第64話 転生者には転生者達を。
シュウと叔母上が揃ってお出かけした──。
それを様子見部屋から見ていた私は部屋に入ってきたミヤとマリアに事情を問う事にした。
先ほどの遮音魔法を高密度で維持しつつも椅子に座る二人を眺めながら茶を用意する。
(これくらいしないと不味い内容が控えていそうな気がする。この寮は不審者が入ると照明が赤く明滅するから、気にする必要はないけど)
照明が明滅するのは警戒網が動いた時だけ。
仕様はディライト辺境伯領の屋敷と同じだ。
父上達が訪れた時は宮廷魔導師が寮内に入った事で赤く明滅したけど外に出ると止まった。
これも許可の有無があるから仕方ない。
私達は命を狙われる立場にあるからね。
今は応接机の前で茶を飲んでいたのだが、
「それで、先ほどの話は何だったの?」
「う〜ん、何処まで話して良いものやら」
「これを知るとサーシャも狙われると思う」
「狙われるって何度も命を狙われているのにそれ以上に狙われるような事なんてあるの?」
「いや、狙われるのは帝国というか」
「帝国とは違うというか」
ミヤとマリアは目配せしつつバツの悪い表情で視線を泳がせた。
隠し事がある時のバカ正直に反応する的な。
無表情が出来ないと貴族の子女として困る話なのに感情に左右されて誤魔化せていないね。
「帝国とは違う?」
「いや、ホントに知ると不味いから」
「うん、僕達の知力が証拠そのものだし」
「ちょ、ミヤってばそれを言うと」
「サーシャ様は知ってるし」
「え? 知ってるの?」
「それくらいはこのモノクルで見えますし」
「ああ、称号的なのは除外されているのね」
「コラ!? そこは黙っておかないと」
マリアがボソッと呟くとミヤが血相を変えて左手で口を押さえた。身分的にミヤが下なのに、そういう価値観が二人の間には無いらしい。
ミヤがマリアに出会った時は様付けしていたのに今では呼び捨てとなっているしね。
私が睨みながらミヤに問うと、
「称号って何?」
「えっと、誰かが呼びだした二つ名とか」
渋々と答えるミヤだった。
マリアはミヤに口を塞がれたまま青白い顔になりつつある。そろそろ取ってあげたら?
「二つ名って、マリアは分かる?」
「ぷはっ! 母様のなら分かるよ、周囲からは狂乱の人形師って呼ばれているし」
「ああ、確かに記されていたね」
「な、なんとなく分かる気がする」
それはマリアが人形嫌いになったとされる叔母上の別の一面だった。普段は貴族の男性と思うような喋り方の叔母上、時々だが女性に戻る叔母上、母親を示す叔母上という様々な姿を示す人でもあるが人形師としての姿は恐ろしいと呼ばれている。
「それが称号というなら、私には無いの?」
「今は無いかな? シュウ様は人形の産み手っていう称号が既にあったけど」
「称号って功績が無いと生えないんだっけ?」
「そうなるね。僕の場合は、ざ、残念女子とあったけど」
「ぷっ。ぴったりじゃない、そこは地雷女でもいけると思うけどね?」
「ひどい! 今世では地雷女は卒業しようと思っていたのに! そういうマリアだっておっさん女子が生えてるよ!」
おや? ミヤがポロッと発した気がする。
それにはマリアも途中から反応を示した。
「おっさん女子って、あっ!?」
「こ、今世?」
「あっ」
この時、称号通りの行動だと改めて思った。
マリアに襟首を握られ前後に揺さぶられるミヤは首を前後に揺らしながら、酔ったようだ。
「それを言うと隠す意味が無いでしょ!?」
「ご、ご、ごめ、ごめん、うっぷ!」
ミヤが吐きそうになるとパッと手を放したマリアは溜息を吐きながら背中をさすっていた。
「相変わらず三半規管が弱いわねアンタ」
「これだけは残って欲しくなかったかも」
「きゅ、旧知の仲って感じね?」
「ここだけの話、精神年齢で換算して十八年もの付き合いがあるしね」
「そ、そうだね。それくらいはあると思う」
「え? で、でも今は五歳でしょ?」
私達は五歳のはずだ。私もあと少ししたら六歳になるが、差し引きで十三歳も差が出る事自体が有り得ない事だった。
マリアは私の驚きをよそに、令嬢とは言い難いおじさん風の体勢で股を開いて座り直した。
「逆に私達からしたら五歳なのに大人っぽい子がこの世界には多いって思うけど」
「確かに多いね。僕達は精神が大人だから例外に含まれるけど隣の裸族も早熟って感じだし」
「男共はシュウを除いてガキって感じだけど」
「分かる! シュウ様だけは違うよね!」
「というかいい加減、様付け止めたら?」
「立場に違いがあるから変えられないよ」
「それを言うと私は何なの?」
「マリアはマリアだけど?」
「私も辺境伯の長女だけど」
「じゃ、じゃあ、マリア様」
「様付けは止めて、悪寒がするから」
二人のやりとりを見ると正妃様と母上の普段の行いに見えるのは気のせいかな?
なんだかんだと喧嘩しつつも仲がいいから。
というか世界って言ってるけど、まさか?
「えっと、二人って他の世界を知ってるの?」
「「それがなにか?」」
あ、あっけらかんと揃って言われた。
知られたからって開き直らなくても。
「じゃあ、あれこれ造っているのは」
「僕が出来るのは無機物だけだから造り出せるのは元素のみだけど、シュウ様はガチであちらの品を再現しているかもね。生物組成はあちらでも神秘の部類に入るけど」
「魔法っていう神秘がある世界だと当たり前に行えそうな話よね。元の世界なんて魔法よりも機械だったし」
「分類的に帝国寄りと言えばそうだよね」
「そうなるね。あと、言語も元の世界と同じだから助かっているし」
「呪文の文字列も僕達にとっては簡単どころの話じゃないしね。魔法陣の漢字なんて特に」
「こんな事ならもう少し早く目覚めたかった」
「英語で魔法文字も作れるよ? ちょっと待ってね、植物紙に書くから」
「マジで? どんなのどんなの?」
「翻訳と同じでいいみたい。詠唱呪文もそれと同じで──」
何だろう? 途中からマリアがよく分からない発音でミヤの書いた文字列を読んでいる。
「──【インベントリ】、おぉ! これがあの!」
「マリアの魔力量なら一トルだね」
「へぇ〜、それなら結構入りそうだね?」
「入ると思うよ」
最後の鍵言を聞く限り収納魔法のようだ。
この時の私は別言語でも魔法行使が可能な事を初めて知った。その後はミヤが別の文字をつらつらと書き、マリアが別の発音で魔法を行使していた。それらはマリアの魔力量では行使する事すら不可能な代物だった。
それを見た私は真剣な顔でミヤに問う。
「まさかとは思うけど呪文を改良してないよね?」
問われたミヤは一瞬きょとんとしたが、
「それが何か?」
あっけらかんと返してきた。
私はあまりの事に表情が抜け落ちたと思う。
この世界の魔法はあらゆる魔導師達が研鑽して造り上げた物がほとんどだ。それをあっさりと塗り替えられてしまえば、教会神父が説法で発する『異世界の来訪者は全て悪』という言葉が真実であると思えてならなかった。
だから、最初に言った『狙われる』それはこの事を暗に示したのかも知れない。
異端審問官がわざわざ訪れて殺しに来るから。とはいえシュウ達は国に多大な利益をもたらしてくれている。マリアにしたって別の可能性を示してくれたのだ。
悪目立ちしても帝国よりはマシだから。
そこで私は忘れていた本題を問う。
「そ、そういえば、リクって誰?」
それを聞いた二人は顔を見合わせ、
「「帝国で暗躍する殺すべき異世界人」」
嫌そうに殺意を漲らせた。
審問官様、帝国に異世界人が居ます。
残念女子が二人に増えた!




