第71話 戦妃の見る目は、
入学初日の特技披露会が開かれた──。
行う順番は主任講師であるアイシャ様が名指しして一人ずつ訓練場の中心で披露していく。
「ルイス君は剣術が得意なのね」
「は、はい!」
「先ずは身体を鍛える事が最優先となるわね」
「はい!」
総勢六〇人の生徒、一人一人を並べてランダムに選んで名前と顔を覚えていく。
俺とサーシャは遅れて到着したため最後尾に並ぶ事になった。俺の前にはマリアも居てホルスターから拳銃を取り出して弾を選んでいた。
それを見た俺は小声でマリアに問いかける。
「それを選択するのか?」
「銃槍術でもいいけど付け焼き刃だから」
「それは分かるが重戦士がそれでいいのか?」
「ライオットシールドがあればね。今みたいに体重が軽い内は簡単に跳ね飛ばされるし、一人で型を示すとなると初級じゃ何も出来ないよ」
「マリアがそれでいいなら。ほれ、クレー」
「さんきゅー。それでシュウはどうするの?」
「俺は後衛だしなぁ。この場で狙撃しても得体の知れない術って認識を与えそうだしな。同じ拳銃でもいいが、二番煎じになりそうだし」
「それなら小型ボーガンは?」
「ああ、あれならギリギリいけるか」
何が得意かって言われても人形師が出来る事などたかが知れているから俺は困っていた。
だからマリアの提案を受けた事で納得した。
収納術に片付けていた小型ボーガンを取り出した俺はマリアにも手渡したクレーを調整しつつ矢向けの補強を行った。
突き破って落ちる補強な。
マリアのクレーは砕けて魔力に戻る仕様だ。
「連射可能な弓矢っていうのも例外だが」
「理にはかなってはいるんじゃない? 出来る後衛が居るから安心して前衛は戦えるし」
「確かにな。しかし、他の面々も出来る奴が多いな、ホントに六歳児か?」
「私達基準で考えるとそう見えるけどね」
「お二人も同類だと思いますけど?」
「「それはサーシャも含む」」
「私は魔法しか取り柄が無いですから」
「僕も魔法しか取り柄が無いよ!」
「ミヤはぼちぼち頑張れ」
「扱いがひどい!?」
ひどいって言われても、スラスラと詠唱呪文を多言語に改良する奴には言われたくない。
サーシャも魔杖を取り出して魔法戦のみを行うようだ。これは錬成師であるミヤも同様だ。
寮内で唯一の剣術を扱うルイスのみがさっさと当てられて、初っぱなから披露していた。
体幹云々で助言を受けていたけれど。
そんなこんなでミヤの順番がまわってきた。
ガチガチのミヤは訓練場の中央に立ち、
「ミヤ・ヴィ・ディナイトです! 職業は錬成師、特技はこれです!」
杖を振る動作だけで魔法を発動した。
詠唱することなく周囲に水玉が浮かぶ。
数は十個、水玉の中には金属球が浮かんでいた。金、銀、銅、青銅、黄銅、亜鉛、鉄、ミスリル、オリハルコン、白金が。それらの金属が何なのか理解出来る者は少ない。
「凄っ!」
「水を詠唱なしで生成した?」
「それよりも中の金属はなんだ?」
そこらの錬成師といえど自分の知る金属しか錬成出来ないからな。アイシャ様はミヤをジッと見つめ何度となく頷いた。一応、剣術持ちだって事にも気づいているか?
「結構、魔力はそこそこのようですが制御面がまだまだですね」
「は、はい」
お? 鑑定技能があるのか。
あれも実戦で身につけた技能だとすれば相当な実力者だな。サーシャの母親だけはあるか。
「以後、精進なさい」
「はい」
ミヤはしょんぼりしつつ戻ってきた。
錬成師である以上、この結果は仕方ない。
鍛えるのは主任講師のアイシャ様ではなく副講師のラナ先生だろうな。
だがここで造った金属を消すのではなく収納術に片付けていたからアイシャ様を別の意味でギョッとさせていた。くるくると回っていた水玉が移動した後、中身だけが空間内に収まって水だけが地面に落ちればな。
「あれは何処にしまったのって感じか?」
「そ、そうですね。あ、マリアの番ですよ」
次いでマリアが中央に立つ。
「マリア・リィ・トゥリオです。職業は重戦士ですが盾が無いので簡単な演舞を行います!」
演舞と聞いてきょとんとする者多数だ。
それはアイシャ様とて同じ反応だ。
重戦士は他にも居て槍術の型を流す者がほとんどだった。しかし、マリアには盾も槍もないため怪訝になる者が多かった。
するとマリアは右手に持っていた色違いのクレーを上空に放り投げる。数は二十個、それは上空に飛ぶと浮遊魔法と風魔法により自由自在に飛び交った。
「どうなってんだ、あの的は?」
「あんなの見たことない!」
的と事に気づいたのは弓職の者だけだろう。
彼らも後衛職だが教えるのはアイシャ様である。戦闘に参加するかしないかが鍵だから。
マリアの右手が制服中に入り、
「な、なんだ!? あの動きは!!」
アクロバティックな動きで飛び交う的を一瞬で砕いてく。砕く手法は見ただけでは分からない。右手に持つ謎の金属塊。それを持ち替えつつ遙か上空に浮かぶ的を狙っては砕いていく。
穿いててよかった黒いスパッツ!
「ど、どういう戦闘なの?」
「どんな手品だ?」
魔法のある世界でも手品ってあるんだな。
最後の一発はマリアに迫ってくるように飛んできて、交差するように砕け散った。
「以上です」
「見事な動きでした。ただ、重戦士向きではないですね。次は本当の特技を示して下さい」
「え?」
「手札を出し惜しみするものではないですよ。戦場でそれをすると命取りです」
「は、はい」
ほほう、銃槍術を求めたか。
マリアは小銃を取り出し、銃剣を付けると予備のクレー二十個を放り投げた。動きは先ほどと同じだが、今度は長い得物を持ったまま近場の的を切りつけ遠くの的を一瞬で射貫く。
「槍術の初級なのは型を見たら分かるが」
「型の合間に構える体勢はなんだ?」
「いや、あれで遠方の的を狙ってるぞ」
「え? 槍じゃない、あれは杖か?」
「杖に穂先が? そんなの見たことない」
まだ小銃と狙撃銃は知る者が少ないからな。
アイシャ様は見覚えがあるのか真剣な表情でマリアの動きを見つめる。おそらくは数丁だけを帝国兵が向けた事があるのかもな。
形状は違うけど似通った物だから。
ただ、撃った矢先に音がしないから違う物だと気づいてはいるらしい。
「魔法弾、様々って事で」
「何っていう戦い方だよ。近づこうものなら切りつけられ、遠くから魔法を撃とうものなら」
「魔法の連射で術者が射貫かれるってね?」
「弓よりも早く目標に辿り着きますし」
「本当の特技か。マリアとは戦いたくねぇ」
「味方で良かったと思うしかないな」
そうこうしている内に全て終わり、
「以上です」
「帝国兵との戦いで実物を見たことがありますが、貴女の動きの方が洗練されていますね。これが中級、上級、免許皆伝へとあがっていった時、新たな槍術が生まれる事を期待します」
「あ、ありがとうございました」
アイシャ様は戦術の幅が拡がったと見たのか笑顔で何度も頷いていた。もしかすると人形以外にもあてがう時が来るかもな。
(銃ではなく槍型装備を造るのもありか?)
それはともかく、いそいそと戻ってくるマリアに対し注意だけした。
「マリア、土玉だけは回収しろよ!」
「あっ!」
撃った後の処理だけはホントに面倒だけど。
「つ、土玉が消えていく」
「なんなのあれ?」
収納魔法に関しても叔母上と要相談だな。
人柄と状態異常から判別する必要があるが。
アイシャ様も頭でっかちな部分以外は正常だしな。それは副講師のラナ先生も同様に。
側妃様、大公領にも立ち寄ってそうだな。
登録情報の閲覧で所有者が分かるから。




