第76話 真実は不可解だね。
学校に行く前に更なる事後報告を受け──。
それを見た私はシュウの自重が完全崩壊したものと思った。この世界で敵国の制空権をいつの間にか握っている事に驚きを隠せないでいたから。
あのバカでもそこまでの事はしていないはずだ。魔法という神秘の前で有り得ないと鼻で笑いつつも便利さだけ追い求めそうなバカには到底出来ない芸当だろうから。
(ははは、バカと同類と思ったけど違うね)
私の目前にある絵画。表面上は枠にガラス板を張っているだけの何処にでもある見た目だが、ガラス板には光沢がなくパッと見は液晶のような精巧さがあった。
だが、表面に映る光景には絶句した。
この国と同じように白い大理石の豆腐建築かと思ったら、誰が伝えたのか知らないが瓦があったのだ。全て瓦屋根の和風建築だ。西洋人な見た目の帝国人などは定期的に国内で見かけたりするが帝都に住まう者は違って見えた。
(建物が和風だから、見た目も和風にする?)
そう思えてならない黒髪黒瞳がごそごそと街中を徘徊する。それらは平然と自分達の生活を始め桶を持って豆腐を売る者やら駆け回る子供も映っていた。
(あれは何?)
そんな中、黒い全身スーツと黒いフルフェイスヘルメットを被った三人の女達が走っていた。建物の隙間からひょこっと顔を出し、分散するように帝都各所を巡る。
明らかに異様な姿なのに気づかれる事なく、着物姿の衛兵達が素通りする。
するとシュウが何を思ったのか、
「サエ、今日は帝都南部に向かえ」
『了解っす、兄様』
耳にインカムを付けたのち指示を出した。
それを受けた一人は南部に駆けていく。
「ユエ、今日は帝城に侵入しろ」
『兄様、りょうかーい』
「ヤエ、今日は内戦状況を把握しろ。但し、流れ弾には気をつけろ」
『了解です、兄様』
その返答は聞き覚えのあるハスキーな声音だった。三者とも同じ声音なのに口調が別々なのは気になったが。だが、そんな些細な事よりも三者は指示のあった通りの行動に移す。映像はその時点で四分割され、南部造船所、砦城というような帝城、血風溢れる戦地が同時に映し出される。最後の一つは上空監視で変化無しだ。
(もしかして?)
私がそう思った瞬間、三方向の映像が別物に切り替わる。それは三方向それぞれの侵入映像だった。それも三者の背中を映し出しながら。
三者は衛兵に出くわす前にそれぞれが回避行動に移り身を潜める。そして隙を見て移動を再開する。それは先が見えているような行動だ。
すると私が問いかける前にミヤが問うた。
「シュウ様、もしかして、例の侵入作戦?」
「そうだ。三人にはシャルと同じ機能を持たせているから事前回避が可能だ。こちらから頭上後方を撮影しているのは侵入に成功した証拠だ。信じない輩が当たり前に居そうだからな軍部には」
「爺様は信じるだろうが、頭でっかちは」
ルイスも驚きながら対面のサーシャを見る。
「こ、これが帝城。全員が丸見えなのに」
サーシャは気づかないまま呆然顔だ。
アイシャ様って頭でっかちっぽいよね。
サーシャにもその気があるし。
ミヤとサーシャの疑問にシュウは答える。
「一緒に飛んでいる魔導具には空間迷彩を相殺する機能があるんだよ。こちらが諜報員を識別出来ないと指示が出せないからな。今回の人員は先行人員だから最低限の情報を持ち帰る予定なんだ。各所が秘匿されている帝国の情報を持ち帰って次の侵入に活かす予定でな」
隠していた内情を丸裸にされる帝都。
だが、他国とも変化しない国内情報を隠す意図は流石に読めなかった。
(他国に攻め入っている事は隠しているのね)
直後、その理由が突如として映し出された。
「隠す理由は複数の迷宮が発生したからか。確かにこれなら大使の口を塞ぎにかかったり帰国させない理由にはなるか。散々見せておいて帰さないなら、筋は通る」
帝城裏、数十カ所の穴と門兵が立ち塞がる。
するとサーシャが疑問気に問いかける。
「迷宮って何です?」
王女殿下達には知らされていないのか。
カミナもきょとんとしているし。
真剣な表情のルイスと共に迷宮を見つめるシュウはサーシャの疑問に答える。
「各国に突如現れる魔導具やら資源の宝庫だよ。その分、魔物も溢れ出てくるが。ドゥリシア王国なら西部海岸に存在するらしい。我が国だとマリアの実家付近に数カ所ある、大公領に数カ所程度あるだけだ。そのどれもが取り尽くされていて資源が底をついている状態だな」
「これがバレると各国が黙ってないな。完全なる利益独占だぞ? 我が国の迷宮のほとんどは帝国の探索者共が持ち去っている現状だから」
「ザルだった理由はそこにもあったか」
こんな真実が隠されていようとは。
ザルだった理由にも驚きだけど。
これも先日ミヤに聞いてバカじゃないのって思えたし。大金払って検疫無しって、はぁ〜。
「これで各国への簒奪を並行して行う理由が明確になったな。迷宮から採れる事を隠すため」
「全て欺瞞扱いで各国に攻め入る。傀儡とするのは意識を反らせるためってか?」
「それと同時に取り尽くしたあとに発生するであろう迷宮の場所を把握しているのかもな」
「それなら次は我が国か?」
「だろうな。あとで調査依頼でもするか」
するとシュウが唐突に何かに気づく。
「あ、それでか!」
「それでって? どうしたのシュウ様?」
「空間接続は迷宮内から取り出すために用いろうとしている。収納は各国の迷宮から持ち帰るためだろうな。ここに失伝されたはずの転移が含まれると」
「「あっ!?」」
私とミヤがその危険性に気がついた。
収納魔法で持ち帰る際に帝都へと送り届けさせる予定か。各国を傀儡とする意図はそこにあると。ホント、自分勝手な国だね。
沈痛な時間は巡り、シャルが苦言を呈す。
「それよりも兄様、遅刻致しますが?」
呈されたシュウは壁時計を見つめ大慌てで、
「あっ! 全員、俺に掴まれ。訓練場に転移するから」
寮内から訓練場へと転移した。
きょとん顔のカミナを寮内に残して。
(歩くよりも転移の方がいいね、これ)
これが可能だから狙ってくるのか。
ちなみに、遅刻は回避出来たが『どういう現れ方をしているのですか』と、アイシャ様からこんこんと叱られた。シュウの身体に全員がしがみついていればね。
右腕にサーシャ、左腕に私、背中にルイス。
正面に笑顔のミヤが抱きついていたから。
肝心の野外訓練ではミヤの想像通りアイシャ様一人に対する総当たり戦が繰り広げられた。
私達は生徒達が打ち倒される姿を見つめる。
「脳筋って思ったけどマジかぁ」
「私は脳筋って言いましたよ?」
それも呆然と、サーシャだけは苦笑だね。
するとルイスが疑問気に話題を転換する。
「ところで今朝の事は報告するのか?」
「その予定だ。隠せる物でもないしな」
「だよな、複数の迷宮が現れていれば」
「帝城を無血開城出来れば幸いだが?」
シュウのそれは希望的観測だと思う。
私と同じようにミヤも首を横に振った。
「流石に無理じゃない、自国は護って他国に侵略するような国家が相手だよ?」
「いくら制空権を握っていても、簡単に明け渡す真似はしないと思う」
それに帝国にはリクが居る。
甲冑を着た黒髪黒瞳ロングヘアの。
鑑定情報からリクの名だけが記された。
今世では平民女で生まれているらしい。
背格好的に年齢は十五歳くらいだろうか?
シュウはリクの事を女と勘違いしているようだが、前世は男だ。それもオカマよりの。
断崖絶壁で怒るのは本当の事だからね。
異性から尻を撫でられたマリア、か。




