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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第三章 盗賊団討伐編
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第十八話 晴れないもの

 ◇◆


 “彼ら”は思った。

 今回の実験は失敗だったと。

 ()()()()()と敵対関係になってから、人間の国々での活動が難しくなっていた。

 そこで今回の獣王連合国への遠征だったわけだが、“彼ら”が満足するのに十分な成果は得られなかった。


 どれもこれも、()()()()()()()ばかり。

 長く()()()()()()()が故に、“彼ら”の知識を刺激するにはまるで足りなかった。

 中には死後に残留思念を残すという変わった魔法を発現した者もいたが、“彼ら”が気に留めたのはその程度だ。

 “覆面”の素材となりえる獣人は、多少はあれど多くいたわけでもなく、総じて“彼ら”は、今回の遠征の成果には些か不服だったと言わざるを得ない。


 だが“彼ら”にとって、吉報が全くなかったというわけでもない。

 少し前に、各地に現れた白い光の柱。

 それが異世界からの来訪者――渡り人の来訪を告げるものだということを、長く生き繋ぐ“彼ら”は当然のように知っていた。


 故に“彼ら”は歓喜した。


 また良質な実験体が、この世界に舞い降りたが故に。

 渡り人は異世界の住人であるが故に、その内に秘めた魔法はこの世界の魔法とは一線を画すことも珍しくはない。

 “彼ら”の目的達成のためにも、渡り人の身柄は是非とも“彼ら”にとっては必要だった。


 たが“彼ら”は気づいている。

 今回の渡り人の出現は、今までのものとは()()()()()ということに。

 寧ろ異常とさえ言っていいかもしれない。


 本来であれば一度に渡って来るのは、精々多くて数十人がいいところだ。

 だと言うのに、今回の規模は通例の千倍では利かないと“彼ら”は予測している。

 であるのなら、自ずとその原因の調査もしなければならないだろう。

 上手くいけば、意図的に渡り人を召喚することも可能になるかもしれない。


 だがまずは、“彼ら”の一人は逃げることを優先する。

 いくらでも用意できるとはいえ、有用な“覆面”はあまり無駄にしたくないというのが“彼ら”の共通認識だ。

 本当なら置いてきた“覆面”戦力で時間を稼いで準備してから逃げるつもりだったのだが、敵側に《空間転移》を使える者がいたのは誤算だった。

 お陰で、運び出せたのは“覆面”の素材となる何体かの獣人だけ。


 だが問題はない。

 こちらも《空間転移》で逃げてしまえば、追いかけるのは容易ではないのだから。


 だがここでも“彼ら”は、一つだけ誤算をすることになる。

 確かに、並の空間系の魔法使いであれば、《空間転移》で転移した先を特定することは難しい。

 だが三人の後を追った零は、この世界最高峰の使い手であり、並び立つ者のない時空使いの権化。


 “彼ら”が零の存在に気づいた時、覆面二人の首が地面に落ちていた。






 □■神楽零


 《空間転移》で追いかけた先で、零は逃げた三人を視界に収める。

 意外とあっさり追いつけたせいで、些か拍子抜けしてしまうが、手間が省けるに越したことはない。


(さて、まずは数を減らしておくか)


 誰が《空間転移》の使い手なのかはわからないが、戦力は少しでも減らしておいた方がいい。

 本当なら全員まとめて倒してもいいが、情報が得られるのなら、聞き出してから倒した方がいいだろう。

 もっとも、真面な情報が聞けるのは、恐らく覆面を被っていない女だけだろうが。


 零は《空間斬撃》を発動させて、覆面を被った二人の首を斬り落とす。

 効果が強すぎて滅多に使わない魔法だが、油断できない相手である以上、今回は確実性を重視した方がいい。

 そのお陰で二つの首が地面に落ち、残すのは一番気味の悪い女一人だけになる。

 だがその直後、覆面を被った奴の近くの空間が歪み、その中から数人の獣人たちがまるで物ように積み重なった状態で姿を現す。

 見たところまだ息はあるようで、恐らく《空間収納》みたいな魔法に入れられていた戦士の生き残りだろうと予想しながら、零は女に向かって口を開く。


「さて、色々と聞かせてもらおうか」


 使うかどうかわからない剣を構えて尋ねると、女は気負う様子も見せずに振り返る。


「これは驚いた。まさかこの儂を追いかけてこようとはな……ふむ、やはり似ておるのぅ」


 女は零のことを視界には収めているようだが、その視線はどこか零というよりも、その内側にある何かを見据えているような気がしてくる。


「お主、その魔法はいったいなんじゃ? この儂に確かめさせよ!」

「!」


 するといきなり、女はまるで警戒心がないような動きで零に近づいてくる。

 その動きが、逆に不気味さを滲み出していて、零は咄嗟に《空間斬撃》を使って女の足を斬り飛ばす。

 女はそのまま前へと倒れ込み、失った足からはドバドバと赤い血が流れ出てくる。

 だが女はまるで痛みを感じていないかのように、悲鳴の一つも上げずに視線だけを零へと向けてくる。


「質問するのはこっちだ。獣人を集めて、いったい何をしていた」

「……この術式……まさか!……」

「…………」


 零が質問しているというのに、女はまるで聞こえていないかのように、零の内側へと視線を向けたまま。

 足まで斬り飛ばしたというのにここまで無視されるというのは、流石に零でも少しだけ思うところが出てくる。


「おい、聞いているのか」


 再度問いただしてみれば、女はようやく零の顔に視線を向けてくる。

 だがその表情は、まるで欲しい玩具を見つけた子供のように破顔している。


「ヒッヒッヒッ! よもやよもや、まさかそのようなことが起きようとは! 渡り人の再来といい、この時代は嬉しい誤算ばかりじゃな」

「……さっきから何を言って……」


 本当に何を言っているのかわからない。

 零に宿った魔法について何か言っているような気がするが、別段じろじろ見られるようなことはないはずだ。

 もしそんなものがあるのなら、魂を見られる心悟や美咲、精霊である天照や月詠が何かしら言って来ても可笑しくないはずだった。


(いや、それ以前に。こいつ、俺の魂が見えているのか?)


 零の発動した魔法を見て言っているのではなく、零自身を見て言っていることから、その仮説は容易に想像ができる。

 だが《魔魂解析》の目を持っているだけで、女が発しているような威圧は決して出てくるようなものではない。


「ヒッヒッヒッ! お主とはまた会えそうじゃ。それまで精々それを大事にしておれよ……生きておればな」

「!」


 最後の捨て台詞を聞き終わるより前に、零は《未来視》で見えた危機に反応して反射的に後ろへと飛び退く。

 だが同時に、少し離れた場所で積み重なっている獣人たちの姿が目に入る。

 そしてその直後、女の体が眩しいほどに光り始め、零の視界を鼓膜が破れるような爆音と共に白く染め上げた。



 △▼



「まったく……とんでもないものを残しやがって……」


 零は周りに広がる広大なクレーターを眺めながら、一人愚痴をこぼす。

 普段は滅多に愚痴をこぼすことなんてないのだが、危うく死にかけたことに加え、結局何も情報を喋らなかった女に対して、多少の苛立ちを覚えているらしい。

 まるで隕石でも落ちたかのようになっているその光景の中で、無事な獣人たちの様子を眺めながら、改めて自分がまだ生きているのだということを実感する。


「しかし間一髪だったなぁ……」


 正直に言って、今の自爆攻撃は零にとってもかなり危なかった。

 まず何もしていなければ、零であっても体が蒸発するのは必至だったし、そうでなくても、全く身動きのしない獣人たちがいたのだ。


 ではどうやって爆発を防いだかといえば、零にとっては簡単な話で、時間を停止して固定した空間を盾にすることで、女の自爆攻撃を防ぎ切ったのだ。

 言葉にすればこれだけだが、咄嗟にやろうと思えばそう簡単にできるようなものでもない。


「これは、天照に守られたと言えるかねぇ?」


 零は天照の魔法で淡く光る手に目を落としながら、今回の反省点について考察する。

 今回の自爆攻撃を避けるにあたって、零は当然《空間転移》で逃げるということも考えた。

 だが《空間転移》は転移先の把握などをする必要があって、割と咄嗟にやろうとするのは難しいのだ。

 だから比較的簡単な《時間停止》で空間の一部を固定する選択をしたのだが、それでも咄嗟にやるには簡単だと言えるような代物でもない。

 故に天照の魔法で強化してもらって、力に余裕があったからこそできたことだとも言える。


「帰ったら一言ぐらい言っておくかねぇ……まぁ今考えれば、単純に《時間加速》をすればよかった気もするが……」


 なまじ器用なのも考え物だと思いながら、零は獣人たちを回収して、他の討伐隊と合流するために、盗賊団のアジトへと戻る。


『ヒッヒッヒッ! お主とはまた会えそうじゃ。それまで精々それを大事にしておれよ』


 女が最後に残した、何か予言めいた言葉。

 結局何を言っているのかわからず、目の前で自爆しておいて「また会おう」と言うのも奇妙な話ではある。

 だがどうにも、それを死に際の世迷言と切り捨てることも出来ず、他の討伐隊と合流するまで、零の気分が晴れることはなかった。


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