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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第三章 盗賊団討伐編
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第一話 黒猫の友情と殺意 壱

本日より第三章投稿開始です。


今回のヒロインは心の声が少し特殊になっています。

 □■???


(……ここは、どこ?……)


 最初に目に入って来たのは、見たことのない森の景色だった。

 どこまでも続くように木々が生えていて、当然記憶にないのだから、ここがどこなのかはわかるはずもない。


(森の中?)

(木がいっぱい)

(なんでこんなところにいるの?)

(誰もいない)

(何が起きたの?)


 一気にいろんな疑問が溢れ出てきて、それぞれの分割された思考回路が、それぞれの疑問について思考を巡らせる。


(わからない)

(どうすればいいの?)

(お兄様)

(寂しいよ)

(助けて……)


 気づけば森の中にたった一人。

 頼れる人は誰もおらず、どうしていいのかもわからない。


 何もできないまま、ずっと木の下で蹲っていると、どこからか草木をかき分ける音が聞こえてくる。


「ねぇあなた。こんなところで何しているの?」


 ここに来て初めて聞いた人の声。

 万衣(まい)が顔を上げると、目の前には自分と同い年くらいの少女が一人いた。


(誰?)

(猫さん?)

(耳がある)

(尻尾がある)

(可愛い)


 とりわけ目を引いたのは、少女の容姿そのものだ。

 頭とお尻のそれぞれに、猫のような耳と尻尾が生えており、茶髪は後ろで一本にまとめられ、その桃色の瞳は彼女の愛らしさをさらに引き立てている。


「え!? えっと、ありがとう。でもあなたも十分可愛いと思うわよ」


 何やら突然お礼を言われて、思わず首を傾げてしまう。


(あれ?)

(私まだ何も言ってない)

(心を読んだ?)

(すごい)

(魔法みたい)


「え? あ、うん。私って少しだけ人の心の声が聞こえるんだ。いつもはほん少しだけなんだけど。なぜかあなたは結構はっきり聞こえるのよね。なんて言うか、一度にたくさんの声を聞いてる感じというか……」


(うん)

(多分合ってる)

(私は特別)

(一度にたくさんのことを考えられちゃう)

(やっぱり人の心を読めるってすごい)


「ふーん。そうなんだ。ところで、あなたお名前は?」

「…………万衣」

「万衣ちゃんかー。私は(もも)。よろしくね。万衣ちゃんはどうしてこんなところにいたの?」


 桃と名乗った少女の問い、万衣は静かに首を振る。


「……わからない」

「そっかー。その様子だと、帰るお家もわからないんだよね?」

「……うん」


 改めて誰かに言われると、本当に自分が独りぼっちだってわかって悲しい気持ちになる。

 目の下から何かが込み上げてきて、それが外に出ないように、万衣は必死になって目元に力を込める。


「そう…………なら私の家に来なよ」

「…………え?」


 突然の申し出に、万衣の口から思わず変な声が漏れる。


「こんなにも可愛い子を一人になんてできないよー。それに万衣ちゃんがお店を手伝ってくれたら、きっとお父さんもお母さんも喜んでくれると思うんだよねー。どうかな?」


(いいのかな?)

(迷惑じゃないかな?)

(ちゃんとお手伝いできるかな?)

(断っちゃったらまた一人)

(一人ぼっちはヤダ)


 様々な不安が頭の中を過り、上手く返事が出てこない。


 だけどその不安が聞こえたのか、桃が優しく万衣にその手を差し出してくれる。

 桃の手と顔を交互に見て、万衣はゆっくりと桃の暖かな手を握った。



 △▼



 桃の家は、村ではそれなりに賑わいを見せる食事処だった。

 家族三人で経営していて、いつも笑いながら忙しそうにしている。


 今日も今日とて、たくさんのお客さんが来店している。


「……いらっしゃい、ませ」


 桃に着せてもらった給仕服を身に纏い、万衣はひらりと扉の方に振り返る。


「空いている席に、どうぞ……」


 途切れ途切れではあるが、何とか最後まで言い切れた。

 本当ならもっと滑らかに言うべきかもしれないけれど、こればかりはしょうがない。


(言えた……)

(また違う猫さんだ)

(もっと頑張らないと)

(今日も猫さんがいっぱい)

(次はもっとちゃんと言えるようにする)


 というのも、万衣は生まれつき、一度にいろんなことを考えられる――考えられてしまうことが、口下手の原因だったりする。

 言いたいことがたくさんあるのに、声に出せる口は一つだけ。

 それがどこか息苦しくて、いつもくぐもったことしか言えないのだ。


 だけど今は、そこまで息苦しさは感じない。


「うんうん。その意気だよ。焦らなくていいからねー。寧ろ万衣のお陰ですごく助かっているんだから。あっ、あそこの机のお皿下げてもらってもいい?」


 桃の言葉に、万衣は軽く頷いて食器の片づけに行く。


 桃は万衣が声を出さなくても、心の声を聞いてある程度意味を汲み取ってくれる。

 万衣の思考全部がわかるわけではないようだけど、それでも自分の言葉にしたいことを聞いてくれていると思うと、少しだけ気が楽になる。


「ねぇ、あの子可愛くない?」

「あぁ、髪も尻尾の毛並みもきれいだよなぁ」

「最近働くようになった子だよな」

「村では全く見なかったから、他所から来たんじゃねぇか?」

「でも可愛いからいいだろ。たまに耳をピコピコさせるのがまたいい!」

「どうにかお近づきになれないかねぇ」


 店の中にある一つの席から、ふとそんな会話が聞こえてくる。

 店の中で働いているのは、主に桃と万衣の二人であり、桃の両親は厨房で料理を作っている。

 最近という言葉から、きっと万衣のことを言っているのだろうとわかる。


(耳と尻尾)

(変じゃないかな)

(まだ慣れてないから)

(似合っているといいな)

(でもどうして猫さんになっちゃったんだろう?)


 あの日桃に連れられて、店先にある窓に映った自分の姿を初めて見て、万衣は自分が()()姿()になっているのだと気づいた。

 お尻の少し上くらいから髪の毛と同じ黒色の尻尾が生えていて、頭の上にはピンっとした二つの耳が生えている。


(猫さんの国に来たから?)

(夢の中だったりして)

(でも猫さん可愛いから好き)

(いつまでこの格好なんだろう?)

(あっ、三番席に注文が入った)


 少しいろいろ考えていると、()()()からお客さんの注文が入ってきたことを伝えてくる。

 それを厨房近くにいる他の分身体を通して、桃の両親たちに伝える。

 ちらりと注文のあった席を見ると、そこではお客さんが、万衣の分身体である黒猫を撫でて、可愛がってくれていた。

 その感覚が万衣本体にも伝わってきて、少しだけ万衣はへにゃりと目を細めた。



 △▼



 万衣がそれに気づいたのは、桃の家に来てからすぐのことだった。


 朝起きて目を覚ますと、目の前には一匹の黒猫と()()()姿()が映っていた。

 黒猫はじっと万衣のことを見つめ、視界に映る自分もまた、じっとこちらを見つめている。

 しばらく互いに見つめ合ってから、万衣はもう一つの視界が、布団の上に乗っている黒猫のものだと気づいた。


 それから万衣は、自分が何もないところから黒猫を呼び出せるということを知った。

 一度に十数匹の黒猫を、まるで呼吸をするかのように自然と出すことができるのだ。


 そのことを桃に相談してみれば、「それが万衣の魔法なんじゃないの」という答えが返ってきた。

 桃が他人の心の声を聞くことができるように、自分にも魔法と呼べる力があることに、万衣は年甲斐もなく無我夢中で興奮してしまったほどである。


 それからふとした経緯があり、今ではそれぞれの席に、感覚を共有した黒猫を一体ずつ置いて、注文を一手に引き受けるようになったのである。



 △▼



(もうすぐで一番席の料理ができそう)

(あっ、六番席が食べ終わるから片付けないと)

(四番席の追加注文を伝えて……)

(八番席ってお水持っていった方がいいかな?)

(……何からやればいいの?)


 ただ、店のあちこちに分身体を置いて、店の様子を常に見渡せるのは良いのだが、猫の体で人がやっている作業をするわけにはいかない。

 そのため実際に作業をするのは万衣本体であり、動かせる体は一つだけ。

 物事によって思考を分けることはできても、総合的な処理能力に欠ける万衣では、何からすればいいのかわからないのだ。

 だがそこは、この世界で知り合った大切な友達が上手く手助けをしてくれる。


「食器は私が片しておくから、万衣ちゃんはお料理を運んでおいて」

「……うん」


 桃の言葉に口元を緩ませながら頷いて、万衣は言われた通り、できた料理をお客さんの下へと運ぶ。


 ここでも桃は、万衣が何を考えているのかを理解して、的確な指示を出してくれる。

 日本にいた時も、ここまで万衣のことを理解してくれる人はあまりいなかった。

 それができたのは、家族である両親と、たった一人の兄くらいなものだろう。


 だから桃の存在は万衣にとっては大切だったし、桃のことが大好きだった。

 独りぼっちだった万衣を見つけてくれて、兄とはまた違った意味で、お姉ちゃんのように振舞ってくれる。

 それがどこか落ち着いて、幸せで。

 願わくは、桃とはずっと大切なお友達でいたいと、そう思った。


第三章は毎週投稿していく予定です。

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