第60話 沈思黙考した。
私の名前はマリア・リィ・トゥリオ──。
これはあくまで今世での私の名前だ。
前世は小詠マリアという日本人の父親と米国人の母親のハーフだった。
死んだ経緯はうっすらとしか覚えていないが直前で親友の魅夜と会話した事だけは覚えている。ただ、どういう経緯でこの世界に流れ着いたかは分からない。
(異世界転生って言われてもまだ実感が湧かないんだよね。肉体は五歳児、精神は二十一歳の成人女性、知識は高二でストップしたまま。こちらの記憶と比べると思い出して正解な気もする?)
そのうえシュウとミヤまで近くに居たのだ。
どのような縁で結び付いたかは知らないけどこちらでも前世のように楽しめたら幸いかな。
(私ってば割とポジティブだから!)
何も考えていないバカ姉と弟から貶されていたけど、それも過去の事よね、うん。
そして今は何故かパンツを一枚ずつ個包装しているのだけど、どうしてこうなった?
(元々、この世界はノーパンノーブラが当たり前で、それを嫌がったミヤが最初に造ったのよね。で、シュウも個人的に造って、その大きさを変更出来る魔法を付与した。あ、魔法! 魔法があるじゃない!! って、私が使えるのは身体強化だけじゃん!? 女の子なのに肉弾戦を行えって、出来ない事はないけど! 辛い)
私は何の因果か脳筋ビルドになっていた。
理由は簡単、母様の人形を造る姿に怯えて人形嫌いになった。人形嫌いが災いして身体を鍛える事に躍起になった。幼子で鍛えられる範囲は限られるが、それが悪い意味で作用して身長が伸びなくなった。こんな事ならもう少し早く目覚めたかった!! そうしたら前世のような高身長の美人になったかもしれないのに。
(自他共に認める美少女だったのにぃ!)
その代わり胸は断崖絶壁と称される平面だったけど。隠れ巨乳のミヤをどれほど羨んだか。
何度もお風呂に連れ込んで胸とかお尻などをこれでもかっと揉みまくった記憶が懐かしい。
(息も絶え絶えで潤んだ瞳は萌えたよね!)
そのミヤも今では男の子を演じざるをえない可哀想な女の子になってしまったけれど。
(あれも断崖絶壁がある内は有効でも育ったらアウトよね。私も母様がデカいって物じゃないから、育つ可能性があると思っているし)
パンツを個包装しながら黙々と思い出した事を整理する私の目前には今世の母方の従姉こと第二王女殿下が居た。母様が元第二王女って聞いた時は驚きこそしたが、納得してしまった。
これは私が私を認識する前の記憶だけどね。
それと共にマリアってばシュウに惚れていたんだよね、私的には眼中にない同類なのに。
この気持ちに折り合いを付けるにはシュウがどういう者か意識的に認識するしかないんだよね。どれだけ残念かつ可哀想な男であるかを。
(それにミヤが惚れていた相手でもあるし)
今でこそシュウは目前の王女殿下と婚約しているが、その本筋は建前的な婚約だと思う。
良く言えば国益のため。悪く言えば虫除け。
あとはシュウの良い噂は学校に入学してからは聞かない。悪い噂だけが拡がっていて無能と揶揄されていた。それは本校だけでなく分校にまで浸食されていたシュウの悪い噂だった。
信じたくないと耳を塞いでいたのが私だ。
(実際にやらかして蟄居となっていたしね)
詳細は不明だけど相手に怪我を負わせたとあった。すぐに相手を治療したが異質な代物を用いたとあり、それに恐れる者が多かった。
何でも魔法なのに魔法とは異なる方式で魔法を発したとか意味不明な噂だったから。
(それもミヤに詳細を聞いて納得したけど)
それを聞いたら無能は噂を流した者だよね。
魔法弾、拳銃の九ミリ弾に火薬ではなく魔石とよばれる魔力石に余剰魔力を圧縮して注いだ物と言っていた。それに火魔法を付与して雷管に当てると魔法に魔力が集中的に注がれて火弾が射出される、射撃時の発砲音は当然しない。
発射光も発生しない、撃鉄が雷管に触れた時の音のみが聞こえるだけで、気づいた時には風穴が開かれた。そのうえ距離に関係なく目標を射る事が出来ると聞いた時は、心が震えた。
(で、折り合いを付けるどころか私まで惚れてしまった、と。ミイラ取りがミイラになるってこういうことかな? チョロすぎるでしょ私)
結局、私自身が魔法をそこまで使えない事が要因なのかもしれない。シュウとミヤは最上級を当たり前にぶっ放すほどの魔力持ちだ。
対して、私は幼い頃の魔力訓練をあまり行っていなかったため、短時間の身体強化が出来るだけだった。それでも他の子達と大差ないのでまだまだ成長するとは思うけどね。
あの二人が例外過ぎるだけで。
(先ほど貰った銃剣もそうだけど、お願いしたら私の愛用品を造ってくれたりしないかな?)
アサルトライフル、ショットガンも欲しい。
ミヤに言わせれば土弾でショットガンにも似た弾が出せるとあった。それでシュウが帝国軍の敗残兵を滅多打ちにしたらしいからね。
異常事態に気づいて立ち止まったところを長距離射撃だもの。立ち止まった的に散弾の雨あられでは帝国軍も手出し出来なかっただろう。
(白兵戦もこれから学んでいくみたいだし楽しみだなぁ。血湧き肉躍る的な。臓物系は苦手だけど、戦うと気にしないから問題ないよね?)
そんな記憶整理の最中、ようやくパンツ包装が終わった。六〇人分×五枚、計三〇〇枚のパンツだ。男子用はボクサーパンツとトランクスをランダムに入れ、女子用は白くて肌触りの良いパンツだった。私としてはボクサーパンツが好みなので自分用だけはそちらにしたけれど。
サーシャから『なんで入れてるの?』って言われたけど別にいいよね、性別は関係ないし。
§
それからしばらくして、あさってを向くシュウの反対側でサーシャに少しだけ似た第一王女が裸に剥かれていた。というか傷痕がエグッ。
なんでも生殖機能を失ったとあり、それの改善を求められたという。普通に考えたらあれは無理でしょ。人形部品で代用するって言ってたけどそんな物だけでは収まらない気がする。
(どうするつもりだろう?)
私はシュウの妹とされている人形を抱きつつ作業に入ったシュウを見つめる。ガラス容器の中では第一王女がぷかぷかと謎溶液に浮かんで眠っていた。
するとその直後、
(うわっ!? えぇっ、マジでぇ?)
目と鼻の先に浮かんでいた第一王女の肺から下、膝の手前までの肉やら臓器が一瞬で消え失せ、真下から心臓の動きが丸見えになった。
大動脈の血液は流れ出る事なく壁のような物で覆われて普通に脈動を繰り返していた。
神経も欠落部が少しずつ形成されていた。
そのうえ数本の金属針が下に落ち、それをシュウが何らかの方法で外に取り出していた。
(体内に残したまま生き延びていたの? 異世界人の身体はハンパないねぇ)
その様子を見ていたミヤも絶句していた。
シュウとサーシャ、様子見で来ていた母様だけは臓物を見ても平然としている。これも人形師という職業故の性質なのかもしれない。
簡単には動じない的な、ね。
「うわっ、グロッ」
「マリア、そういう事は言ったらダメ」
そう言いたくなるよ。
ミヤだって青白いじゃん。
シュウの人形と共に壁際へと連れていかれた私は母様とサーシャの話を聞き流しながら、この後の予定をミヤに聞く。
「それでこれを行ったあとは何するの?」
「再検査を行って客間で寝かせる事かな」
「いや、そっちではなくて」
「ああ、たちまちは迎撃、かな」
「は?」
迎撃って、どういう事?
ミヤには何かが見えている。




