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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第三章 盗賊団討伐編
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第九話 繋いだもの

 □■椿


『……友達が、殺されたから』


 その言葉は、自然と椿の中に響いた。

 思い出すのは、親友が食い殺された光景。

 まだ力もなく、守れなかった過去の自分。


 紅葉が殺された後に力を手に入れて、捕らわれていた他の獣人たちを助け出すことができた。

 だけどそれでも、親友の紅葉が殺されたことには変わらない。

 それは大本を辿れば、盗賊団のせいで殺されたと言えるのかもしれない。


 そう考えてみると、どこか万衣と自分は似ているような気がした。


 多くの人を救うことができたのに、たった一人の大切な人を救えなかった。

 喜んでいいはずなのに、素直に喜ぶことができない。


 そんなところが、どこか似ているような気がした。


 もし違いがあるとしたら、それはきっと、万衣にはたった一人で多くの人を救えるだけの力があったということ。

 一人では何も出来なかった椿と違って……


「――そして貴殿が、見事同胞を救い出したという英雄か」

「!」


 急に話を振られたような気がして、椿は咄嗟に顔を上げる。

 案の定、この国で一番偉い獅子王がこちらを見つめながら問いかけて来ていた。


「え!? 私!?」


 咄嗟のことで椿自身も動揺してしまう。

 彼は獅子王。この国を統べる天上の人。

 その覇気は一介の村人だった椿にもよくわかる。

 彼こそが王であるとひしひしと伝わって来る。

 そんな人に声を掛けられてしまったら、驚いてしまうのも仕方がないだろう。


「? 貴殿以外に誰がいる?」

「す、すみません……」


 考えることに集中していて、途中から話を聞いていなかったとは言えず、椿は素直に頭を下げて謝る。


「いや、謝る必要などない。我はただ貴殿の働きを労いたいだけだ。今回は本当によくやってくれた。同じ獣人の戦士として、誇りに思う」

「あ、ありがとう、ございます……」


 獅子王に褒められても、やはり素直に喜ぶことができない。

 心のどこかで、今も紅葉を助けられなかったことへの負い目を感じている。


 そしてどうやら、そのことが自分の顔に出ていたらしい。


「不服そうだな」

「い、いえ! そんなことは!」


 椿は咄嗟に腕を振って弁明を口にする。

 王から送られた褒め言葉を不服と思うなど、無礼にもほどがある。

 それを顔に出さなければまだ良かったが、出てしまったものはもうどうしようもない。


「咎めはせん。申してみよ」

「いえ、本当に……ただ私も、親友を助けられなかったから」


 それだけが、今の椿に眠っているたった一つの後悔だ。

 だが同時に、それがどうしようもなかったことだということもわかっている。

 だからいつまでも、そのことを悔いているわけにはいかない。


 わかっているけれど、どうしてもまだ、納得することは出来なかった。


「すみません」


 突然横から聞こえた声に、椿は顔を上げて振り向く。

 すると隣では、進が本当に申し訳なさそうな顔をして俯いていた。


「ち、違う! 進は悪くない!」

「ですが……」


 きっと進は、自分がもう少し早く助けに入っていれば、とか思っているのだろう。


 だけどそれはきっと無理な話だ。

 もしも助けに入っていれば、怪我をしていたのは進の方かもしれない。


 仮にも進は、あまり戦闘は得意な方でではない。寧ろ苦手としている。

 それは仲間の救出作戦の時を思い出してしまえば、一目瞭然だ。


 そう考えてしまえば、進を攻めることなんてできない。

 寧ろ椿は……


「きっとどうしようもなかったんだよ。どっちかは必ず……うんうん。紅葉が私を突き放していなかったら、私も一緒に死んでいたかもしれない」


 もしもあの時、紅葉が椿を突き放していなかったら?

 もしもあの時、熊の振るう腕がもう少し強かったら?

 もしかしたら、椿は進と契約を結ぶ間もなく死んでいたかもしれない。


「それでも進は、私を助けてくれた。……それだけじゃない。進は何の力もなかった私に力をくれた。そのお陰でみんなを助けることができた。私一人じゃ何もできなかったけど……それでも、進がくれた力のお陰で、最初の一歩を踏み出すことができた……だから、あの時私を助けてくれて、ありがとう」


 言っている間に気づいたけれど、椿はまだあの時のお礼を言っていなかったような気がする。

 あの時の椿は重い人間不信だったし、それどころではなかった。

 その後も何かと忙しくて、すっかり忘れてしまっていた。


 もしかしたらもう感謝は伝えていたかもしれないけれど、この場で感謝を伝えることが悪いわけじゃない。

 この感謝はきっと、何度でも伝えるべきものだから。


「……今の貴殿の言葉、それは貴殿自身にも送るべき言葉なのではないか?」

「え?」


 獅子王の言葉に、椿は一瞬どういう意味かわからずに困惑する。


「貴殿は今、その友に救われたと言った。そしてその男と出会い、同胞の危機を救ったのだと。ならば貴殿は、その友を救えなかったのではない。その友が貴殿を救い、他の同胞を救うための希望を繋いだのだ。それを貴殿は見事に果たし、友が繋いだ希望を手放すことなく、最後までやり遂げたのだ。ならばそのことを誇れ。友が繋いでくれたからこそ、今の己があるのだと胸を張れ。そうでなければ、きっと亡き友も浮かばれぬであろうな」

「……はい」


 きっと、獅子王の言う通りなのかもしれない。

 椿が今ここにいるのは、紅葉がその身をとして守ってくれたから。

 そのお陰で進と出会い、力を得て仲間のみんなを助けることができた。


 全ては紅葉が繋いでくれたから。

 いつまでも引きずったままじゃ、確かに紅葉も浮かばれないかもしれない。


 ならば少しだけ、自分を誇ってみようと思う。

 自分は紅葉のお陰で救われて、捕らわれた仲間を助け出すことができたのだと。

 紅葉が守ってくれたことに、意味はあったのだと。

 そう胸を張れるようにしようと。


「…………」


 だが同時にふと思ってしまった。

 椿が助け出すことができたのは、あくまでほんの一握りの人たちでしかない。

 弟の翔も含めて、盗賊団のアジトにはまだたくさんの仲間が残っているはずなのだ。


「翔……」


 思わず弟の名前を呟いてしまうが、今回の椿は何も出来ない。

 それは椿自身が一番よくわかっている。

 自分ではまだ、今回の討伐に参加するには力不足だということを。


 零との手合わせを経て、椿も自分が強くなったという自覚はある。

 だけどまだ足りない。

 零や万衣と並んで戦うには、まだ自分はその強さに至っていない。


 だから椿は、今回の討伐を諦めるつもりでいた。

 ただ零たちがアジトに向かうのを見送り、無事に他のみんなを連れて戻って来るのを待つだけ。

 足手まといでしかない自分にできるのは、たったそれだけしかなかった。


 だけどそれでも、出来ることなら――


「獅子王殿、一つよろしいでしょうか。今回の討伐に、彼女も参加させてはもらえませんか?」

「……え?」


 何を言っているのかわからず、椿はその発言をした張本人――進の方へと振り返る。

 すると進は、ゆっくりとその右手を椿の頭の上へと乗せる。


「!」


 その瞬間、椿の中で眠っていた力が解き放たれたような気がした

 それと同時に、今まで強く感じていた進とのつながりが、力に反比例して弱くなっていくように感じる。


「今まで借りていたあなたの力をお返ししました。これであなたも十分に戦えるはずです」

「それって――」

「どうですか、神楽さん?」


 その言葉の意味を聞き返そうとする前に、進は顔を上げて零の方を見る。


「……確かに、今なら足手まといにはならないでしょうね。天照の強化も足せば、戦力としては十分だと思いますよ」


 零はそう言いながら、獅子王の方へと視線を向ける。


 確かにそれだけしてもらえれば、椿も十分に戦えるかもしれない。

 零の手合わせを受ける時に、何度か天照の魔法をかけてもらって、その力の制御も出来るようになっている。

 まだ完全ではないけれど、戦うには十分なはずだった。


「……なるほど、零殿がそう言うのであれば……よかろう。貴殿さえよければ、今回の作戦に加わると良い」

「……ありがとう、ございます」


 椿はただそう言って頭を下げる。

 これで椿もみんなを、弟の翔を助けに行くことができる。

 そのことが嬉しくて、より一層気合が入って……少しだけ寂しく思った。


「良かったですね」

「…………ありがとう」


 頭を撫でてくれる進に、椿はただそう返すことした出来なかった。

 椿に力を返したことの意味を考えれば、進との関係も、もうこれで終わりなのだから。


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