第〇話 神隠し
まずは本作品を開いて下さりありがとうございます。
初投稿ではありますが、どうか楽しんで頂ければ幸いです。
まずは短めのプロローグからどうぞ。
◇◆
西暦二〇七六年四月二七日。
日本人にとっては待ちに待った大型連休を前にしたその日、東京の都心にいたほぼ全ての者たちは、一様に空の彼方を仰いだ。
「なんだ? あれは?」
その呟きはいったい誰のものだったのか?
あるいは、“それ”を目撃した全ての者たちが抱いた心の声だったのか?
彼らはただ呆然と、まるで天変地異でも起きたかのように“それ”を眺めた。
いや――“ように”ではない。
彼らの目の前に広がるのは、正真正銘の天変地異。
半球状に広がる白い光が、まるで大津波の如く、都市の全てを飲み込んでいく光景なのだ。
そんな光景を前にして、誰もが動けなくなってしまうのは無理からぬことだろう。
「…………ッ!」
一拍の間を置いて、彼らの脳は次第に目の前に迫って来る異常に対して警鐘を鳴り響かせる。
彼らは少しでもその光から逃れようと走り出すが、奇しくもそれは叶わない。
非情にも、あるいはそれこそが必然なのか、白い光は何の見境もなくすべての人々を飲み込んだ。
そして地上にあるものすべてを飲み込むかと思われたその光は、あるところを境にして忽然と鳴りを潜めた。
光が晴れた場所に残されたのは、ただ閑散とした街並みのみ。
まるで最初から誰もいなかったかのように、そこに人の姿はなく、都心にいたすべて者たちは、何の痕跡も残すことなく、その姿を消していた。
神隠し。
残された人々は、何を飾るのでもなく、その日の出来事をそう称した。
光に飲まれて消えてしまった人々は、一体どこへ行ってしまったのか?
それは残された人々にはわからない。
だがもし、彼らにも知る術があるのだとしたら、それはきっと、消えてしまった人々が、再び故郷の土を踏むことだけなのだろう。
果たしてそんな日が、いつか来るのだろうか?
それはまだ、世界の誰にもわからない。
△▼
天暦九二八年五月一六日。
その日、暁大陸に住まうほぼ全ての者たちは、同じ時、異なる場所で、異なる方角にある空の彼方を仰いだ。
「なんだ? あれは?」
その呟きはいったい誰のものだったのか?
あるいは、“それら”を目撃した全ての者たちが抱いた心の声だったのか?
彼らはただ呆然と、まるで天変地異でも起きたかのように“それら”を眺めた。
いや――“ように”ではない。
彼らの目の前に広がるのは、正真正銘の天変地異。
昼の空の中でもなお明るく、白く輝く光の柱が、空を穿つのが如く立ち上る光景なのだ。
そんな光景を前にして、誰もが見入ってしまうのは無理からぬことだろう。
「…………ッ!」
しばしの時が経ち、彼らの目を釘付けにしていた光の柱は、出てきた時と同じく、唐突にその姿を消した。
大陸各地で見られた幾千万もの光の柱は、その実、人々に何の影響も及ぼすことなく鳴りを潜めた。
光が晴れた場所に残されたのは、ただ一人の人影。
まるで光の中から産み落とされたかのように現れた彼らを、大陸の住人たちはこう呼んだ。
渡り人。
それが彼らの名前であり、呼び名であり、この世界における意味そのもの。
彼らが何者で、どこから来たのか。
大陸の住人たちの多くはまだ知らない。
だが時が来れば、彼らは知ることになる。
渡り人の正体も、彼らによってもたらされる世界の結末も、その先に待ち受ける何かも。
まさに歴史の転換点。今日この日、この瞬間、世界は大きく変わった。
果たして渡り人の存在は、世界に幸福をもたらす祝福か?
あるいは、世界に破滅をもたらす厄災か?
それを知る者はまだ、世界には誰もいない。
次回から本格的に物語が始まります。
今日は大体二時間置きに、あと四話投稿予定です。
多少時間にずれがあるかもしれませんが、そこはどうかご容赦ください。