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3.イベント発生

マリナは翌日から家事のお手伝いを始めた。しかし、そう甘くはなかった。食洗機も洗濯機もない。そもそも水道がなく、水を使う場合は小川から汲んでくるか小川で用事を済ませる。洗濯板と桶を使い洗濯をした。


(これって、ももたろうの世界じゃん!?)


キッチンにはオーブンレンジもホームベーカリーもない。パンを毎回買うわけにもいかないため、時間があるときは自分で焼き上げている。生地をこねて成形し、窯を使って焼く。


(この窯…、魔女宅の気分…)


火起こしはマッチが存在したのは幸いだった。


(理科で使ったもんね、これならできる)



自分はなんて、便利な世界に生きていたのだろうか。お手伝いをしたなんて言っても、洗濯は洗濯機で洗い終わったものを干すだけだったし、ホームベーカリーに材料を入れてスイッチを入れれば食パンが焼き上がる。自分はほとんど何もしていなかったことをマリナは改めて実感した。



1週間も経つと、これらの家事はすっかり慣れ、イルマとの生活にも慣れた。そこで、イルマに買い物を頼まれた。卵とミルクを買ってきて欲しいという。マリナはマルシェに一人で向かった。何度か出かけただけだが店主らはすぐにマリナを覚えてくれた。魔女のイルマが連れていたから嫌でも目立つのだ。でもそのおかげで顔見知りを増やすことができた。困った時に助けてもらえるようにとのイルマの配慮だろう。


マルシェで買い物を済ませると、帰り道は来た道ではなく違う道を選んだ。


(こっちの方が近い気がするんだよね)


ふと、後ろから人の気配がしたためマリナが振り返ると人の手が自分に向かって伸ばされている。マリナはすぐさまその手を受けると、相手の顔面に上段の突きを撃った。


「エイ!!」


マリナの気合いと共に相手が倒れた音がした。マリナの目の前には一人の少年が白目を剥いて倒れている。無駄のない動きだったおかげか卵もミルクも無事だった。


「ん?」


一瞬の出来事だったため、マリナは何が起きたか把握するのに少し時間がかかった。


「っ!!あー!!あー!!しまったーー!!これってもしかしてイベントだぁー!!!」


マリナが騒ぎだしたため、何事かと人が集まりだした。その中に先程お世話になった店主がいて、倒れた少年を見るなりマリナに確認した。


「お嬢ちゃん、大丈夫だったかい?何か取られたりしてないかい?怪我はないかい?あの子はね盗人小僧なんだよ。買い物終わりの人からものを奪ったり小銭入れを盗むことで有名なんだ。しかし、誰が撃退を?」


「このお嬢さんだよ」


この一部始終を目撃していた男が答えた。その顔を見てマリナは頭を抱えた。



(…やっぱり、イベントだったあぁぁぁ)



『主人公が卵とミルクを買いにいくお使いを頼まれた。無事買い物を済ませると、帰り道の選択肢が現れる。【来た道を帰る】または【近道を通る】である。【近道を通る】を選ぶと買ったものを少年に奪われる。その拍子に怪我をするのだが、一部始終を目撃していた男に手当てをしてもらい卵とミルクをわけてもらう。この男は名前をアランといい花屋を営んでいる。植物の種も扱っていたことから、今後のキーパーソンとなる人物なのだ』



「いやぁ、しかしお見事だったね。あの立ち回りは…いったいお嬢さんは何者?」


「あはは、いやぁ、ほんとに、何者なんでしょうねぇ」


本当のことを伝えられないと笑ってごまかすしかなかった。


「で?お嬢ちゃん怪我はないんだね?買ったものも無事かい?」


「あ、はい。大丈夫です」


ふと、倒れたままの少年が気になった。


「あのー、あの子は?」


「ああ、あの子はね、相手にしなくて大丈夫だ」


そう言うと店主は店へと戻っていった。それを確認すると男はこっそりと教えてくれた。


「あの子の家はね貧しいんだ。時々町に来ては、お客さんが買い終わった商品を盗んだり、こっそりお金を盗んだりする。店から盗むことはなくてね、店側に被害がないことを良いことに罰することなく放置されてるんだ。むしろ、買ったものを盗まれてしまったお客さんがもう一度買いに来るんだから、店からしたら利益があるんだよ」


「そしたらお兄さんも?」


「ん?ああ。僕は花屋だからね。あの子がらみでは何も影響はないんだよ」


そう言うと花屋の男は少年を起こし立ち上がらせた。


「ほら!起きろー」


その間にマリナはこのイベントについて考えた。


(道の選択は結果的に当たってる。でもこの先に起こるべきイベントを間違えちゃった。どっちの道を選んでもいつかこの花屋さんには会えたはず。このタイミングが早いか遅いかの問題なだけ。ただ、グッドエンディングに進むためには、『卵と牛乳が盗まれる』が実は重要なポイントだったのに…)


そこで目を覚まし座り込んでいる少年に近づくと、少年はマリナの顔を見るなり「ひっ!?」っと声をあげ怯えた。


「あの、これ、分けてあげる。私もお使いを頼まれただけだから、全部は無理なんだけどちょっとだけね」


マリナは卵2個とミルク1本を渡した。すると、少年は奪うように受けとり、その場を走り去って行った。


「お礼くらい言えば良いのにね。きみは良かったのかい?お使いのものだったんじゃないの?」


「私は割れちゃったってごまかすから大丈夫」


「そうか…。きみは強くて優しいんだね。僕がもう少し若かったらなぁ…。あっ!もしこの町で困ったことがあったら僕が味方になってあげるよ。あそこの花屋が僕のお店だよ。僕はアランだ」


「私はマリナです」


「マリナか。素敵な名前だ。じゃ、またね」


こうしてアランも去っていった。


(///なんか、くすぐったい。名前が素敵だって言われちゃった!アランさん。実物はよりイケメンだったー!よく主人公ときめかなかったなぁ)


前編では恋愛ストーリーはほとんどない。それでも恋愛ゲームなだけあり、登場する男性は基本的にイケメンでプレイヤーがときめくように創られている。


小屋に戻ると、イルマに卵8個とミルク1本を渡した。


「おや?お願いした数より少ないけどどうしたんだい?」


「途中で割れちゃったんです。ミルクもビンが割れちゃって」


「割れたって何があったんだい?」


「えーっと、近道しようとしたら襲われちゃって」


「まあ!いつも遠回りしてるの知っていたでしょ!?怪我はない?」


「はい。卵とミルクがダメになっちゃっただけで私は大丈夫です」


「あなたが無事だったからそれは気にしないでちょうだい。怖かったでしょ?しばらくは1人でのお買い物はしないようにしましょうね」


マリナはイルマが思ってた以上に心配してくれたことに、嘘をついてしまったことを心苦しく思った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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