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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第五章 帝国進撃編
92/106

第二十四話 対面

 ◇◆


 隕石の落下。

 その衝撃の中で、松崎彗は何とか生き残ることができていた。

 それはひとえに、彼の魔法によるものだった。


 魔法――《指向衝撃》による自動襲撃。

 自身に触れたあらゆる攻撃を、反射的に魔法の衝撃で相殺する。

 そこに彗自身の反応は必要ない。

 当然、その効果は隕石の落下に対しても及ぶ。


 高速で迫る衝撃を、魔法の衝撃によって相殺する。

 その魔法のお陰で、彗は何とか一命を取り留めることができていた。


 だがあくまでも、死を免れたというだけで、無傷で済んだわけじゃない。

 全身に擦り傷や打撲の跡ができ、骨には罅まで入っている。

 寧ろ骨折がないことだけが唯一の救いだろう。


「グッ!……」


 意識が戻り、少しでも動けば全身に痛みが走る。

 その痛みに歯を食いしばりながら、何とか状況を確認しようと起き上がろうとしたその時――


「動かないでもらおうか」

「!…………」


 そんな彗の目の前に、一本の刀が突きつけられていた。






 □■神楽零


 目の前で倒れる青年に、零は容赦なく刀を突きつける。


 一応、味方を装って情報を聞き出そうとも考えてはみたが、流石にこの状況では無理がある。


 周りにいた味方は全滅。

 救助を装ったとしても、連れて行く先で必ずボロが出る。

 ならば最初から、敵として接していた方が、色々と都合がいい。


「さて、まずは何から聞こうかねぇ」


 取り敢えず、この男から聞きたい情報は山ほどある。

 十中八九、彼が“渡り人”であることには間違いないだろう。

 まずはその裏付けが欲しいところだ。


「……誰だよ。テメェ」

「ふむ」


 まぁ、当然の反応だろう。

 誰だって刀を向けてくる相手に、そう正直になるはずもない。


 だが、反応自体は返ってくる。

 ならやりようはいくらでもある。


「西暦二〇七六年、四月二七日」

「!?」

「この日に何があったか知っているか?」


 それは零と同じ、“渡り人”にとっては特別な日。

 文字通りの天変地異が起きた――零たちがこの世界に連れて来られた日付だ。


 白い光が全てを飲み込む、あの異常な光景。

 それを目にしたのであれば、この日のことを忘れるはずもない。

 そしてその結果は……


『どうやら知っているみたいやなぁ』

『その様ね。まぁ、“気”を読んだところで、一目瞭然な気がするわね』


「……どうやら知っているようだな」


 目を見開いて驚く青年に、零は突きつけていた刀を鞘へと納める。


 言質を取ったわけじゃない。

 だが、“気”を読める天照と月詠が言うのだから、裏付けとしては十分だ。


 目の前にあった刀がなくなったことで、青年はゆっくりと起き上がる。


「まさか、お前も……」


 そんな彼の表情は、驚きとも、また安心とも取れるようなものだった。

 もうそこに敵意があるように見えない。


「まぁ、察しの通りだな。一応聞くが、お前と一緒にこの世界に来た奴らはいるのか?」


 零がそう聞くと、青年は一つ頷いて肯定する。


「……あぁ、俺の高校にいた奴ら全員、一緒に召喚された…………もうほとんど生き残っちゃいねぇがな……」

「は?」


 青年の言葉に、思わず間抜けな声が漏れる。


 今、此奴は何て言った?

 あの日、どこかの高校にいた奴らが全員、一ヶ所に纏まって、この世界に連れて来られたというのか?

 しかも、召喚という表現から察するに、それは人為的なものだ。

 零の状況とはまるで違い過ぎる。

 もし、それが事実だったとしたら……


(最悪じゃすまねぇぞ)


 考えうる限りの中でも最悪の事態だ。

 場合によっては、世界の秩序そのものが崩壊しても可笑しくない。

 この青年が口にした内容はそれだけの事態だ。


 今すぐにでも詳細を聞き出したいところだが……


「一先ず、お前の怪我を直しに行くぞ」

「ん?」


 流石に満身創痍の状態で聞き出せるようなことじゃない。

 まずは青年の怪我を治し、その上で詳しい事情を聴き出す。


 零は《重力操作》で、無理やり青年の身体を浮かせる。


「おわぁっ!」

「舌噛むなよ」


 零はそのまま飛び立ち、王国軍陣地へと向かった。



 △▼



「少しここで待ってろ」


 零は地上に青年を降ろすと、そのまま王国軍陣地へと転移する。

 隕石攻撃の影響で、陣地がどうなっているか、気になって来てみたのだが……


(なんだ?)


 何やら騒々しいことになっている。

 騎士たちの会話に耳を傾けてみれば、どうにも隕石の衝撃が収まり、作戦を終えたはずの零が未だに戻らないことに戸惑っているようだ。

 要するに、零が作戦行動中に討たれ、帝国軍がこのまま王国軍陣地に攻め込んで来るのではないかと心配しているわけだ。


(そんな心配はないんだけどねぇ……)


 零がこの場で出て行けば、全てが解決して丸く収まるのだが、そういうわけにはいかない。

 あの青年を捕虜として連れて行けない以上、まだ少しばかり待ってもらう必要がある。


 と言うのも、この世界で魔戦士の捕虜というのは基本的には存在しない。

 なぜなら、この世界には魔法という力がありながら、それを封じて無力化する手段が圧倒的に少ないためだ。

 それが出来るのは、一部の魔法使いによる魔法と、数少ない魔道具くらいなものだ。


 いくら手足を絞ろうとも、魔法さえ残っていれば、いくらでも反撃できるのが魔戦士だ。

 そんな存在を無力化しようと思えば、もはや殺すしかない。


 劣勢になった魔戦士に残された道は二つ。

 全力で逃亡を謀るか、命尽きるまで戦い続けるかの二択しかない。

 降伏が許されないというのは、何とも無慈悲で残酷な世界だ。


(さて)


 零は手早く自分の荷物を手にすると、誰にも気づかれることなく、《空間転移》で戻った。


「っと」

「っ!?」

「?」


 突然現れたせいか、青年が驚いたように目を丸くしているが、まぁ無視しても問題はないだろう。


「ほれ。魔薬だ」


 荷物から一つの瓶を取り出すと青年へと渡す。

 それはつい先日、零が個人的に破音領で購入していた魔薬だ。

 魔境では、冒険者たちに渡した一本しか使っていなかったから、まだ数本の余裕がある。


 青年は一度零の方を見てから、迷うことなく魔薬の瓶を傾ける。

 同じ“渡り人”であると知ったから、随分と警戒心が薄れたように思う。

 若干それでいいのかとも思うが、そのお陰で青年の身体が淡く光り出し、目に見えて傷が塞がっていく。

 治療は一先ず終わりだが、流石に完治とまではいかない。


 【再生神剣:白の七番】か、あるいは〈聖教会〉の司教であれば、完治させることは出来ただろう。

 だが前者は論外として、後者についてもまた、こと戦争においては望むべくもない。

 なぜなら〈聖教会〉の基本方針として、国家間の戦争には一切関与をしないためだ。


 この世界において、治療と言えば〈聖教会〉の魔法が一般的だ。

 司教や司祭たちは()()()()()()()()()()を使うことが出来る。

 その力を持って、〈聖教会〉は一部の地域を除き、大陸中であまねく人々に治療を施してきた。


 たが一点、彼らは国家間の戦争には決して参加しない。

 寧ろ「戦争なんて今すぐやめろ」というのが、彼らの主張だ。


 ――傷ついた者には平等にその手を差し伸べましょう。

 ――されど、それがより多くの苦しみを生むのなら、我々は心を鬼として、その手を拒みましょう。


 国からしてみれば、〈聖教会〉の魔法は喉から手が出るほど欲しい力だ。

 だが無理に徴兵しようとすれば、大陸中に根を張る〈聖教会〉という組織を敵に回すことになる。

 だから基本的に、戦時中は魔薬による治療が一般的になるというわけだ。


「さて、じゃあ色々と話してもらおうかねぇ……って、そういえば、まだ自己紹介をしていなかったな」


 色々と考えていたせいで、今の今まですっかり忘れていたことを思い出す。


「俺は神楽零。お前は?」

「松崎彗だ」

「松崎か。さて、まずは召喚の経緯を聞かせてもらしようかねぇ」


 そうして、零は一つずつ、彗から今までの経緯を詳しく聞き出して行くのだった。


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