第59話 自問自答の末、
王宮から拾ってきた第一王女殿下──。
途中まで来ていた側仕えは異常者だったため寮内に入らないよう命じた。命じたけど何故ダメなのかとか色々言っていたな。
殿下に何かするつもりなのかと問われて、
『ガキに興味ない!』
そう返せば殿下が半泣き状態に変化したり男色家とルイスに揶揄われたが、どちらの意味でも興味が無いと返した。
そもそもの話、俺の精神年齢が周囲の子供よりも高いから好みを問われると人妻となってしまったサヤなんだよ。強くて包容力があって時に弱くて賢くて好みというか理想だな。
近くに理想の女性が居ましたという奴だ。
(好きではないって思っていたけど、初恋みたいなものだったのか。ガキだな、ホント。いや、実際にガキそのものだわ──)
コウ兄様と関係を結んだ以上は俺が関わる事は叶わずとなってしまったが。
なお、コウ兄様に与えた護衛侍女はサヤそっくりにしてやった。サヤが見た瞬間に『そういう事ですか?』っとコウ兄様にジト目を向けていたから。これがどんな意味で反応したか不明だった。コウ兄様から『お前なぁ』と、呆れと共にサムズアップされたのは言うまでもない。
これは分かっているじゃないかって奴か?
子供が出来た時は別の夜伽相手が必要だ。
サヤってどちらかと言えばムッツリだから。
ジト目と共に内心では嬉しかったはずだ。
俺の心は相当なまでにへこんだけど。
(──こういう時、年上好きが悪い意味で損だと思えるよなって、俺は人形が好きなんだ! 実在女には興味ない! 興味ないんだ!)
余計な事を側仕えに言われてしまい悶々とする思いが胸中に渦巻いた。思春期にすっ飛ばされて異世界転生した俺は何処かしらが壊れに壊れ、まともな恋愛など出来ないだろう。正常な俺も居れば異常な俺も居て、どちらが俺自身なのか判断出来ない。
(今世でミヤが男子だったのが幸いかね?)
何はともあれ、反対を向いて自分自身を見つめ直す俺の隣ではサーシャが準備を手伝いつつ怖がる姉を体組織生成魔導具に寝かせていた。
「だ、大丈夫なんだよね?」
「気にしなくていいですから」
「ふ、不安なんだけど」
「いつもの気の強い姉様で居て下さい」
「あ、あれは私ではなくて、ね?」
「注水しますよ〜。肌に触れた段階で眠くなりますから落ち着いて下さいね〜」
「う、うん」
今の王女殿下はあくまで人形と同じ扱いだ。
ただ、相手が相手なので眠るまではサーシャに委ねているに過ぎない。一応、工房内には目覚めたばかりのマリアも居て、興味深げに作業を見守っていた。ミヤが強引に起こしたらしいが、奴も同類だから欲しいとか言ってきそうなんだよな。現にシャルへと抱きついているし。
「二次元お姉様好きからすれば、お子様はやっぱり興味ないよね?」
「二次元お子様好きな、お子様が余計な事を言うんじゃねぇよ!」
「兄様達の会話の意味が理解出来ません」
「理解するまで教えてあげてもいいよ?」
「シャルに余計な事を学習させるな!?」
「二十一歳の姉様が色々と教えてあげるから」
「精神年齢をぶちこむなよ余計混乱すっから」
混乱するのはシャルではなくサーシャな。
「精神? 一体どういう事なのですか?」
「二人の虚言に付き合ったらダメだから」
「二十一歳の僕っ子が何か言ってるぅ!」
「こら、そこ余計な事を言ったらダメ!」
「マリアとミヤってこんなだったかしら?」
暴露癖が過ぎるマリアはともかく、ミヤは完全に誤爆だ。自爆と言っていいか?
暴露の地雷原に突っ込んでいっただけな。
蓋を閉め終えたサーシャを俺の隣に連れてきたまでは良かったが。元々、二人は同じコスプレ仲間だったはずだが、どうしてこうなった?
今はサーシャだけが蚊帳の外で大混乱だ。
(転生者ってホント騒がしいなぁ。俺もか)
叔母上は気づいているみたいだけどな。
「マリアがここまで変化するとはねぇ」
叔母上も現場責任者という立場で様子見に来てくれた。俺達だけで行うと干渉者共が訪れた時に対処が出来ないからな。
「母様、お見苦しい姿をお見せして」
「気にしなくていいよ。人形嫌いだったマリアが変化したのは喜ばしいからね」
「あはははは」
乾いた笑いを浮かべるマリアを横目で見つめる俺は修復作業に没入した。あくまで外向きには人形部品をあてがうと話していたがそれをすると教会に睨まれてしまう。
教会本部に御座します、とある御方は許して下さるとは思うが下っ端はそうではないから。
先ず行うのは元の状態を認識し、
(状態を精密検査、うわぉ。これは相当深い位置まで刺さってるじゃねーか、これでよく生きているよな、奇跡的なものだわ)
現在の状態と見比べる事だった。
これは新しく生えた恩恵で状態把握が可能になっただけな。左目に過去の肉体情報、右目に現在の肉体情報が映り、それを元に魔導具のガラス画面を触って修復箇所を洗っていく。
一応、中に残る汚物は組織液が入れられた段階で皮膚から体内へと入り浄化で消えている。
肺呼吸も可能な液体なので死にはしない。
一通りの情報を集め終えると本番に移る。
(痛覚遮断開始、患部溶解開始直後に血管迂回路形成開始、血液浄化機能稼働開始、各部再形成開始、あとは時間をかけて修復していくか)
目と鼻の先では王女殿下の腹がぽっかり開いて、割れた骨盤と背骨が丸見えになっていた。
横隔膜の一部から太股までが空っぽだ。
広範囲で破壊されていた事が分かった。
これをサーシャにあてがおうとした帝国間諜は許すまじって思うよな、教会神父共もだが。
(回復魔法の延長となるがどうなることやら? 人形用でも人の身で使える組織液。そうなると何処までが人形で何処までが人か分からなくなるな。用意したのは俺というより、だな──)
人形を何度も造って似たような臓物を見ていたためか、そこまで気持ち悪いとは思えない。
「全面的に再形成が必要になったな」
覗き込んだマリアだけ顔面蒼白だったけど。
「うわっ、グロッ」
「マリア、そういう事は言ったらダメ」
壁際に連れ戻すミヤも本音では辛そうだな。
唯一の例外は人形師となっている者だけだ。
そういう代物を当たり前に見て知って、取り込んでいるからな、生体兵器としての人形に。
「こ、これはどういう仕組みなんだい?」
「叔母上、この液体に秘密があるのですよ」
「そうなのかい、サーシャ?」
「リーシャの身体に触れて貰えば分かります」
「これと人形と、は? なんだいこれは?」
シャル達の身体を覆う皮膚組織。
鑑定したら人のそれと大差なかった。
「覗き込んで貰えば理解は容易いですね」
「じょ、徐々に部位が形成されている?」
「これは人形の身体を生成する時に使う物ですが組織そのものは人のそれと同じなんですよ」
「こ、これが、もしそれなら? 人形では?」
「ところが人形なんですよ、魂が無いので」
違いは魂の有無と内部にあてがった骨格と思考魔核とミスリル神経だけだろう。あれらも免疫的に問題ない仕組みになっていて異世界ではありえないような変化が示された。
「そうか、思考魔核で擬似的に造り物の身体を動かしているから、人とは根本が違うのか」
「シャルとリーシャの思考魔核は再利用品ですしね」
「ああ、シャルは確か姉様が最初に造った?」
「そう聞いています。リーシャは二体目です」
廃棄された人形から取り出した思考魔核。
再利用品故、俺の知らない機能が含まれているのは確かだった。だから今後造るとすれば魂の代用品こと思考魔核が最優先となるだろう。
大変な事になってきた。




