第63話 目には目を歯には歯を、
王女殿下の処置が済んだ日のこと──。
王女殿下を眠らせたままベッドへと横たえてバスタオルを剥がした俺は王太子殿下がお越しになると同時に叔母上の尋問を受けた。
当然、周囲に遮音魔法を張ったうえで。
「ではなにかい、帝国は教会本部、違った教会分派のある地を乗っ取り済みで、あれこれ他国の情報を得ていたって事かい?」
「その可能性は高いかと。ここ最近、やたらと俺の居場所を狙ってくるのは母様を通じて伝わった収納魔法を強奪しようとしているとしか思えませんから。先の戦争の思惑から察するに」
最初は内乱に至る前の状況説明を行った。
「ああ、シャルの腹の中に入れているとか?」
「実際には違いますけどね。収納魔法は空間接続魔法と同様に新規で創り出された魔法です。扱いは禁書で読み込めなくても有ると示した以上は報告を受けた神父を通じて狙ってきても不思議ではありません。魔力量によって入れられる分量が決まっていても、兵站向けですし」
「そうなると教会神父も間諜と見なした方が良さそうだねぇ。しかし、それを知るとなると何処まで漏れていたかが鍵だが」
「登録している物は全て目を通しているでしょうね。技官の性質からしたらその可能性が高いですから」
「その口ぶりは、相手を知っているのかい?」
「中身についてであれば。外見は性別不明な甲冑に覆われていたので素性は分かりませんが」
中身について。俺も知っているしマリアとミヤも当然ながら知っている。
「なるほど、その情報まででいいか。これ以上知るとマリアが危険に晒されかねないしね。知りすぎると素性を明かさねばならないから」
「ですね、教会に狙われれば面倒です。相手の名前だけは判明してませんし」
「それと共に疑いの目が向くだろう? 君は悪目立ちし過ぎるからな、利用されかねない」
「それもそうですね、気をつけます」
腸抜罹苦、生前の情報であれば性別は女だったはずだ。声がハスキーボイスで身長が高く美形。性格に難ありだが外面だけは良く、百合を愛する、女性陣から敬遠されていた危険人物である。
都度、魅夜の胸をマリアの尻を撫でてはペイント弾で蜂の巣にされていたほどだ。
ガンマニアかつ機械にも強く、自身で様々な開発まで行うド変態だったりもした。
(空間属性は使い手が少ないのに何を考えているのやら、魔導具とするにしても特定の職業と恩恵を得ていなければ無理な話だぞ)
そのほとんどは中途半端な代物が多かったので失敗作で大怪我しかけた事が頻繁にあった。
主に実験に付き合わされた俺が、だが。
それもあって魅夜が毛嫌いしていたよな。
危ない代物をバラして紛争地帯に持ち込んでいった本当の意味での危険人物。
結果的に巻き添えで死亡した迷惑人物だ。
俺も監視魔法で鑑定して情報を得たが、まさか技官の責任者をしていようとは思いも寄らなかった。だからやたらと機械的に発展しているって事だな。ただ、着ている甲冑が鑑定防止機能を持っている魔導具だったため、俺が得られたのは称号と職業〈軍師〉だけだった。あれもドゥリシア王国からの鹵獲品なのだろう。
(職業から指揮している立場って事だけは分かる。それでも帝城に入り込むには何らかの技能が要るはずだが、その情報が得られない事には敵対も容易ではないな。帝都までの街道に陣取る検問も奴が情報を与えたって事だから)
何はともあれ、帝国に諜報員を送り込むには膨大な課題が残っているが、早期に得られる情報を少しでも得ようと思う俺だった。
すると叔母上は室内に入ってくる王太子殿下達に会釈だけして読唇防止魔法を張った。
遮音だけでは読まれると警戒したようだ。
「その教会も今や反旗を翻して徹底抗戦か」
「武器を供与されているみたいですしね。武装する神父とか、神の使いとは思えないですよ」
今は報告するには未確定な情報が多いから。
これで見切り発車されたら堪らないし。
まだ準備が終わってもいないからな。
「確かにそうだ。ただ、監視場所が大使館以外にも増えたのは厄介だけどね」
「それならこれとかどうですか?」
「これは、なんだい?」
得られる情報は少しでも多い方がいい。
国内に蔓延る間諜達も大使館を根城にしているようだし、人だけの監視は無理と判断した。
洗脳術で二重間諜にされかねないしな。
「帝都を監視魔法で見た時にあった監視道具を魔導具で再現した物です」
「この水晶球が、かい?」
「他にも種類が有りますが、現在王都へと設置中の魔光球と見た目が大差無いので、こちらを選択しました。幸い大使館前の工事はしばらく先でしたし、前倒ししても問題無いでしょう」
「確かに似ているね、それなら手配しておこう」
それはあちこちに在った監視カメラだ。
形状は魔光球と同じ物。昼間はただの水晶球として対象を監視する。夜間は照明魔法と並行起動して監視映像をより鮮明化する。
接続部も通常の魔光球と同じで集中管理具だけは別物が繋がる代物となっている。
集中管理具の管理番号で言えば設置場所の漢数字が外の零と中の壱で表記される。
〈〇〇一・三二八七〇五二八・零・〇一〉
〈〇〇一・三二八七〇五二八・壱・〇一〉
大使館の周囲ならば大使館内の記録も撮り放題だろう。なにせ街灯の高さが塀と同程度になるのだ。街灯の設置前に魔光球の取り付けが行われて土魔法での地固めが行われるからな。
各街灯の支柱にも破壊または強奪に関する動きを感知すると雷撃が与えられるので間諜が気になって奪おうとしても、触れた段階で失神するか死亡する。その電圧は雷レベルだな。
国有資産を狙おうとすれば仕方ないだろう。
監視映像を記録するのは連絡魔導具の映像送信魔法を用いて改良した映像記録魔法だ。
「記録はこちらの魔石を複製しておきますね」
「これは、どういった物なんだい?」
記録媒体は空間属性魔石。魔石には立体映像再生を持たせているので必要とあらば持ち運ぶ事も可能だ。報告用に複製機能もあるしな。
「これ一つで三〇日分の監視記録が可能です」
「ほぉ、それなら管理も行い易いね」
「その分、調べるのは大変ですけどね」
「いや、それくらいの労力は当たり前に熟して貰わねば税金の無駄と揶揄されるだけだ」
「監視の人件費ですか」
「あれも何気に無駄金を食うからな、少しでも楽になるなら問題は無いだろう。監視の目が無くなったと判断して害虫がワラワラと出てくる可能性もあるしな、それは教会もだが」
「確かに、そうですね」
日付管理も記録開始日に映像記録魔法を施した魔導具によって刻印されるので日付間違いも起こらない。但し、交換時はアラームが事前に鳴るので予備枠に新規魔石を置く必要がある。
交換時に予備枠が勝手に移動して古い方が予備枠に切り替わるのだ。一時的に映像が重複するが切替時の記録停止を避けるための機能だ。
なお、これらも禁書系の新魔法である。
その間の王太子殿下達は王女殿下に別れを告げ、王宮に戻られた。俺と叔母上も空気を読んで次なる行動に出る事にした。
「たちまちの監視部署はどうなってます?」
「外交管理部が行っているが、どうした?」
「でしたら、一回出向いた方がいいですね」
「何かあるのかい?」
「二重間諜の可能性がありますから」
「ああ、それはあり得るね」
外交管理部が帝国の犬になっていないとも限らない。王子殿下の周囲にまで汚染が拡がっているのだ、出来るだけ早い内に汚染の芽だけは摘み取る必要があるだろう。
敵の手口を知る者が相手となる、か。




