので、是非お楽しみいただけたら嬉しいです。