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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第五章 帝国進撃編
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第二十一話 星降り

昨日投稿するのを忘れていました。

一日遅れで投稿します。

 □■神楽零


『なぁれいやん、大丈夫?』

(……何がだ?)


 作戦開始の少し前、目標地点に到着して準備を進めていたところで、天照がそんなことを聞いてくる。


『何って……あなた、これが初めてなんでしょ…………人を殺すのって……』

(…………まぁ、そうだな)


 月詠の指摘は正しい。

 逆によくここまで手を汚さなかったものだ。

 少しでも何かが違えば、いくらでも汚れる機会はあったというのに……


 この世界は地球に比べれば、そこかしこに殺しが溢れている。

 それは魔獣相手であっても、同じ人間相手であっても変わらない。

 魔法という強大な力があるこの世界では、少しでもその力を振るうだけ、平気で命が消えていく。


 そんな世界に居ながらも、今の零の手は、未だに魔獣を殺しただけで綺麗なままだ。


(だが、王国の騎士になった以上、覚悟はしていたさ)


 騎士になって相手にするのは、当然魔獣だけではない。

 何より王国は今、帝国との戦争をしている最中だ。

 王国の騎士になった以上、いつかこの戦線に送り込まれることは覚悟していた。


『けどええの? あの中には、れいやんと同じ“渡り人”も居るんやろ?』

(あぁ、多分な)


 十中八九、いること自体は間違いないだろう。

 生き残った騎士たちの話を聞く限りだと、帝国軍にはこれまで知られていなかった魔戦士が多くいたようだし、高位の魔戦士というのは、そう簡単にほいほい現れるような存在じゃない。

 だが渡り人であったのなら、その可能性としては十分にある。


 零だって、同じ故郷を持ち、同じ境遇に晒された者同士としての仲間意識がないわけじゃない。

 上条の時のように、気が向けばできる範囲で手を貸すくらいのことはしよう。

 それくらいの仲間意識は零だって持っている。


(だが、もうそんなことは関係なんだよ)


 そう。

 もはや“渡り人”だからどうだとか、もうそんなことは関係ない。


(彼奴らはもう、帝国の戦士としてこの戦いに参加している。当然俺だってそうだ。仮にあの中に“渡り人”がいたとしても、それはここで俺が引く理由にはならない。その段階はとっくに過ぎてるんだよ)


 賽は既に投げられている。

 同じ“渡り人”で、同じ故郷を持ち、同じ境遇に晒された者同士であったとしても、それはもはや過去の話だ。

 今はもう、この世界に根を下ろし、地に足を付けた敵同士だ。

 そこに過去の仲間意識を挟み込む余地なんてない。


(それに“渡り人”と言っても、所詮は赤の他人だからな)


 幸か不幸か、仮にあの中に零の知り合いがいたとしても、それで零が何かを思うようことはないだろう。

 地球での零の交友関係なんて、所詮はそんなものだ。


 だがそのことを抜きにしたとしても、これから零が多くの人々を殺すことは間違いない。

 それも一方的に、虐殺と言っていいのかもしれない。

 そしてその後で、いったい零がどんなこと思うのか…………


 そんなことを考えながら、零は行軍する帝国軍に向けて、その引き金を引いた。






 □■乙坂万理


 氷華帝国と明護王国の戦争。

 その第一戦は、帝国軍の圧倒的な勝利を以って幕を閉じた。


 帝国軍の損害は軽微で、万理と一緒に戦った生徒たちも、全員無事に生き残ることが出来ていた。

 そう、今回生徒たちは、誰一人欠けることなく、全員無事に生き残ることが出来ていたのだ。

 それはある意味で奇跡的なことだったのかもしれない。


 戦いが終わって、もう一度みんなの顔を見られた時は、本当に嬉しかった。

 思わず生徒たちの前なのに、年甲斐もなく泣いてしまった。


 正直なところ、万理も一人や二人は死んでしまうのではないかと覚悟していた。


 これは紛れもない、命の掛かった戦争なんだ。

 そんなものに巻き込まれて、全員が無事で生き残れる、なんて、そんな虫のいい話なんてないと思っていた。

 だけど、現実はそうじゃなかった。

 夢でも幻でもなくて、こうしてみんなが変わらずに生きていることが、堪らなく嬉しかった。


 だけど、再び行軍して歩く生徒たちの表情は、いつもよりも暗いものだった。


 でもそれは、寧ろ当然かもしれない。

 だって、生き残ることが出来たっていうことは、多かれ少なかれ、生徒たちは誰かを殺しているのだから。

 生き残るためにはそうするしかなかったと言っても、それで納得できるようなことじゃない。

 誰だって人殺しなんてやりたくないに決まっている。


 だけど今の万理たちには、そうする以外の選択肢なんて何処にもない。

 敵を殺し、力を示さなければ、ここにいる生徒たちだけじゃない、万理たちの帰りを待っている塔の生徒たちだって、何をされるのかわからない。

 だけど、万理だって生徒たちに人殺しなんてさせたくない。


 だから、もうこれ以上そんなことをさせないために、万理は生徒たちの前に出て戦うのだ。

 そうすれば、もうこれ以上、生徒たちを死なせるようなこともない。

 そのはずなのに……


(何でしょう、この胸騒ぎは……)


 まだ王国との戦争は終わっていない。

 戦いは続いていくし、生徒たちの戦いもまだ終わっていない。

 今回は大丈夫だったとしても、これから先の戦いで、全員が無事に生き残れるかどうかなんてわからない。

 だけど、そのことをわかっているつもりでも、体の奥から湧き起こってくる悪感が引いてくれることはなかった。


(いったい何が…………?)


 なんとなしに、万理は顔を上げて空を見る。

 そこにはこの場に相応しくないほどに、澄み渡った青空が広がっていて、その中心に一点の星のような光があった。


(何でしょう? あれ?)


 光は段々とその強さを増して――否、その大きさをどんどんと大きくして……


 気づいた時には、その星は天から地上へと降り注いでいた。






 ◇◆


 着弾確認――


 帝国軍上空。

 高度一万メートルのその場所に、零の姿はあった。

 周りを重力の障壁で覆い、外界からその身を守りながら、零は眼下に咲いた大輪の花を確認する。


 破壊規模に問題なし――

 次弾発射準備――


 そして再び、零はもう一度その花を咲かせるために、星を落とす準備を始める。


 《重力操作》による砲身形成――

 次弾装填――


 《重力操作》で筒状の道を作り、その出発点に、直径五メートルを超える巨大な弾丸の一つを装填する。

 零の周りには、他にも同じような弾丸の形をした塊がいくつも浮かんでいる。

 それらの弾丸はついさっき、零が地上でクレーターを作りながら、大地を固めて作ったものだ。


 《重力操作》で極限まで圧縮し、物質の組成が変わるまでに密度を高めた弾丸だ。

 その質量は、優に百万トンすらも超えている。


 《重力レンズ》による目標視認――

 外的要因による誤差修正――


 そしてその狙いを、地上で行軍する帝国軍へと定める。

 いくら零とは言え、流石に一万メートルも離れた場所にあるものを、《空間把握》で確認することは出来ない。

 だから零が頼るのは、純粋な視力による目視だ。

 重力によって光を屈折させ、即席の照準器を再現する。


 照準固定――

 重力圧縮開始――


 そして準備は最終段階。

 砲身を固定させ、弾を押し出す重力を圧縮させる。

 圧縮された重力はその密度を増していき、そして……


 発射――


 刹那。

 解放された重力が、弾丸に音速を遥かに超える加速を与える。

 表面は赤熱し、プラズマが弾丸を焼き尽くさんと火花を散らす。

 されど弾丸は、燃え尽きることなく地上へと到達し、一瞬で巨大なクレーターを作り出す。

 周囲に衝撃波を撒き散らし、地上にあるもの全てを粉砕する。

 人も、木も、岩も、大地さえも……

 その破壊の衝撃から、逃れえる術などない。


 今日この日、ここに新たな伝説が誕生する。

 天から降り注ぎし星が、帝国軍を壊滅させ、撤退にまで追い込んだ王国の英雄の――“星降り(ほしふり)”の神楽が誕生した瞬間だった。


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