表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第二章 獣人解放編
27/106

第十四話 強くなりたい

本日二話目&第二章最終話です。

 □■椿


『……紅葉』


 椿は目の前に立つ、大切な親友の名を呟く。

 その名の由来である髪色をなびかせて、彼女は小さく微笑んでいる。

 その姿にどこか安心しながら、椿は紅葉に語り掛ける。


『私、嫌な夢を見てたんだ。紅葉や村のみんなが死んじゃう嫌な夢』


 本当に嫌な夢だった。

 胸の奥が締め付けられて、それでも何もできない自分がいて、それが本当に嫌だった。


『私一人じゃ何もできなくて、どうすることもできなく、自分のことが……嫌いになりそうだった』


 誰かを守るためには力が必要で、でも自分にはその力がなくて、何も守れなかった自分が許せなかった。


『でももう大丈夫』


 椿はもう無力ではない。

 戦うための力を、誰かを守るための力を手に入れた。

 これで胸を張って、みんなのことを守ることができる。


『だから一緒に帰ろう』


 椿はそう言って、紅葉に手を伸ばす。

 その手を取ってくれるように笑いかけ、一緒に帰ろうと声を紡ぐ。


 だけど紅葉は、その手を取ってはくれなかった。

 静かに首を横に振って、彼女は何も言わず、ただ椿に背を向けて歩き出す。


『待って、待ってよ!』


 椿は紅葉を追って走り出す。

 紅葉は歩いているだけなのに、走っている椿が追い付けない。

 どんどん距離が離れて行って、それでも彼女を掴もう手を伸ばして――



 △▼



「紅葉!」


 椿は寝台の上で飛び起きた。

 そこにはもう彼女の姿はなく、ただ見慣れない部屋の光景だけが広がっていた。


「夢?…………ここは?」


 呼び起された意識が現実を蘇らせ、自分がここにいる理由を思い出す。


(あぁ、そうか。みんな、助けられたのか)


 城の中にあてがわれた部屋を眺めながら、椿はどこか惚けたように遠くを見る。

 つい昨日のことだというのに、あまり実感が湧いてこない。

 それだけ、昨日は椿にとって、目まぐるしい一日だったということなのだろう。


 あの後、雷炎たちが着た後に、椿たちは目がちかちかするほどに豪華な城の中を通って、ひときわ大きな部屋に案内された。

 そこには椿から見ても華やかな人間たちがいて、思わず身構えてしまったが、その中から美咲が現れたことで、ほんの少しだけ気が楽になった。


 それから何やらいろいろなことが起きて、椿にはよくわからなかったけど、今まで食べたことのないような食事が振舞われた。

 最後には椿たちや、他の村のみんなに、寝台の置かれた部屋を宛がわれて、そこで寝ることになった。

 使用人の部屋だと美咲たちは言っていたけど、今まで感じたことのないような寝心地の良さに、昨日はすぐに寝入ってしまったような気がする。


 「そういえば……」と、椿はある人間のことを思い出す。

 それは昨日の戦いで、椿が殺されそうになった時に助けてくれた人間のことだ。

 いつの間にかいなくなっていた彼らだが、その存在は確かに椿の中に刻まれていた。


 霞みかけた視界の中でも、椿ははっきりと彼らの戦いを見ていた。

 椿が全く歯の立たなかった鎧騎士を、あの人間はまるで、赤子の手をひねるかのように倒してしまった。

 そのことがさらに、椿の未熟さを突き付けられて、両手の拳に力が入る。


 だが同時に椿を満たすのは、あの人間に対する憧憬だ。


 淀みもなく、濁りもなく、ただ強くあろうと突き進んだ先にある境地。

 彼こそが、自分が目指す強さの到達点ではないかと、椿には思えた。


「強く、なりたい」


 鎧騎士との戦いで、椿はまだ自分が弱いことを知った。

 力を与えられたとしても、それではまだ、誰かを助けるには足りなかった。


 だからこそ、椿はもっと強くなりたかった。

 今度こそ、自分が守りたいものを守れるように。


 椿は寝台から降りて、部屋の外へと出る。

 顔を洗うために水汲み場を探すのだが、あまりに広すぎて、どこに何があるのか見当もつかない。

 しばらく一人でさ迷っていると、後ろから人の気配がやってくる。


「椿さん?」


 聞き知った柔らかな声音に、椿はゆっくりと後ろへと振り返る。

 そこにいたのは、獣人である椿を同じ“人”として見てくれて、何の力もなかった椿をここまで導いてくれた人間だった。


「進……」

「おはようございます……? どうかしましたか?」


 朝の挨拶をしてきた進は、どこか椿を気遣うように首を傾げる。

 恐らく、彼を見てつい思ってしまったことが顔に出ていたのかもしれない。


「進はさ、これからどうするの?」


 椿は不意に気になったことを進に尋ねる。

 彼は顎に手を当てて、少し考える素振りを見せてから答える。


「そうですね……一先ず、美咲さんが紹介してくれるという方に会ってみようと思います。それからのことは……正直まだわかりませんね」

「……そうなんだ」


 ある意味予想通りの答えに、椿は無意識に眉尻を下げてしまう。

 だがこれは、最初からわかっていたことでもある。


 進はもともと、この世界の人間ではない。

 彼には元の世界というものがあって、ここではないどこかに帰る場所がある。

 そこに帰ろうとするのは極自然なことだし、椿と別れることも自然なことだ。


「椿さんは、これからどうするのですか?」


 進の問いかけに、椿は下げていた目線を上げて彼を見る。

 そこには純粋な興味の色がありありと見て取れた。


 あまり考えていなかったことを聞かれて、少しだけ戸惑ってしまう。

 だが()()()()()()ではなく、()()()()()()()であれば、答えは既に決まっている。


「私は、強くなろうと思う。あなたから力をもらって、戦って、でもそれだけじゃ足りなかった」


 力をくれた彼の前で、不躾かもしれないけど、力不足だったことは確かだ。

 進が悪いわけではなく、ただ己の力を十全に引き出すことができなかっただけ。


 ならばここから先は、きっと椿次第だ。

 だからこそ、やることなんて最初から決まっている。


「だから強くなりたい。今度こそ、私の大切なものを守れるように」


 それは自分に課した決意であり、宣言だ。

 もう何も奪わせないし、奪われても必ず取り戻す。


 その覚悟を宿して、椿は進の黄色く輝く瞳を見る。


「そうですか。では微力ながら、私も応援させていただきますね」

「……ありがとう」


 優しい微笑みを絶やさない進に、椿は一拍の間を置いて、お礼の言葉を口にした。






 ◇◆


 椿が仲間を救出し、新たな決意を固めてから少し、天眼家が治める町の中央に佇む城の一室で、天眼心悟は上がって来た報告に目を見開いていた。

 普段はあまり、動揺を見せることが少ない彼にしては珍しく、たっぷり間を置いてから瞬きをして活動を再開する。


「……俄かには信じられないね」


 心悟は内心の心情を隠すこともなく、ありのままの感想を吐露する。

 それだけ今回の報せは、彼にとっては想定外だったということなのだろう。

 心悟は顔を上げ、その報せをもたらした者を見る。


「本当に確かなのかい?」


 心悟はもう一度、その真偽を問い正す。

 だがその者は、ただそれが事実であると肯定するのみだった。


「まさかそんなことが……」


 今回心悟に齎された報せは、石壁家領で美咲たちがやらかしたこと――ではない。


 もちろんそちらの報告も、その日の内に蒼鳥の鳥で伝わっているし、彼は内心で密かに「よくやった!」とガッツポーズをしていたりする。

 それだけ石壁家の存在は、彼にとっては目の上のたん瘤だったし、上条進の存在も、神楽零という存在がいるため今更ということもある。


 だが今しがた心悟に齎させた報せは、それらとは比べられ物にならない程の衝撃を彼に与えた。


「……獅子王の討伐隊が全滅するなど」


 それはここと接した隣国である連合国でのお話。

 心悟に齎されたのは、盗賊団討伐のために派遣された討伐隊が、盗賊団の返り討ちによって全滅したという報せだった。


これにて第二章は完結です。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


楽しんで読んでいただけたのであれば幸いです。


もしよろしければ、ブックマークや感想などで評価していただければ嬉しく思います。




次章第一話の投稿は、来週を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ