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【第五章完結】世界を渡りし者たち  作者: 北織田流火
第一章 異世界漂着編
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第九話 話し合い

本日で第一章完結予定です!

 □■天眼美咲


「待つのじゃ!」


 美咲は速風の前に立ち、両腕を広げて青年の前に立ち塞がる。

 何とか二人の間に割って入ることはできたが、状況は最悪と言ってもいい。

 既に戦闘は行われ、騎士団の精鋭部隊は壊滅。

 速風も含めて、今すぐ治療しなければ危険な状態だった。


(まさか、こうも早く父上が動くとは……これでも急いだのじゃが……)


 美咲は苦々しくも、一歩間に合わなかったことに唇を噛みしめる。

 今の今までずっと、美咲は()()()()()を使って、青年のことを探していたのだ。


 《魔法再現》。

 それこそが、美咲の持つ真の魔法だ。

 《魔法解析》の魔眼によって解析した魔法を、再現して使うことができるのだ。


 先ほどまでは、城で見かけた蒼鳥の魔法《青鳥召喚》を使って、空から青年のことを探していた。

 そして、騒ぎを聞きつけて駆けつけた今は、速風の魔法《自己加速》によって、青年の前に立ちはだかっているのだ。


 美咲は改めて、魔眼を通して目の前にいる青年のことを見据える。


(やはり……今一度前にすると、やはり怖いのぅ)


 美咲は心の中で、今の自分の偽りない感情を吐露する。

 決して逆らうことのできない圧倒的な力の権化。

 それが今、周りに威圧を放ちながら自分を睨みつけている。

 手足は震え、動悸は激しくなり、少しでも気を抜いてしまったら、その瞬間に意識を失ってしまいそうだった。


(じゃが、今倒れるわけにはゆかぬ!)


 美咲はもう一度、自分がこの場に立っている目的を思い出す。


 既に戦闘は始まってしまい、本来の結末は最早叶わないかもしれない。

 だがそれでも、美咲はまだできることがあるはずだと、気持ちを奮い立たせる。


 それは町を救うため。

 戦いを止めるため。

 そして何より、目の前にいる青年に、伝えたいことを伝えるためだ。


「久しい、というほどではないかのぅ……妾のことは覚えておるか?」


 美咲はあまり青年を刺激しないよう、慎重に言葉を選びながら話しかける。


「……一応な……それで、お前は何しにここへ来たのかね?……いや、そもそもお前は何者なのかね?」


 青年はまるで、虚偽の返答など許さないとでも言うように、美咲に対してその威圧を強める。

 だがここまで来て、その威圧に屈するわけにはいかない。


「…………妾は天眼美咲。この町を治める天眼辺境伯家の娘じゃ」

「!」


 美咲が自分の身分を明かせば、青年はわかりやすく驚いたように見える。

 その反応から察するに、本当に美咲のことは知らなかったのだろう。


「…………なるほど。それで、そのお嬢様がいったい何をしにここへ来たのかねぇ? まさかその様子で俺の相手をしに来たわけでもあるまい?」

「……そうじゃな。妾ではお主の相手にはなれぬ。精々逃げ惑うのが関の山じゃ」


 美咲は何を飾るのでもなく、ただの事実を口にする。

 実際、美咲では青年の相手には全くなれない。

 《魔法再現》によって、他人の魔法を使うことができると言っても、どんな魔法でも再現できるわけではない。


 美咲の魔法階級は、速風と同じ二級。

 だが速風と違って、美咲はその階級に何とか片足を付けられている程度でしかない。

 そのため完全に再現できるのは、一つ下の階級まで。

 速風の魔法までは何とか解析して再現できるが、それでも再現率は著しく落ちるのだ。

 目の前の青年に至っては、もはや解析することすら難しくなっている。


「なら、本当に何しにここへ来たのかねぇ?」


 再び問われた質問に対して、美咲は真っすぐと青年の目を見て答える。


「お主と話をするためじゃ!」


 それこそが、今自分がこの場にいる全てだと言うように、美咲は自分の決意の全てを乗せて言い切る。


「話、ねぇ……時間稼ぎでもするつもりなのかな?」

「いや、そんなつもりは微塵もありはせん。妾はただ、お主と言葉を交わしに来ただけじゃ」

「…………そちらから仕掛けておいて、今更不利になったから話し合いっていうのは、ちょっと虫が良すぎるんじゃないかね?」

「…………確かに、それについては、妾には返す言葉もない。じゃが少しだけ、少しだけで良いのじゃ。妾とお主で、話す時間をもらえぬか!」

「…………」


 美咲と青年との間で、しばし沈黙の時間が流れる。

 青年は懐疑的な眼差しで美咲を見続け、美咲はそれに目を逸らすことなく、真っすぐと見返し続ける。


「…………まぁいいか。それで、一体何を話し合いたいのかねぇ?」

「!」


 青年の言葉を聞いて、取り敢えず信じてもらえた様子に、美咲は無意識に止めていた息を吐いて、胸を撫で下ろす。


「まずは一つ、お主に聞きたいことがあるのじゃが、良いか」

「ん? 何かね?」


 美咲は一度呼吸を整え、自分が最も聞きたかったことを問いかける。


「お主、こことは違う世界から来たのではないか?」


 そう言葉にした瞬間、青年の目はゆっくりと見開かれ、まるで信じられないものでも見たかのように、その顔を驚愕の表情に染めていた。






 □■神楽零


 美咲の放った言葉に、零はすぐに答えることができなかった。

 この場において余りにも想定外な質問に、脳が素早く情報を処理することができていなかった。


「なぜそれを?」


 もう手遅れかもしれいが、零は平静を装って美咲に問い返す。


「やはりそうじゃったか…………お主、今日突然この世界にやって来たのじゃろ。何が起こったのかもわからずに、元の世界に帰れなくなった。違うかのぅ?」

「…………」


 図星だった。

 余りにもその通りの内容に、零は美咲が何かしら知っているのだと確信する。


「随分とよく知っているんだな。同類だったりするのか?」


 零は最もありえそうな可能性を口にしてみるが、それに対して美咲は首を横に振って否定する。


「いや、妾は違う。じゃがここに、お主の同類が書き残した日記がある。妾が知っているのは、ここに記されていることだけじゃ」


 美咲は徐に、その手に持っていた本を掲げて、零に見せる。


「…………読んでみても?」

「構わぬ」


 美咲はそう言うと、日記を手渡そうと零に近づこうとするが、零はそれを手で制止する。


「いや、その必要はない」

「?……あっ!?」


 零は軽く指を手前に振ると、《重力操作》で美咲が持っていた日記を手元まで引き寄せる。

 軽く表紙を眺め、零は《時間加速》も併用しながら、中を開いて読み進めていく。


(なるほど……)


 僅か一秒足らずで読み終えた零は、最後に裏表紙に書かれた「一色頼子」という名前をなぞり、顔を上げて美咲の方を見る。


「確かに、俺が体験したのと同じ状況だな。お前の言う通り、これは俺の同類が書いたもので間違いなさそうだ」

「…………」


 零はそう言うと、《重力操作》を使って日記を美咲へと返す。


 日記からわかったことは、彼女――一色頼子もまた、零と同じような現象によってこの世界へと渡り、少なくとも日記を記していた間には、日本に帰ることは叶わなかったということだった。


「彼女がその後どうなったのかは知っているのか?」

「? いや、詳しくは知らぬ。じゃが話によれば、その者は、最後は安らかに息を引き取ったそうじゃ」

「……そうか」


 零は同じ境遇にあった同郷の一人として、ただ一言そう呟く。


(結局、彼女は日本に帰れなかったってことか)


 要はそういうことだ。

 日記によれば、頼子は日本に残してしまった弟のために、積極的に日本への帰還方法を探していたようだった。

 だがそんな彼女ですら、最後まで帰ることは叶わなかった。


 だがだからと言って、それで零のすることが変わるわけではない。


「まぁ、その話はいいな……それで、俺の正体の確認が終わったところで、次はどうするつもりだ?」


 零は日記の話を切り上げて、美咲に話の続きを促した。


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