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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第三章 盗賊団討伐編
39/106

第十二話 突入

 ◇◆


 星々が彩る空の下。

 静寂と暗闇が支配する夜の道を五つの影が疾走する。

 常人にとっては認識し辛いであろう視界の中で、彼らは馬顔負けの速さで目的の場所へと向かう。

 そんな中、一人の男が持ち前の魔法で目的の存在を見つけ出す。


「――いた!」

「! 見つけた!?」

「あぁ。予定通り、こっちは人質の救出に向かう」


 その男――零は椿の言葉に答え、手短に他の面子にこれからの動きを確認する。


「了解した。くれぐれも頼むぞ」

「あぁ。椿、手を」


 白銀の信頼を託されながら、零は椿の手を取って引き寄せる。


「行くぞ」


 一言掛け声を出せば、零と椿はその場から忽然と姿を消す。

 それを見送りながら残る三人――白銀、万衣、速風の三人は、そのまま盗賊団のアジトがある廃鉱山へと突っ走る。


「我々も突入する!」


 白銀は自身の魔法を発動させて、その身を蒼炎の業火で包み込む。

 万衣も数体の黒猫を呼び出し、速風は帯剣している刀に手を添える。

 そうして各々の戦闘態勢に入りながら、三人は勢いを落とすことなく廃鉱山へと突入した。


「……いない」


 だが入ってすぐのところには、盗賊どころか鼠の一匹すら居やしない。

 本当にここなのかと万衣が白銀の方に振り返った時――


「ガハッ!」

「「!」」


 ――万衣の横腹が突然空虚に消えた。


 力を失った万衣は地面に崩れ落ち、それをきっかけにこの戦いの幕が上がる。


 万衣の姿を一瞥したのも束の間。

 残った二人の前に、高速に回った四つの円盤が飛来する。


 以前の討伐に際し、数々の獣人たちの命を奪った断頭の鎌を前にして、白銀の炎がより一層勢いを増す。

 そしてその円盤を燃やし尽くそうと掴み取ろうとして――


「!」


 ――逆に白銀の手が上下に断ち切られた。


「チッ!」


 想像以上の重さに思わず舌打ちが漏れるが、白銀自身の体には何の問題もない。

 斬り飛ばされた手は自らの炎で燃え尽き、代わりに白銀の腕からは新たな手が生えてくる。

 その驚くべき超速再生こそが彼を獅子王にまで上り詰ませた魔法――《蒼炎強癒》。

 青白い炎に包まれている限り、白銀の体が傷つくことはない。

 そしてその業火は、周りにあるもの全てを燃やし、極限まで彼の力を増大させる。

 その力をもってすれば……


「フンッ!」


 白銀が殴りつけた円盤は、壁に衝突して砕け散り、蒼炎が破片をことごとく燃やし尽くす。


「まずは一つ。だがどちらにしろ、本体を叩かねば埒が明かぬか」


 円盤はあくまでも一つの武器でしかない。

 武器には必ず、それを振るう者が存在する。

 未だに姿は見えないが、その者がどこからか円盤を操っていることは間違いない。


 ふと白銀が横を見れば、隣では速風が見事な剣さばきで円盤をいなし、斬りつけている。

 二つに分かれた円盤はそのまま落ちるかと思いきや、息を吹き返すように動き出し、速風へと襲い掛かる。


 だが速風も並の剣士ではない。

 王国最速と謳われた剣聖は、二つで駄目ならとさらに細かく斬り分ける。

 文字通り粉々になるまで細分された円盤は、再び動き出すことなく地へと落ちた。


 二人でそれぞれ一枚ずつ落とし、残る円盤は二枚。

 まずはそれらを叩き落とそうと二人が構え直したところで――


「「!」」


 ――二人の間を()()()()()()()()万衣が横切った。


 円盤は進路を変え、走り去る万衣へと後ろから襲い掛かる。

 白銀では間に合わず、速風はその持ち前の速さで一枚の円盤は斬り刻むが……もう一枚は万衣の首を斬り飛ばした。


 その光景を、白銀は全て見ていた。

 万衣の頭が宙を舞う様子も、その直前、万衣の足下に一匹の黒猫が現れたことも。


「!」


 首が無くなった万衣の本体は光の粒子となって消え、それに呼応するように足下にいた黒猫が人の形を取り始め、やがてそこに()()()()()()()()万衣の姿が現れる。


 それこそが万衣の魔法の真髄。

 名付けるのであれば、《無限分身》とでも呼べるのだろう。


 万衣が生み出す黒猫は、万衣の分身体であり、万衣の体の一部そのもの。

 彼女が地球で生まれ持った才能――《並列思考》の思考を分身体に割り振ることで、分身体を操ることができる。

 そして本体である人型が死ねば、万衣の魂は近くの分身体へと移り、新しい体で復活する。

 わかりやすく言えば、万衣は分身体の全てを殺されない限り、決して死ぬことはないのだ。


 万衣はそのまま円盤に構うことなく洞窟の中を駆け抜ける。

 白銀と速風もそれに追従し、残る円盤一枚をガラクタへと変える。


 洞窟の先は分かれ道になっており、万衣は迷うことなく右側の通路へと進む。

 まるでその先に、()()()()()があるとでも言うのかのように。


「どうする?」


 速風は並走する白銀に問いかける。

 このまま万衣を追いかけるか? 別の道へと進むか?


「左へ行こう。我々では恐らく、彼女との相性が悪い」


 白銀であれば、万衣の分身体を焼き殺してしまうし、速風であれば、万衣が全力を出せば足の踏み場を失って真面に動けない。

 どちらであっても、最低限の連携を取るには二人は万衣と相性が悪い。


「そうじゃな。それに……こちらにも、敵がいないわけではあるまい」


 左の洞窟から感じる強者の気配に、速風は僅かに口の端を吊り上げる。

 白銀も行く先に敵がいることに同意し、二人は万衣と別れて左の洞窟へと進んだ。






 □■神楽零


 零たちが転移した先は、一言で言えば牢屋と手術室を合わせたような場所だった。

 四方の一面には檻が備え付けられ、部屋の中央には土を盛って固められた台がある。

 檻の中には既に誰もおらず、代わりに部屋の反対側に綺麗に寝かせられた獣人たちと、その前に立つ三人ほどの人間の姿があった。


「動かないでもらおうか」

「! みんな!」


 刀に手を掛けながら、零はいつでも動けるように身構える。

 本来なら今すぐ斬りかかって戦闘不能にするつもりだったのだが、どうにもそうするわけにはいかなくなった。


(最悪だ)


 口の上では大層なことを言っているが、内心ではそれどころではない。

 実際に前にしてみてわかるが、相手の方が零よりも格としては上なのだ。


(この感じ、一級どころか下手すりゃ……)


 真ん中にいる女は明らかに零よりも魔力量が多い上に、どこか異質な気配を漂わせている。

 両端にいる奇妙な覆面と衣装をした人間も、それなりの魔法が使えるように感じる。

 天照の魔法のお陰で、零と椿もそれほど劣ってはいないが、人質がいる上に相手の実力がわからない以上、むやみに攻め込むことはできない。


「おやおや。まさか転移使いが居ようとはなー。これは儂の誤算じゃな」


 容姿に似合わず、どこか爺臭い喋り方をするその女は、零たちを気にした様子もなく言葉を返す。


「ただの盗賊……と言うわけではなさそうだな」


 取り敢えず情報を聞き出すために会話から入ることにする。

 あまりペラペラ話すとは思えないが、その間に相手の手札を探る。


「儂が盗賊じゃと? ヒッヒッヒッ。儂をあんな愚物と一緒にするでないわい。不愉快じゃ」

「……だったらお前は何なのかね?」

「儂か? そんなの決まっておろう」


 女は一度言葉を切ると、大きく腕を広げて、まるで自分を称えるかのように宣言する。


「儂こそがこの世唯一無二の存在! この世に降臨せし神の、最初の使徒となる者じゃ!」


 女はそれこそが全てだとでも言うように、高らかに言い放つ。

 「神」や「使徒」など、正確に意味を理解するには難しい単語が並ぶが、魔法が存在するこの世界では、それらを世迷言と切り捨てるには少々危険なような気がする。


「そのために実験を繰り返しておったが、やはりこ奴ら同様、どうやらお主らも我が至高の一助になるには足らぬ……?」


 女は後ろで寝かされたままの獣人たちに視線を向けてから、何故か零たちの方を見て一瞬だけ首を傾げたように見える。


 そして言葉の内容から察するに、恐らくこの女が今回の誘拐騒動を裏で引いていたのかもしれない。


「……貴様!」


 椿はこれでもかと殺気を振りまくが、女たちは一向に堪えた様子はない。

 というか、覆面を被った者たちは、まず感情があるのかどうかすら怪しく思えてくる。


 椿は心の底から怒りを露にしているが、決して飛び込むようなことはしない。

 彼女自身、迂闊に攻められないと理性ではわかっているのだろう。


「……少々しゃべり過ぎた。では儂らはこれで失礼するぞい。またどこかでなー」

「! 待て!」


 「どうやって」と考えるよりも先に、このままだと逃げられるという予感が頭の中を過る。

 そして予感は的中し、目の前にいた三人は忽然と姿を消した。


(チッ! 俺と同じか!)


 三人が逃げた手段は、零もよく知る《空間転移》だ。

 恐らく三人の内誰かが零と同系の魔法が使えるのだろう。

 咄嗟のことで転移を妨害することはできなかったが、逃げた先を特定することはできる。


「今なら恐らく追えるが……」


 僅かではあるが、空間が歪んだ残滓は残っている。

 今なら追うことはできるが、この作戦の零の目的は連れ去られた獣人たちの救出だ。

 それがまだ果たされていない以上、勝手に動くわけにはいかない。

 だが……


「行って」


 すると今まで黙り込んでいた椿が、零の背中を押すように告げてくる。


「私も、あいつはここで逃がしちゃいけない気がする。だからここは私に任せて」

「……わかった」


 椿の言葉に頷いて返し、零は逃げた三人を追って《空間転移》を発動する。

 すると意外にあっさりと、零は逃げた三人を視界に収めた。


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