第79話 ご報告致しました、
一通りの資料の準備を終えた俺は──。
母様達をお迎えしつつ報告会を開いた。
本日の報告会に訪れたのは母様と叔母上、王宮から軍務大臣と王太子殿下とアイシャ様だ。
母様の案内で大会議室の椅子に全員が座る。
「館の中にこのような空間が?」
「規模は王宮の大会議室と同等ですかな」
「大まかな大きさはそうなりますね、サエ」
「はっ」
そして俺が用意していた資料をサエ達三人が配りつつ、シャルが茶菓子と茶を置いていく。
茶菓子はミヤ特製のシフォンケーキである。
資料を受け取った軍務大臣は眼鏡をずらしつつ内容をジッと見つめて驚嘆する。
「こちらをどうぞ」
「これは? ん? !?」
王太子殿下とアイシャ様は紙と印字された資料に驚いていた。中身見て!
「こ、この紙は、手触りといい見た目といい」
「字崩れしていない書類は初めて見たわ!」
「そんな事より文字を読め、二人共」
「あ、ああ、そうだ、なっ!?」
「え? こ、これは誠ですか?」
叔母上の苦言のお陰で目を通してくれたらしい。叔母上も母様も内容に満足気だった。まぁ上空からの映像云々と書かれた部分だけはきょとんをいただいたけど。
それはこれから行う報告の再生順序だ。
全て魔法文字にも似た文字列で記した。
一応、漢字にふりがなも振っているから読めない事は無いはずだ。
これはある意味で映像を補足するための資料だから、読めないと意味がないし。
一先ずの俺は会議魔導具を操作して指向性音波魔法を会議場内に響かせる。
「この度はお集まりいただきまして誠にありがとう御座います。これから事前配布させていただきました資料通りに報告会を進めさせていただきます。司会進行は私、シュウが行います」
「え? な、何故、彼が? ミイ?」
「アヤ、黙って。それはあとで教えるから」
「え、ええ」
アイシャ様と母様は同期だったのか。
互いの愛称で呼び合う仲でもあるらしい。
俺がひょっこりと顔を出して紹介したからか、疑問が顔をもたげてきたらしい。
頭でっかち極まれりという感じだな。
「先ず最初に前方へと立っている人形達の紹介を行います。皆様方から見て左側から順にサエ、ユエ、ヤエという名の諜報人形となります」
俺の紹介を受けた三人は順番に頭を下げる。
「い、一見すると普通の護衛侍女のようだが」
王太子殿下からすれば見慣れた姿に見えただろうが、母様が補足を入れると納得された。
「あの子達は特殊魔法を付与した諜報専門の人形だから普通でも問題ないのよ。下手に諜報専門ととれる見た目にすると解体されるからね」
「なるほど」
「それよりも次が面白い事になるわよ」
「あ、ああ。見ただけで何となく想像出来る」
次いで紹介するのは補助要員の人形達だ。
「左から順にヒミ、フミ、ミミ、ヨミという名の哨戒人形達です。大きさは赤子と同等ですが浮遊魔法に長けた者達であるとご理解下さい」
俺の紹介を受けた四人は侍女服で浮いたままお辞儀する。哨戒以外での使い道は主に伝令役だが、現状ではサエ達の補助要員でしかない。
上空に居る時の姿は空に溶け込む迷彩柄の全身スーツを着ていて、街中などでは空間迷彩で隠れるので簡単に感知される事はない。
上空以外では浮遊魔法のみを使い、サエ達の身体に結界糸で繋がっているため、主な移動手段は三人の動きに依存している。
「あんな小さな子達まで使うの?」
「見た目通りと思うなかれだな」
「資料にもあるけど、従来は伝令にも使えるみたいね。移動速度が馬を超えるらしいから」
「魔石の消費度合いが気になるところですな」
「おそらく、その心配は無いだろう。投網などで鹵獲されぬよう注意だけは必要だが」
「そうね、その可能性もあるわね。でも、回避機能搭載型で単身転移まで仕様書にあるけど」
「うむ、小型だからこそ可能ということか」
品評会のような気配がするが、それを見た俺は意識を前方に向かわせる一言を付け加えた。
「それではこれから彼女達が集めた帝国の詳細映像を再生させます。皆様、前方の布をご覧下さい」
一言を発すると同時に室内が薄暗い空間に変化し、シャルがプロジェクターの蓋を外す。
「「「おぉ!?」」」
「そうきたかぁ。やるわね、シュウ」
「このような発表手段もあるのだな」
暗がりの中の白い布。
そこに我が国の国土が映し出された。
映像は大公領から王都の景色と王都から大公領に向かう景色、次いで急上昇するように俯瞰で映る計四方向からの映像だ。時折暗くなるのは人形達の瞼だが、これも汚れ対策なので仕方ないと諦めている。ワイパーみたいな物だし。
「こ、これが帝国領ですかな?」
「なんと広大な、これだけの広さなら戦乱など求めずとも良い気がするが」
「帝国大使の言には無かった広さではないか」
「姉様、街道各所にある建物と砦が例の?」
「そうなるでしょうね。あれが何カ所も点在している以上は普通の手段では侵入は不可能ね」
映像は帝国領から帝都に向かう様子を映し出している。その反応はそれぞれだな。帝国領北部から、帝都北部にかけて内戦箇所があるが、その奥が最果ての教会自治区となっている。
帝国西部には大規模な軍事基地が存在し、大怪我を負った兵達が地面に転がっていた。
これらの兵達は内戦へと駆り出された部隊の者達だろう。帝国北東部から戻ってくる兵団が目立っているからな。我が国とドゥリシア王国に向けている兵団が少ない事も朗報だった。
「各辺境伯家の対応でも問題なさそうですな。ドゥリシア派兵軍も警戒維持で良いでしょう」
「うむ、その旨で伝令を出しておこう」
そしてここから帝都が映り、
「なんと面妖な!?」
「一面、黒と白一色の建物だと? 城は砦か」
「そういえばあの子達の姿が似ていたのは?」
「それでこの姿にしたのね。流石はシュウね」
「我らと同じ姿であれば確実に疑われるな」
それぞれで反応が分かれた。
それ以降は帝都内部の重要拠点が次々と暴露されていく。皇帝の姿だったり、帝国軍部の参謀本部だったり、開発責任者ことリクの容姿だったり。ガチの平坦平民女じゃねーか。入浴発電シーンは要らないのに何故か含まれていた。
(軍師は甲冑の職業か。本来は技師ねぇ?)
ヨミがてへぺろしていたのであとで説教だ。
「殿下?」
「み、見ておらぬぞ」
一瞬、アイシャ様と王太子殿下の間が修羅場と化したが、問題はその後に映し出された。
「め、迷宮!? 迷宮が帝城裏に!」
「このような場所に複数箇所だと!」
「これは由々しき事態ね。戦乱の意図は一体」
「シュウの補足説明では帝国の求めた魔法を迷宮に使う可能性がある。とあるわね」
「空間接続経由で採掘速度を引き上げる、か。可能性としてはそれが一番高いな」
そのうえ沿岸部に映像が切り替わると、
「な、なんだ、あの黒い船体は!?」
「ガレー船ではない? どんな仕組みなのだ」
「数は全部で三隻、一番大きな船に国旗が?」
「甲板付近にある複数の筒は一体何なのだ?」
「見た目的に銃と同じ溝が刻まれているわね」
全三隻の金属船が鎮座していた。
これは調査継続とし記録映像はここで途切れた。今はまだ旗艦一隻と護衛艦二隻だけどな。
「以上で報告を終了致します」
「これは数年かけて調べ尽くす必要があるか」
「そうで御座いますね、殿下」
「軍船の開発力でも抜かれておりますし」
「そちらの開発も進めないと不味いだろう」
「戦争の形が本格的に変わるわね」
結果を受けた大人達は真剣な表情となり、明るくなった会議場で暗い顔のまま話し合った。
ここから盛り返し出来るか?




