第78話 余暇は楽しく逢引。
それは数日後の休日──。
この日の私はシュウと共に街に出た。
いつもの格好ではなく街娘の服装かつ銀髪が白髪に見える偽装魔法を施して。
それは同じ髪色のシュウがお忍び魔法と称して私にもかけてくれた魔法だ。王女が護衛も付けず街中を歩く事を危険と判断して。
(意図せず得た罰だったけど、これはこれで)
最近の私はシュウと共に居ると何故だか心がウキウキする事が多い、離れていると寂しい気持ちが湧いてくる、ミヤが抱きついて笑顔になった時は少しイラッときた、マリアと楽しそうに会話している時は羨ましいとさえ思ってしまう。出会った当初は伯母上の子息、私の従弟という認識で付かず離れずの距離感で関わってきた。それがどういうわけか今ではシュウの顔を無意識に追ってしまっている。
自分がいつの間にか謎感情に振り回されている。これとどう向き合えばいいか分からない私は有り得ない事に人形のリーシャに相談した。
『──というものなのだけど』
『姉様、私にその感情その物の理解は出来ないかと存じます。ただ、昔見た奥様の表情から察するに興味を持っている状態ではないかと』
相談したら苦笑気味に答えられたけど。伯母上との経験・記憶が少なからず残っているのか簡単な助言をしてくれた。
見た目こそは私と同等だけど製造年的には伯母上の少し下に位置するからね。実質、叔母上より年上の叔母という感じだ。
(興味。シュウは実に興味が尽きない相手だと思う。来訪者であっても同じ空気を持つというか、人形への愛があるというか、一緒に居て楽しいと思う気持ちが──)
そう、思いつつシュウの右腕に抱きつき横目でチラリと見つめた私だった。
ちなみに、本日は偶然が偶然を生んだと思える日だった。シュウのカレンダーで知ったが、今日が私の生まれた日だったのだ。
この日で私は六歳になる。この日からしばらくの間はシュウよりも年上になるのだ。マリアとルイスはしばらくして六歳になるが同じ寮に住まう者では姉様に次いで私が年上となった。
(──今日は日頃から練習していた平民言葉を使わないと。貴族や王族言葉のような物を使うと平民が萎縮するから。その点、シュウとマリアは貴族貴族してないよね)
これも生まれ、過去が影響しているのだろう。今は貴族でも過去は平民だったとの話だ。それもあって持ちうる雰囲気から何からが、そこらの子息達とは異なるのだ。
これも私の興味の一つなのかもしれない。
市場の入口に到着すると既に平民達が商人相手に、上は銅貨下は石貨に代わる黄貨で買い物を行っていた。我が国の貨幣は下から順に黄貨・鉄貨・大鉄貨・銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨・白金貨となっていて大銅貨以上金貨未満が商人の扱う貨幣だ。
(今日はシュウが賄ってくれるとの話だけど懐の給金が減らないわね。これも何処かで使えたらいいのだけど、金貨・大金貨・白金貨はこの市場では使えないものね)
もちろん、お釣りも所持しているので全てその貨幣を扱っているわけではないが。
他国から来た行商人などは国境門にて我が国の貨幣に両替しているしね。帝国民ならセリィヌ辺境伯領を通じて、ドゥリシア王国民ならトゥリオ辺境伯領を通じて両替しているのだ。
元の国の貨幣に両替するのも両辺境伯家のみなので、それらが国内に入って流通する事は無い、あっても使えないし。
例外は街道と面していないディライト辺境伯領くらいだろう。シュウの実家の領地は緩衝地帯と面しているだけで人の出入りは無いから。
あっても国防の命を受けた国軍が行き来するだけ。先日帰国した母上もそちらの北門から戻ってきたとの話だ。途中でオルト大公領に宿泊したと聞いた時はドキドキしたけれど。
(母上は知らないから、私とシュウの婚約を)
許す許さないは母上に言える立場ではない。
陛下、御爺様達の了承を得ている以上は覆る事など無いのだから。元々は国益のための婚約だったけど。という私の悶々はさておき、
「おっちゃん、その大豆と米、あるだけ頂戴」
私の隣で笑っているシュウはいかにも帝国間諜に見える商人と商談していた。今が貴族風の身なりでは無いから気づかれていないけど。
ステータスも完全に偽装しているし。
「あるだけって、持てるのか坊主?」
「問題ないよ。この袋にいくらでも入るから」
そして収納術の所持を誤魔化す革袋を示す。
背中に背負ったそこそこ大きな革袋。
全ての代金を支払ったのち口を開けて中に入れていく。それを見た帝国商人は目を見開いて欲しそうな顔になる。
「それは魔導具か何かか?」
するとシュウは何を思ったのか、
「先日の市に来ていた帝国商人からね、ゴミ同然の革袋だからって安く買い取ったんだ。何でも帝国の迷宮から発掘されたとか言ってて」
「!?」
商人驚愕の話題を放り込んだ。
それでも気にせず語り続ける。
「知り合いの鑑定士に見てもらったら大容量の奥行きがあったって。お陰で丸儲けってね」
「そ、それは本当か?」
「本当だよ。おまけで一つだけ予備を貰ったから差し上げようか?」
「!!」
予備で貰った革袋。それを事もなげに取り出して帝国商人に手渡した。それは暗号処理と偽装処理が施された収納魔法の革袋だ。
迷宮産を示す特徴的な紋様を表面に与え、結び紐の空間属性魔石がキラリと光る。
容量は子供一人が収まる分量だ。
生物不可だが魔物なら一体分は入る。
シュウが背負っている革袋は紋様と空の空間属性魔石だけの物だけど。
シュウ曰く『試しに造ってみたら迷宮産で出てきた』と言っていたが何処までが本当か分からない。ただ、帝国商人にとっては垂涎物だったようで代金の全てを戻してきた。
「こ、これだけで十分だ」
「代金はいいの?」
「も、問題ない。見る目の無い流した奴は早急に始末しないといけないが、感謝するぞ坊主」
「わ、わかったよ」
全商品をシュウに買われてしまった商人は店じまいをする必要があったのだろう。
謝辞を示した直後、大慌てで大使館のある方角へと駆けていった。私達は周囲と目が合ったため慌てて路地裏へと逃げ込む。
欲しいとする行商人が沢山居たからね。
「良かったの? あの情報を示して」
「ああいう代物が発掘されると分かっただけで躍起になるだろ。後は」
「ま、まさか?」
「間諜が疑心暗鬼で潰し合いだろうな、極秘情報を漏らした者を探すために」
「それを狙ったの?」
「使えもしない魔法より目先の魔導具を求めろって意味合いでな」
私を見つめるシュウは笑顔でそう宣った。
市場を巡る中で間諜までも手玉に取る。
(凄い人だ。あ、またドキドキしてきた)
その後の私達は衣装とステータス情報を書き換えて髪色を青髪に偽装しなおした。帝国間諜に顔を覚えられて始末されたら堪らないから。
革袋は一旦片付け、肩にかけるバッグで買い物をする事になった。これもこれで大容量だよね。迷宮産ではないバッグだけど。
昼前に立ち寄ったドゥリシア王国の商店で気になった木実を欲すると、
「あ、あれ、あれ買って! あの茶色の実!」
「って、あれの使い道を知ってるのか?」
「使い道? 私はただ香しい匂いがしたから気になっただけだけど?」
「そ、そうか、知らないか。それなら買ってからミヤに全て丸投げだな」
「あれって、ど、どういう物なの?」
「あとのお楽しみだ」
「ふぇ?」
シュウは楽しげな表情のまま代金を支払っていた。ミヤに丸投げするということはそういう事なのかな? 分からないけど。
デートでも色々とやらかす。




