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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第五章 帝国進撃編
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第二十五話 偽りの仲間

 □■神楽零


 王国の陣地からそう離れていない場所で、零は彗から、この世界に召喚された経緯を聞いた。


 突然、白い光に包まれ、気づけばこの世界に居たこと。

 眼と髪の色が変わっていたこと。


 ここまでは零となんら変わらない。

 問題になったのはその後だ。


 彗の周りには、校舎にいた他の生徒や教師たちがいたこと。

 その床に奇妙な魔法陣が描かれていたこと。


 それらを余すところ聞いて、零は思わず頭を抱えたくなる。


(つまりあれか? 俺は此奴らのとばっちりを受けたってことか?)


 話を聞いた限りだと、その可能性が高い。


 天眼家に残された一色頼子の日記。

 獅子王がもたらした“渡り人”の情報。

 これら二つの情報を鑑みれば、今回渡って来た“渡り人”の数は尋常じゃない。

 何か今までにない要因があると思ってはいたが……


(まさかこんなところで聞くとはねぇ……こいつらの召喚で穴が広がってところか?)


 元々世界には、“渡り人”をこの世界に呼び込む要因があった。

 二つの世界が衝突し、世界の壁に罅が入ったとか、そんなところだろう。

 その罅を通って来たのが、零たち“渡り人”。


 だが今回、そこに召喚という名の杭が撃ち込まれることになった。

 杭は壁に穴をあけ、元々入っていた罅をさらに広げた。

 そして一部の壁が崩れ、“渡り人”が雪崩れ込んできたのが、今回の一件と言ったところか。


(理屈としては筋が通っているが……今はどうでもいいな。問題は……)


 そう。

 問題なのは、帝国に――否、この世界に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 それはつまり、今回のような異世界転移を、これからは人為的に起こせるということになる。

 そうなれば世界の秩序なんてあったもんじゃない。


 この世界の人間は、好きなだけ地球の人間を、こちらの世界へ連れて来ることが出来るようになる。

 向こうの意思には関係なくにだ。


 それはただの誘拐でしかない。

 同じ地球の人間として、そればかりは容認することは出来ない。

 何としてでも潰す必要がある。


 だが、そんなことは零には関係ないと言えば、確かにその通りだ。

 自分の知らない所で、知らない人間がどうなろうが知ったことじゃない。

 それが零の基本にある考えだ。


 だがそれでも、同郷としての情がないわけじゃない。

 上条進の一件で手を貸したように、今回だってそれは変わらない。

 自分でも出来る選択肢があり、それが選べるのなら、迷わず自分の感情に従うべきだ。


「確認するが、お前たちの後に、召喚された奴らはいるか?」


 零が尋ねれば、彗は首を横に振って否定する。


「いや、俺の知る限りじゃ、召喚されたのは俺たちだけだ」

「ふむ」


 ということは、召喚するにはそれなりの準備が必要なのだろう。

 時間か? あるいは資材か?

 どちらにしろ、そう易々とできることではないはずだ。

 時空使い最高の零ですら、世界に穴を開けることなんて不可能なのだから。

 容易にされたら堪ったものじゃない。


 ただ、好都合ではある。

 一番の理想は、召喚の儀式が行われる前に、召喚に関わる全ての知識と手段を潰すことだ。

 そのためには……


「誰が召喚に関わっていたかはわかるか?」

「いや、そこまでは俺にもわかんねぇ。そんな余裕はなかった」

「……そうか」


 予想はしていた。

 だが、それならそれで構わない。

 わからないのなら、こちらから見つけ潰すまでだ。


「まぁいい。それで、召喚されてからはどうした?」

「…………」


 そう尋ねれば、彗の表情が明らかに曇る。

 どうやら面白い話ではなさそうだ。


 だが、聞かないわけにはいかない。

 思い出したくないだろうが、零は話の続きを促す。


 そして語られる。


 彗の話は、ただ非情の一言に尽きた。

 いったい、どれだけの人間が犠牲になったというのだろうか。

 短期間で戦士を育成しようと思えば、確かに有効な訓練ではある。


 だが、そんなことが彗たちの望んでいたことではないはずだ。


「――こんな地獄から抜け出すために、ダチと一緒に脱走の計画を立てちゃいたが、結局間に合わなかった……俺が知っているのは、これで全部だ」

「なるほどねぇ……」


 零は一度大きく息を吐く。

 死んでしまった者たちには同情する。

 だが、だからと言って、それ以上に何か思うようなことはない。

 彼らはただ、この世界の理不尽に抗うだけの力がなかった。

 それだけのことでしかない。


 この世界では、それが全てだ。


 実際、似たような光景を、零は一度、この目で見ている。

 冷たい地面に並べられた、命を奪われた者たちの、あの光景を。

 連合国で起きた出来事と、今回の話は、よく似ているような気がした。


「それで、お前はこれからどうする?」

「…………」


 零がそう聞けば、彗は顔を上げる。

 その目はどこか、これから先を見通せていないように見える。


 自分たちがどうしたいのかはわかっているのに、そのための手段がわからないと言ったところか。


「気づいていると思うが、今の俺は王国の人間だ。本来なら殺さなきゃいけないところだがな。お前が望むなら、このまま解放してやってもいい。もちろん条件は付けるがな」

「…………どういう意味だ」


 その顔に浮かぶのは、純粋な困惑だ。

 だがそんな彗に構わず、零は言葉を続ける。


「そのままの意味だ。今回は同郷の好として、この場は見逃してやる。だがその代わり、帝国へ戻ったら、今回の召喚に関わっている奴らを見つけ出せ。それが条件だ」

「……なんだよ、そりゃあ」


 彗が堪らず唸る。

 まるで裏切り者でも見るような目だ。


 だが、それは寧ろ当然か。

 今まで味方だと思っていた相手に、こうも突き放されたのだから。

 それも、あからさまに見捨てるような形で。

 さっきまで、彗たちの境遇に耳を傾けていたというのに。


 彗にとっての零は、この世界で初めてできた味方だったのだろう。


 自分と同じ境遇に立つ“渡り人”。

 それだけで仲間意識を持つには十分な動機だ。

 だから自分たちの境遇についても素直に話した。


 明確に助けを得られると思ったわけじゃないだろう。

 だが、期待していなかったはずがない。

 それを裏切ったのだから、裏切り者だと思われても仕方はない。


「俺に……俺らに、まだあそこにいれって言うのか!」

「そうなるな」

「ッ!」


 拳が振るわれる。

 零から見ればお粗末な一撃だ。


 だが、そこからの衝撃波は侮れない。

 加えて、迷わず頭を狙ってきている。


 だが問題ない。

 首を傾けることで回避すると、そのまま拳を握る。

 衝撃波による後ろの惨状を気にせずに、無防備な彗に拳を振るう。

 その表面を、反重力の膜で保護しながら。


「グハッ!」


 彗の腹部が、拳の形に歪む。

 だが触れてはいない。

 重力で押し付けているだけなら、衝撃は発動しない。

 《未来視》があればこその、初見殺しの完封。


 少しだけ吹っ飛んだ彗は、痛みに堪えるように蹲る。


「勘違いしているようだから言っておくが、俺はお前たちに協力するつもりはない。お前らが勝手に脱走する分には構わないが、こっちだって余力があるわけじゃない。王国に逃げて来るなら、受け皿くらいは用意してやる。俺が出来るのはそこまでだ」


 零が助け出そうとすれば、間違いなくあの皇帝が出てくることになる。

 そうなれば戦闘は避けられない。


 不本意だが、神剣を持った皇帝相手なら、恐らく良くて五分。

 天照の強化と合わせてもそれだ。


 正直、誰かを守りながら戦えるような相手じゃない。

 不用意に手を突っ込めば、喰われるのは零の方だ。


 だから零は協力しない。

 彼らには悪いが、そこまでして助ける義理も価値も、零にはないのだから。


「――クソッ!」


 彗の拳が地面を叩く。

 だがいくらそうしたところで、状況は何も変わらない。


 どうしたものかと思っていると、近くの茂みからひょっこりと、一匹の黒猫が姿を現した。


「ニャー」

「……猫?」

「ちょうどいいところに来たな」


 後で呼ぶつもりだったが、向こうから来てくれたのなら好都合だ。


 茂みから現れた黒猫――万衣の分身体は、彗を一瞥してから零を見上げる。


「万衣、悪いが此奴に付いて行ってくれ。少し面倒なことになった」


 万衣は状況がわからないのか、コテっと首を傾げる。


「詳しくは後で話すが、此奴は俺たちと同じ“渡り人”だ。此奴の傍で見聞きしたことを俺に伝えてほしい。出来るか?」

「……わかった」


 そう言って、万衣は素直に了承する。


「? いいのか?」


 それには正直驚いた。

 まさか本当に引き受けてくれるとは思わなかったからだ。


 黒猫が彗と一緒に行けば、その間、万衣は零の傍にはいられなくなる

 すぐに新しい分身体を送ってくるだろうが、それまで傍にいられないことには変わらない。

 だから多少の駄々はこねると思っていたのだが……


 その疑問はすぐに氷解する。

 不意に黒猫の影が伸び、そこからもう一体の黒猫が姿を現す。

 目の前には、瓜二つの黒猫が二体。


 そのことに零は軽く目を見開いて驚いた。


「お前、いつの間に出来るようになったんだ?」


 確か王国へ戻る時には、まだ本体からしか分身体を出せなかったはずだ。

 だが分身体からも分身を出せるようになれば、その有用性は計り知れない。


 元々彗だけでなく、万衣自身にも召喚については調べてもらうつもりでいた。

 こういう場合には、万衣の魔法は役に立つ。


 だがそのためには、連合国から王国を経由して、帝国に分身体を送り込んでもらう必要があったわけだ。

 そのための遅れが無くなったという意味は大きい。

 これならすぐに調査を始められるだろう。


「まぁいいか……さて、じゃあ改めて聞こうか。お前はこれからどうする」

「……俺に選択肢なんかあんのかよ」


 彗に視線を向ければ、どこか不貞腐れたように返事が返ってくる。


 確かにごもっともだが、その心配はない。


「あるな。もしこのまま帝国軍に合流するつもりなら、適度に傷をつけておく必要がある。流石にこのままだと怪しまれるからな」


 彗には魔薬による治療が施されている。

 完治していないとはいえ、流石にこのままで怪しまれることになる。

 だからある程度負傷した体を装う必要があるのだが……


 それを聞いた彗は嫌そうに顔を歪める。


「それが嫌なら、帝国軍には合流しないことだ。幸い、お前が言ってた〈帰らずの森〉があるのは帝国の西部。つまりこの近くだ。転移なしで行けない距離じゃないだろう」


 彗の話で出てきた〈帰らずの森〉。

 その場所は零も知っている。


 現皇帝が魔境の中に城を建てたということで有名な場所だ。

 前線へは転移魔法で送られたようだが、本来ならそこまでするほどの距離でもない。


「さて、どうする?」

「……お前はどうするんだ」


 彗に尋ねれば、逆に聞き返される。

 だが零だって、今は近衛騎士としての立場がある。


「俺はまだ王国を離れるわけにはいかないからな。だが、万衣からの連絡があり次第、“渡り人”召喚に関わる全てを潰す。今はそれが最優先だ」

「……わかった」


 彗はその場で立ち上がると、そのまま帝国方面へと歩き出す。

 だが腹を抑える彗を見て、零は呼び止める。


「待て」

「?……っと!?」


 立ち止まった彗に魔薬の瓶を投げる。

 あと一本もあれば、彗の怪我は完全に完治するだろう。


 彗が受け取ったのを見て、零は王国軍陣地へと戻った。


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