第62話 深謀遠慮の働きは戦慄を生む。
カミナ姉様の処置後はシャルと共に──。
「本当に復元されているだと、火傷も無い」
「ほ、本当に戻ってる」
「はい、父上。正妃様」
「こ、これは何処までの復元なのだ?」
「表向きには与えた事にしておりましたが、秘匿技術故、内密に願います」
「う、うむ。分かった、お主も?」
「はい、殿下」
別室へと訪れた父上と正妃様を相手に窓ガラス越しの様子を示した。窓ガラスの奥では反対を向いたシュウと愕然とする叔母上も居るが父上達の関心は横たわる愛娘の事だけだった。
(私も一応、娘なんだけど同じように心配してくれるのかな)
この窓ガラスは裏面から室内を覗き込む事の出来る鏡だ。カミナ姉様が横になる一室には大きな鏡が設置されているだけで外から見られている事に気づけない。
客間と言いつつ監視部屋の様相を呈したのも今回の来訪に合わせてミヤが改装したのだ。
元々はシュウが何かを造るために開けた穴だったらしいけどね。そのままだと流石に不格好だからとミヤが鏡をあてがったらしい。
結果的に隣の客間が様子見部屋に早変わりしたけど、これはアリと叔母上は仰有った。
要人警護の上でも監視対象の上でも。
今回は監視対象となっているけどね。
遮音魔法を行使した私はシャルに命じる。
「シャル、上だけ脱いで」
「承知しました」
ごそごそと侍女服の上着を脱ぎ出すシャル。
父上は何事かと思っているようだ。
正妃様も訝しげなままだ。
「見ていただいたら分かると存じますが、シャルの胸元。本来の人形にあるべき部位がありませんよね?」
「う、うむ。魔石交換口が無いとはどういう事だ?」
「元々、このシャルとここには居ませんがリーシャは伯母上の研究の第一号と第二号の人形なのです。これは伯母上の研究にシュウが協力した結果とも取れます」
「姉様の研究は軍部に関する物であろう? それと、この人形とはどういう関係があるのだ」
「今、まさに示している物、そのものですよ」
本来の人形には胸元に魔石交換に用いる蓋が付いている。そこを開けて内部の骨格と各種部品を外しながら魔石へとたどり着く。
それは伯母上が最初に造った第一号、その身体から始まった我が国の基本構造である。
父上も人形師だから分からない事は無いはずだけど、しばらくの間は実子以外を作っていないから認識が遅れているのかもしれない。
「わ、笑ってないで理由を述べよ」
「失礼、一先ずはシャルの皮膚に触れてみたら分かると思います」
「ひ、皮膚にだと?」
「正妃様もどうぞ」
「え、ええ。え? これは?」
「どういう事だ? 金属的な質感ではない」
「金属に色を付けた肌ではないの?」
シャルも少し感じてるのか顔が赤い。
人形にここまでの感度を与えるって凄いよね、基本部位は造り物のはずなのに。
「軍部の命令は帝国へと諜報員を送り込む事にあります」
「う、うむ。そう報告は受けておる」
「ですが監視魔法を使い熟すシュウ曰く、簡単に送り込む事は出来ないとの事です」
「監視魔法だと? あの、失伝している」
「魔力はそれほど使いませんが知力が高く膨大な集中力を要する魔法故、失伝に至ったのではと最初に使ったミヤが見解を述べています」
「もう一人の娘か。確かリティア女伯爵の娘だったな。それほどの逸材なら継がせるべきか」
「父君は子爵ですけどね」
「有象無象の事はよい、それで本題は?」
自分で話の腰を折って戻せとは。
まぁいいけどね、父上から言質も取れたし。
「話を戻します、父上。帝国国内に居る大使から帝国国内の情報は得られておりますか?」
「いや、情報を流そうものなら首が絞まる魔導具付きで、内情はそれ以外は示されておらぬ」
「でしょうね。シュウ曰く帝都までの各所に検問が敷かれており、従来の人形の体裁のまま街道を通すのは不可能との判断に至りました」
「検問、そ、それはどのようなものなのだ?」
「衛兵が常時待機し、物資、金品を隅から隅まで調べあげる場所にご座います。人形をその場に通せば、解体してでも調べるとの事で、機密情報の塊をそのまま通すのは危険であると」
「判断せざるを得ない、か。で、あれば将軍も無理難題を押し通したものだな」
「それだけ未知数の技術を持つ国だからでしょう。我が国は両国のいいとこ取りをしておりますが、魔法に傾いている以上」
「機械には弱いものな」
確かに弱い。叔母上がそれを打開するために色々と試行錯誤しているが魔法以外の方法を使うとなると知識不足に陥るとよく嘆いていたほどだ。それがあるため、シュウとミヤがあれこれ造ると目が爛々となるのも頷ける話だった。
「伯母上も同等の肌にまで再現は出来たとの話ですが、他の結果が芳しくなく思案していたところ、シュウの呟きが聞こえてきたそうです」
「「つ、呟き?」」
「はい、食物から魔力を取り入れる、と」
「そ、それは、まさか?」
「ええ、排泄を含めて行う人形にご座います。花摘みに行かず待機し続けるというのも不自然となりますし、飲食店で何も食べずに情報収集を行っていれば不審がられます」
「で、では?」
「シャル、恥ずかしいかもしれないけど」
「え、えぇ? しょ、承知しました」
ごめんなさい、シャル!
そこは見せないと話が通じないから。
これを思うと男性型も造っておく方がいいね。例の赤子達はまだ成長途中だから出せないけど。例の狼達は猟犬として活躍中だけど。
「ま、まさかここまで造り込むとは」
「あまり直視するものでは御座いません」
「う、うむ」
正妃様の御言葉はもっともだね。
人形とはいえシャルは女の子だから。
近くでマジマジと見られるのは正妃様としても不安視する光景だと思う。人形といえどね。
シャルはいそいそとパンツを穿いた。
「このような理由により魔力を取り込むに至った人形が出来上がりました。ここまで話すと理解は容易いと思います、が?」
「質感といい感触といい人のそれと同じだ」
「簡単な仕様を明かしますとシャルは──」
造り出した時の経緯を簡単に流す。
これはリーシャの時に聞いたものだけど。
基本構造は造り物、表面の筋肉などが謎溶液で造り出された本物そっくりの代物だった。
現状では造り物の臓器も謎溶液で膜が張られて本物と相違ない見た目になっているという。
「──その仕組みを解析した結果、人にも代用可能という理屈が通りました」
「なるほど、それでカミナに」
「与えてみたとの話なのね?」
「だ、だが、いきなりで大丈夫なのか?」
「こ、ここだけの話、シュウ自身が被験体になったとの話を聞いた時は、肝が冷えましたが」
「「は?」」
うん、びっくりした。この話を受けたあとに聞いてみれば『痛覚耐性が最大値だから指先だけ切り落として、溶液に浸したら生えてきた』とあった。いつの間にそんな事を行ったか聞けば、赤子達を造っている間に行ったとの話だ。
しかも『骨格と思考魔核だけで造り出せる代物だから、もしかすると出来るのでは』と考えた結果、指先が当たり前に出来たとあった。
何事もイメージが大事とか言ってたね。
「それを聞いた後は、作業中に何度となく指先を触らせていただいておりますが、違和感なく機能しているとの事です」
「ま、まるで姉様のようだな」
「お、親子ということね」
父上と正妃様は戦慄したがその親子が居たからカミナ姉様は救われたも同然なんだけどね。
しばらくするとカミナ姉様が目を覚まし、
『あ、あぁ、あぁぁぁぁ、な、治ってる!』
涙を流して感激に打ち震えていた。
あの母親も過去にやらかしたのか?




