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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第一章 異世界漂着編
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第十一話 誰か一人でも

 □■神楽零


 零の今の心境は複雑だった。

 美咲からこれからどうするのかと問われて、目の前に広がる惨状を見た時にふと思ったのだ。


 『あぁ。この世界にはもう、俺の居場所はないんだな』と。


 倒壊した建物も、響き渡る悲鳴も、全て零が引き起こしたことには変わらない。

 だがそれ以前に、零がそうせざるを得なくなったのは、ひとえに零がこの世界から拒絶されたからに他ならない。


 例えこの世界で、零がどのように振舞おうとも、所詮この世界ではただの“異物”。

 こことは異なる世界からやって来た、決して交わることのない不穏分子。

 それこそが零であり、例えこの世界のどこに居ようとも、その事実が変わることはないのだろう。


 そんな世界でたった一人。

 本当の意味での孤独を実感した時に、零は無性に胸を締め付けられたような気がした。


(……結局俺は……孤高にはなれなかったってことか)


 零はとっくに失くしたと思っていた、自分の人間味のある感情に思わず苦笑を浮かべてしまう。


 今の今までずっと、零は必要以上に他人と関わることなく過ごしてきた。

 高校でも大学でも、友達と呼べる者はほとんど作らず、ただ我が道を行くだけの人生を過ごしてきたつもりだった。

 その方が気楽だったし、自分にはそれが性に合っていると思っていた。


 だがそれでも、零は孤高にはなり切れなかった。


 どれだけ他人に興味を持たなかったとしても、どれだけ他人を気にしなかったとしても、それでも零は、心のどこかでは誰かを求めて、すがっていたのだ。

 人間らしく、自分が誰かに認められて、受け入れられることを望んでいたのだ。


(……失って気づくとは、まさにこのことだねぇ)


 だからなのだろう。

 美咲が放った言葉には、ほんの少しだけ救われたような気がした。

 何も知らない世界の中で、たった一人でも、自分の存在を認めてくれたことが何よりも嬉しかったのだ。


 だがそれでも、たった一人の少女が認めてくれたとしても、世界の大半が零を受け入れないことには変わらない。

 ならばその現実は、甘んじて受け入れることにしよう。

 どれだけ力を得ようとも、零に出来るのは、たったそれだけしかないのだから。


(……じゃあ、行くかねぇ)


 もうこの町には来ることは、二度とないのだろう。

 そう思って《重力操作》を使って飛び立とうとした時、再び美咲の声が零の耳に届いた


「待つのじゃ! お主は……本当はどうしたいのじゃ!?」


 その言葉を聞いて、零は美咲の方へと振り返る。


「……どういう意味かね?」

「……そのままの意味じゃ。お主は本当は、この世界でどう生きたいのじゃ。お主の本当の望みは何なのじゃ!」

「……そうだねぇ……」


 問われた零は、少しだけ考える素振りをするが、既にその答えは決まっている。

 失って初めて気づいた、零が密かに望んでいたささやかな願い。

 それは……


「まぁ強いて言えば……誰か一人でもいいから、俺の傍にいてくれることかなぁ」


 誰か一人でいい。

 自分を認めて、受け入れて、支えになってくれる存在。

 それだけが、今の零が望むたった一つの願いだった。


(まぁでも、もう望むべくもないけれど)


 仮に正体を隠し続けることができれば、あるいはそういった存在に巡り合うことはできるかもしれない。

 だが正体がばれて見限られ、再び孤独を味わうことになるくらいなら、初めからそんなものを望まない方が幸せなのだ。


 そう思っていたのだが……


「妾ではダメか?」


 その言葉が聞こえた瞬間、零は自分の耳を疑った。

 目の前の少女が、いったい何を言っているのか、すぐに理解することはできなかった。


「……?……」


 そんな零の様子には構うことなく、美咲はさらに言葉を続ける。


「確かに今回の一件は、妾たちが先走ったことが原因じゃ。何の関係もなかったお主には、謝罪してもしきれぬが、妾たちの方も、お主の正体がわからずに必死だったのじゃ。それはどうか理解してほしいのじゃ。その上でもし、お主が妾たちを許してくれるというのなら、妾のところに来ぬか。妾なら、お主の傍にいてやれる。もしお主に牙を向く者がおれば、妾も一緒に戦ってやる。妾はもう、お主を一人にはさせぬ!」

「…………何を言っている?」


 まるで好きな人へのプロポーズのような台詞に、零は少しの間思考を停止させる。


「じゃから! 妾がお主の傍にいてやると言うておるのだ。二度も言わせるでない!」


 もう一度同じことを言われたことで、零はようやく、美咲の言っている内容を理解した。

 だが理解できたところで、それを信じられるかどうかはまた別の話だ。


「本当に何を言っているのかねぇ? 俺がここで何をしたのか知らないわけがないだろう?」


 零は少し強めの口調で、美咲に向かって言い放つ。


 実際、零はほんの少しだけ苛立っている。

 零がこの町でしてきたことは、決してそんな簡単に割り切れるようなものではないのだから。


「むろん知っておる。目の前に広がっておるからなぁ。じゃがそれは、決してお主だけの罪ではない、お主の戦力を見誤った妾たちの罪じゃ。お主はただ生きたいと願って抗ったに過ぎぬ。その人としての行いを、妾は攻めたりなどせぬ」

「……綺麗事だな。人の感情っていうのは、そう簡単に割り切れるものじゃない」

「確かにそうかもしれぬ。じゃがもし、お主を非難する者がいるというのなら、妾も一緒に背負ってやる。言ったじゃろ、妾はもうお主を一人にはせぬと」

「…………なぜ俺にそこまでする」


 今日初めて会ったばかりだというのに、なぜそこまで自分に尽くすのか、零には美咲の心情が全く理解できなかった。


「なぜじゃろうな……妾に宿ったこの魔法がそうさせるのかもしれぬが……じゃが一つ言えるのは、妾はただ、お主が悲しく笑う姿を見たくなかった。それだけじゃ!」


 美咲はそう言うと、まるで屈託のない笑顔で、零に向かって笑いかけた。

 その笑顔からは、何の邪気も感じることはなかった。


「…………」


 零は美咲のその姿勢に、どうすればいいのかわからなくなる。

 仮にここで美咲の手を取れば、一時であっても、零は救われるのかもしれない。

 だがもしも裏切られることになったら?

 今まで真面に人付き合いもせず、一度完全な孤独を味わった零は、無性にそのことを恐れているのだと気づいた。


 だから零は、最後の確認をすることにした。

 零は《時間加速》を発動させて、一気に美咲の前へと現れる。


「!…………」


 突然目の前に現れた零に対して、美咲は当然のように驚いてはいるが、決して後ろに下がろうとはしなかった。

 その目も、一瞬だけ驚いた後は、静かに零のことを見据えている。

 その確認が取れただけで、零にとっては十分だった。


「本気なんだな」


 零は若干呆れを含ませながらポツリと呟く。


「何度も言わせるでない。お主こそ、一体いつまでうじうじしておるつもりじゃ。まったく気の小さい男じゃな」

「…………はぁ……わかった。お前の提案を受ける……だからまぁ……これからよろしく頼む」


 零がそう言うと、美咲は嬉しそうに笑い返す。


「うむ! こちらこそ、よろしく頼むぞ!……そういえば、まだお主の名は聞いておらんかったなぁ。名は何というのじゃ?」

「……神楽零だ」

「零か……良き名じゃな。改めて、よろしく頼むぞ。零!」


 美咲はそう言うと、その右手を零の前に差し出す。


「……あぁ」


 零はもう何も迷うことなく、その美咲の手を掴み取る。

 そして、その手を嬉しそうに見つめる美咲の姿を見て、零はこの瞬間、本当の意味で救われたような気がした。


次回、第一章最終話です。

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