第67話 許される範囲って、
王宮内の後始末を終えた俺は──。
叔母上と別れて寮に戻った。その際にミヤ達から土下座されてきょとんとなった。
その場所は玄関から入ってすぐの大広間だ。
「「ごめんなさい!」」
「は?」
この謝罪はどういう意味の謝罪だろう?
流石の俺でもこれには理解が追いつかず隣に立つ苦笑するサーシャに問いかける。
「何があったんだ?」
「三人の生い立ちといえばいいかな」
「生い、立ち。ま、まさか? お前ら」
「「ごめんなさい!」」
ああ、バレたのか。サーシャにまで。
謝れば済む話ではないな、後で罰するか?
そこで俺は同居人達を思い出す。
「ルイスには? 現時点では殿下もか」
「「ま、まだバレてないよ?」」
「なんで挙動不審なんだよ?」
俺が訝しげに土下座民を睨むと、
「危うくって意味かな」
サーシャが困り顔で左頬をかいた。
これだけでは状況が読めない。
「危うく? 何があったんだ?」
マリアとミヤが目配せして回答した。
「ルイスがラッスケに遭った」
「それをルイス様の前で言った」
だが、この回答でも繋がりが読めない。
「それとルイスが気づくのと関係あるか?」
二人の言葉に補足を入れたのはサーシャだ。
「実はね、セリィヌ辺境伯家って婿入りした建国王の御実家で婿入り前に記した古い手記が禁書庫に残っていたそうなの」
「それで何で知ってるんだってか?」
「そういう事かな?」
それならガチで転生者が居たって事になるか。しかしまぁラッスケでバレるか?
「で、その幸運接触が起きたって事か?」
「殿下が未だにあのままだったから何も知らないルイス様が」
「ノックもせずに飛び込んで」
「風刃の雨あられで」
「細切れになったと」
俺の問いにミヤが答えてマリアが応じてサーシャが反応に困る顔のまま客間前の廊下を見つめた。俺も奥を見るとルイスの残骸が転がっていた。細切れというよりなんとか躱したはいいが壁に激突して気絶したって方が正しいか?
気絶前でラッスケを聞いて今に至ると。
「それで殿下は?」
「僕が改めて見たら、羞恥で丸くなってた」
「一体何をしたらそうなる?」
「鏡で何度も見てたみたい」
「おぅ、それはルイスが悪いな。女性の居る部屋はノック必須だぞ?」
客間の鏡は扉の対角線上にあって、開いて互いにびっくりという状態になったようだ。
このノックは本当の本当に必須だからな。俺はマリアに視線を向けつつミヤに視線を戻す。
「う、うん。私も経験あるし、ね」
「僕は経験ないけど似たような事はあるかな」
「ミヤは無かったように思えるが?」
「うっ」
なんで真っ赤な顔で俯くんだよ?
これがマリアならまだ分かる、住処に行って玄関で断崖絶壁とご対面したから。見られ慣れていてもそれはそれで恥ずかしかったらしい。
俺もルイスと同じように拳で吹っ飛んだ。
「完治した事が嬉しかったからじゃない?」
「休学のまま編入する許可を父上からいただきましたからね、それを伝えに向かって」
「ぼろぞうきんになったと、なら寮は?」
「こちらに引っ越すそうです。休学になった時点で寮も引き払ってはいたようですし、持ち込まれた荷物が全てですね」
殿下から狙われていたサーシャが納得済みなら俺からは何も言えない。
「それなら、早々に部屋の準備だけはしておくか。授業が始まったら用意どころではないし」
「そうですね」
一先ずの俺はサーシャの同意が得られると同時に保留にしていた謝罪に対する罰を与える事にした。
「じゃあ、ミヤには暴露した罰を与える」
「え、僕だけ?」
「仕事しろ、錬成師」
「ああ、そういう事?」
「部屋を一人で用意しろ、魔力回復薬だけは手渡すから。あと南東側の二部屋は使うな。女子トイレにするから」
「承知しました」
ミヤは俺から魔力回復薬を受け取ると痺れた足を引きずって二階に上がっていった。空き部屋はあるから問題ない場所に設置するだろう。
そうして次は土下座中のマリアに向き直る。
「マリアには別件があるから一緒に来てくれ」
「わ、私も?」
「全裸待機がお好みか?」
「い、いえ、同伴致します」
全裸待機と聞いてマリアはスクッと立ち上がる。身体強化魔法を使ってやがる。
俺達のやりとりを見たサーシャは意味が理解出来ないのかきょとんとしたままだ。
(サーシャはどうするか? どうせバレたのなら気にするだけ無駄か)
だから俺はサーシャにも手招きし、
「サーシャも来い、これからマリアの特技を示すから」
「は、はい!」
「私の特技?」
廊下に転がるぼろぞうきんを真横に動かし壁面に手をかざす。直後、ぼろぞうきんの居た壁面に魔法陣が展開されて偽装が剥がれた。
「「え?」」
驚く二人をよそに現れた鉄扉を開いて中に入る。そこは蟄居を受ける前に設置した地下へと下る階段だった。この壁面自体が上階階段のデッドスペースだったからな。
「なにこのしっかりとした造りの階段は?」
「こ、こんな空間ってありましたっけ?」
地下への階段は全てコンクリートと鉄筋で組み、上に乗る建物が崩れないよう空間補強も行った。地下に設けた空間は排水管が干渉しない深さであり建物の土台にも別の補強を与えた。
建物の重みで配管が壊れたら堪らないしな。
「魔法ってホントに便利だよな。既にある建物の真下に空間を造る土魔法とか当たり前にあるから。お陰で土の組成をじかにコンクリートに変える事まで出来たからな。流石に内部へと埋め込んだ鉄筋は転送魔法で送り込んだけど」
「え? 土魔法ってそんな事も出来るの?」
「おう。お陰でほら遮音と耐魔法と耐震を兼ね備えたマリアが欲していた訓練施設が出来たってわけだ。元々は俺の訓練場だけど」
「おー!? 室内射撃場だぁ!」
「な、何なんですかぁ!? この広い空間は」
室内射撃場の仕様は全六レーンあり、左右の扉からは的の補充が行える廊下を設けている。
地下倉庫には魔法弾から銃器の一切をしまっている。その隣には男女別の個室トイレありだ。流石に食事スペースはないので都度テーブルを置いていただくしかないが。
地下倉庫へと移動した俺はマリアに手渡す。
「ほれ、アサルトライフル」
「あ、私の愛用品だぁ!?」
「身体強化を使えよ、まだガキの身体だから」
「あいよ! これの弾は?」
「散弾ではない土弾だ。一応、非殺傷弾だが当たると痛みを生じるから気をつけろよ。痛覚耐性が最大でも痛いものは痛いから」
「ほい! 的は人型だぁ! 楽しみ楽しみぃ」
愛用品を受け取ったマリアは複数本の弾倉を持って近場の第一レーンに向かった。
それを背後から見つめていたサーシャは唖然としたままだった。空間にも驚いているが、やはり一番の驚きはマリアの反応だったようだ。
「こんなマリアは見たことありません」
「まぁあれは単に興奮しているだけだな」
「こ、興奮ですか?」
「ああ、その興奮が一気に冷めるぞ」
「え? うそ、何あの真剣な顔は?」
「入りやがった。これで技能に反映されたらどうなるかね?」
マリアは興奮から集中に意識を切り替えた。
猫っぽい小動物が獲物を狙う虎に変化した。
直後、擬似的に音が響き、計十発の魔法弾が的に向かって飛んでいった。魔法弾は的に当たると魔力に戻る、的に当たらず奥に飛んでいくと背後の結界で魔力に戻される。落ちた薬莢は地上へと転送され、土玉小屋へと貯まる。
土玉は陶器向けなのでそのまま再利用だ。
もっともマリアの腕であれば完全に的の急所に当たっているが。
「す、凄い」
「狙撃術が生えたから、ここからが本番だな」
「え? ほ、本番って?」
改造の範囲って地下も含まれるの?




