第81話 会議は甘味で動きだす、
報告会後、粛々と対帝国会議は続く──。
会議の終わりは一向に見えず、暗い雰囲気が会議場を包み込む。脇で会議の様子を眺めていた俺はシャルと共に解決策を考える。
「俺に出来るとは思えないが、何か妙案はないかね?」
「兄様、私達に出来る事など無いと存じます」
「やはりそうなるか」
「そうなるでしょう」
考えるが思いつかず、同じ雰囲気に見舞われた。国の重鎮達ですら対処の分からない謎の行動なのだ。異世界人として提示すると間諜と疑われる恐れもあるため、それだけは避けた。
そんな悶々とする会議中、
「お?」
「どうかなされたのですか、兄様?」
「これで打開出来るかどうかは分からないが、ミヤ達から贈り物が届いた」
「贈り物ですか?」
十セットのお洒落な小箱が届いた。
それはミヤ達の苦心努力の成果物である事は収納術の表題ですぐに分かった。
一箱だけを取り出した俺は香しい匂いに意識が持っていかれそうになる。
中身を確認すると見た目はシンプルな形状だが配合率の異なるチョコ菓子が収まっていた。半分はホワイトチョコだが、ここまでの成果を出すとはな。
「それぞれを熱したナイフで半分に切って、中に何かが入っている類いではないか。でも、切っただけで香りが溢れるって、こんな代物は見たことが無い。あの二人には感謝だな」
「兄様、その物体は何なのですか?」
「物は試しだ、シャル。口開けろ」
「はぁ? ん!? んー! とろけました!」
「風味はどうだ?」
「甘い風味と香りが口の中に拡がって、一瞬で溶けて後を引くお味です!」
「それは良かった。俺も一口、おー!」
なつかしの風味と初めての香りが口の中に拡がった。少し苦みが強いのは砂糖の分量を抑えめにしているからだろうか。箱の表面に配合率が書かれてあるから右から順に苦みが強いって事になるらしい。頭に糖分が染み渡るぅ。
するとシャルがうるうる目となってしまったので全て半分こしたうえで一つずつ口に含む。
「「ん〜!?」」
中身は二十個ほどあったが、俺とシャルだけであっという間に平らげた。これほどまでに中毒性のあるチョコレートは食べたことがない。
指先に残ったチョコを見た俺は鑑定魔法で効果を確認する。そこに書かれていたのは体力回復に加えて精神の集中力が高まるとあった。
今は精神的に疲弊したも同然だ、これを普段食べても、ここまでの中毒性は出ないだろう。
現に指先を舐めるとそこまででは無かった。
その結果を知った俺はシャルに命じる。
「シャル、残り五セットを母様達のお茶請けで出してくれ」
「承知致しました」
「あとの四セットは」
というところでサエ達の視線を感じたので頑張ってくれた褒美としてサエ達三人に一セットずつ、ヒミ達四人には一セットを個々に分割して手渡した。
「ありがとうございます、兄様!」
これで後々に与える任務のやる気に変化するなら先行投資としては十分だろう。七人は会議場から離れて隣の工房へと移動し歓喜の声をあげていたが。これは後日、ミヤ達に会わせて礼を言わせないとな。まぁ七人の見た目でひっくり返る未来が予見出来たけど。
そうして俺が会議場を見ると、
「こんな菓子は初めてだ! 見た目は四角いだけの不可思議な代物だというのに口に含んだ瞬間の芳醇な香りと風味、我の好みの強い苦み、実に天晴れである!」
「なんという美味! い、一体何処で購入したのですかな?」
「これ自体は購入しておりません。全て手作りに御座います」
「「なんと!?」」
王太子殿下と軍務大臣が砂糖の配合率が極小のチョコに舌鼓を打っていた。これらもシャルが事前に好みを把握して、それぞれの分量で入れ替えを行って提供しているので、食べ残すという事態は起こらない。苦みの強い二種だけを男性陣に手渡し、残りの甘みと優しい風味のチョコを女性陣こと母様達に提供していたから。
「ん〜! とろけましたわ。何なんですかこの菓子は。少しの苦みで甘さが際立って、鼻を抜ける香りが眠気を吹き飛ばしましたわ!」
「アヤの地が出るほどの菓子とは珍しいわね。でもこの上品な風味だけは、好みだわ」
「惚れ込んでしまいそうだ。普段はあまり甘い物を食べない私でもこれだけは別だな」
女性陣の方にはそれぞれに違いが現れないよう分散させたらしい。流石に均等には出来ないが、それだけでも効果はあったようだ。
「今なら解決策が浮かびそうだわ」
「うむ、左様であるな」
「今一度、資料を読み込みましょう。もしかすると、この中に対策の切っ掛けがあるかもしれませんしな」
「そうだな。迷宮に関しては帝国民の出入りを制限して」
「ん〜」
但し、アイシャ様は除く。ゆっくりと食べては舌鼓を打って身悶えていたから。
脳筋側妃様もここまでくると普通の女性だ。
流石はサーシャの母上ということだろうか。
普段のサーシャも王女としてのサーシャも。
仮面一つで入れ替えているように思えるし。
一方の俺は会議の進展が見えたので、
「俺も今の内に進めておくか」
シャルを残して俺一人で工房に向かう。
そして放置していた研究を再開させた。
それらは思考魔核の魔力消費をいかに効率化させるかの研究である。それと同時にサエ達に存在する思考魔核の劣化対策も含まれる。
「現状は各部で魔核の機能を分割しているから、これを複合的にかつ複雑化させると──」
実は今回の侵入で分かった事だが、映像記録を残す場合、最大で八時間が上限だったのだ。
それ以上に映像記録を残そうとすると思考魔核のメモリ容量を超える事になり、思考魔核の劣化を進めてしまう事が判明したのだ。
「全体的に素材補強が先か? いや、採算があわなくなるな。ヒミ達の場合は小型だから外部へと空間接続で保存する仕組みとしていたが」
元々、サエ達の思考魔核は母様の人形達、廃棄された人形達の再利用品だ。再利用品だからこそ少なからず劣化があったわけだが、今回の成長する身体に取り込んだ結果、少なからず劣化が促進する事が判明した。
それらはシャルとリーシャにも現れている変化だ。今のままだと二人も近いうちに生をまっとうする事になる。折角、共に過ごしているのに寿命で離れるのは嫌だから。
「ヒミ達の思考魔核と同様に積層化して。そこから各所で迂回路を設けて従来の人格魔法の経路と記録場所を積層分割で圧縮化、部位の機能は分割させるか。それこそ人の脳髄のように」
一先ずの俺は最新式の思考魔核の設計図を描いていった。造り出すには結構な手間と複雑な計算が必要だが実現が出来ないとは思えない。
「それと、記憶吸出魔法を改良してみるか?」
すぐに改良出来たら苦労はない。
母様達でさえ苦労しているから。
そんな手間のかかる作業を続けていると、今度は別の菓子が届いた。丁度、糖分を欲していた俺はそれを取り出して歓喜で踊った。
「チョコチップクッキーだ!」
数は四枚。試作品として作り出された菓子だった。俺は作業の合間に手に取り、口に含む。
「美味い! ミヤ達には感謝だぁ」
感謝して次に手を伸ばすと、
「へぇ〜。一人で美味しそうね」
背後から羨望の声音が響いた。
振り返った俺は戦々恐々と問いかける。
「あ、か、母様?」
「ふふっ。丁度、三枚残っているし」
どうも母様は甘い物に目がないらしい。
両隣の御二方も視線が鋭いし。
俺は怯えながら残りを全て差し出した。
「さ、差し上げ、ます」
「よろしい」
笑顔の母様達は背後で風味に酔いしれた。
あれは会議が終了したから訪れたのかもな。
甘物の前では母は猛禽類?




