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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第二章 獣人解放編
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第十三話 救出

 □■神楽零


 状況を確認する。

 目の前には鎧を着込んだ男が一人。

 少し離れたところに、侵入者の男と鎧が一体。

 そして、足元には傷を負った獣人の少女と――()()()()()()が傍にいる。


(させないよ)


 零は《重力操作》を使って、少女に振り下ろされそうになった剣を受け止める。

 そのまま効果範囲を拡大させ、重力の力で鎧を宙で潰していく。


(意外と固いな)


 敵の性能を上方修正しながら、零はさらに力を強めていく。

 あともう少しで壊し切るというところで、鎧は忽然とその姿を消した。


(……転移? いや、違うな。完全に壊される前に戻したと言ったところか……もう一体も回収されたな)


 どうやらよほど壊されたくはないらしい。

 恐らく、無限に何度でも出せるというわけではないのだろう。


 そんな予想を立てながら、零は最初の立ち位置から動くことなく、静かに鎧の男を見据える。


「椿さん!」


 鎧が消えて、相手がいなくなったことで、侵入者の男が獣人の少女の下までやって来る。


「そいつを連れて下がっていてください。あいつは俺が相手をします」

「……お願いします」


 物分かりがいいのか、男は特に反論することなく少女を抱きかかえて後ろへと下がる。

 それを見送って、零は静かに目を閉じる。


(さて……)


 一つ息を吐き、零は自分の意識を沈めていく。


 深く、深く、深く。

 感覚を研ぎ澄ませ、思考を巡らせ、ただそれのみに神経を集中させる。


 そして再び目を見開いた零は、流れるように男との間合いを詰めた。


「フッ!」

「クッ!」


 零が刀を振るえば、男もそれに合わせて剣で受けてくる。

 だが男は完全には受け切れずに、体勢を崩したまま、甲冑越しでも表情が歪んだのがわかる。


 そのまま《重力操作》も使って無理やり押し切り、腕を斬り飛ばす勢いで一閃する。

 だが男は咄嗟に身を捻ることで、斬撃を受け流し、鎧に浅い傷をつけるに留まらせる。


(やっぱり固いな。だが斬れないことはない)


 浅い傷であったとしても、傷であることには変わらない。

 つまりは、刀だけでも十分に相手になるということだ。


(それにしても……こいつ意外と強くないか?)


 男が振るう剣を刀で受け流しながら、零はふとそんなことを思う。

 一貴族に仕えているのであれば、恐らく彼は二級魔戦士なのだろう。

 だがはっきり言って、どうにもその力は二級の範疇に収まるようには見えない。


(フィジカル面では、圧倒的に向こうの方が上。速さも速風には及ばなくても十分だ。加えてこの筋力に、同じだけの力を持った鎧の召喚……どうにも二級に収まる強さには見えないんだよなぁ……)


 もちろん、それは零が何の魔法も使っていない素の状態と比較した場合での話だ。

 魔法を全力で使えば、はっきり言って男では零の相手にはならない。


(まぁ、相手としてはちょうどいいか)


 既に獣人たちの救助に、あの精霊二人を向かわせているのだ。

 わざわざ速攻で片づける必要なんてない。


(少し付き合ってもらうぞ)


 《未来視》で男の攻撃を予測。

 ほんの一瞬だけ早く動き出して回避。

 《時間加速》で男のテンポを崩し、《重力操作》で一瞬だけ力を入れて刀を振るう。


 この日まで試行錯誤してきた剣術と魔法の合わせ技を駆使して、零は鎧の男と切り結ぶ。

 大して疲労は感じないが、男の方はそうでもないらしい。

 ほんの少しずつではあるが、男の動きが鈍り始めている。


(このまま押し切れるか?)


 だがそんなはずはない。

 これだけの力を持っている強者が、このまま何もしないはずはないのだから。


「舐めるな!」


 男は零の刀を鎧で受け、剣を大きく振りかぶって一閃する。


 一度間合いの外に出て、着地と同時に前に出る。

 零に合わせて男が後ろに下がった直後、眼前に一体の鎧が姿を現した。


「…………」


 普通の剣士なら完璧に決まるだろう間合いと瞬間で、鎧は零に向かって剣を振るう。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()零にとっては関係ない。


 中に人が入っているわけでもないため、手加減をする必要もない。

 鎧の剣が振り下ろされるよりも早く、横に一閃して切り伏せる。

 鎧は光の粒子となって消え、その陰から、()()()()()()()()が斬りかかって来る。


「フンッ!」


 男の上段からの剣は、決して力が強いわけではないが、それでも刀を引き戻して受け止めるために、一瞬だけ足を止められる。

 男にとっては、その一瞬さえあれば十分だったのだろう。


 零の真後ろに現れた二体目の鎧が、零に向かって斬りかかって来る。

 だが何度不意を突こうとも同じこと。

 未来が見える者にとっては、不意打ちは些事でしかない。


「ゴフ――」


 男の腹に蹴りを一発入れて壁に叩きつけ、自身の時間をさらに加速させる。

 相対的に遅くなった鎧に体を向け、脳天から一刀両断に切り伏せた。


(……終わったか)


 追撃がないことを確認し、残心を解いて刀を収める。

 壁に叩きつけた男は、そのまま項垂れるように倒れて起き上がる素振りは見せない。

 鎧を着ていなければ、身体能力はそれほど高くないのかもしれない。

 恐らくだが、男が召喚できた鎧は三体までであり、その内の一体を自身の身に纏わせることで、身体能力を強化していたのかもしれない。


「終わったようやなぁ」


 不意に虚空から声がして振り返ると、ちょうど天照が姿を現していた。


「そっちは?」

「問題あらへんよー。みんな檻から出してー。今はつくよんが見張っとるとこやでー」

「了解――というわけで、お仲間は無事みたいですよ」


 零が振り返った先、そこには人間の男と、彼に支えられるように立っている獣人の少女の姿があった。


「あなたたちは?」

「フッフーン。内らはな――」

「ただの通りすがりだ」

「ちょっ! 零やん! 何で美味しいところ持っていくんね。しかも地味に格好よくないし!」


 天照が言うより早く、零は簡潔に、かつ適当に彼らに答えておく。

 なんだか隣が少しだけ騒がしいような気がするが、無視しておこう。


「こっちだな」


 零は地下通路のさらに奥へと進んでいく。

 侵入者の二人も、黙って後をついてくる。


 見張りらしき男たちが倒れている扉の前まで辿り着き、零は重厚そうなそれに手を掛ける。


「あら? 意外と遅かったわね」


 扉の先で、零たちに気づいた月詠がこちらに振り返って声を掛ける。

 足元にはまんま盗賊のような恰好をした男たちが転がっており、その中心に特徴的な耳と尻尾を持った集団が目に入った。


「みんな!」


 男に支えられた少女が声を掛けると、何人かが顔を上げて、等しく少女の姿を見て目を丸くしている。


「……椿、ちゃん」

「椿ちゃん!」

「椿お姉ちゃん!」


 彼らは思い思いに少女の名を呼び、少女も男の傍を離れて仲間の下まで、自分の足で歩いて行く。


「生きていたんでね。よかった」

「おい! 怪我してるじゃねぇか!」

「大丈夫だよ。このくらい。みんな無事でよかった」


 互いに無事でいられたことを喜び合っている姿を見ると、少しだけ、手を貸してよかったという気分にもなる。


(というか、まんま猫顔の奴もいるんだなぁ。いや、猫顔の奴らは全員男か?)


 獣人たちの様子を観察していると、ふとそんなことを思う。

 獣人の女性は、肌や顔立ちが人間に近いが、獣人の男性は、顔はまんま猫であり、女性と違って素肌がほとんどないほどに体毛が生えている。


「……うっ……」

「!」


 そんなことを考えていると、ちょうど近くに倒れていた男が呻き声を上げる。

 縄とかで縛っているわけではないため、暴れられたら面倒なことになるだろう。


 零はちょうど顔を上げた男の前に、刀を突き出す。


「大人しくしていろ」

「…………」


 男は何も言わず、ただ零のことを睨んでいる。

 だが時期に美咲の騎士たちもここに到着するだろう。

 どう足掻いたとしても、もう彼らに勝ち目はない。


 だが、勝ち目がないからと言って、彼らが()()()()()()()をしないわけではない。


「――そいつらを殺せ!」


 薄っすらと笑みを浮かべた直後、男はただ一言そう叫んだ。

 その意図をすぐに理解することはできずに一瞬だけ困惑する。


 だがその直後、後ろにいた獣人たちが、まるで何かを必死にこらえるように苦しみ始める。

 彼らを一瞥して、零は再び目の前の人間に視線を戻す。


「何をした」

「は! もうあいつらは止められねぇ! お前ら仲良く殺し合って――グハッ」


 詳細を話す気はないようだったので、顎に一発入れてもう一度昏倒させる。

 後ろに振り返って、もう一度獣人たちを観察してみると、胸元辺りが怪しく光を発しているように見える。


「みんな!」

「……逃げ、て……」


 現状から察するに、獣人たちはどうにも零たち侵入者に襲い掛かろうとしているように見える。

 その引き金になったのが、さっきの男の言葉であることは間違いないだろう。


(さて、どうしたものか)


 ここにいる面子であれば、襲われたところでいくらでも対処のしようはある。

 だが彼らを殺すわけにもいかないことを考えれば、泥沼化することは避けたい。

 ならば手っ取り早く、ここは《重力操作》を使って制圧する方が最善だろう。


 そう考えて行動に移そうとするよりも早く、月詠が先に対処する方が早かった。


「……面倒になったわね」


 スッと彼女が右手を挙げた直後、零たちのいる部屋に突如“夜”が顕現する。


「ッ!」


 一瞬だけ妙な倦怠感を感じるが、すぐにそれは消えてなくなる。

 天照と月詠以外は似たような感じだが、獣人たちはまるで眠りについたようかのように、その場で事切れたように倒れた。


「!」

「心配しなくていいわ。少し眠ってもらっただけだから」


 突然のことで混乱している獣人の少女とその連れの男に対して、月詠はあやすように説明する。


 《魔魂衰弱》。

 それこそが、今しがた月詠が振るった力の正体であり、この領域を支配する“夜”の正体だ。

 彼女の魔法は、一定範囲内に入った魂の力を弱めるというもの。

 今回はその力を使って、獣人たちの魂を一時的に仮眠状態にしたのである。


「それにしても、なんや変なものが混じっているようやなー」

「変なもの?」


 何やら調べているらしい天照の傍まで行って、彼女に尋ねる。


「せや。たぶんやけど、これがこの人らを苦しめてるんやと思うんやけど」


 獣人たちに刻まれた刻印のようなものを指しながら、天照は零に説明する。


「……そうよ」


 すると、天照の声が聞こえていたのか、獣人の少女が怒りを滲ませるように呟く。


「《隷属刻印》って、あいつらは言ってた。体が勝手に動いて、それに逆らうと全身が焼けるように痛くなるの。今思い出すだけで虫唾が走る」

「……今はそうではないようだが」


 獣人たちが命令された時に、彼女は特に苦しんでいる様子ではなかったことを思い出す。


「それは私との契約の影響でしょうね」

「契約?」


 話に入って来た少女の連れの男に、零はふと聞き返す。


「私の魔法です。それで彼女の契約が上書きされたのでしょう」

「……ねぇ、進。あなたの魔法で、私の時みたいにみんなを助けられない?」

「それは……難しいですね」


 少女の提案に、進は渋い顔をして答える。


「私自身、まだ自分の魔法がどんなものなのか理解しきれていません。ですが、流石にこれだけの人数を一度に行うのは無理です。すみませんが……」

「……そう」


 男の言葉に、少女は悔しそうに項垂れる。

 そんな二人の様子を見ている目の端で、何やら仄かな光が目に入る。


「何してるんだ?」


 傍で何やらやっている天照に、零は何をやっているのか聞いてみる。


「……ちょっと待ってなー」


 天照の目の前には、体が仄かに光っている獣人の姿がある。

 光を発していること自体は天照の魔法の副作用なのだが、天照はその胸元に手を添えて、何か探っているように手を滑らせている。


「よっ!」


 するといきなり、天照は獣人の中に自身の手を突っ込んだ。


「よいしょっとー!」


 いきなり突っ込んだかと思えば、天照は勢いよく何かを掴み取るように引っこ抜く。

 その手の中には、何やら禍々しい何かが握られているように見えた。


「……何したんだ?」


 零が聞くと、天照は何かやり切ったような笑顔を浮かべて振り返る。


「この人らを苦しめていた《隷属刻印》? とか言うんのを引き剥がせないかと思うてな。ちょっとやってみたら、上手くいったようで良かったえー」


 そう言う天照の前には、さっきまでの苦しそうな表情を浮かべていた獣人が、今では安らかな表情を浮かべている。


「……助けられるの」


 天照とのやり取りを聞いていたのだろう獣人の少女が、どこか懇願するような眼差しで尋ねてくる。


「もちろん! 内らに任しとき! つくよんは結界の維持を頼むでー。内一人やと、多分引き剥がすの大変やからなー」

「はいはい」


 月詠の了解も受けて、天照は片っ端から獣人たちに処置を施していく。


 どうやっているのか聞いてみると、月詠の《魔魂衰弱》で魂にへばりついている《隷属刻印》の力を弱めて、妹と対となる天照の魔法によってへばりつかれている魂の力を強めて抵抗力を上げ、最後は精霊として直接《隷属刻印》の魔力を引き千切ったらしい。


 中々に大胆な方法だが、流石は魂の専門家と言ったところだろう。


 それからほどなくして、薄暗い地下牢の空間に、雷炎が率いる騎士団が到着した。


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