第58話 拾った物は女の子。
それはサーシャ様の一言から始まった──。
「正常に戻ったらしいから行って貰おうと思うけど、どうかしら?」
「で、でも、大丈夫、なん、ですか?」
「隠し通せば問題は無いと思うけどね」
サーシャ様に怪我を負わせようとした者をサーシャ様御自身が救うと発したのだ。僕もそうだけど、マリアさんもそれは心配だよね。
教会に睨まれるとそれはそれで面倒だから。
とはいえこのまま放置とするのも良くない。
サーシャ様を相手に反乱を起こしても不思議ではない、相手は不穏分子の片割れだ。
人形師だから自分で造ったとかなんとか言い返す可能性もあるし。
「わ、わ、わた、私は、心配、です」
「でもね、このままも不味いから」
「不味い、です、か?」
サーシャ様も気づいているのね。
当事者が気づかないわけにはいかないか。
というかマリアさんの緊張が過ぎるので背後で佇む僕は記憶にある代物を静物錬成した。
「マリアさん、パス!」
「ふぇ? わぁ!? え? こ、こ、これは」
手渡されたマリアさんは一瞬だけ挙動不審になるも、その後はジッと見つめて硬直した。
手元を見るとグリップを確認している。
握りしめたり緩めたり表情の変化が見えた。
サーシャ様からは話の腰を折ったからか、
「また、唐突に何を造ってるのよ? ミヤ」
「ミヤ?」
ツッコミをいただいたけど。
その端々で語る言葉を聞く度にマリアさんに変化が現れだした。
「シュウ様の狙撃銃に着ける事が出来る短剣」
「狙撃銃?」
「え? あれってまだ何か付くの?」
「うん、まだ色々着ける事が可能だよ」
「あれって予想外に拡張性が高いのね」
「拡張性?」
「超長距離をヘッドショットする照準補助付きだしね」
「言ってる意味は分からないけど」
「ヘッドショット」
僕達の会話を聞いて呟くマリアさん。
最後は顔が真っ赤に染まって叫んだ。
「なんなのこれぇ!?」
先ほどまでの状況が一変する変化をみせた。
通常と異なる目覚め方だったかな?
サーシャ様はきょとんとなった。
「マ、マリア? ど、どうしたの?」
「マリアさん、じゃなくてマリア。断崖絶壁」
「言うな! 好きで平面じゃないんだから!」
よしっ! マリア、完、全、復、活!
若干、しゃべり口調が今世に影響されているけど怒鳴り方がマリアそのものになったね。
(これって人格を書き換えた事になるのかな)
まぁいいや。その代わり、サーシャ様からも苦言をいただいた。
「断崖絶壁ってミヤもじゃないの」
「うっ」
「というか、ここ何処?」
「記憶、読み込んでね?」
「え? あ、そういえば」
「どうしたのよ? マリア、急におかしな事を言って。挙動も変よ?」
突然の記憶復活に第三者が居ればどうしようもない。前世は金髪碧瞳、今世も金髪碧瞳。
子供の背丈になっているから困惑しているようだ。僕も同じ容姿だしね、これは仕方ない。
「え、えーっと、すみません。失礼して!」
「な、何?」
「わぁ!?」
するとマリアは僕の首に右腕を絡ませ、
「ミ、ミヤよね? 隠れ巨乳の」
「隠れ巨乳だった、僕だよ」
「何で金髪碧瞳になっているのよ?」
「転生したって言えば分かるでしょ」
「転生? も、もしかして」
「死んだ時の事、覚えてないの?」
「う、うっすらと、ああ、駅で押されて」
サーシャ様に聞こえない声量で話し合った。
ものすごく個人的な話だし。
まさかこの子もこの世界に居ようとは。
「あれって事故だったの?」
「はっきりとは覚えてないけどね。茶髪のナンパ野郎を去なしたら、ドンッだった気がする。バカ弟を迎えに行った時の話だし」
「こ、酷だねぇ」
「だって、下手くそな英会話してきたらさぁ」
「ハーフだって気づかれてなかったの?」
「そんな見る目のあるような男には見えなかったよ。軽薄そうで軽そうで」
「ふーん、似たような男って多いんだね」
まるで誰かさんみたい。
一方、僕達に放置されたサーシャ様、
「二人して何の話してるのよぉ!?」
間に両腕を押し込み顔をねじ込んだ。
「「わぁ!?」」
「人を化け物を見るような反応で見ないで!」
「ま、まぁ、詳しい話はあとでする?」
「そ、それが、いいかもね、うん」
「一体、何のことぉ!?」
明かせないよね、転生者って事だけは。
存在自体が異端審問の対象になりそうだし。
というかなるし、教会でそういう説法を聞いたもの。異世界の来訪者は全て悪であると。
神の連れてきた者であってもそうなるからやりきれないよ。祀る神を疑う神官って何さ?
それからしばらくして第一王女殿下が寮へと訪れた。隣にはシュウ様とルイス様も同伴していた。あれは王宮から直行した感じかな?
「二階の空き部屋で好きな部屋を使ってくれ」
シュウ様は収納術からルイス様の私物を取り出しつつ手渡して隣でギョッとなる王女殿下を軽く無視した。何も無いところから物が出たらね。ルイス様にもいつか教えるつもりかな?
あ、マリアにも教えないと。
私物を受け取ったルイス様は、王女殿下など居ないような素振りであっけらかんと返した。
「あいよ、どの部屋でもいいんだよな?」
「あ〜、南側以外なら可だったわ」
「南?」
「女子部屋が南側だ」
「ああ、はいはい、そういう事ね」
三階は全室工房扱いだけどね。
侍女のシャル達は主と同じ部屋で寝泊まりしているけど。
ちなみに、マリアとサーシャ様は大広間に置いていた下着類を箱に詰め直し、二階の自室で残りの作業を行っていた。僕も本当はそれを行うべきなのだが、この寮の中で一番家格が低いため、嫌でもお出迎えが必要と言われたのだ。
王家、辺境伯、辺境伯、辺境伯、子爵。
うん、僕が一番低い家格だね!
「お荷物、お預かりします」
「ありがとう」
どうも治療に何日がかかるか分からないと返していたようで王女殿下の荷物はかなりの量だった。学校も一時休学とし、治療に専念するとの話になっているという。
これだけしおらしいと本来の人格はまともであると分かるね。これを帝国の都合の良い人格にねじ曲げていたとするなら、その行いは度しがたいね。
そうして僕は王女殿下の前を歩き、客間へと案内した。この寮の客間は王宮内の迎賓館よりも過ごしやすいとサーシャ様が仰有っていたしね。気に入るか気に入らないか分からないけど、こればかりは実際に通してみない事には分からない。
案内中に手荷物検査を実施したところ、
(荷物内に毒物と危険物は、無い、事も無いか、誰が含めたんだか。危険物は持ち主にお返しするから回収して、水銀は無毒化して同じく持ち主にお返しだね)
本人の意思が介在していない危険物が大量に収まっていた。王位継承権を持つ者の居城に入る事になったのだ、一網打尽で消しにかかっても不思議ではないよね。ただ、全員が全員、普通の子供と思うなかれだよ。
(持ち主は外で待機中の側付きか。そんなところにまで入り込んでいるんだね、無毒化した水銀を胃袋に。バリウムみたいになっているから頑張って排泄してね。それと危険物はこちらも火薬かぁ。中身の術陣を消して宮廷魔導師団の詰所に側付きが犯人と示すしかないかな?)
僕達の安心安全な生活を脅かすのだもの。
当然だけど、お返しはするよね?
もちろん、サーシャ様のように実力行使するよりも、王国法に基づいた平和的な解決法を選択するけどね。
バリウム擬きを胃袋に送り込まれた側付きは青白い顔でお腹を押さえ、慌てて近くにある茂みへと隠れた。マーライオンしても出てくる物ではないよ。結構な物量を胃袋に送ったから数日間は苦しむ事になると思う。
この寮の住人って化け物揃い?




