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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第五章 帝国進撃編
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第六話 帰らずの森 参

 □■影林律器


 いったい、どれだけ走って来たのかはよくわかっていない。

 ただ一心に、できるだけ遠くへ逃げるように走り続けて、誰かの息が上がりかけたところでようやくその足を止めた。


「流石に、ここまで来れば大丈夫だろう」


 周りの気配に気を配りながら、他の三人の方へと振り返れば、彗は腕から響生を下ろして、ドサッと地面に尻餅をついて座り込む。


「ていうか、なんだよあのゴリラ。普通じゃねぇぞ、あんなの」


 開口一番で出てきた彗の言葉に、律器や他の二人も同意するように頷く。

 あの巨大で腕が異常発達したかのようなゴリラみたいな動物を、少なくとも律器たちは日本の動物園やテレビで見たことはない。


「多分だが、この世界のモンスターとかそんなところだろう……」


 ファンタジー異世界では定番の存在ではあるのだが、実際に遭遇して襲われるとなれば、全く洒落になっていない。

 そして現実として、あのモンスターのせいで多くの生徒たちが殺され、生き残っていた教師のほとんどが殺された。

 律器自身も、危うく殺されそうになって、今こうして生き残っていることが信じられないくらいだ。


「……そう言えば彗、お前さっきのあれ。いったい何をどうやったんだ?」


 そんなことを考えていると、ふと彗があのゴリラの腕をぶっ飛ばしていたのを思い出す。


「ん?……あぁ、あれか」


 彗も自分が何を聞かれているのかわかったのか、少し何かを考えてから口を開く。


「正直、俺にもよくわかんねぇや。あん時はただ、響生を助けるのに必死だったからなぁ」


 彗の様子を見る限りだと、本当にどうやったのかわかっていないのだろう。

 所謂彗は天才型だから、無意識に本能で使っていたのかもしれない。


「ごめんなさい。私のせいで……」


 彗の言葉を聞いて、響生は今にも泣き出してしまいそうな声で呟く。

 彼女にとっては、自分のせいで彗が危険な目に会ったことが我慢できなくて、心の底から申し訳なく思っているのだろう。


「気にするなって。俺はただ、お前を守りたかっただけだから……本当に無事で良かったぜ」

「彗君……」


 次第に二人の間で甘い空気が出来上がりつつあるが、それを律器も地奈津も止めるようなことはしない。

 今の状況で気を緩め過ぎるのは良くないのかもしれないが、気を張り詰め過ぎるのも、また良くないのも事実だ。

 ならば少しだけ、今だけでも、二人をイチャつかせるのも悪くはないだろう。


「そう言えば、俺も地奈津に助けられたんだよな。あの土の攻撃、地奈津がやったんだろ?」

「まぁ、そうね」


 地奈津の援護がなければ、律器は間違いなく死んでいただろう。

 ならばここで、感謝の言葉を伝えるのは当然だった。


「ありがとう」

「別にそのくらい……あたしたちは幼馴染なんだから、当然でしょ」

「……あぁ」


 若干照れ臭そうにしている地奈津に、律器は彗と同じ質問をしてみる。


「ところで、地奈津のあれはどうやったんだ?」

「んー……どう説明すればいいんだろう? ただ何となく出来る感じがしたのよねー……こんな感じで」

「おぉ!」


 地奈津がそう言って地面に手を付けた瞬間、彼女の手の先の地面が盛り上がって、小高い丘が出来上がる。


「彗はどうなんだ? さっきと同じことが出来るか?」

「んー……」


 彗はあまり自身がなさそうに立ち上がり、近くにある木の前へと立つ。

 そして拳を握り、木の幹へと突き出す。


 すると次の瞬間、木の幹が文字通りの意味で爆散した。

 突き出された彗の拳を中心に円形にくり抜かれ、木端微塵になった木の破片が指向性を持って、向こう側へと吹き飛んでいく。

 そして支柱を失った木は、そのまま重力に引かれるように倒れていく。


「って、おい! 馬鹿!」


 しかも律器たちのいる方へと倒れ始めたせいで、慌ててその場から退避する。

 何とか巻き込まれずに済んだ後ろでは、律器の身長と同じくらいの太さの木が、横たわって倒れていた。


「攻撃力やべぇな。そりゃあ腕も引き千切れるわけだ」


 大木とも呼べる木が倒れた惨状に、律器は呆れながらも呟く。

 だが危うく巻き込まれそうになったことについては、彗のことを睨んでしまっても仕方がないだろう。


「ねぇ、これってここから移動した方がいいんじゃない? 今の音を聞きつけて、またあのゴリラみたいなのが来たら、ちょっと洒落になんないわよ」

「……確かにそうだな」


 地奈津の指摘に、律器も同意して頷く。

 実際、今の倒木の音は間違いなく響いており、それを聞きつけたモンスターが様子を見にこっちに来ないとも限らない。


「ならすぐに移動した方がいいんだろうけど……」


 問題はどこに向かって逃げるかということだ。

 目的地すら定まっていない以上、今の律器たちには、どこへ向かって逃げるべきかがわからなかった。


「響生。取り敢えずどっちに行った方がいいかわかるか?」


 だからここは、ここまでの道を示した響生に聞いてみることにする。


「えーっとー……多分あっち」


 響生の示した方角には、特別何かがあるようには見えない。

 だが普段は気弱な響生が、こうもはっきりと言っているのなら、何かしらの確証があるのだろう。


「わかった。なら行こう」


 他の三人も頷いたのを見て、律器たちはここへ来るまでよりは速度を落として走り出す。


「なぁ響生、何でこっちに行った方が良いってわかるんだ?」


 響生の隣を並走している彗が、そんな疑問を彼女に尋ねる。


「えっとね。自分でもよくわからないんだけど。こっちにはあまり危険な動物がいないような気がするの」

「直感みたいなものか?」

「ううん、そうじゃないの。上手く言えないけど……なんだか暖かいものを感じて……勿論みんなからも。特に律器君からは、一番強く感じるの」

「俺がか?」


 突然自分の名前が呼ばれて、律器は走りながらも首を傾げる。

 響生がいったい何を感じ取っているのかはわからないが、もしそれが生命力みたいなものだったら、個人的には寧ろ彗の方がそういうものに溢れているような気がしてくる。


「まぁ、律器の話は置いておくとして、ここまで来ればもういいんじゃない」


 地奈津の言葉に、律器たち三人もそれぞれ走る速度を落として立ち止まる。


「にしても、大して走った感じはしねぇのにな。どうなってんだ、俺たちの体?」


 今走った感覚としては、ほんの二〇〇メートル走ったかどうかといったところだったのだが、もうさっきまで律器たちがいた場所は、この世界に来て良く見えるようになった視力を以ってしても見えなくなっていた。


「多分だが、こっちの世界に来た影響だろうな。というか、それを言うなら、髪と目の色も変わって、魔法みたいな力を使える時点で今更だろ」


 今までは誰も突っ込んではいなかったが、律器たちはそれぞれ髪と目の色が変わっている。

 彗は橙色の髪に黒色の目。

 響生は水色の髪に緑色の目。

 地奈津は茶色の髪に茶色の目。

 律器は教えてもらったところによると、黒色の髪に灰色の目をしているらしい。


「確かにそうよね。私は地面を操れて、彗は衝撃波みたいなのを出せて、響生ちゃんは生き物の気配を感じてて……じゃあ律器は?」

「…………」


 そこで自分以外の三人の視線が律器へと向けられる。

 律器自身も、三人がいったい何を言わんとしているのかはよくわかる。


「流石に、俺だけ魔法が使えないってなったら、凹むな」

「いえ、そんなことは……」


 響生が励ますような声を掛けてくれるが、実際魔法らしき力に目覚めていないのは律器だけなのだから、これで本当になかったら、この世界で塞ぎ込む自信がある。


「何か心当たりはないのか?」

「んー……」


 彗が言う心当たりといえば…………ないこともない。

 それはこの森に来る前、皇帝が背負っていた剣を見た時に感じたもの。


 あの時は本能的に“まだ早い”と思ったが、実際に何が早いと思ったのかは、自分でもよくわかっていない。


(考えられるとすれば……)


 そこで律器は軽く目を閉じ、意識を集中させる。

 思い描くのは、自分の中にある武器を実体化させるイメージ。

 自分自身の魔力に形を与え、それを現実世界に解き放つ。


 そうして、目を開けて自分の手元を見ると、律器の手には、一本の剣が握られていた。


「……出来た」


 今律器が握っている剣は、ここへ来る前に見た騎士が持っていた剣と同じ物だ。


「剣か?」


 上手く魔法が成功した律器に、彗は声を掛けて来る。


「あぁ。多分俺は、見た武器をこうやって模倣して作り出せるんだろうな」


 まさに今日、この世界に来る前の朝に話していた、アニメの主人公が持っていた能力そのままだ。

 もっとも、律器は決して、そんな主人公になれるような人間ではないのだが……


「んで、今作り出せるのはその剣だけか?」

「いや、あとは騎士が着ていた鎧も一式作り出せるぞ。他にも別の武器をコピー出来れば、また同じものを作り出せるとは思うが……」


 実際にやってみなければわからないが、恐らくあの皇帝が持っていた大剣のような武器でもなければ、ほとんど問題なくコピーできる自信はある。


「まぁ何はともあれ、お前にもそういう力があって良かったな」


 彗は律器の肩に手を置いて、しみじみとそんなことを言って来るが、途端にその表情は真剣なものへと変わる。


「でだ。マジな話、これからどうするよ?」


 さっきまでの団欒は終わりを告げ、話はこれからの現実的な話へと切り替わるのだった。


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