第61話 軽挙妄動の働きはダメでしょ、
第一王女の再形成が行われている最中──。
寮外が妙に殺気だった雰囲気になっていた。
「叔母上?」
「ああ、気づいてるよ」
第一王女の兄、カイナ殿下が大多数の衛兵を連れてこちらを睨んでいた。
それらの衛兵は全員が異常者のまま。
結構な人数を取り込んでいるみたいだな。
するとカイナ殿下が大声で叫ぶ。
「妹を帰せ!」
返せと言われても本人の同意で処置中なので兄が騒いだところで話は通らない。これには王太子殿下も正妃様も同意したうえで寄越してくれたから。
その後もあーだこーだと騒ぎだし、他寮からも人が集まりだした。こちらが悪だとか騒いでいるから始末が悪い。
野次馬は何処でも湧くよな。
流石に人が集まると外聞が悪いので、
「うるさいから、ミヤ、マリアにあれを」
「いいの? 乱発すると思うけど?」
「雷撃だから黙らせるにはもってこいだろ。指定と出力制限はミヤが預かってくれ」
「わかった。マリア行くよ!」
「行くって何処に?」
「屋上手前の武器庫!」
「はい?」
ミヤに願って上にあがってもらう事にした。
武器庫には面白魔導具が置かれている。あのマリアなら使い方に気づくはずだ。
叔母上はきょとんとしたまま連れて行かれる娘を見つめつつ俺に質問した。
「マリアに何をやらせるつもりなんだい?」
「この弾を使って黙らせるだけですよ」
「この弾?」
俺の両手には金色の魔石が埋まった大きな弾があった。これは見本弾だけどな。魔法自体は付与されているが魔力は入っていない。
大きさ的はハンドミサイルだ。
「これを上空に向けて撃つと指定した範囲の外敵が地に突っ伏します。効果は半日だけですが身体が痺れて動けなくなる非殺傷弾ですね」
これは弾が撃ち出される事はない。
魔法だけが飛び出て指定した相手に作用するだけだから。その指定もミヤが観測手として行うから撃ち漏らしは無いだろう。
「そ、それをマリアに?」
「この中では適任なので」
「ふ〜ん。母親でも知らない、何かを知っているようだね?」
「ご想像にお任せします」
そんなやりとりの最中、シュパッという軽快な音と共に呻き声が響いた。
あとは沈黙が続くだけ。すると、
「好きに叫ぶのは良いが品性にも劣る愚行だと知れ! そもそも帝国の犬に成り下がったバカ王子に王位が渡るわけがないだろ? そういう寝言は牢獄で叫ぶ事だ、こんな公衆の面前で平然と虚言を叫ぶのは国の恥だと思え!」
沈黙の中でマリアの怒声が響く。
「王位継承権が欲しいだ? 同じく王位継承権を持たない立場から言わせてもらうが恥も外聞も無い貴様に与えられなかっただけ民は幸せだ。誰であれ口には出さないが虚言癖のある者が上に立てば国は滅びに進むだけだ!」
マリアも立場的には王子達と同じだしな。
俺と同じく王家の血を引くが継承権は無い。
「背後で操る者にとってはそれでいいのかもしれないが、この国にとってはどちらが幸せか考えるまでも無いだろう、自分の人生を人形のように使われ続けるかどうか、なのだから」
そんな相手から怒鳴られれば周囲はどちらがおかしいか気づける話だった。地に突っ伏す王子達を白々しい視線で見つめる者多数だ。
この寮の周囲には特士校に通う者がほとんどだしな。特士校でも俺が白い目で見られるように持って行きたかったのかもな、逃亡させて帝国に遣わせようって腹が有り有りと見える。
怒声を聞いた俺はジト目で叔母上を見る、
(やっぱり親の子では? 叔母上?)
見られている叔母上はバツの悪い顔になる。
「そんな目で見るな。いや、私の娘だから仕方ないのかもしれないが」
するとサーシャが苦笑しつつも、
「まぁ知力は最大ですし、期待しましょう」
叔母上にマリアの知力値を明かす。
流石に知っているとは思うけどな。
転生者云々にも気づいているし。
しかし、その反応は別物が返ってきた。
「あ、あの子もそうだって言うのかい」
「気づいて無かったのですか?」
「身内はあまり見ないようにしているからね。変に期待して潰したくないから」
「親心ですか」
「子を産んで育てたら分かるさ」
母親の顔をした叔母上はしみじみと語った。
サーシャが子を産むのはまだ先だと思う。
そんな雰囲気の中、マリア達が戻ってきた。
「スッキリした!」
「あんな殿下を見たのは初めてかも」
言うだけ言ったからな。
状態異常もなく爽快と文字が出てるわ。
マリアも思う事があったのだろう。
戻ってきてすぐ臓器形成を終えて筋肉に覆われた第一王女の元に移動したから。
「もう、こんなになってる」
マリアに応じた俺はガラス画面を眺めた。
「異常部位だけ取り除いたからな」
そこには皮下脂肪生成開始と出ていた。
それが終われば皮膚が出来て完了だろう。
肌も同一になるし違和感は無いはずだ。
「これって人は誰でも可能なの?」
「今回は子供だからそこまでないが大人はどうだろ、安易に試せる物でもないし」
「治療院、教会が投げ出した患者にとっては嬉しい悲鳴になるだろうが教会の目に留まると厄介だ。行うとすれば身内だけになるだろうさ」
叔母上もそこが難点と思っているようだ。
俺も身内だけが無難と思う。他者で試したいと思うが教会が騒ぐと面倒だ。教会本部が全壊していても各地の教会は健在だからな。
「カミナ姉様の嫁ぎ先はどうなるので?」
「階下でぐーたらしてる子息が適任だろう。あれでもカミナがおかしくなる前から婚約関係にあるからな。おかしくなってからは疎遠だが」
ルイスが知らんぷりしたのは第一王女の状態が戻っていないと思っていたからか。
ユルイ子爵家の取り潰しを行ったのも婚約者を染めた切っ掛けだったからともとれる。
(そういえばルイスに向ける視線が熱を帯びていたもんな。ルイスは気づいてないけど)
しばらくして皮膚形成も終わり俺は最終検査に入った。結果は問題無し、あとの残りは排水して乾燥させるだけとなるだろう。
今回の排水先はインベントリの中だけど。
(落ち着いたら排水溝を繋げないとな)
あとは二階と三階にもトイレと洗面所を設置する事も忘れずに。人が増えたら混雑するからな、特に女子トイレ。これの増設は必須だわ。
(空き個室の四部屋を改装しないとな)
空間接続様々だわ。
この魔法を帝国が欲した理由が分からない。
あのバカの思考をトレースすると精神破綻しそうだけど。
「罹苦が求める空間接続は何に使うつもりなんだ?」
つい、思案しつつ呟くと、
「「なんでその名前が出るのぉ!?」」
嫌そうな表情のマリアとミヤにツッコミを入れられた。そういや二人と仲が悪かったっけ。
サーシャと叔母上はきょとんだけど。
§
その後、第一王女の身体を浮かせてバスタオルを巻いた俺は浮かせた状態のまま一階の客間へと向かう。その両脇前方にはサーシャとシャルが随伴し、叔母上も背後から付いてきた。
ミヤとマリアは考える事があると言って自室に戻った。多分、先ほどの呟きが二人の根っこにあると思う。大嫌いなリクが何故か居た。
出来るなら殺したいとも思っていそうだ。
俺は首だけで振り返りつつ不意に言った、
『相手取るのは相当先になると思うぞ、あちらは内戦中のはずだから。通信断させられた命令待ちの間諜が暴れ回っているだけだな、今は』
と、それを聞いたミヤ達は首を傾げる。
叔母上は詳細をあとで教えろと脅してきたため、後ろから付いてきているのだ。もっとも俺の監視魔法でさえも全てを見る事は出来ない。
あれは無駄に集中力を使うから。
(これは言い訳が大変そうだ)
何かしらやらかさないと気が済まない質?




