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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第四章 魔境探索編
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第二十話 両手に花

 □■桜


 一夜明けた翌日、桜の家で一泊した零たちを見送りに、桜は家の外へとやって来ていた。


「では、いろいろとお世話になりました」


 三人を代表して話す零に、桜もまた笑みを浮かべて返す。


「いいのよー。私も久しぶりに楽かったからー。良ければ、またいつでもいらっしゃいねー。歓迎するわー」

「えぇ、機会があれば」


 桜はふと、後ろに控えている天照と月詠に目を向ける。


 久しぶりに出会った上級精霊の二人。

 精霊としてはもう十分一人前と言える二人だけど、やっぱり年上の身としては、ちょっとだけ揶揄いたくもなってくる。


「そうねー。その時までには、もっと三人の仲が深まっているといいわねー……零くん」

「?」

「据え膳食わぬは恥とも言うしー、あんまり女の子を待たせてはダメよー」

「「!…………」」


 桜の言葉に、天照と月詠は、何とも初々しい反応を見せてくれる。

 だけどこうして、彼女たちが零に思いを告げられたことには、正直にホッとしている。

 彼女たちはちゃんと、後悔のない選択をすることが出来たから。


「まぁ、善処はするつもりだ」


 零はそう言って、軽く肩を竦めてみせる。

 だけどその言葉の中に、確かな強い意志を感じることが出来た。

 彼ならきっと、彼女たちのために、より良い選択をしてくれることだろう。


「うふふ。でも、これからも三人で一緒にいるつもりなら、絆を深めるのは重要なことよー。特に、今日私が教えた技は、絆が深ければ深いほど、その効果も高まるんだから、覚えておいて損はないわー。まさに愛は力ね!」


 今日の朝方、時間としてはついさっきの頃合いに、桜は彼らに一つの技を授けていた。

 それは人間と精霊、お互いの思いを一つにすることで、更なる力を得るという技。


 桜も昔、自分の思い人だった人間と、その技を使って何度も死線を潜り抜けてきた。

 そしてこれから先、それは零たちにとっても必要なものになっていくことだろう。


「だけど、その分危険も大きいから、気を付けなさいねー。一歩間違えたら、()()()()なるから」

「あぁ」


 大きな力は危険と隣り合わせ。

 よく言われることではあるけど、零なら心配する必要はないだろう。


 それからまた一言二言別れの挨拶を済ませると、天照と月詠は零の中に入って、零はその場から飛び立つ。


「では、また」

「えぇ」


 最後にそう言葉を交わすと、零の姿は山頂を覆う霧の中へと消えていった。

 あっという間に見えなくなった零たちを見送って、不意に馴染みのある気配が傍にやって来る。


『行ったか?』

『えぇ、行ったわ』


 “気”を応用した魔力の声に、桜も答える。


 “気”とは即ち魔力の情報体であり、その情報を言葉や心象に置き換えれば、こうして()()()()()()()()()()と会話をすることだって出来る。

 もっとも、ある程度魔力の扱いに長けていないと、意思疎通はできないのだけど。


『どうやら、“あれ”を求めてここまで来たわけではなかったようだな』


 再び聞こえた彼の声に、桜はそちらに振り返るようなことはしない。

 実際、そちらに振り返ってみても、彼の姿を見ることが出来ないのだから。


 もっとも、桜が「見せて」と言えば、彼はすんなりとその姿を見せてくれるのだけど。


『それはそうだと思うわよー。実際あの子たちも、“あれ”の存在を知っているようには見えなかったしー。そもそも“あれ”のことを知っている人が、本当に居るのかしらねー? 私たちですら、ここへ来るまで知らなかったのよー』


 彼が言った“あれ”が何のことなのかは、当然桜も知っている。

 本来なら、歴史の史実に記さていなければならないもの。

 にもかかわらず、この地へ来るまでに、桜や彼ですら、その存在を知らなかったもの。


 実際、桜の思い人は、その内の一つを持っていたにも関わらず、“あれ”が存在することすら、桜は知らなかったのだから。


『別に、考え過ぎて困るようなことでもあるまい…………あれはそれだけ危険なものだ』

『えぇ、わかっているわ。だからこそ、私たちがここに居るもの』


 “あれ”はこの世界にとっては余りにも危険すぎる。

 だからこそ、桜たちはこうして、互いに共通した友人を亡くした後、この地に留まった。

 “あれ”が、この世界に解き放たれることがないよう、監視するために。






 □■神楽零


 昨日あったことを端的に言えば、「二人の女から告白された」ということになるのだろう。

 薄々こうなる予感は確かにあった。

 とは言え、実際こうなってみると、何ともこそばゆいものだ。


(なるほど……これが世に言うリア充というやつなんだろうが……何と言うか……)


 零たちは今、町へ入って領主の城へと向かっているところだ。

 その途中で、串焼きがあったので買ったのは良いのだが……


「はい、零。あーん」

「…………」


 何故か零の目の前には、一本の串焼きがあった。

 それも差し出しているのは、天照ではなく、なんと月詠からである。


「ちょっ! つくよん! いきなりなにしとるん!」


 そうなれば当然、もう一方が黙っているはずもなく、反対にいる天照から抗議の声が上がる。


「というか、内が前やろうとした時、つくよん、いろいろ言って止めたんやないか!」


 その時のことは、当然零の方も覚えている。

 それは王都へと旅立つ前日、天眼領で最後の散策をしていた時のことだ。

 当然月詠も覚えているはずなのだが……


「あら? そうだったかしら?」


 月詠は「しーらなーい」と言わんばかりに惚けてみせる。


「でも、今とあの時とじゃ状況が違うでしょ? 今はこうして、お互いに気持ちを伝えてあって、ちゃんとした返事はまだだけど、もうほとんど恋人みたいなものじゃない。だったら何も問題ないと思わない?」

「いや、あるだろ」


 間髪入れずに、月詠の謎論理に待ったをかける。


「お前あの時、公衆の面前がどうとかって言っていただろ」


 今いるのは、領主の城へと続く大通り。

 そうなれば当然、周りには多くの人がいるわけで、何人かはとても微笑ましそうな目でこちらを見ている。

 もちろん中には睨むような視線も混じってはいるのだが、そういった視線は一瞥するだけですぐにどこかへと消えていく。


 多少は零も視線には慣れてはいるが、それでも限度というものはある。


「私は気にしないわよ?」

「いや、気にしろ!……って、お前も乗っかろうとするな!」


 月詠の反対側で、天照もまた零に自分の串焼きを差し出そうとして、思わず止めさせる。


「はぁ、わかったわ」


 とそこで、最初に折れたのは月詠の方だった。

 彼女は自分の串焼きを手元に戻して口の中へと運ぶ。

 その所作はいつもとあまり変わらないのだが、何故か今の彼女は、それだけで妙に色っぽく見えてしまう。


「じゃあせめて……」


 あっという間に自分の分を食べ終わった月詠は、串を近くにあったゴミ箱に捨てると、全身で零の腕へと抱きついた。


「!」

「なっ!」

「ふふっ。これで妥協してあげる」


 上目遣いで見てくる月詠の顔は、まさに「してやったり!」とでも言うかのように、妖艶な笑みを浮かべている。

 そして全身で腕に抱きついているのなら、当然彼女の双丘が腕に当たるわけで……

 零もそれを完全に無視できるほど、男を捨てたわけではない。


「……おい。それはわざとか?」


 頬を引きつらせながら聞いてみれば、月詠はさらにより一層、艶のある笑みを深くする。


「さーて。どっちだと思う?」

「…………」


 質問を質問で返している時点で、彼女がどっちなのかは考えるまでもない。


(この小悪魔め)


 昨日まではずっと姉に遠慮して、零への思いを隠していたというのに。

 今日になっていきなり、あざとく積極的に攻めて来るのを見れば、小悪魔と思っても仕方がないだろう。


 恐らく、今までは余程分厚い仮面を被っていたのだろう。

 それが無くなったことは、間違いなく月詠にとっては良いことなのだろうが、零にしてみれば勘弁してほしいところだ。


「えい!」

「!」


 そして天照も妹に負けじと、零の腕へと飛びつく。

 だがこちらは月詠とは違って、相当に恥ずかしいのか、必死に赤くなるのを堪えているように見える。


「……お前は無理しなくてもいいぞ」


 気づかわし気に言ってみれば、天照は顔を真っ赤にしながらも首を横に振る。


「だ、大丈夫……つくよんにも出来るんやから、内だって!…………」


 そう言葉を続けるものの、天照の顔は赤くなるばかりで、若干湯気が上がっているようにすら見える。


 前までは全く気にせずに抱きついていたはずなのだが……

 意識した途端にこうなるところを見るに、今までは素でやっていたんだろう、ということが容易に想像できる。


「はぁ……」


 いったい昨日、二人でどんなことを話し合ったのかは知らないが、流石にそろそろ周りからの視線がむず痒い。

 零はその場で《空間転移》を発動させて、一気に城の前へと降り立つ。


「着いたぞ」

「「え?」」


 いきなり目的地へと着いてしまったことに、二人は驚く。

 月詠は不満そうに零のことを睨みつけるが、流石にこれ以上はいちゃつけないとわかると零から離れる。

 天照も少し残念そうにしながらも、大人しく零から離れて自由になる。


 そうして、三人で城に入る手続きをしていると――


「神楽卿!」


 突然まだ聞きなれない敬称で呼ばれ、零は城の方へと目を向ける。

 するとそこでは、鳥目が必死な形相で走って来ているところだった。


「鳥目殿、いったいどうしたんですか? そんなに慌てて」


 一瞬、昨日魔境から戻らなかったことについて言われるのかとも思ったが、どうにもそれだけではなさそうだ。


「先ほど、王都から緊急の報せが届きました。出撃命令です。氷華帝国軍が、我が国に侵攻を開始しました」


 そして鳥目は、零に戦争の始まりを告げたのだった。


さて、これにて第四章は完結です。


ここまでお読み下さりありがとうございます。


いかがだったでしょうか?


もしよろしければ、ブックマークや感想などで評価していただければ嬉しく思います。


さて、ここで突然ではありますが、しばらくの間『世界を渡りし者たち』は休載させていただきたいと思います。


と言うのも、次章の第五章が思った以上に長くなって、まだ書き上がっていません。


万全を期すために、二、三ヶ月ほどお時間をいただきたく思います。


もしかしたらそれ以上かかるかもしれませんが……何とか書き上げてみせます!


また、この機会に投稿済みの話を一部修正していきたいと思います。


これで少しは読みやすくなって、読者が増えればいいのですが……


と言うわけで、しばらく間が空きますが、これからも『世界を渡りし者たち』を、どうぞよろしくお願い致します。

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