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2.魔女イルマと町

朝ごはんを済ませると、マリナはイルマに連れられて町へとやってきた。


「あなたの服と靴を買いましょうね。あとは食品も買い足しましょう。2人分だから、いつのもの2倍は必要ね」


マリナはその言葉を聞くとハッとした。たしか主人公はここで仕事を始める決断をする。理由は自分を保護し養うということは、生活費も2倍になると気づいたからだ。主人公が自分の知識を役立てた大きな目的は生活費を稼ぐためだった。


(仕事をしないとイルマさんに負担をかけちゃう。私ができることを探さないと…)


真剣に考え込んでいるマリナに、イルマは声をかけた。


「お金のことは心配しないで。私は魔女なのよ。一般的な町民より豊かに暮らせているわ」


「でも、いつまでもお世話になるわけにはいかないから、自分でもお仕事しないと…」


「それはゆっくり考えたら良いわ。あなたはまだ子供よ?やりたいことを見つけたらお仕事にしたら良いわ」



町はそんなに大きいものではなかった。お店も社会で習った商店街や市場といった感じだ。商店街を少し離れると町民が暮らすための家がポツポツと建っている。


「この辺がマルシェね。大体の用事はここで済むのよ。慣れてきたらお買い物はマリナにお願いしようかしらね」


マルシェの光景にマリナの目が輝いてるのを見て、イルマは嬉しそうだった。





森の小屋へ戻ると、二人は倒れこんだ。


「はぁー、疲れたわねぇー。たくさん買い込んじゃったわ」


この日は、マリナのための洋服3着と靴を1足、肌着も3セット用意した。食品は果物と鹿肉、ミルク、小麦、この日食べるためのパンを買った。他にはマリナ用に食器を1セットずつ用意した。


マルシェは食材を売る市場部分と、雑貨や洋品などの店舗や飲食、散髪などのサービス店が立ち並ぶ商店街の編成となっていた。商店街についてはあの国民的アニメで見たから知ってるくらいで、スーパーマーケットでしか買い物をしないマリナにとっては新鮮だった。特に市場は青果、魚、肉などそれぞれ販売しており、自分で手にとって選ぶのではなく、欲しいものを言えば店主が状態の良いものを選んで包んでくれたのだ。いつもお母さんがスーパーで商品を手に取っては戻すを繰り返しながら、どれにしようと悩んでいたのを思い出す。

洋品店では、既製品がたくさん売られていたがオーダーメイドもしているとのことだった。それでも形と色を選ぶくらいで、生地は柄物はなく無地ばかりだった。色も黒か白かきなり、茶色といった落ち着いた自然な色しかなかった。女性物は長袖で膝下丈のチュニックワンピースのような形のものしかなかった。肌の露出は少ないことが常識なのだろう。それを考えると森でマリナを見つけたイルマが保護し着替えさせた理由が良くわかる。マリナは半袖のTシャツに短パンという姿だったからだ。


「良いお買い物が出来たわねぇ。早速この服を着てみたら?」


真っ白は汚してしまいそうで、きなり1着と茶色2着を選んだ。まずは茶色を着てみることにした。


「あら、良いじゃない!やっぱりあなた用に買って正解ね。黒よりも良いわ」


ほんとうはイルマとお揃いの黒も欲しかったが、若いんだし魔女ではないからと却下された。魔女といえば、とマリナはイルマに魔女の仕事内容について聞いてみることにしてみた。ゲームで大体は知っているものの、実際に聞いて知っているのとでは違うからだ。


「そうねぇ、一緒に暮らすんだし、教えておきましょうかね」


イルマの話ではこうだった。魔女は祈りを捧げる力を強く持ち、まじないを人や物に施すことができる。例えば医療でももう治せなかった『傷痕を消す』といったものであったり、薬師でも作れないような『惚れ薬を作る』といったものである。命の取引だけは出来ない。この力を持つものは大変少なく、この町ではイルマ1人、国内でも3人だけだという。ある意味呪術者と言っても良いのだが、人を呪うことだけはしない。人柄もあり、イルマはこの地方で人気の魔女となっている。人里から離れた森に住む理由は、その方が雰囲気もあり魔女の存在が神秘的に感じられるからだそうだ。そして人との交流は少ないこともあり、マリナの存在が実は嬉しいという。


「魔女の施しには対価が必要なの。無償ということはないわ。基本的には金銭をもらうけれど、難しい人からは物やお手伝いとかでも良いことにしてるわ」


生活するにはお金が必要だ。時々遠方から噂を聞きつけ貴族もやってくる。わざわざ来るくらいだから依頼内容も規模が大きいようで、その場合は対価もしっかりもらっているとのこと。その為、近くの町の住民らよりも裕福に暮らせているそうだ。


「だからね、マリナが稼がないとと考えてなくても大丈夫なのよ?もし、何か役に立ちたいと考えているならお手伝いをしてくれると助かるわ」


仕事内容と収入についてをきちんと教えてくれたのは、マリナに気を使わせない配慮だったようだ。


「はい!イルマさん」




この日も自分が何かを選択するような出来事はなかった。マリナはここまでを振り返った。


(ゲームと基本的な出来事は同じだった。でも買ったものや会話の内容は私に合わせたものになってる。主人公は黒の服も買ったけど、私には買ってもらえなかった。20歳も違うからかな。この先も細かい所は全く同じじゃないだろうな。だって、私は薬草の知識がないから、この世界で薬師として働いて、イルマさんの仕事を助けることはできないもん。…でも大きな出来事が変わらず起こるとしたら…っ!時間がない!)


マリナはゲーム内で【騎士団の迎えが来る】までしかプレイしていないが、そこまでの流れは知っている。なかなか前編のグッドエンディングにたどり着かず5回ほどスタートからやり直しているし、何パターンもバッドエンドを迎えて途中からのやり直しもしているから内容もそこそこ覚えている。マリナが心配していることは1点。1年後、イルマが亡くなることだ。これは事故や事件など未来を知っているからといって防げることではなく老衰だ。それまでに『生活の基盤を整える』はやっぱり前編でやらないといけないことなのだろう。【騎士団の迎えが来る】イベント、つまり前編のグッドエンディングを迎えることが出来れば、自分は保護してもらえるかもしれない。小学生の知識で出来ることをやる。目標が新たに決まったところで、マリナはイルマの横でようやく眠ることができるのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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