第73話 策士が策に溺れ、
特技披露会後、その時に造った銃槍が──。
マリアから割と好評だった。
改良点を挙げるとすれば、弾の発射口に土や血糊が入りやすい事、俺の思った通り剣帯の土玉排出口が厄介との話だった。
試作品一号でそこそこの結果が出せたので良しとしたが、これが正式配備されるかどうかは分からない。何せ人形兵装扱いとなっている武装を人の身で使わせる事になるからな。
そして今は、
「では本日は解散とします。明日から正式に授業が開始されるわけだけど、教科書類が間に合っていないので、そうね、朝一番にこの訓練場に来るように。そこで行う事を発表しますから期待してて待っているように、以上」
全員を整列させたのちアイシャ様が命じた。
訓練場に集合となると野外訓練を初っぱなから行うのだろう。教科書類が間に合っていない事をあからさまに言うのは近くに立つ事務方に対しての苦言だ。設立開始が前倒しされたからといって教科書が無いのはおかしい。建物と同時に用意しろとの意味合いでな。
睨まれた事務方は青白い顔で震えていたが、あれも裏で何かがあったのだろう。
ともあれ、解散した生徒達は同じ寮の仲間で集まり、それぞれの反省点を話し合って戻っていった。俺達もその流れに乗って解散した。
今居る訓練場と寮は近いので徒歩移動だ。
それぞれの並びは俺の右側にミヤ、左側にサーシャ、背後にマリアとルイスが歩いている。
「教科書類が間に合っていないのはおそらくあれが原因だろうな、きっと」
「あれって? シュウは何か知っているの」
「ここだけの話、先の将軍が問題だったんだ」
「先の将軍というと、サーシャ知ってる?」
「マリア、それくらいは知っておきなさいよ」
「えーっ、まさか常識的な話なの?」
「常識的というか、知ってて当たり前な話だ。無能当主の末、閑職に追いやられたバカ将軍」
「ルイスにまで苦言を呈されたぁ!」
「俺をバカにするな!?」
「まぁまぁ。僕は知ってるよ、確か、オウリ伯爵家の前当主だよね。血縁関係ではシュウ様の家の曾祖父の末の弟だったとか。間に姉妹が沢山いて長男がドゥリシア王国に勧誘された事で当主に据えられた頭の可哀想な弟との話だよ」
「そうだったのぉ!?」
酷い言い草だが、まさしくそれだ。
これも当主になるはずだった嫡男が天才的なまでに魔法適正が高く、様々な魔法を編み出した事でドゥリシア王国に目を付けられた。
当時の国王陛下が気づいた時には話が決まっていて、あれよあれよという間に連れて行かれたらしい。それもあって一時期は友好関係が破綻しかけたとの話だ。
「隣国とて油断出来ない国家だと気づかされる事案だよな。大金を積んで勧誘に来るから」
「あれの原因って隣にあったのかよ? 俺が知っているのは閑職に追いやられたところだわ」
「書庫の虫をしていたら割と知っている話よ、ルイスとマリアは書物を読むべきね」
「サーシャと俺とミヤに当てはまる話だな」
「その時に出国した嫡男は宮廷魔導師長に据えられた後、子の代で空間接続魔法を編み出し、孫の代ではそこそこの実績が出ているね」
「ミヤの言う通り、孫の代からは落ち目だな」
「孫の宮廷魔導師が落ち目だからこそ早々に手を打った伯母上も策士よね?」
「良い意味でな」
そして残り物には福があるというが、この場合はバカが居たって扱いだな。据えられた愚弟こと前将軍は異常な政策を領内に敷いた。
異常な政策。それを数え挙げればキリが無いが、その内一つは小競り合いで活躍した傭兵を多数取り入れ騎士爵家を増やした。
「それが例の話に繋がると?」
「ああ、マリアの危惧したとおり騎士爵家が一番上って誤認識と領内の周知徹底だな」
「まさかそういう認識があったのかよ?」
「それがあったから現当主は是正で頭を抱えているそうよ、バカ父がって怒鳴りながら」
増やしたまではいいが剣を振る事にしか能が無い傭兵に知恵のある者は一切居らず、大半が自由気ままな領地運営を行い、圧政に次ぐ圧政で領民達が他領に流れ出る状況にまで陥った。
たちまちは王宮から派遣された代官がそれらを改善させ、領民達は戻ってきたが税を湯水の如く使う生活は改善出来なかったとの話だ。
「まさに反面教師という奴だね。そこから統治術という学問が生まれて、領地運営を行う嫡男と予備の次男に対しては必須科目となった」
「俺も一応、覚えさせられたけどな」
「同じ末弟でも違いが明確だから仕方ないよ」
「「「分かる!」」」
それは寄親たる将軍、オウリ伯爵も同様であり早々に嫡男を産ませ王宮から派遣されてきた教育官と乳母が面倒を見て当主に挿げ替えた。
これも前当主がバカだった事が幸いし、当時は閑職扱いだった将軍職を与える事で了承が得られたらしい。命令権の存在しない将軍職だ。
「ここでルイスの言った事が出ると?」
「だな、役立たずの無能将軍と爺様も頭を抱えていた事案だ。命令権が無いのにあると思い込んで好き放題部下に命令を出すから事務仕事を徹底的に押しつけたとの話だ」
「自分の名前は書けるけど文字が読めない事が幸いしたって話ね。賭け事が好きな割に文字が読めないからカモにされていたそうよ。私も叔母上の愚痴で知ったけどね。新しい将軍は閑職とは無縁な人だけどね、実績があるから」
この国の賭け事は機械馬を走らせて行う競馬だ。人は乗らず命令した通りに馬を走らせる事が重要だ。そのほとんどの馬主は人形師達であり、そこで稼いだ資金で生活する者が多い。
「で、ここで本題の問題が出てくるが、カモにされていたから資金難になり、帝国間諜の甘い言葉に乗せられ、自発的に帝国の犬になった」
「え?」
ここから先は知らない者が多かったか。
今は俺と叔母上と上の方しか知らないしな。
アイシャ様もおそらく知っていると思う。
「金銭享受だよ。大金を与える代わりにって」
「ま、まさか?」
「サーシャは気づくよな?」
「じゃ、じゃあ、亡命も?」
「あれは別件だろうが、裏で繋がっていても不思議ではない。間諜同士の繋がりって意味で」
「となると、シュウ様? 奥様の件とか?」
「流石はミヤだ。大当たりだよ」
「わっ、急に頭を撫でないでよ!?」
犬みたいだよな、頭の毛並みが。
サラサラしてて良い匂いがする。
中身が女の子だからだろうか?
「すまん、すまん」
「もう! 髪型がぐしゃぐしゃだよぉ」
するとサーシャが思案気になり俺を見る。
真剣な顔がわりと可愛く思えてきた件。
「となると、例の命令の裏に帝国あり?」
「ああ、亡命者の汚染が同時進行で行われたから命令があっさり受諾されて降りてきた。一度でも発すると期限までは準備期間とされ、期限に達すると有無を言わせず行使されるってな」
「それなら無効だろう? 爺様なら撤回出来ると思うが」
「いや、一度でもって言っただろ? 陛下の署名入りだから勅命とされて覆る事は無いんだ」
「ああ、バカでも無駄に知恵が回るんだな」
「それもどうせ間諜の入れ知恵だ」
「正確に言うとあれの、だよね? シュウ様」
「だな。バカほど御しやすい者は居ないから」
「と、なると、特士校の件も?」
「講師が揃わない、教科書が間に合わない。それはバカ将軍と帝国の思惑が乗った結果だな」
「いいように操られてきたって事かぁ」
「マリアの言い分はもっともだが、お陰で人形の技術向上に繋がったから良しとしよう」
「でもいいの? このままだと奪われない?」
「このままでいいんだよ」
「はい?」
このまま油断してくれるなら本望だ。
きょとん顔が多数。




