第66話 虎児に迎撃される。
ミヤの誤爆から意図せず三人を知った──。
数々の魔導具の大元は三人が知る別世界の道具が発端だったとは思いも寄らなかったけど。
すると植物紙を片付けたミヤが、
「今だから言えるけど建国王も同類だと思うよ?」
あっけらかんと私が驚く推測を立ててきた。
「え? そ、それってどういう?」
「シュウ様が以前、仰有っていた話だけど胸元にかけてあるペンダント」
「あ、ああ。連絡魔導具の事?」
「解析したら見覚えのある暗号だったとか言ってたからね」
そういえばあの時は驚くような速さで解読を済ませていた。その時に復号化とかよく分からない単語を口にしていた事を良く覚えている。
すると今度はマリアが興味深げに問う。
「それってどういう物なの?」
「十六進数の平仮名乱数表で鍵が国名だってさ。計算と思ったら別物だったから、語れない内容だけに計算で通したらしいけど、しかも中身は平文通信」
「おぅ、それはご愁傷様」
「でもそれを知ったから呪文に多言語が使えるって気づけたけどね。陰詠唱は必要だけど、この世界では聞き取れない文字の羅列になるし」
「確かにそれなら、建国王に感謝!」
十六進数? 聞き覚えの無い単語がミヤの口から飛び出した。マリアもそれを聞いて簡単に理解を示した。今は手を合わせて拝んでいる。
それは神に祈る姿とは異なる天を拝む姿だ。
ミヤはその姿を見て苦笑しつつ茶を飲む、
「残るのが連絡魔導具だけだから、明確な証拠とは言い難いけどね」
「私達にとっては同類と分かっただけ儲けものよね。その分、教会からは狙われ易いけど」
拝み終えたマリアは椅子の背もたれに両腕と背中を預けて足を組んだ。妙に様になる姿。
カミナ姉様とは異なる風格が出ていた。
「そこなんだよねぇ。シュウ様みたいに考え無しで行動しないよう気をつけないと」
「シュウはあのバカと同じように出来ると分かったら乱発するタイプだものね〜」
「困った事にね、だから僕達が居るのも」
「ストッパーってわけね」
しみじみとした二人の表情は私の知らないシュウを知る妙な信頼関係が出来上がっている風でもあった。
「教会は称号さえ隠せたらいいから僕がステータス偽装をしておくよ。サーシャにも加わっているみたいだけど、ね」
「うっ」
やはり婚約に気づかれてる。私は困惑を隠すため無表情を貫き通していたが、その一言で苦渋の表情に変わってしまった。
するとミヤは苦笑しつつ受け流した。
「いいのいいの、どうせその流れになってもおかしくないからね」
そんなミヤに、マリアがツッコミを入れる。
ふんぞり返った姿から隣を見つめるように。
「そう言いつつ側妻を狙ってるでしょ?」
「まぁね、でもマリアだってそうじゃない?」
「え?」
その一言でマリアの表情が抜け落ちた。
ミヤの瞳が濁っているのは気のせいかな?
「知らないと思った? サバゲーの後に見ちゃったもん。味見してる、ところ」
微笑みの中の目が笑っていない。
ミヤを見たマリアは狼狽え視線を泳がせた。
「あ、あ〜、いや、その、あの、えっと」
「大丈夫大丈夫、いくら僕でも親友を殺すような真似は出来ないから。むしろ感謝って奴?」
「ご、ごめん! で、でも関係だけだから」
「はいはい、フレンド的な、でしょ?」
「う、うん」
「あれは仕方ないよ〜。父が禁止していたし、触らせていたからそうなってもね?」
「ご、ごめんなさい! 親友なのに!」
「全て過去の事だよ。で、今はどうなの?」
マリアの謝罪を受け流したミヤ、急に無表情に変わってマリアを見据えている。
ミヤもこんな顔が出来たんだ。
マリアは見据えられて白状した。
「ね、狙ってますです、はい」
「だよね、僕もそれでいいと思うよ」
「い、いいの?」
「一夫一婦制なら追い立てるけど、こちらでは違うし、身分的にも第三夫人が妥当なところだと思うよ?」
白状後はいつものミヤに戻った。
マリアは安堵の表情を浮かべつつ、
「じゃ、じゃあ?」
ミヤに問うと、ミヤはマリアの両手を握りつつも見つめ合って宣言した。
「共闘って事で、一緒に夫人を目指そう!」
「うん! って、殺さない?」
「殺さないよ、そもそも目撃した瞬間に羨ましく眺めながら致してただけだし」
「そ、それだけ?」
「それだけ。繋がりたい気持ちはあったけど怖かったし、父が殴り殺しかねないし」
「ああ、おじさんならやりかねないね」
しかも、正妻となるはずの私を放置して話は勝手に進んでしまった。元々そのつもりで居たので反対は自体は無いがマリアまで対象となるのは想定外だった。
何はともあれ、三人の秘匿情報は報告出来ない代物のため私の中で留める事にした。
そして茶を入れ直そうとして立ち上がると、
「と、ところで、あれは見えているの?」
目前の窓の外でカミナ姉様がジッとこちらを見下げていた。見えないはずだよね?
しかも、裸のままベッドの上に立って。
ミヤはきょとんとしつつも応じ、
「見えるものでもないよ?」
「ああ、治っているか確認中だわ」
マリアが近づいて呆気に取られていた。
ああ、鏡だからかぁ。
「み、見なかった事に致しましょうか?」
「それがいいね。カミナの名誉のために」
「反対側から丸見えでしたとは言えないね」
「「それは言えない!」」
言ったら何が起きるか分からないわ。
するとミヤは収納術から窓枠と同じ大きさの棒を取り出した。その棒には以前作った薄布が取り付けられていた。
「カーテンレールを据えて隠しておこうか? 何かの拍子に入って知られるのも面倒でしょ? 部屋が用意出来るまでは客間住まいになるのはどうしようもないし」
そう言いつつ、魔法により建物へと結合させていくミヤ。私の施した遮音魔法があるお陰か物音が隣に響いていなかった事が幸いした。
「そうね、姉様はしばらく休学されるとの話だし王宮とか以前の寮が危険地帯なら」
「そうだね、ルイスという婚約者も居るし、シュウにすり寄る事も無いでしょ?」
「「異議無し!」」
どのみち、長期滞在するつもりで荷物を持ち込んでいるのだ。このまま前の寮に帰さずとも良いかもしれない。仮に姉様が望むならば二学年に上がった時に編入させる手も有りだろう。
魔導師としての腕は優秀だからね。
カイナ兄様よりもカミナ姉様の方が。
§
様子見部屋での話し合いを終えた私達は、そのまま二階に上がり、ルイスに事情を告げた。
ルイスはベッドへと横になって居たけどね。
「え? 治った」
「ええ、完治したわ」
「それはどちらの意味で?」
「全ての意味で完治よ」
「完治した」
告げたのだけど、きょとんをいただいた。
洗脳汚染と身体の傷が消え失せた。
本当の意味でのカミナ姉様が戻ってきた。
「ただまぁ、学習遅れは出ると思うけどね?」
「汚染中に学んだ事がすっぽり抜けているし」
「魔法に関しては二人が教えるから気にする必要はないけどね。姉様が希望すれば来期からの編入も可能になるって父上から許可も出たし」
実は移動までの間に父上へと報告すると寮に住まわせる許可が下りたのだ。しかも、この寮が一番安全だと認識してくれたみたいだしね。
するとルイスは急に立ち上がり、
「分かった、なら俺から話を通してくるわ!」
そう言いつつ、一階へと駆けていった。
「あれ? 客間の場所は教えたっけ?」
「シュウが処置前に案内してくれたよ?」
「そういえばマリアも一緒に居たわね」
「というかさ、カミナ殿下、裸じゃない?」
「「あっ!」」
気づいた時には二人の叫びが聞こえた。
「きゃー!!」
「ぎゃー!?」
ルイス君ってラッスケ体質かな?




