第82話 動きだした時間は進む。
あのチョコレート事案から年月が流れ──。
僕達は成人目前となった。いやぁ、五歳の内に色々な事があったけど、十年ってあっという間だね。あれからシュウ様がシャルとリーシャの思考魔核を交換するという暴挙に出たり、サーシャ様が理由を知ってシュウ様を手伝ったりとあったが、シャル達は無事に生き延びた。
「早いものだねぇ、身体に違和感はないの?」
「そうですね、前よりも自然に過ごせますね」
「そうなんだね。それよりも身体も育ったね」
「ミヤ様も育ちましたね。女性らしい身体に」
「誤魔化せないよね、胸を潰すのは今日までだけど。お尻も大きく育っているのに気づかれないのは少々辛い。しかもさ、お風呂で出くわしても『誰ですか?』って言われて、正面から見られたのに反応が淡泊だったし!」
「兄様は女性の身体や心の機微には疎いですから。私達、人形の心と身体は除きますけどね」
「こじらせてるよね、原因は何なんだろ?」
「こればかりは私でも分かりかねます。学校での女子生徒達も人形愛が過ぎるので近づきませんしね。私としてはそれだけでも十分ですが」
「シャルもこじらせてるねぇ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「あらら、サーシャ様も出くわした時はどうだった? 二年前に晒していたよね」
「それは聞かないでいただけます? あの時は風呂上がりの姉様がタオルを届けに来たシュウと衝突して倒れただけですし」
「姉妹揃ってドーンって晒していたよねぇ。私とミヤだけはサッと隠したけど!」
そして今は卒業パーティーの準備中であり女子全員が寮の一室でドレスに着替え中だった。
流石の僕も卒業式は女子制服で出たよ。
あんな子、居たっけって騒がれたね。
(それでも、どちら様って問われたけど。パーティーでは全ての偽装を解いてやる! 絶対に女子なんだって示さないと!)
髪を一瞬で伸ばす魔法を教えてもらっていたお陰で男子としてのミヤでは無くなったのに、そんな感じで問われたからね。シュウ様にとってはステータス確認が最重要なのだろう。
「「マリア、それは忘れなさい」」
「ひっ!? ご、ごめんなさい」
「コホン、それよりも、その格好で卒業パーティーに出るの?」
「その格好って、別に騎士服でいいじゃない」
「一応でも辺境伯令嬢でしょう? ドレスは着ないの? 仕立てるって言っても聞かないし」
「幼児向けしかないのに着ても仕方ないよ。体型だけは自動伸縮があるから、何とかなっても身長だけはどうあっても誤魔化せないし」
「ホント、ロリ巨乳になったよね。マリア」
「こらそこ、ロリ巨乳言うな!」
「お尻も大きな、ロリ巨乳!」
「だから! ロリ巨乳言うなぁ!!」
「二人だけで通用する単語使うの止めない?」
なお、シュウ様とルイス様は既に着替え終えて人形工房で何かの作業を行っているようだ。
それとすれ違いざまで見た黒い貴族礼服が滅茶苦茶似合っていたね。ずっと見惚れたもん。
ただ僕が居なかった事で疑問視されたけど。
「マリアとミヤの格好がひっくり返ったようなものとして認識するしかないでしょうね」
「そうですね、姉様。ところで兄様は?」
「さぁ? 相変わらず旧帝国領で彷徨いているんじゃない。自分の国を興すって息巻いていたけど、無能魔導師一人で何が出来るんだか」
「ああ、衛兵の大半は不在ですか」
「そうなるわね。まぁマリアが一人居れば問題ないわよ」
「わ、私一人で全員を護れと?」
「「晒した事を思い出させた罰」」
「わ、分かったけど。ミヤは?」
「ミヤは女装が罰だから除外よ」
「そ、そうですね、女装。ぷぷっ」
「女装って言わないで!」
着替えを終えた僕達は馬車に乗り込みシュウ様達を待つ。それと本日の僕はサーシャ様の指示で男子服ではなくドレスを着る事になった。
何故か純白のウェディングドレスだけど。
サーシャ様達の黒いドレスと対みたいだね。
「この格好を見ても他人と捉えられるかな?」
「ステータスは戻したでしょう?」
「一応ね、き、緊張してきたぁ」
「その緊張も一過性だといいわね」
「胸の大きなミヤを見てどんな反応するか楽しみね。気絶しそうな気もするけど」
「そういうフラグ立てるの良くないと思う」
何でも僕自身に母様の爵位が譲り渡されるとの話でパーティー前に儀式が行われるという。
それはシュウ様も同じでありマリアに至っては伯爵位を叙爵する事になった。
何故その経緯に至ったかと言えば、
「でもさ、あれからもう三年なんだね。僕達が専門課程に上がる直前だけど」
「そうね、帝国が迷宮からのスタンピードで滅びるとは思いも寄らなかったわよね。叔母上達も色々と用意していた対帝国の軍備が無駄になって呆然としていたし」
「あれはあれで使えるけどね。母様に『魔物退治に使える』って助言したら安心していたし」
現在は旧帝国領と呼ばれているかつての帝国は帝城裏の迷宮門から原因不明のスタンピードが大量発生し、一夜の内に滅亡したのだ。
原因不明となっているのは調査が進んでいないから。旧帝国領を進むにはそれ相応の装備が必要で単身で進めば魔物の餌となるからだ。
それは侵入人形達も例外ではなく隠れて進んでいたら魔物に捕捉されて捕食されたらしい。
当時のシュウ様は『複製済みの思考魔核で難を逃れた』と仰有っていた。それもあって失うのを恐れたシュウ様は残り四体の妙に見覚えのある姿の人形達を伝令係で残し、旧帝国領を進むのは銃器で武装した人形か人だけと助言したのだ。
助言に至った経緯は僕とマリアを連れて旧帝国領に進入し、最初期の調査を行ったからだ。
「シュウが回収したバカの記憶を見たけど、奴が如何に傲慢だったか理解させられたね」
「そうだね。あれは無かったね」
「皇帝すらも手中に収めて自分の手駒にって」
「それで帝国軍という群体を制御しきれず最後は滅びていたら世話ないけどね」
その時の護衛実績によりマリアの叙爵が決まったという。当時のサーシャ様達は後詰めだったから気が気でなかったようだけどね。
それからしばらくして馬車の扉が開き、シュウ様が豪奢な和服を着た黒髪黒瞳の人形を連れて馬車に入ってきた。な、なにあれ?
「待たせたな。証拠品の調整に手間取ったわ。って、そこの金髪はどちら様?」
入ってきて僕と目が合ってきょとんだよ。
僕も見覚えのある人形を見てきょとんだよ。
するとサーシャ様がネタばらしのように、
「シュウ、彼女はミヤだけど?」
教えるときょとんから顔面蒼白に変化した。
その反応、酷くない!?
「は? ミヤ、ミヤだって?」
だが僕にとってはそんな事よりも気になる事があった。人形に見覚えがあるから。
「それよりも今、リクって言った?」
「あ、ああ、リクだが、ミヤだって?」
返事になってないよ! というよりルイス様も知らんぷりで乗り込むの止めてもらえます?
シュウ様は明らかに混乱しているご様子。
僕は一人称をあえて変え、
「私はミヤだよ。シュウの彼女の」
「ま、マジで?」
シュウ様、否。シュウに暴露した。
それを聞いたシュウはめまいを起こし僕の両膝の間へと顔を突っ込んだ。
人形の事、説明になってないよ!
僕とシュウがそのような事態になってもマリアは平常運行だった事が救いだった。
「ところでルイス、その人形は?」
「ああ、証拠品だよ。中身は帝国の技官だった奴の記憶をごっそり植え付けた物で、人格はシュウのよく知る人物だとか言ってたわ。それこそ理想の嫁だとか何とか」
理想の嫁って容姿が前世の僕なんだけどぉ!
これは夢か幻か?




