第一話 全ての始まり 前
大変長らくお待たせいたしました。
本日より『世界を渡りし者たち』の投稿を再開します。
今日は二十分後にもう一話投稿して、以降は一週間おきに投稿していきたいと思います。
それではどうぞお楽しみください。
□■???
西暦二〇七六年四月二七日。
その日の朝は、いつもよりも空が澄み切っていたのを覚えている。
雲一つない晴天が、今日一日の平和を約束してくれているかのように、そんな風にすら思えた。
だからこそ、この日に起きた出来事が、すぐには信じられなかった。
何の前触れもなく、突然異世界に飛ばされ、魔法のような力を手にするなんて、いったい誰が想像できたというのだろうか?
だがそれでも、現実は何も変わらない。
そしてこれが、後に世界を大きく揺るがすことになる、全ての始まりだった。
△▼
もうすぐで大型連休となるその日、いつものように学校へと登校して来て、席に着くと、そのまま最初の授業の準備を済ませる。
「おいーっす! 律器おっはー!」
「律器さん。おはようございます」
「あぁ、おはよう」
自分を呼ぶ二人の声に、影林律器はそちらに振り返って同じように挨拶を交わす。
「なぁ、律器ー。お前、昨日のアニメ見たか?」
そう言いながら、律器の前に座ったのは、親友の松崎彗。
生まれつきだというツンツン頭が特徴的な、典型的な体育系男子だ。
部活はサッカー部に所属していて、内の学校のエースを張っているらしい。
「見たぞ。あれは良かった」
彗の質問に、律器は特に迷うことなくそう答える。
彼が聞いて来たのは、昨日放映された深夜アニメについてだ。
内容としてはよくあるファンタジー系で、魔法やら特殊能力やらがある世界で、なんやかんやといろいろな悲劇を乗り越えていくという話だ。
制作会社の方でも、今回の作品には力を入れているみたいで、その完成度はかなり高いものになっている。
「だよな! あの作画クオリティーは流石にすげぇよなぁ。特に終盤の戦闘シーンとか」
「あぁ、あそこまで武器の演出に凝っているとはなぁ」
特に昨夜の回では、模倣した武器を永遠と作り出して戦う主人公が活躍しており、その生み出された武器の一つ一つの演出が細部まで凝られていて、十分に満足のいくものだった。
(やっぱり、いくつもの武器を操るっていうのは、一種のロマンだよなぁ)
なんて思うような時期が、律器にも確かにあった。
だが実際、武器を模倣して作り出すという能力は、その強さが模倣した武器の性能によって決まってしまう面はあるが、その模倣する武器の性能が十分に高ければ、最強の能力に至れるだけの潜在能力は確かにあると思うのだ。
「男の子って、そういうの好きですよねぇ」
そんな懐かしいことを思い出していると、彗と一緒に登校して来た彼女――岡山響生が楽しそうな笑みを浮かべている。
響生は学校では眼鏡をかけていて、クラスでは地味な子というポジションで落ち着いてはいるが、実はその素顔はかなりの美人と言ってもいい。
所謂隠れ美人という奴だ。
本来の彼女は、非常に庇護欲を刺激されるような容姿をしており、彼女がマネージャーをしているサッカー部では、その素顔から勝利の女神とさえ称えられているらしい。
そして、彗と一緒に登校してきたことからもわかる通り、響生は彗の彼女でもある。
「おっはよー! 諸君!」
そして新たに教室へと入って来た彼女――綾瀬地奈津はハイテンションのまま、律器たちに声を掛けて来る。
「あぁ、おはよう」
「ういーっす」
「おはよう、地奈津ちゃん」
地奈津は、律器にとっては何だかんだと付き合いの長い幼馴染だ。
だがだからと言って、彗と響生のように律器と付き合っているというわけではないし、これから先も、友人以上の関係になることは多分ないだろうというのが、律器と地奈津の共通認識だ。
性格は見た目通り活発で、容姿は素顔の響生と並べるほどに整っている。
部活はテニス部に入っており、エースではないものの、その真面目さと几帳面さから、副部長を任されているらしい。
そして律器、彗、響生、地奈津の、この四人が普段一緒に遊んでいるグループのメンバーだ。
「何話してたのー?」
「地奈津は昨日のアニメ見たか?」
彗の問いに、地奈津は軽く頷いて答える。
「見たよー。あれは神回だった。特に攫われたヒロインが助け出されるシーンとか……そういえば、あのヒロインって、ちょっとだけ響生ちゃんに似てるよね」
「そうなの?」
響生はそのアニメを見ていないのか、今一わからないといったように首を傾げるが、そこに関しては、律器にとっても納得できる部分がある。
「確かに。どことなく抜けているところとか」
「実際、響生ちゃんって人の気配に疎いから、いつか本当に攫われちゃいそうだよねー」
「うぅぅ……わかってはいるので言い返せません……」
そう言って落ち込む響生に、彗は彼女の肩に手を置いて励ます。
「心配いらねーよ。そんな奴が来たら、俺がこの手でぶっ飛ばしてやるからな」
何とも男気のある言葉に、響生の目が若干潤んでいるようにすら見える。
「彗君……うん、ありがとう!」
そうして二人の間に甘ーい空気が流れ、あっという間に二人だけの世界が出来上がる。
正直に言えば、これがなければもう少し付き合いやすくはなるのだが……
「おーい、そこー! 二人の世界に入らないのー」
「「!」」
地奈津の言葉に、二人は我に返ったように、お互いに距離を取る。
それでもまだ胸焼けしそうな空気が消えることはなく、律器は話題を変えるために、地奈津に声を掛ける。
「……そういう意味だと、地奈津は周りの気配に敏感だから、割と平気そうだな?」
地奈津もまた律器の意図を理解したのか、特に迷うことなく話に乗っかってくる。
「んー……どうだろう?……でも、あたしに手を出してくるような奴がいたら、そいつは後で生きたまま地面に埋めてあげるだけかなー」
「うげ」
「……地奈津らしいな」
地奈津の背筋が冷たくなるような未来予測で、完全に甘い空気も消え去り、それから律器たちはホームルームの予鈴が鳴るまで話を続けた。
△▼
五限の授業が終わり、残すところ後は、六限の授業だけとなった休み時間。
次の授業の準備を済ませた彗が、不意に律器の方へと振り返る。
「次の授業で最後かー……なぁ、今日終わったらゲーセンいかねー」
「俺は別に構わないぞ」
「あたしも今日は部活がないから、大丈夫だよー」
「……彗君が一緒なら……」
「じゃあ、決まりだな。早く次の授業終わんねぇかなー」
そうして、あっという間に放課後の予定も決まることとなり、今年から受験生の身の上なのだが、まだ少しぐらい遊んでいても問題はないだろう。
早く次の授業が終わらないかと嘆いている彗だが、願望を口にしたところで、別に時間が速く進むわけじゃない。
「そう簡単に、早く終わるわけないだろ」
「いいじゃねぇか。こういうのは気分だぜ、気分」
「まぁ、それもそうだな」
彗との雑談も終わって、後は先生が来て授業が始まるのを待つだけとなったところで、不意に他の生徒の声が、律器の耳へと入って来る。
「なんだ? あれ?」
「?」
声のした生徒の方へと振り向き、その生徒が見ている方向へと視線を向けてみると、ちょうどその視線の先――窓から見える校庭の中心に、白く光る何かがあった。
(光?)
だが律器には、それ以上の表現は出てこなかった。
ただ白く光る一点が、周囲に強い光を発している。
その光は次第にその強さを増しいき、あっという間に目を覆いたくなる程の光量へと成長したところで――
「!」
不意に何かが弾けるような轟音と衝撃が、律器を襲う。
不思議な浮遊感を感じた直後、体の内側から燃えるような何かを感じたのを最後に、律器の意識は、そこで途絶えた。
△▼
それからいったい、どれだけの時間が経ったのかはわからないが、律器は不意に感じた冷たさに気づいて目を覚ます。
自分が石畳の上で倒れているのだと気づくと、体を起こして辺りを見回す。
周りには同じ制服を着た生徒たちが何百人もいて、律器と同じように、何が起こったのかわからないといった感じで辺りを見回している。
そして律器は、自分がどこかの建物の中にいるのだということに気がつく。
ついさっきまで学校の校舎の中にいたはずなのだが、そことは明らかに別の場所だ。
よく見れば、床には何かの模様みたいなものが描かれており、自分たち生徒を取り囲むようにして、何十人もの騎士たちが立っている。
(あれ? これってもしかして……)
ここまでテンプレな要素が揃えば、律器にとっても、予想するのはそう難しいことでもない。
即ち――
(異世界召喚ってやつか?)
律器はそんな確信めいた答えを、心の中で呟いた。




