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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第五章 帝国進撃編
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第二十二話 撤退

 □■神楽零


「何!?」


 三発目の弾丸を打ち込んだところで、零は思わず声を上げる。

 自分でもらしくないとは思うが、それだけの光景が目の前には広がっていた。


『どうしたの?』

「……防がれた」


 何があったのか聞いてきた月詠に端的にそう返す。


 そう、防がれたのだ。

 あの質量爆弾の攻撃が、信じ難いことに無傷のまま防がれたのだ。


 そしてそれを成したのは、地上を覆う巨大な氷の天井。

 その時点で、あれが誰の仕業かは見当がつく。


「例の皇帝か……!」


 零は急いで四発目の発射準備に入る。

 先の一発を防いだ時点で、これ以上の攻撃は意味がないのかもしれない。

 だがそれを確認する意味でも、零は氷で覆われた帝国軍に照準を固定する。


(何だ?)


 すると、帝国軍の方でも動きを見せる。

 氷の屋根の一部が崩れ、そこから大剣を携えた一人の男が出てくる。

 その特徴的な外見を見る限りだと、あれが噂の皇帝で間違いはないだろう。


 その皇帝は、狙い立たずに零がいる上空へと目を向けていた。


(迎え撃つ気か)


 どうやら、ある程度はこちらを捕捉しているらしい。


 だが、そのこと自体に驚きはない。

 既に三発も打っているのだ。

 その軌道からこちらの場所を特定すること自体は、それほど難しいことでもないだろう。

 だが、わざわざあちらから出てきてくれたのであれば、こちらとしても好都合というものだ。


 発射――


 弾丸は狙い立たずに、その質量にものを言わせて、帝国の皇帝へと落下していく。


 それに合わせるように、皇帝の周りに無数の氷の矢が現れる。

 それらは速度を持って一糸乱れることなく、面を制圧するように零のいる上空へと打ち出される。


 超質量の巨大な弾丸と、無数に打ち出された氷の矢。

 両者は必然として、空の上で交じり合い、そして……


「は?」


 吹けば飛んでいきそうな氷の矢が、全く速度を変えることなく、弾丸を貫いて木っ端微塵に粉砕する。

 そして氷の矢は、そのまま何もなかったかのように零へと向かって突き進んでくる。


(どうなっている)


 その運動量保存則を完全に無視した異様な光景に、流石の零でも唖然とするが、直後にその氷の矢の違和感に気がつく。


(これは……)


 それは零だからこそ気づけたこと。

 その氷の矢に掛かっている力と、零の操る力が同種であったが故に。

 それを証明するかのように、試しに置いてみた《時間停止》の障壁を、氷の矢はいとも簡単に壊してみせる。

 本来なら何ものも通すことのない、絶対の障壁であるはずのそれを突破することなど、通常の物理的手段では有り得ない。

 だが一つだけ、それを可能にする手段がある。


「チッ、やっぱりか!」


 自分の予想が当たっていたことに、思わず舌打ちが漏れる。

 氷の矢は依然として、変わることなく零の方へと向かって来ている。


 防げないのなら避けるしかない。

 零は《空間操作》を発動させ、矢と矢の間の空間を広げて、人一人が通り抜けられる穴を作り出す。

 矢の群は零の横を通り抜け、文字通り宙の彼方へと消えて行った。


「なるほど……流石と言うべきか」


 正直、今の攻撃にはヒヤッとさせられた。

 あの氷の矢の正体は、時間まで凍らせて固定化させたものだ。

 《時間停止》の障壁を突破できるのは、同じく時間を停止して、固定化させたものだけだ。

 他にも手段はあるのかもしれないが、今零が確認できている手段はそれだけだ。

 そして、帝国が所持している神剣――【時操神剣:灰の九番】なら、それくらいのことは出来るだろう。

 しかも、零の方の《時間停止》の障壁が壊されたところを見るに、《時間操作》に関してはあちらの方が一枚上手だ。

 もしも、皇帝と正面切って戦うことになったとしたら……


(厳しいだろうな)


 やはり、帝国の神剣とはつくづく相性が悪そうだと、改めて思うのだった。






 □■乙坂万理


 空から隕石が降って来た。


 初めは何の冗談かと思った。

 普通に過ごしていたら、一生に一度だってないはずの出来事が、目の前で起こっていて、すぐには信じられなかった。

 だけど、その衝撃波が万理の全身を吹き抜けて行って、やっとこれが現実なんだって思えた。

 混乱する頭をどうにか落ち着かせようとしたけど、すぐには無理だった。


 一つ目の隕石が落ちて来てすぐに、二つ目の隕石が地上へと突き刺さったから。

 さっきよりも万理たちの近くに落ちてきて、流石にこれが何かしらの攻撃だということだけは何となくわかった。


 そして万理はそこで初めて気づいた。

 さっきと今、隕石が落ちた場所には、分かれて行軍していた別部隊がいたはずだということに。

 その部隊の中には、当然万理の生徒たちだって何人も含まれていた。


(そん、な……)


 あんな隕石を落とされて、無事で済むはずがない。


 目の前が真っ白になりかけて、もう一度空を見上げた時、あの絶望の光が、万理の目の前にまで迫って来ていた。

 もう駄目だと思ったその時、絶望の光は氷の幕によって遮られる。

 直後にすさまじい轟音が鳴り響くが、万理たちを覆う氷の壁はビクともする様子はない。


 あれだけの威力を持った隕石をものともせず、万理のいる部隊を守り切れる人間など、この場に一人しかいない。

 万理は部隊の先頭、馬に跨り、神剣を抜いた皇帝の姿を見る。


 皇帝は氷の天井を見上げると、不自然に砕け散った穴から外へと出て行く。

 それから何かが砕け散るような音と、地面を揺らすいくつもの振動が伝わってきて、天井の穴から皇帝が姿を現す。


「撤退するぞ。直ちにこの戦線を離脱する」


 氷の天井から降りて来た皇帝は、すかさず将兵たちに撤退の指示を飛ばしていく。

 だがその指示の中に、万理は不穏な気配を感じ取る。


(撤退?)


 皇帝は確かにそう言った。

 それ自体は間違った判断ではないとは思う。

 だけど、あの皇帝の言い方だと、まるであの隕石に巻き込まれた人たちは見捨てるように聞こえた。


「待って下さい!」


 万理はすぐに皇帝の下まで走って進言する。


「撤退って……あの隕石に巻き込まれた人たちはどうするんですか!」

「捨て置く。どの道、助かる命などたかが知れている」

「そんな……まだ助けられるかもしれない人たちがいるのに、見捨てるんですか!?」


 皇帝の返事はない。

 それが如実に、皇帝の考えを表していた。


 万理は踵を返して、氷の壁の外へ歩き出す。


「どこへ行く」

「助けに行きます!」


 もうじっとしてなんていられない。

 僅かにでも助かる可能性があるのなら、助けに行かないなんていう選択肢なんてない。

 手に箒を握って、今すぐにでも飛び上がろうとしたその時……


「ならん」

「!」


 万理の目の前に、突然皇帝の姿が現れる。

 さっきまで後ろにいたはずなのに、万理でも目で追うこと出来なかった。


 だけどそれが、皇帝の神剣の力ということだけはわかる。

 そしてその神剣は、いつの間にか万理の喉元へと突きつけられていた。


「手間を掛けさせるな。これでも余は貴様の実力を高く評価しているのだ。ここで失うには惜しいくらいにはな」

「でしたら約束通り、これ以上生徒たちを戦わせないで下さい!」

「……自惚れぬなよ。確かに高く評価しているとは口にしたが、その願いを叶えてやるほどのものではない。それに、空の敵は未だに健在だ。貴様にはあれをどうにか出来る力があるとでも?」

「それ、は……」


 出来ない。

 もしあの隕石が落ちてきたら、いくら万理でも防ぐことなんて出来ない。


「もしここで貴様が死ねば、貴様の言う生徒たちが戦わずに済む未来とやらは消えることになるだろう。よく考えることだ。僅かな可能性に縋るか、堅実な判断を下すのかを」


 皇帝は剣を下ろし、そのまま万理の横を通り過ぎていく。

 ある程度皇帝が離れて行ったところで、万理は膝をつき、両手を地面に付けて倒れ込む。


「先生!」


 いつから近くにいたのか、一緒の部隊になっていた地奈津が、万理の方へと駆け寄ってくる。

 生徒たちの前で弱気を見せちゃいけないのに、どうしても力を入れることが出来なかった。


「また、私は……」


 守れなかった。

 助けに行くことさえ出来ないなんて……

 こうなる覚悟はしていたはずなのに……

 あまりにも都合のいい現実を見せられて、これからもそんな未来が続いていくものだと勘違いして……


 今ここで、生徒たちを見捨てる選択しかできない自分が、ただただ悔しかった。


「彗……」


 地奈津が呟いたその生徒の名前が、妙に頭の中に響いた。


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