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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第二章 獣人解放編
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第九話 同盟締結

 □■上条進


 少女に案内されてやって来たのは、町の中心部にあるどこか高級感の漂う区画。

 その中でも一際目を引く黄金色の建物――ではなく、その隣に建てられた少し控えめな建物の中に、少女は臆することなく入っていく。

 控えめと言っても、隣に立つ金ぴかの建物が比較対象であるため、実際は寧ろこちらの方が重厚な貫禄を醸し出している。


「…………」


 接待などでこういう店には何度か足を運んでいる進であっても、畏まって少女のようにすんなり入るとは行かない。

 椿に至っては、半ば放心状態である。


「何をしておる。早く来ぬか」


 少女に呼ばれて、進と椿は急かされるように中へと入る。


「個室で頼むぞ」


 少女がそう伝えると、店員は何の問答もすることなく三人を席まで案内する。

 一見すれば進が保護者に見える組み合わせだが、店員は進ではなく、先頭を歩く少女が代表であるかのように対応している。

 そのことに、進は目の前の少女がどういった立場の人なのか何となく察した。


 席に着き、店員が部屋から出たところで、少女は話を切り出す。


「さて、ここまで来れば。もう追手が来ることはないじゃろう。もう耳を隠さなくても大丈夫じゃぞ」

「…………」


 頭に進の上着を被せている椿は、進の方へと視線を向ける。

 進が軽く頷くと、椿は上着を取って進へと返した。


「それで、このお店は?」


 本題に入る前に、進は軽く少女に話を振ってみる。


「妾の行きつけ……と言うほどではないがのぅ。前に何度か来たことがある。この辺りでは真面な店じゃよ。格式もあって弁えもある。こういう密会の場にはちょうどよい」

「? 隣の店は違うのですか?」


 進は隣に建っている悪趣味な金ぴかの店を想像しながら尋ねる。

 すると少女は、今日一番の険悪な表情を浮かべて答える。


「あそこが一番ダメじゃ。特に今回の場合はのぅ」

「なぜ?」

「あそこは石壁家とガッツリ繋がっておるんじゃよ。個室なんて、あってないようなものじゃ。そもそもあの店事態、この店が石壁家からの協力を断って、潰すために建てられたようなものじゃしのぅ」

「石壁家?」

「この町の領主じゃよ。あの悪趣味な金ぴかも、あ奴らの感性じゃろうなぁ。まったく、いくら金が取れるからといって、あれは流石にやりすぎじゃろ」


 少女の意見に、進も心の中で深く同意する。

 進もどちらかと言えば、金ピカよりもどこか落ち着きのある雰囲気の方が好きなのだ。


「それで、この町にそれほど詳しいあなたは、いったい何者なのでしょうか?」


 進は一歩踏み込んだ質問を少女に投げかける。

 ここまでは何となしに付いて来たが、ここから先はそうもいかない。

 ここまでは何もなかったが、ここから先、何もないとは限らないのだから。


「そうじゃな。では名乗るとしよう」


 少女は今までの雰囲気から一変して、落ち着いた様子で居住まいを正す。


「妾の名は天眼美咲。この王国の南を統括する、天眼辺境伯家の娘じゃ」

「!」


 ある程度予想はしていたが、それよりも遥かに大物で、内心驚く。

 だがそんな事実に浸る間もなく、すぐに部屋は緊迫した空気に包まれる。


「……どういうつもりじゃ」


 いつの間にか、座っていたはずの椿が、美咲の隣に立っていた。


「……あなたを人質にすれば、みんなを助けられるんじゃないの?」


 美咲の首元に指先を突き出しながら、椿は彼女にそんなことを告げる。

 だが美咲はそれに臆した様子もなく、ただ淡々と椿に返す。


「無理じゃな。妾を突き出したところであ奴らがお主の仲間を開放することはないじゃろ」

「……なんで?」

「あ奴らは欲深いのじゃ。己の欲を満たすためなら、あ奴らは何だってする。それこそ、妾を切り捨てることも躊躇わぬじゃろうな」

「……あなたは偉い人じゃないの?」

「無論、妾の方が身分は上じゃ。じゃが証拠もなければ、迂闊に手は出せぬ。石壁家相手では特にな。そうでもなければ、妾たちがとっくに潰しておる」

「ッ!」


 美咲の言葉に、椿は気圧されたように一歩後ろへと後退る。

 それだけ、美咲の覚悟は本物だということなのだろう。


「じゃが、証拠さえあれば話は別じゃ。妾もあの家に手を出すことができる」

「どういうこと?」

「簡単な話じゃ。お主ら二人であの城に攻め入って、証拠である獣人族を見つけ出せばよい。そうすれば、後はこっちで何とかできるじゃろ」


 要するに、証拠がないうちは手を貸さないが、助け出すことができれば、全力でバックアップするということだ。

 だが裏を返せば、助け出すこと自体には手を貸さないと言っているようなものだ。


「それでは、私たちへの協力とは言えないのでは?」

「……勘違いしているようじゃが、妾はお主らの話を全て信じているわけではない。まだお主ら自身も、あの城に仲間が捕らえられているかどうかもわかっておらんのじゃろ? ならばどうして協力することができるというのじゃ?」

「なっ!」

「それに妾も、何も連れ出せとまでは言うてはおらぬ。お主らは仲間の下に辿り着けさえすればよい。そうすれば、こ奴の目を通して妾にもわかる」


 美咲はそう言うと、ずっと大人しくしている青い鳥を指さす。


「この鳥は?」

「妾の騎士の使い魔じゃ。こ奴をお主らに同行させる。それで無事に見つけ出すことができれば、妾が連れてきている騎士たちも参戦させればよい。あと妾にできるのは、陽動くらいなものじゃな」


 美咲は机の上に置かれた水を取って口へと含む。


「それで、どうするのじゃ? 妾の手を借りるのか? お主らで勝手にやるか? 妾を人質にするのだけは止めておいた方が良いと思うぞ。お主らも、あまり敵を増やしたくはないじゃろ」

「クッ…………」


 椿は歯を食いしばりながらも、美咲に向けていた手を下す。

 本人としては悔しいのだろうが、はっきり言って、この話は受けないメリットがない。

 寧ろ好機と見るべきだ。

 彼女が後ろ盾になってくれるだけで、例え救出が成功したとしても、賊として襲われるような心配がなくなるのだから。


「椿さん。ここは彼女と手を組みましょう。まだ人間に不信があるかもしれませんが、今は少しでも、救出の成功率を上げるべきです」

「…………わかった」


 椿は最後にそう言うと、自分の席へと戻って椅子に座る。


「良い判断じゃな。ならばここは、同盟締結祝いじゃ。勘定は妾が持つからのぅ。好きなだけ食べるが良い!」


 それから進たち三人は、高級料理店の食事を楽しみながら、城襲撃の段取りを話し合った。

 なんでも今夜は、石壁家の令息の成人を祝う宴が開かれるらしく、美咲もそのためにこの町へとやって来たのだそうだ。

 本来はいつもよりも警備が厳重になるのだそうだが、それについては美咲に考えがあるようだ。


「お客様。お連れ様がお着きになりました」

「お! 来たようじゃな。入るが良い」


 美咲が許可を出すと、一人の男が部屋へと入って来る。


「失礼しますねー。美咲様―。ご命令通り、警備の配置を変えさせて来ましたよー……? って、何ですかその二人。なんかすげぇ魔力を感じるんですが」


 入って来て早々、男は進と椿を目にして引きつった笑みを浮かべる。


「まぁ、そうじゃな。特にそこに居るのは零と同じ、この世界とは違う世界から来た人間じゃからな。そういうこともあるのじゃろう」

「あぁ、神楽さんの同類ですかー。それなら少しは納得ですねー」

「?」


 いったい誰のことを言っているのだろうか?

 進は美咲の方へと視線を向ける。


「さっき話しておった、お主と同じ世界から来た人間じゃよ。今は妾の領地に居るから、この件が片付けば会ってみればよい。きっとあ奴も喜ぶじゃろう」

「えぇ、その時はお願いします」


 それから進たちは、新たに加わった男――雷炎(らいえん)(まさる)と一緒に、救出作戦の段取りを詰めて話し合った。



 △▼



「ちょっといい」

「……なんでしょう」


 美咲たちと作戦を詰めて、料亭を後にしたところで、徐に椿が尋ねて来る。

 薄々何を聞きたいのか察したが、敢えて彼女に聞き返す。


「さっきの、違う世界から来たって……」


 「やはり」と内心で思いながら、進は椿の方へと向き直る。


「そうですね。天眼さんたちが言っていたように、私はもともとこの世界の人間ではありません。こちらの世界に来たのは……本の六日前のことですね」


 思えば、まだそれほどしか経っていなかったのかと、ふと気づかされる。

 こちらの世界に来てから驚くことの連続で、もっと時間が流れていたものだと思っていた。


「そうなんだ……ねぇ、あなたの世界では、人間と獣人が一緒に暮らしていたりしてたの?」

「いいえ。私が元居た世界には、あなたのような獣人はいませんでしたよ。なので正直、あなたを初めて見た時には少し驚きました」


 進がそう言うと、椿は驚いたように目を丸くする。

 それがどこか可笑しくて、進は思わず笑みをこぼす。


「意外そうですね」

「……だったら何で?」


 「何で自分たち獣人を、同じ“人”として見るのか?」ということを聞きたいのだろう。

 契約時に彼女の記憶を見てしまった進は、すぐにその意味を察した。


「別に、大した意味はありませんよ。私は今、あなたとこうして話しています。それだけで十分です。人間や獣人など関係ありません。言葉が交わせるのであれば、それはもう良き隣人と言えるでしょう。私にとってはそれで十分です」

「……そっか」


 椿はそう呟くと、それ以上は何も言わず、ただ浸るように目を閉じる。


「さて、私たちは作戦のために少しでも体を休めておきましょう。ここからが正念場ですから」

「うん。絶対みんなを助け出す」


 椿の決意に頷き、進もこれからの作戦に気を引き締め直した。


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