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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第三章 盗賊団討伐編
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第十一話 討伐前の夜

 □■神楽零


 獣王連合国に来てから丸一日経った夜、零たちは盗賊団が潜む山の麓まで進軍していた。


 これからほどなくして、盗賊団の討伐作戦が開始される。

 人によっては緊張するであろうこの瞬間に、零は何となしに目標となる山を眺めていた。


「本当にこれで良かったん?」

「?」


 唐突に掛けられた声に後ろへ振り返れば、そこには松明で照らされた天照の姿があった。


「何のことだ?」

「妹はんのこと。内心どう思っているんやろうと思うてなー」

「あぁ……」


 なんだそんなことかと零は思う。

 恐らくこのまま、妹を危険な討伐に行かせてしまって良いのかという話なのだろう。


 だがそれについては、もう答えが出ているし、今更思い悩むようなことでもない。

 それに天照であれば、こんな間接的に聞かなくても、直接知る手段があるはずなのだが……


「それこそ俺の中に入って直接調べればいいだろう」


 彼女は精霊であり、魂の専門家だ。

 実際に相手の魂に触れてしまえば、ある程度考えていることはわかるらしい。

 お陰で今まで散々記憶なんかを覗かれたのだが、あまり覗かれっぱなしというのも癪なので、今はそれを防ぐために月詠から指導を受けている所だ。


「ムッー。内もそこまで無粋じゃあらへんよ。知られたくないことまで覗き見るような趣味は持ち合わせておらん。まったく失礼しちゃうわー」


 天照はそう言って、不貞腐れたように頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。


 だがそれを言うのなら、少し前に零の幼少期の記憶を覗き見たことについて思い出してほしいところである。

 零だって、恥ずかしい過去がないわけではないのだから。


「……まぁいいが。どう思っているかねぇ……まぁ多少は心配ではあるけど、それだけかな」

「それだけ?」

「それだけだな」

「…………なんちゅうか、ちょっとさっぱりし過ぎてへん? なんかもっとこう……なんかあるやろ」


 天照が言いたいことは零にもわかるし、自分自身でもその自覚はある。

 だからある意味で多数派であろう天照の考えを聞いてみることにする。

 彼女も一応、一人の妹を持つ姉なのだから。


「そうだなぁ。お前ならどうする?」

「内? 内やったらー……やっぱりつくよんがそういうのをするのは放っておけへんなー。それなら全部内が引き受けたるーって感じやけどー?」

「まぁ、それも一つの答えではあるだろうな。俺も彼奴の傍に居られたのなら、そう考えたかもしれない」


 それもまた、零の紛れもない本心だ。

 これからも万衣が、比較的零の近くにいたのなら、可能な限り今回のような危険から遠ざけようとしたかもしれない。

 一歩間違えれば命を落とすかもしれないのだ。

 兄として、妹のことを心配しないわけがない。

 だが……


「だが恐らく、これからはそういうわけにもいかないだろう」


 零は王国で、万衣は連合国で、これから別々に生きていくことになる。

 恐らくそうなるだろうし、それに関して零も万衣を甘やかすつもりはない。

 寧ろいい機会になるだろう。


「彼奴はこれから、自分の力で生きていくことになる。自分の意志で考え、行動し、その責任を負っていくようになる。戦いが当たり前にあるこの世界で、俺も下手すればどこかで命を落とすかもしれない。そうなった時に、いつまでも俺が守ったままでいたら、きっと彼奴は何もできなくなる。その責任を、俺は取ることができない」


 万衣は昔から、零の後をくっついて歩いているような子だった。

 何をするにも、どこへ行くにも、大抵万衣は零の後を付いて来ていた。

 日本にいた頃はそんな万衣のことを微笑ましく思っていたが、今いるこの世界ではそういうわけにもいかない。


「それにあんな顔を見たのも初めてだったんだよ」


 あんな心の底から怒りを露にして、「絶対に許さない」と言う万衣の姿を見たのは、生まれて初めてのことだった。


 そもそもの話、零と万衣はまず怒ること自体が少ない。

 それもそのはずで、人が他人に怒るのは、大抵自分の大切なものをどうしようもなく壊された時なのだ。

 そして零と万衣は、その大切なものというのが極端に少なかった。


 そんな万衣が、あの時は心の底から怒っていたのだ。


「あんな顔をされたら流石に何も言えない。余程その友達というのが大切だったんだろうな」


 それ自体は非常に喜ばしいことだったと言えるだろう。

 だが盗賊団は、その万衣の友達を殺したのだ。

 それに関して、零が何か言えるわけがない。


「それに忘れたのか?」


 そう言って、零は天照に向かって笑ってみせる。


「彼奴は俺の妹だ。そう簡単に死ぬわけがないだろ」


 あの後万衣本人から魔法について聞いてみたが、恐らく零が知る中で一番、()()()()()()()()()()手合いだ。

 事前の準備さえしていれば、彼女が死ぬことはまずないだろう。


 伊達に万衣は、零の妹ではないのだ。


「ふふふ。確かに、そうかもしれへんなー」


 天照は口元を隠しながら、零に同意するように笑みをこぼす。

 するとそこに、新たな人影がやって来る。


「何の話をしているのかしら?」


 声がした方に振り向けば、そこでは天照と同じ顔立ちをした月詠が、小首を傾げているところだった。


「んー……別にー! ただ妹はかわええなーっていう話をしとっただけやえー」


 天照はそう言うと、やって来た月詠を全身で包み込むようにして抱き締める。

 美女二人が仲睦まじく寄り添っている光景は、中々に和む光景ではあるのだが……


「そう……わかったからさっさと離れてくれるかしら」


 残念なことに、妹の方は少しだけ迷惑そうに天照を突き離そうとしている。


 それでも基本的には仲がいいのだから、放っておいても問題はないだろう。


「それから零」

「?」

「さっきあの白銀っていうのが呼んでいたわよ。最後の打ち合わせがしたいみたいね」

「……了解」


 ついにこの時が来た。

 これから最後の確認を済ませてすぐに、零を含めた討伐隊は盗賊団のアジトへと突入する。

 その編成は零、万衣、椿、速風、白銀の五人だけだ。

 人数としては少ないかもしれないが、数の優劣で言えば、万衣がいる時点で何の問題もない。

 というか、この戦力だけで軽く都市一つを滅ぼすことができるだろう。


 美咲や他の騎士団員たちは、単純に力不足であるし、力を返してしまった進も、今回の討伐からは外されている。

 個人的には獅子王自らが討伐に参加するのが意外だったが、先の討伐隊が全滅したことで、最早出せる戦力は獅子王ぐらいしかいなくなったらしい。


 そして零が連れてきた天照と月詠は、討伐隊に天照の強化魔法をかけてもらうだけで、二人揃ってお留守番してもらうことになった。

 実力的には問題ないのだが、盗賊団に離れた場所から心臓を奪い取る手合いがいるらしく、比較的脚が遅い二人では、その餌食になりかねないためだ。

 天照は自分に強化を掛ければ大丈夫なのではとも思ったが、何故か彼女は自分に強化を掛けることができないらしい。

 自己中心的な考えをする零にとってみれば、その在り方は些か奇妙に見えるが、そのお陰で多少なりとも強化の度合いが高いというのだから、特に文句はない。


 そんなことを考えながら立ち去ろうとすると、後ろから零を呼び止める声が聞こえてくる。


「あ! 待って、れいやん!」

「ん?」


 後ろに振り返れば、天照が零の傍まで駆け寄って、徐に零の右手を掴んでくる。

 そのまま両手で優しく包み込むと、胸元の前までその手を持ってくる。


「さっきれいやん、自分でも死んじゃう時があるって言うていたやろ。だけどれいやんにはそんな時は絶対に訪れへん! 内の魔法が絶対にれいやんを守ったる!……だから……」


 そう言って、天照は零の手を自分の額へと押し当てる。


「絶対に、帰って来て」

「…………」


 その天照の言葉が、何故か妙に心の中に響いた。

 零にとってみれば今回の討伐対象は、多少手ごわい程度で殺されることはない相手だと思っている。

 というよりもまず零はそう簡単に死なないし、その実証も既に済んでいる。

 あんな話をしたからといって、実際に心配されるようなことは何一つとしてないはずだ。


 だというのに、それでも心配されるというのは妙にむず痒くて、どこか嬉しくも思えた。


「あぁ」


 だから自然と、口から言葉が漏れた。

 彼女たちとはあくまでも利害が一致した程度の間柄でしかない。

 だがそれでも、美咲の時と同じように、帰る場所、待ってくれる人がいるというのは、悪くないものだと思えた。


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